逆行
モニーク
……
第三小隊隊員
モニーク様。
モニーク
第三小隊は全員、私に同行しなさい。
セントーレアがどこに行きたがってようが、彼女に決定権なんてないわ。
……たとえ殺してでも、あいつを止めるのよ。
第三小隊隊員
了解しました!
モニーク
それと絶対に……無関係の人間には、この件を悟られないように。
モニーク
それじゃあ――行動開始。
モニーク
……
これは、あんた自身が選んだ結果なのよ。
セントーレア。
プラチナ
ふぅ……
プラチナ
ロイまでいたら、きっとチャンスは少しもなかったんだろうな……
だけど今なら、ラズライトは一人しかいない。私も、逃げるだけならまだ……ちょっとは自信があるし……
プラチナ
……ははっ……
無冑盟のプラチナが、監査会管理下の零号地に身を隠す日が来るなんて、一体、誰が想像してただろうね……
プラチナ
……
――休憩は終わり、か……
第三小隊隊員A
本当に、こんなところへ逃げ込んだのか?
第三小隊隊員B
ほかの場所は全部探しただろう?
第三小隊隊員A
まあ、それはそうだけど……
第三小隊隊員B
巡回中の征戦騎士に気付かれるから、足音は立てるなよ。この場所に居る以上、気は抜くな……
第三小隊隊員A
わ、わかった!
プラチナ
(一番近くの港までは、まだ少し距離がある……)
(零号地から工業地帯を抜けて、そこからさらに、居住区域か商業エリアへ向かって、港のある場所まで行く、か……)
(……遠すぎるな……)
(でも、工業地帯を抜けさえすれば、なんとか持ちこたえられるはず……)
第三小隊隊員A
……誰かいるんだろう?
隠れてないで、さっさと出てこい!
プラチナ
……
第三小隊隊員A
(――構えておくか……)
……
プラチナ
……
第三小隊隊員A
感染者か? それとも、ほかのなにかか?
プラチナ
(もう少し……近付いてこい……)
第三小隊隊員B
(小声)どうした、何か見つけたのか?
第三小隊隊員A
(小声)ああ。そこの角に何かいる。
第三小隊隊員B
(小声)了解、援護する。
第三小隊隊員A
(小声)頼んだ。
第三小隊隊員B
これは……
第三小隊隊員A
プラチナの矢筒だ。間違いなく、この近くに――
プラチナ
――動くな!
第三小隊隊員A
っ、くっ……!
プラチナ
答えて。モニークが隊を配備してるのはどの方向? それと今の行動プランはどれが適用されてるの?
従った方が身のためだよ。言えば命までは取らないから。
第三小隊隊員A
し、知らない……
プラチナ
はぁ……アンタも無冑盟の一員なら、そう答えたらどうなるかなんてわかってるでしょ?
プラチナ
――どうせ、すぐ思い出すことになると思うよ。
第三小隊隊員
ご報告します!
モニーク
何。
第三小隊隊員
零号地を捜索していた隊員が、監査会側の人員に取り押さえられました!
モニーク
……は? 何があったの?
第三小隊隊員
任務中に征戦騎士と鉢合わせたようで……全員負傷しています。
我々は……
モニーク
向こうは、私たちの目的を誤認しているはず。連合会の代わりに、零号地の証拠を処理しに来たとでも思ってるんでしょう……だったら、そう思わせておけばいいわ。
これはそう単純な話じゃないんだから。
モニーク
……
モニーク
で、零号地の先遣隊に方向の指示を出してた連中は、どこに集まってるの?
第三小隊隊員
住宅エリアです。
モニーク
……そう。
じゃあ、そこにいる狩猟隊に、商業エリアへ向かうように伝えて。
第三小隊隊員
ご報告します!
モニーク
さっさと言って。
第三小隊隊員
特定の地点にプラチナが現れました!
モニーク
……フン。
捕獲するわよ。準備して。
第三小隊隊員
了解!
モニーク
(単に捕らえるだけなら、第三小隊で十分でしょうけど……向こうは私たちの捜索・捕獲手段をどこまで知っているかしら。)
(もし大通りに逃げられでもしたら……)
モニーク
……私よ。あんた、そんなに暇なら手伝ってくれない?
ロイ
アッハ、悪い悪い。でも、俺も自分の仕事で忙しいんだよ。
そんで、そっちは今どんな状況なんだ?
モニーク
私の小隊が追い詰めてるところ。このあとは、私が直に手を下せばすぐ解決よ。
今日は最高の狩猟日和だしね。
ロイ
そいつは何より! だが、念のために一つ忠告しておくぜ。
――クロガネが制御不能になったことに、連合会が勘付いた。俺たちの準備はまだ終わってないってのにな。……ま、そういうわけだから用心しとけ。俺たちがどっち側なのかは悟られるなよ。
モニーク
……わかった。
ロイ
それと……セントーレアは、理事会から見ればまだ無冑盟の「プラチナ」だ。やるなら、いい感じの口実を探しておけよ。
モニーク
……ロイ。
ロイ
はいはい、安心しろって。本当に万が一のことが起きたら……我らが優しき三人のボスが、手助けしてくれるさ。
プラチナ
ふぅ……はぁ……
プラチナ
あと、少し……
商業エリアを抜けさえすれば、カジミエーシュを離れられる……!
プラチナ
っ……!
第三小隊隊員
武器を下ろせ、プラチナ。
あなたが我々の言うことを聞いて、おとなしく戻るのなら……その裏切り行為に対して、無冑盟は目を瞑る、とモニーク様が約束してくださっている。だから素直に投降してくれ。
プラチナ
やれやれ……お互い、手の内はわかってるんだし……そんな話、するだけ無駄だよ……
第三小隊隊員
っ、とにかく……抵抗はするな。この建物は、未完成の部分も含めてすべての出口をこちらの人員で塞いである。逃げ道はない。だから――
第三小隊構成員
うっ――!
プラチナ
はぁ……はぁ……交渉なんて、専門家に任せなよ。……アンタたちはまず……狙撃の腕を、磨いてきな。
プラチナ
(ここを出て、商業エリアの人混みに紛れ込めたら……)
(まだ、チャンスはある……!)
(もう少しだ……!)
第三小隊隊員
出口は塞がせた。
この状況なら、いくらプラチナでもそう簡単には突破できまい。
第三小隊隊員
よし。さっさと追いかけよう。モニーク様に恥をかかせるわけにはいかないからな。
第三小隊隊員
どこへ行くつもりだ?
プラチナ
……
第三小隊隊員
無駄な足掻きはやめて投降しろ、プラチナ。
プラチナ
……たとえ無駄でも、やるだけやるよ……
師匠みたいに、こんな所で死ぬのはヤだし……どうせ死ぬなら、せめて空が見える場所がいい……
第三小隊隊員
やれ。
プラチナ
――はぁッ!
第三小隊隊員
う、ぐあ……!
プラチナ
うっ……げほ、ごほっ……
……今ので、最後の一矢か……
プラチナ
……チッ……
グラベル
「年若い騎士には、この平和な時代へ騎士競技がもたらす腐敗に束縛される日々ではなく、より豊かな経験が必要なのよ。」
「その点、ロドスは信用に足る企業だわ。彼らがグラベルの忠誠を得たということは、彼女を送り出し、世間を見に行かせるには十分な理由になると思わない?」
グラベル
……って、大騎士長閣下が大旦那様に仰ったのよ。
ハイビスカス
わぁ~! グラベルさんって、人が言ってたことを伝えるとき、真似するのが上手ですよね。実際には声は全く変わってないのに本人みたい……!
グラベル
ふふっ……コツは、特徴をよく捉えることよ~。まあ、特技ってほどじゃないんだけどね~。大旦那様が性格上、よく伝言を押しつけてくるからぁ……自然とできるようになっただけなの。
ハイビスカス
その「大旦那様」って、グラベルさんを引き取って育ててくれた騎士一族の首席騎士さんのことでしょうか?
グラベル
……ええ。
ハイビスカス
なるほど~。その方は、結局同意してくださったんですか?
グラベル
ん~……実は、あたしからはまだ大旦那様を説得してないのよね。だけど、あたしは行くことにしたの。
グラベル
この間、たまたまこの話をしたときなんてぇ……怒ってあたしを追い出しちゃったくらいだから~。
ハイビスカス
そうですか……
プラチナ
げほ、ごほっ……はぁ……はぁ……
あと、少し……もう少し……!
プラチナ&ハイビスカス
わっ――!
グラベル
――!
一瞬にして、グラベルの剣がプラチナの首へと押し当てられる。
しかし、彼女はその場で手を下すことはしなかった。というのも、この強敵が既に疲れ果てており、これまでになく簡単に殺せる状況だったからだ。
グラベル
大丈夫?
ハイビスカス
い、たたぁ……だ、大丈夫です……って、わわ……! その人ぐったりしてませんか!?
プラチナ
……
グラベル
……見たところ何かあったみたいね、プラチナ。
プラチナ
……アンタたちには、関係ない……っ、うっ……
ハイビスカス
あ、歩くのもやっとみたいですよ……! 傷らしい傷は見当たりませんけど……ただの疲労なんでしょうか? それとも……
グラベル
……無冑盟の仕業でしょうね。追いかけてきてるもの。
グラベル
彼らが反乱を起こしたか――あるいは、あなたが裏切ったとか?
ハイビスカス
ド、ドクター……!
あなたは地面に倒れ込んだ無冑盟を見やる。彼女は、以前見た時の洗練された暗殺者らしい印象とはまるで違うように映った。
プラチナ
……ねえ、ロドスの、ドクター……
この街の、外にいるのは……アンタたちみたいな人ばっかりなのかな……?
グラベル
何かしら?
グラベル
実は、ちょうどあたしもそのことを相談しようと思ってたのよね。
グラベル
向こうが影に潜んでいる以上、形勢は必然的に不利になる……無冑盟が一企業を仕留める卑劣な手段なんて、カジミエーシュにはいくらでもあるんだもの。
プラチナ
……!
グラベル
ふふっ、お望みのままに。
ハイビスカス
しっかり掴まってくださいね、ええと……無冑盟のお姉さん!
プラチナ
……どうして……
第三小隊隊員
追え! 絶対に捕らえるんだ! モニーク様にもご連絡しろ!
――クソッ! なぜ邪魔をする!?
グラベル
……どうしてかしらね?
グラベル
もしかするとぉ……これこそ、耀騎士がロドスを信じる理由なのかも……な~んて。
第三小隊構成員
チッ! お前たちに構ってる暇はないんだ!
モニーク
――本当にね。
モニーク
こっちは一刻を争う状況なのよ。それなのに、征戦騎士にまで見られただなんて……
グラベル
……その口ぶり……「見られた」以上は、口封じにあたしを殺そうとでも思ってるのかしら~?
モニーク
はぁ……
……なんか最近、仕事のたびに邪魔が入ってる気がするわ。
グラベル
ふふふっ。本当にごめんなさいねぇ、ラズライト。
グラベル
でも、ドクターにお願いされちゃったらぁ……それだけで、あたしには普通の仕事よりも重要だから~。
グラベル
あなたの相手は務まらなくても、狙撃を阻むことはできるし、ね?
モニーク
へえ、言ってくれるじゃない。
でも、あんたたち……耀騎士もあの妙なサルカズもいないのに、調子に乗りすぎじゃないかしら?
この距離からでも、あの医者とプラチナを射貫くだけなら――私には簡単なことなんだけど。
グラベル
……
モニーク
なのに好き勝手してくれちゃって……よっぽど犠牲者を増やしたいみたいね。
止められるものなら、やってみなさい。
グラベル
――はあッ!
第三小隊構成員
させるか!
第三小隊構成員
モニーク様! お願いします!
モニーク
チッ、わかってるわよ! あんた何様のつもり!?
モニーク
――私たちには、もう「プラチナ」なんて必要ない。
モニーク
邪魔なサルカズ共々、そこで死になさい。
グラベル
ッ、この……!
二度と、狙いは外せない。彼女自身のプライドが、それを許さないからだ。
モニークは長弓を目一杯引き絞った。
――どなたですか? ロドスの医療オペレーターを傷つけようとしているのは。
モニーク
――何……?
その時、つがえた矢じりの鋼がたちまち腐食した。そして矢柄は新芽の付いた木の枝へと変じると、モニークの手の中にぽとりと落ちた。
遠くのほうに、ぽつりと人影が現れる。瞬間、モニークの全身を不快感が駆け巡った。
それは、ある種の警戒と呼べるものだった。
人影の正体は、小柄なキャプリニーだ。その歩幅はとても小さく、緩やかでゆったりとした所作でアーツを放つ姿は、この戦場にはそぐわない。
Touch
……このような場面に出くわすとは、思ってもみませんでした。ロドス本艦の近くを通るついでに、せっかくなら少し顔を出していこうと思っただけだったのですが。
モニーク
……あんた……何者?
Touch
あなたに教える義理はありません、無冑盟さん。
個人的には、任務外の物事への過干渉はポリシーに反するのですが……あなたは今、逃走を試みるロドスのオペレーターに対して、明らかに敵意を見せていましたよね。
モニーク
……
Touch
であれば、話は別です。あなたの好きにはさせません。
プラチナ
ぐ、っ……
ハイビスカス
お姉さん、無理しちゃダメですよ。
プラチナ
っ……でも、私は……
ハイビスカス
大丈夫、安心してください! この商業エリアを抜けたら、ロドスが見えますからね!
プラチナ
……
自分の家から逃げ出して以来、プラチナは三日三晩の間、一睡もしていなかった。
その上彼女は、無冑盟の罠にかかることを恐れて、飲まず食わずで過ごしていた。
……ロドス……
プラチナ
……
彼女が振り返れば、そこにはロドスのドクターがいる。
この人物こそが、彼女の任務をことごとく潰し、痛手を与えた外部企業のリーダーであり……
そして、彼女にとって、目の前の状況から救ってくれるかもしれない唯一の存在なのだ。
プラチナ
……皮肉な話だなあ……
彼女の頭の中を、いくつかの考えごとが巡っていた。ドクターの前ではまだイメージを保っておくべきだろうか。……大騎士領から連れ出してもらえるよう、頼めないだろうか。……それから……
そうして、ぼんやりとした空の下、彼女は上の空でいた。
Touch
……く、っ……
たった二人でラズライトを足止めするというのは、やはり少々厳しいものがありますね……
グラベル
そうかしらぁ? あたしたち、よくやってると思うけど~? だって向こうはあんなにたくさんいるのよ。
モニーク
……はぁ。あの征戦騎士、手負いのくせにまだここまで抵抗できるなんて……もしかして、あんたのアーツで何かやってる?
っていうか、どうして私を知ってるの? あんたもカジミエーシュ人なわけ?
Touch
……一度にあれこれ尋ねすぎですよ。そう慌てずに、ひとつずついきましょう。
モニーク
もうどうでもいいわ。……にしても、あんたはあのサルカズに比べたら、まだ「普通」の医者みたいに見えるけど――つまり、あんたの実力じゃ大して時間は稼げないってことよね。
モニーク
無冑盟のことを理解してるなら、あんたも知ってるでしょ。私たちの中には、もっと恐ろしい相手が――
モニーク
……
Touch
……出てもらっても構いませんよ。
私と、こちらの騎士さんは、その隙に攻撃をするような人間ではありませんから。
モニーク
……何。
モニーク
……チッ……はいはい。
モニーク
……言う通りにすればいいんでしょ。
第三小隊構成員
モニーク様……?
モニーク
……撤退よ。
征戦騎士が騒ぎに気付いたらしいわ。これ以上、不必要な騒動は起こさないで。
第三小隊構成員
えっ……? ですが、偵察隊はこの付近で騎士なんて確認していな――
モニーク
二回も言わせんじゃないわよ。
第三小隊構成員
はっ、はいっ! そ、総員、撤退せよ!!
モニーク
あんたたち、運が良かったわね。
Touch
「運」? それは違うと思いますよ。
「何事も為せば成る」ですよ。無冑盟。
???
ムリナール。単なる好奇心から尋ねるのだが……
ムリナール
……
???
もう何年になる?
まるで鋤を引く駄獣のようにただ漫然とカジミエーシュで過ごし、キリルが死んでも何一つ変わらない……君がそんなふうになってから、何年が過ぎ去ったんだ?
かつての君は多くの敵に畏怖の念を与えていた。あの頃の彼らは、寝ても覚めても落ち着かなかったことだろう。
そのあと、君が何もせずに過ごしていてもムリナール・ニアールを恐れる必要は最早ないのだということを、彼らは随分と長い間信じられなかったようだしね。
……あの時の君はまだ若く、黄金時代のただ中にあった。……だが君は、キリルのため、二人の幼い子らのため、カジミエーシュに残ることを選んだ。
そうして、あれから何年も経った。……私は、君がとうに諦めたものとばかり思っていたよ。
どうして今になって、大騎士領を離れることにしたんだ?
ムリナール
……お前がそれを知る必要はない。
???
しかし、君は知っているだろう。監査会最大の機密ファイルが、いまだにあの滑稽な観光名所――大騎士領、チャンピオンウォールの下に保存されていることを。
ファイルの管理者に何を言われた? いや、あの頑固者が機密を漏らすわけがないな……なら、大騎士長の考えか?
ムリナール
私はただ、休暇を楽しむだけだ。
???
そうか。ならば休暇明け、職場に戻った君の活躍に期待しているよ……
ムリナール
お気遣いなく。
???
……ムリナール。私は随分と長く生きてきた。
けれど、今もよく覚えているよ。――君がリターニア人の陰謀を焼き払ったこと。白熱する波が敵陣を崩壊させた時のことを……
裏切った騎士たちが君の手で斬り殺され、次々と倒れていく光景は――まさに地獄のようだった。
……耀騎士の光芒は、明るく輝いてこそいるが、内実は虚無に等しいものだ。私は、君の光が作り出す波こそ、その怒りのほうこそ素晴らしいと思う。
しかしその一方で、私はずっとこう思っているんだ。――君の光を再び目にすることがあれば、その時は必ず……
君の命を奪わなければなるまい、とね。
ムリナール
……
ムリナール
ならば、お前は……
???
うん?
ムリナール
半世紀以上もかけて、手ずから築き上げてきた無冑盟のために、お前が最後に選んだ終着点が、これだとでも言うつもりなのか?
???
……一番賢い選択をしただけのことさ。君ならば、この道理をよくわかっているはずだ。
しかし、それを聞くということはまさか――ニアール家には新たな未来がある、と耀騎士が君に信じさせた……ということかな? 彼女の理想主義に満ちた非現実的な道往きを、認めるつもりなのか?
ムリナール
……「未来」に、「道」、か。
もとより、ニアール家の騎士は、自らの往く道を他人の判断に委ねる必要などない。……私は単に、彼女たちがその道を進むに耐えうる力量の持ち主とは思えなかっただけだ。
……彼女らと共に歩む仲間がいるとも思えなかったしな。
ムリナール
――だが、今は違う。
???
ほう……
……まあ、それも道理だろうな。本来、君と耀騎士は似たもの同士なのだから。
ムリナール
……
???
両者の違いといえば、君は彼女より深い失望の中におり、そして彼女より強くこの国への不信感を抱いている……ということくらいのものだ。
それにしても、まったくもって残念だよ。我々の失望と怒りは、よく似ていると思っていたのだが……
ムリナール
……商業連合会に何としてでも入り込もうとしている身で、よくもぬけぬけとそんなことを言えたものだな。
――さあ、昔話はもう十分だろう。
???
……おや? 既に、ロドスとニアール家への無冑盟からの攻撃は止めさせてあるが……よもや、私の誠意がまだ足りないとは言うまいな?
ムリナール
ああ、十分だ。
そうでなければ、お前はとうに光の雨を浴びて、死体と化していたことだろうな。
???
......
ムリナール
――無冑盟の為してきた所業に関しては、お前の方が詳しかろう。
我々が友であったことなど、決してないのだ……「クロガネ」よ。
???
……ふっ、相変わらず手厳しいな。
――さよなら、ムリナール。……君の旅が、実りあるものとなるよう願っているよ。
プラチナ
……ねえ。アンタなら、わかってるはずだよね。
ラズライトに追撃されてたからって、それで無冑盟内での立場を失うわけじゃない……私はまだ、理事会から命令を受けるかもしれないんだよ。……なのに、どうして……
プラチナ
……
ハイビスカス
まったくもう~! 皆さんのお陰で助かったんですから、素直にお礼を言えばいいじゃないですか!
プラチナ
…………
プラチナ
あ……ありがと、ドクター……
グラベル
ふぅ~……
それにしても、くたびれちゃったわぁ~……ドクターったら、本当に難しいお願いばっかりしてくるんだから~。
Touch
リラックスしてください、ザラックさん。そのほうが、治療効果も上がりますから。
グラベル
そうするわ、ありがとう……
ハイビスカス
あれっ、グラベルさん! どうしてTouch先生とご一緒なんですか!?
グラベル
……たまたま、そこで会ったのよ~。
それで、悪いけど、座ってお話しさせてもらってもいいかしら~?
ハイビスカス
もちろんです! あっ、Touch先生もよろしければ……
Touch
……いえ、結構です。私は、アーミヤさんに業務報告をしに来ただけですから。
グラベル
ほ~んと、ラズライトの相手は、すっごく大変だったのよ~?
グラベル
だけどぉ……頑張った甲斐はあったみたいね~。
プラチナ
……
グラベル
ふふっ……あなた、あたしにと~っても大きな借りができちゃったんじゃない?
グラベル
その様子だと、プラチナとは上手く折り合いが付いたのかしら~?
グラベル
ちょっと前までは敵同士だったのに、それが今では握手を交わして話し合えるようになるなんてね。
不思議なこともあるものね~。
グラベル
……う~ん……話してたら、なんだか疲れが来ちゃったわ~。あたしも、少し休ませてもらおうかしら~……
プラチナ
……
グラベル
何考えてるの~? 無冑盟さん。
プラチナ
……アンタ、まだ私を監視してたんだね。
グラベル
ええ。カジミエーシュを離れるまで……いいえ、あなたがドクターのそばを離れるまでは、ず~っとあなたのこと見てるわよ~。ふふふっ……
グラベル
だって、自分でも言ってたでしょ~? あなたはまだ、無冑盟として命令を受ける可能性がある、って。組織内で裏切りが起きたのなら、商業連合会はなおさらあなたを頼りにするかもしれないし……
グラベル
ドクターに助けてもらったからって、過去から逃れられるわけじゃないのよ。あなたみたいな血に汚れた殺し屋を、そう簡単に信じるわけにはいかないわ。
プラチナ
ま、ごもっともだね。
でも、安心してよ。とりあえず今は、ドクターの信用を得られるように頑張るつもりだからさ。大騎士領で生きてきた以上、そのくらいの処世術は身につけてるよ。でなきゃやっていけないでしょ?
グラベル
……それって、あたしへの皮肉かしら~?
プラチナ
……皮肉なんて言わないよ、めんどくさいし。
ところで、アンタはロドスと一緒にカジミエーシュを離れるの?
グラベル
ふふっ、あなたには関係ないでしょ~。
プラチナ
やれやれ……受難の日々の始まりか……
プラチナ
……にしても……こんな陸上船に乗るのは、初めてだよ。
はぁ……あの「ドクター」って、本当に変な人だね。
グラベル
命の恩人に対して、変な人なんて言うのはどうかと思うわよ~?
プラチナ
……それもそうか。
プラチナ
あのさ……私たち、またここへ戻ってくることはあるのかな?
グラベル
戻ってきたい?
プラチナ
……うーん……
わかんない。その辺は、深く考えてなかったよ。
プラチナ
けど、今のところは……さっさと離れたい、かな。