デタラメ冒険譚
ロドストレーニングセンター
一対一近接格闘訓練室
リェータ
はあっ！
ビーハンター
遅ぇ。
リェータ
遅い？ じゃあガードしなくてもいいだろ、口で言うだけなら誰でもできるって！
ビーハンター
もしリングの上なら、オマエはとっくの昔にアタイにノックアウトされてるぜ。
リェータ
勝手に言ってろ。
ビーハンター
リェータ、じゃあこうしよう。もう一回コンビネーションを打ってこい、もし良い攻撃だったらご褒美をやる。どうだ？
リェータ
面白ぇ、約束だぞ。
喰らえ！
ビーハンター
よーし、いいぞいいぞ、力がこもってる。
呼吸も乱れてねぇ。
アタイの番だ、これがご褒美だ！
オラオラ！！
リェータ
うわっ！
うっ、ゴホッ、ゴホゴホ……
シュラ、お前！
うぐぐ、はぁっ……はぁっ。
この技教えてくれよ！
ビーハンター
教えてもいいけど、オマエにマスターできるかな。
リェータ
拳を何回か振り回すだけだろ、できないわけねーよ。
ビーハンター
これは元はと言えば、アタイが蜂蜜を採る時にあの「虫たち」相手に使う技だ。リング上じゃ厄介な奴ら相手によく使ってるけどな。
リェータ
ふーん、試合でも役に立ってんだ？
ビーハンター
役に立つも何も、こいつに全員ぶっ飛ばされてオシマイさ。
もしこいつを覚えたいなら、まずは外で蜂蜜採集をしてみな、そうすりゃすぐにできるようになる。
アタイを信じときゃ間違いねぇ。
リェータ
あー、じゃあ止めとく。
なにせお前は「ビーハンター」だからな。
ビーハンター
ビーハンターはただの命知らずのウルサス人さ。未来を語るなら、可能性のバケモノのリェータの方が上だぜ。
リェータ
へへ、良いこと言うじゃねーか。
ビーハンター
よし、休憩終わり、打ってこい。
もちろん、殴られたいならそれでもいいぜ。動くサンドバッグ相手に訓練室の利用時間を満喫するってのも悪くねぇ。
リェータ
よーし待ってろシュラ、すぐにボコってやる！
ビーハンター
おっ――
拳じゃ勝てないと見て、武器を使うのか？
リェータ
私にだってプライドがあんだよ、シュラ。
まぁ、訓練室の武器は安全措置がとられてるから、直撃したとしてもちょっと痛いくらいだろうけどな。
あんたも武器を選べよ、それでやんぞ。
ビーハンター
いいぜ。
リェータ
ナックルか？
ビーハンター
リングじゃ長柄の武器を使う奴も多いからな、小回りが効くこいつが一番なんだ。
リェータ
フフン、やっと本気ってわけだな。
ビーハンター
リェータ、長柄の武器に対抗する方法が何種類あるか知ってるか？
リェータ
知らん。教えてくれよ。
ビーハンター
よしきた。
放送
本訓練室の利用時間は――残り20分になります。各オペレーターの皆様は時間を把握し、他のオペレーターの利用の妨げにならないようにお願いいたします。繰り返します、本訓練――
ビーハンター
もう時間がねぇ、見せてやる！
リェータ
さぁ来い！
リェータ
早っ！
うわっ。
ビーハンター
ゴク――
リェータ
ゴクゴク、ぷはぁ――サイッコー。
ビーハンター
運動したばっかでそんな勢いよく水を飲むなんて、夜中に腹が痛くなるぞ。
リェータ
痛くなったらまぁそん時だ、今気持ちよけりゃ良いんだよ。
ビーハンター
どうだ、今回の訓練で何かつかめたか？
リェータ
もちろん。
ビーハンター
ヘヘ、言ってみろよ？
リェータ
これからはどんなことがあっても、拳闘士に近づかれないようにすることだな。
ビーハンター
おいおい、そんなことかよ。アタイがナックルをつけたのは単にオマエをビビらすためだぜ。
オマエに使ったのは肘と肩だけだ、オマエも防護服を着てたから痛くなかったろ。
リェータ
痛くはなかったけど、シュラの攻撃は全く止められなかった。
真面目な話、お前はどんな訓練でそんな早く動けるようになったんだよ。教えてくれ。
ビーハンター
ひたすらケンカをしたのさ。死ななきゃ結果オーライってのをな。
ケンカを繰り返せば、そのうち相手がどうやってオマエに攻撃してくるかわかるようになる。
まあそれができない奴は、どっかのゴミ箱に放り込まれるだけだ。
リェータ
私はどうだ？ ゴミ箱に放り込まれるような実力か？
ビーハンター
オマエにはあの仲間たちとアタイがいるだろ、ゴミ箱に放り込まれても掘り出してやるぜ。
リェータ
私を守られてばかりの意気地なしみたいに言うな。
ビーハンター
ははは、安心しなリェータ。オマエはまだ若いし経験も浅い。あと何年かすりゃ絶対強くなれるって。
リェータ
私を嘗めるな、あのな、私は――！
（小声）私は一人で、レユニオン相手に啖呵を切ったんだぜ。
ビーハンター
ああ？
（小声）何だよその話は……。そんな面白そうな話、なんで今まで言わなかったんだ？ 嘘じゃねぇだろうな。
リェータ
そんなわけあるか。
えーっと……そうだな。まずはシャワーを浴びてから、食いもんと飲みもんを用意して気持ちよく喋ろう、どうだ。
ビーハンター
よしきた。最近、支援部に頼んで蜂蜜ジュースを手に入れて飲んだんだが――いやもう、最高としか言えなかったぜ。あれを用意しよう。
あとはジュナーのスナック菓子だな。面白いのいっぱい仕入れたって噂だ。暗号を伝えれば、こっそり売ってくれるぜ。
アタイらで手分けして仕入れてくるってのはどうだ？
リェータ
そりゃいいな！ じゃあそれぞれ準備をして、宿舎で落ち合おう。
――いや、ちょっと待て！
ビーハンター
ああ？ まだなんかあんのか？
リェータ
いや……
（小声）暗号はなんだっけか。これまでグムとお嬢様任せにしてたから、私は知らないんだ。それと、私でも売ってもらえるのか？
ビーハンター
あー、ほら来い。教えてやる。
（小声）一回しか言わねぇからよく聞けよ。あと質問はなしだ。
リェータ
（小声）わかった。
ビーハンター
（小声）ジュナーのおやつネットワークは、情報流出を防ぐためにお得意さんの紹介でしか受け取りできねぇんだ。アタイは普段ヘイズのところで貰ってる。あいつは物を隠すのは得意だからな。
（小声）まずノックが六回だ、長短長長短長、やり方はわかるな。
リェータ
（小声）ああ。
ビーハンター
（小声）開いたら適当に喋って、それから「ベルマンドー」って言葉が聞こえたら、すぐに「ナイス！」って返すんだ。それから値段を聞けばいい。
（小声）覚えとけよ、「ベルマンドー」だぞ。
（小声）わかったか？
リェータ
（小声）わかった。
ビーハンター
じゃあさっさとシャワーに行くぜ、また後でな。
リェータ
じゃあな。
リェータ
ったく――
おやつを買うだけなのになんでこんなにややこしいんだ？
面倒臭えーなあ、やっぱりグムに頼もう。
一時間後
ロドス宿舎エリア
リェータとビーハンターの部屋
リェータ
シュラ、食べもんは買ってきた――っておい、なんでもう飲んでんだよ！
ビーハンター
待ってる間暇だったからな。たくさん持ってきたし、少しくらい飲んでも大丈夫だろ。
リェータ
まぁ私もお菓子をつまみ食いしてるから、人のことは言えないんだけどな。味は悪くないぜ。
ビーハンター
あったりめぇよ、このビーハンターの好物なんだからな、不味いはずない。
よし、まずは飲み食いしながらトランプでもして場を温めようぜ。それからオマエの大冒険を聞かせてくれ。
リェータ
よし。
ビーハンター
7のペア。
リェータ
Kのペア。
ビーハンター
ジョーカー。
リェータ
スペ3返し。
ビーハンター
ストレートフラッシュ。
リェータ
ロイヤルストレートフラッシュ。
ビーハンター
20、オマエの番だ。
リェータ
Aと4か、難しいところだな。
ドロー。
5だ。
ビーハンター
同点だな？ よしよし、次だ。
リェータ
いや動くな！
ドロー。
7。
ドロー。
3。
ドロー。
A。
リェータ
よっし、私の勝ちだ！
ビーハンター
チッ、もうやらねぇ！
いや、そうじゃねぇ。
今日は一体どうしたんだ？
オマエのカード運は普段泥沼だってのにどうして――
リェータ
ああ――？
ビーハンター
いや待て――
オマエ、顔が赤いぞ？
リェータ
赤い？
私が酔ったってか？
んなわけねーだろ。
ビーハンター
そうだな、まだ三、四本しか飲んでないし、そもそもアルコールなんか――
まさかオマエもアタイと同じで――蜂蜜で酔うのか？
リェータ
こんなんで酔うわきゃねぇよ。
ビーハンター
いやいや、しかもアタイより症状が強いみたいだな。
蜂蜜で酔うのはアタイ一人かと思ってたよ、ヘヘ、ハハハハハ。
面白え、面白えことになってきたぜ。フフ、あー面白え。
リェータ
なーに言ってやがんだぁ？ 最強無敵のリェータ様が、ヒック、酔うなんて、あり得ねーだろ？
ビーハンター
はいはいそうですね、最強無敵のリェータ様、ハハハハハ。
リェータ
オメェなーに馬鹿笑いしてんだ。トランプやめるってんならさっさとこっちに来い、リェータ様が話を聞かせてやる。
ビーハンター
わかりました、クフフ、リェータ様、アハハ。
リェータ
シュラ、み、耳かっぽじってよーく聞けよ。リ、リェータ様の貴重なお話だからな。
うーむ――
よし、じゃあこの話から始めるぞ！
ビーハンター
今日は面白えなぁ、機材借りてきて録音しとこう。
リェータ
シュラ、どこ行くんだ！
ビーハンター
はっ、リェータ様の喉を潤すものを取って参ろうと！
リェータ
おお、そうか。
リェータ
誰だ！
ズィマー
アタシだ。オマエがグムに食べ物を取って来てもらったって聞いたんでな、アタシも貰いに来た。
リェータ
よしきた！
リェータ
ほら、こいつだ。
ズィマー
ああ、ありがと――
へぇ？ オマエ……
……
リェータ
なんだよ、最強無……い、いや、私がどうかしたのか。
ズィマー
蜂蜜を食べたのか？
リェータ
えっ、蜂蜜？ た、食べてないって。そんなわけないだろ。
ズィマー
ビーハンターはどこだ。
リェータ
ああ、今はいない。
ビーハンター
リェータ様、ただいま戻りました。どうぞこちらで喉をお潤しください――
おっ、ズィマーじゃねえか。
ズィマー
チッ。
ビーハンター、ちょっと来い、聞きたいことがある。
ビーハンター
ああ？ お、おう。
ズィマー
……おい、あいつはどうしたんだ。
ビーハンター
ああアレか、蜂蜜に酔ってんだ。
症状はアタイよりもすごそうだ。で、今は、なんかの昔の冒険物語を聞かせてもらうところだった。
どうだ、一緒に聞くか？ 録音しといてやってもいいぜ。
ズィマー
興味ない。
リェータ
ズィマー――シュラを返せー――
今から――うっ、そいつに私の輝かしい過去をなぁ――
ズィマー
もういい、行ってくれ。あいつは任せた。
アタシはもう行くぞリェータ、せいぜい楽しめよ。
リェータ
ああ！
じゃあなぁ冬将軍！
ビーハンター
はぁ。
リェータ、中に入るぞ。こんな入り口でデカイ声出して、人に見られたら赤っ恥だ。
リェータ
誰がリェータだぁ？ ああ？
ビーハンター
はいはい、リェータ様。行きましょう、中へどうぞ。
リェータ
ふむ、それでいい。
？？？
あの、こんばんは？
二人
ああ？
ビーハンター
ムースか、どうした？
ムース
あの、えっと、夜遅くごめんなさい。もしお手数でなければ、お部屋の中で話してもらえませんか。
リェータ
私ゃここで――むぐぐぐぐぐぐ。
ビーハンター
うるさくしちまって悪いな、すぐドアを閉めるから。
ムース
本当にごめんなさい！
ビーハンター
いいっていいって。
リェータ
むぐぐぐぐ！
ビーハンター
よいしょっと、オマエホントに酔ってるな。
リェータ
オメェが酔ってるって言うなら酔ってんだろうな。
シュラ！
もう一本だ！
ビーハンター
飲め飲め、酔うなら思いっきり酔え。
リェータ
ゴク――ゴク――ぷはぁ！
カーッ、最高だ。
ビーハンター
気持ちよくなったか？
ふわぁ――じゃあ話せよ。
リェータ
どこまで話したっけ。
ビーハンター
一言も話してねぇよ。
リェータ
ああ、そうだったか。じゃあしょうがねーから、もう一回話してやるか。
うーん……
もう一口飲んでからだな。
ビーハンター
おい！
ロザリン
はぁ――
炭酸水ならキンキンに冷えたのが飲みてぇなぁ。
この自販機、あの貴族たちにぶっ壊されて、中身もほとんどかっさらわれてなきゃ最高だったんだけどな。
ゴク、ゴクゴク。
ぷはぁ――
あれは？
まだ学校の外に逃げられると思ってる奴がいるのか？
仮面の奴らに返り討ちになったんだろうな、あーあ。
学生A
ちょっと、あなたは三組のロザリン？
ロザリン
ああ？ そうだけど。
学生B
私たちは「ぺテルヘイム共栄会」の者よ、私たちのボス「剛勇のアンドレイ」があなたの入会を望んでいるわ。
どう、考えてくれる？
ロザリン
興味ない。
学生A
本当に断るつもり？
ロザリン
この数日で私を引き入れようとしたグループは、六、七組とまではいかなくても、四、五組はいたはずだ。
どこからそんなたくさん小グループが湧いて出てきたんだか……。しかもどいつもこいつも、くだらない通り名を付けて偉ぶってやがる。
学生B
なんですって？ あなた、そんなことを言う度胸が……
学生A
ちょっと、彼女を挑発しないで。
ロザリン、私たちの学校には余所からたくさんの生徒が集められてるわ。他はまだいいけど、あの貴族学校の人たちまでここに来てるの。
うちの生徒が、貴族学校のチンピラにどれほどイジメられてるか、あなただって知ってるでしょ。
こんな時には一致団結が必要なんじゃないの？
アンドレイはあなたが入会してくれるなら、悪いようにはしないって言ってたわ。
食料は絶対に保証するし、飲み物だって余裕があれば分けてあげられる。
考えてくれない？ 「夏将軍」。
ロザリン
うーん……
じゃあ、こうしよう。
お前たちの提案を飲んでやる。
学生B
良かった、理解してくれてありがとう！
ロザリン
いやいや待て、喜ぶのはまだ早い。
その代わりに、お前たちも私の条件を受け入れろ。
学生A
言ってみて。
ロザリン
ソニアを説き伏せて、あいつに私を誘いに来させろ。
学生A
それは……
ロザリン
それができたら、私もお前たちのその腕章を付けてやる。
学生A
……
……
も、戻って検討してみるわね。
ロザリン
ああ、そうしてくれ。
じゃあな。
ロザリン
毎日毎日ああいうくだらない奴らがちょっかい出してきやがる。
うざってえなぁ。
ああ？
マジかよ、いつの間にこんな飲んだんだ？
もう無くなっちまったのか……
はぁ。
ああつまんねぇ。
貴族学生
あなたがロザリンね。
ロザリン
またか……
はいはいはい、そうだよ。
貴族学生
あなた、あなた、それからあなた、行きなさい。
ロザリン
おっと、ケンカに来たのか。
いいねぇ。
それでいいんだよ。
口を動かすのは面倒だからな！！
リェータ
このナッツ、殻を剥くのが面倒で食べたことなかったけど……
うーん、こんなに旨かったとはな。
ビーハンター
つまり、その当時オマエたちの学校に閉じ込められたのは、一つの学校の学生だけじゃなかったってわけか？
リェータ
ああ、周りのいくつかの学校の奴らも、私たちのところに閉じ込められてたんだ。
「お嬢様」の学校の*ウルサス式ツッコミ*もな。
ビーハンター
お嬢様って言うと……誰だっけ？
リェータ
ナターリアだ。私たちと一緒に来たウルサス人。
お嬢様って言っても通じねえか。でも私はこの呼び方にすっかり慣れちまった。
あいつはなー、悪い奴じゃないんだけど、あの時はろくでもねえことをやってた。
みんな覚えてる。
おい、シュラ。もう一回アレをやってくれよ。
ビーハンター
アレ？ どれだよ？
リェータ
さっきのアレだよ。
ナッツの殻を握りつぶすやつ。
ビーハンター
じゃあ袋から一個取ってくれ。
リェータ
ほら。
ビーハンター
よーく見ておけよ……
学生
ゆ、許してくれ！
いやあ！！
ロザリン
またクソ野郎か。
ペッ。
火事の救助にゃツラも見せないくせに、こういう強盗の真似事はプロ並みだな。
いや待て、おかしいな。
そもそも私は食いもんなんてほとんど持ってないぞ。なのになんでどいつもこいつも私にちょっかいを出してくるんだ。
それもほとんどこの学校の*ウルサスの礼儀正しい形容詞*だ。
腕章を付けてないから、アンドレイのグループかヴァシリのグループかわかんねえけどな。
私だって、空腹を凌げるくらいしか食べ物は拝借してねぇっての。
ああ、このままだと良くねぇな。奴ら、いつも真夜中に襲ってきやがるし。
食堂の冷蔵庫も四高のゴミクズ天上人たちに占領されて、第二食堂は燃えちまったし。
このままだと炭酸水どころか、水も食料も手に入らなくなっちまうかもしれねぇ。
どうにかしないと。
うーん……
ロザリン
やっぱりソニアのところへ行くか。
あいつのところは確か、もう他の学生を何人か受け入れてたよな？
じゃあきっと、私一人増えても問題ないだろ。
よし、そうしよう。
何個か缶詰をやれば、多分受け入れてくれるだろ。
……そうだったらいいんだけど。
少なくとも、今よりは「落ち着ける」はずだ。
……
ロザリン
まさか万年二位の私が、一位の奴に助けを乞う日が来るなんてな。
……
でもあいつのところなら、きっとゆっくり寝られる……
ロザリン
おい、ソニア、いるか？ ちょっと話がある。
ソニア？
開けるぞ。
ロザリン
なっ！？
ソニア
……
ロザリン
ソニア？ お、お前、こいつはどういうことだよ？
すぅ。
とにかく、入るぞ。
ソニア
……ああ？
ロザリン
いや、私は戦いに来たわけじゃない。ただ、えっと、お前の仲間に入れてもらおうと思って。
ソニア？
ソニア
そうか。ロザリン、ちょっと手伝ってくれ。
ここに寝てる奴らを、運び出すんだ。
ロザリン
おい、お前まさか本当に……
ソニア
アタシはこの場所を、あいつらを守らなきゃいけないから、離れられないんだ。
一つ借りだ。
ロザリン
っ……
わかった。やっぱりお前は容赦ないな。
缶詰を何個か持ってきた、お前が分けてくれ。
こいつらは私が片付けとく。
ソニア
ありがとう。
ロザリン
……
お前、変わったな。
リェータ
シュラ遅ぇぞ、トイレにそんな時間がかかんのか！
ビーハンター
飲みすぎたんだよ。
リェータ
おっ、へへ、面白ぇ。
オメェの顔も赤くなってるぞ。
ビーハンター
オマエがアタイのことを言、言えた義理かよ。
ああ？
オマエだって、もう口があんまり回ってねぇだろ。
リェータ
どこがだよ、まだ話は続くんだよ。
さっきはどこまで話したっけ？
二度目の火事か？
ビーハンター
火事？ なんの火事だ？ 火事騒ぎ？
リェータ
ああそうだそうだ、じゃあ続けんぞ。
シュラよぉ。
ビーハンター
ああ？
リェータ
今夜はお前のあのクマちゃんの等身大ぬいぐるみを抱いて寝てもいいか？
ビーハンター
いいぜ。じゃあ今渡しとくよ。
受け取れ。
リェータ
うわあ、投げるな、受け止められないって！
ああああ！
重っ。
ロザリン
フンッ、オマエ、この程度だったっけ？ なあ？
起きろよアンドレイ、さっきの偉そうな態度はどこ行ったんだ？
アンドレイ
……
ロザリン
気絶してんのか？
それは良かったなぁ、寝てれば腹も空かねぇからな。
そうだろ、ああん！？
よし、お前らのボスはお寝んねだ、次は誰が……
ロザリン
うぐっ！
ぐっ、やるじゃねぇか、卑怯な手も覚えたか。
学生
ぐわぁ！
ロザリン
私がやられっぱなしでいると思ったか？
それとも映画みたいに、後頭部から殴りつければ倒れるとでも思ったか？
ああ？
*ウルサスの雄叫び*
学生
ぐはっ！
……
ロザリン
なんだよ。
これで終わりか？
フンッ、カスが。
この食料はもらってくぞ。
ロザリン
いちち……頭が痛ぇ。
アンナ
ごめんなさい……私たちのせいで……
ロザリン
いや何てことねぇよ、同じグループの一員だろ、仲間のためなら多少の無理は当然だ。
それに……「あいつ」は今ちょっと調子が悪いみたいだし。
だからこのぺテルヘイムのナンバーツーがあいつに代わってやらないとな、アハハハ、痛たたた……。
ラーダ
もうちょっと我慢して、すぐにできるから！
よーし、できた！
ロザリン
ありがとな。
さすがボーイスカウトだ。応急処置が手慣れてる。
ラーダ
へへー、ありがとう。
ロザリン
はぁ、ここじゃもうまともな奴はあんまり残ってない。お前たちが全員、その数少ないまともな奴で良かったぜ。
本当に、良かった。
あの警官だって、お前たちみたいな奴らに出会ってればきっと……
……
ラーダ
……
アンナ
……
ロザリン
（このままだとダメだ。）
（食いもんも、人も足りない。）
（私とソニアがいると言っても……）
（今はもう二つの食堂はどっちもなくなっちまった、根本的に食料が足りてない。）
（もしそのうち大人数で押しかけられたら。）
（ソニアがいたところで……）
（何か方法を考えないと……）
（……）
（あの仮面の奴らのところに探りを入れてみるか？）
（いやダメだ、万が一あいつらに石の生えたバケモンにされちまったらどうすんだよ。）
（……）
（やっぱり一回行ってみるか、活路が開けるかもしれないし。）
（生きてるのは気張るためだろ、やってやるぜ！）
アンナ。
ロザリン
やっぱり、残りの食料じゃ足りない。今夜もう一回探してくるよ。
アンナ
ダメです。怪我をしてしまっているのに、これ以上無理をすれば本当に……
ロザリン
大丈夫だって、私は丈夫だから。
それに、遠くにまでは行かないし、無理やり他の奴らの数少ない食料を奪ったりもしない。
安心してくれ。
深夜
ロザリン
ここに来るのは久々だな、ちょっと緊張するな。
緊張どころか、心臓が口から飛び出しそうだ。
レユニオン構成員
ここは通せない。
ロザリン
この先は私たちの宿舎だ、なんで通れないんだ？
レユニオン構成員
死にたいのか？
ロザリン
もし死ぬのが怖かったら、抜け道を探して学校を脱出するだろ。こんなところにゃ来ねぇよ。
私はロザリン、お前たちのボスと話をさせろ。
レユニオン構成員
お前が感染者なら、こちらに来ると良い。
そうでなければ、話は終わりだ。
ロザリン
もしどうしても通りたいって言ったら？
怖かった、死ぬほど怖かった。でも口からは、そんな挑発の言葉が飛び出した。
そのプライドのせいで、こんなひどい目に合ってるんだけどな。
だが……望むところだ。
レユニオン構成員
（武器を取り出す）
？？？
構わない。入れろ。
レユニオン構成員
？
（武器を下ろす）
？？？
ついて来い。
ロザリン
へへ、ありがとよ。
私はどうしてレユニオンのボスに会おうなんて思ったんだ？
あいつと喋って、学生たちを解放するか食料を恵んでくれってお願いするつもりだったのか？
それとも、学生を解放しないと殺すって威嚇でもするつもりだったのか？
私みたいな学生一人でか？
......
でも少なくとも――
私は、やれることはやったんだ。
......
リェータ
そ、それからな。
ビーハンター
Zzzzz……
リェータ
それからあの白髪のチビがな、笑ってるようなそうでないような表情をしながらグダグダ長話をした後、私を解放したんだ。
内容はあんまり覚えてないけどな。
なんだっけか。たしか「苦しみは始まったばかり」とか、「人生を楽しめ」とかそんなことを言ってたっけ。
ビーハンター
Zzzzz……
リェータ
ま、意味なんてわかりゃしなかったけど。
それから奴は、私を解放したんだ。
それで教室に戻って一眠りして、次の日起きたら、仮面の奴らは全員いなくなってた。
ビーハンター
Zzzzz……
リェータ
その後は、なかなか苦しかったな。
学校の中にいた頃は、そこでの生活は最悪だと思ってたが……
外に出てみたら、そんなもんはただの前菜に過ぎないって気付いたのさ。
あの場所での話は、人を喰っちまう。
リェータ
シュラ、あのな……
リェータ
シュラ？
ビーハンター
Zzzzz……
リェータ
人のこと、酔ってるなんて、え、偉そうに言ってたくせに、酔ってんのはお前じゃねぇか。
ったく、寝落ちするなら挨拶してからにしろよ。
まあいい。
リェータ
「ステージ」、どこ行った！
一曲ぶちかましてやろうぜ！
おーおー私の「ステージ」、良い子だ、見つけたぜ！
シュラは寝ちまったし、この先の話はお前が聞いてくれ。
リェータ
私にゃまだまだ、たくさん、話したいことがあるんだ。
うー、ヒック……
Zzzzz……
ビーハンター
Zzzzz……
翌朝
リェータ
――
！
なんで私はベッドに？
いつ寝ちまったんだ？
ビーハンター
起きたな。
リェータ
シュラ、どういうことだ？
ビーハンター
ああ？ どういうことってなんだよ？
ったく、よくもまぁ偉そうに聞けたもんだぜ。
昨日は蜂蜜ジュースを飲んで酔って暴れまわって、挙句の果てにアタイのぬいぐるみを奪ったんだろうが。しかもヨダレまみれにしやがって。
リェータ
えっ？
お前が投げてよこしたんじゃなかったっけ？
ビーハンター
この*ウルサスのご挨拶*が、自分で触ってみろ。
リェータ
いや、止めとく。
悪かったよシュラ。
ビーハンター
謝るんならこいつを綺麗にしろよ。
リェータ
わかったわかった、任せとけよ。
ビーハンター
アタイはゴミ捨ててくるぞ、オマエはさっさと顔を洗え。
リェータ
あーはいはい、すぐ行く！
ビーハンター
じゃあ行ってくるぜ、午後の個人レッスンは忘れんなよ！
リェータ
ああ！
リェータ
……昨日はあいつに一体何を話したんだっけ？
うーん、まぁ多分楽しい話だろ。
リェータ
道理で気持ちよく目が覚めたわけだ。
とりあえず、顔洗って歯ぁ磨いてメシ食ってから、寮長にこのバカでかいぬいぐるみをどうやって洗えばいいか聞くとしよう。
うん、これでよし。
近いうちにまたシュラとも飲もう。
あれ。
なんで私のギターが外に出てんだ？
……
とりあえず一曲やっとくか。