火線を潜る

次の攻撃まで30分くらい猶予はあるだろう。この隙に水でも飲んできたらどうだ?
いや、その様子じゃ飲んでも戻すだけか……ほら、息を吸って、吐いて……そうだ、リラックスしろ。そういやお嬢ちゃん、あんた、出身はどこだ?
クルビアか……なら、デイヴィスタウンって所は知ってるか?
知らないか、そりゃ残念だ。あそこはいいとこだぞ。航路が東部の森林地帯を巡ってるせいで冬は長くて寒いが、区画には採掘工場があって、中央にあるエネルギータワーは年中稼働してるんだ。
余熱だけでも、ひと冬の間十分暖かく過ごせる。
ただ、中は暑くて外は寒いと来ると、どこへ行っても扉を開けた瞬間に中の空気が湯気みたく吹き付けてきやがってよ。まつ毛からも水滴が落ちて、泣いてるみたいになっちまうのさ。
そいつをさっさと拭かねえと中で待ってるチビ助に笑われちまう。しかしまあ、別に構やしなかった。笑われたお返しに、あいつを抱えて思いっきり外の分厚い雪ん中にぶん投げてやりゃいいだけだしな。
そうすりゃ今度は、雪まみれの顔をこっちが笑ってやる番だ。
おっ? その顔は……興味がわいてきたか?
ああ、本当にいいところだよ、あそこは。それを知ってる奴ぁみんな見に行ってみたくなっちまう。俺もそうさ、できるもんなら……
レオーネ
うぅ――ったく何だって言うんだこのイカれた天気は! 訳が分からねぇ!
ありえねぇだろうよこの寒さはよ! あークソ!
ヘレナ
だったらそこで突っ立ってないで、さっさと入ってきたらいいじゃない。天気に文句言ったってしょうがないでしょう?
レオーネ
おいおい、人がせっかく床を汚さないように気を遣ってんのに。
ヘレナ
気を遣えば雪を全部落としてこられるとでも思ってるの? はい、温かいお茶よ。
レオーネ
……今日は床が随分と汚れてるな。そうと知ってりゃ構わずに入ってきてたのによ。
ヘレナ
こんなに強い雪だもの、客がひとりでも入れば汚れるわよ。閉店後にまとめて掃除するから。
何にする? ベイクドビーンズ、それとも乾パン?
レオーネ
それって選べるうちに入るのか?
ヘレナ
これしかないの、食べたくないなら食べなくたっていいのよ。
レオーネ
両方頼んじゃダメか?
ヘレナ
はいはい。あなたは今夜初めてのまともなお客さんだし、バターもスプーン一杯サービスしてあげる。
レオーネ
ヘレナ……
ヘレナ
今度は何?
横暴なチンピラ
なんだこのジジイ、誰にそんな口利いてんだ?
ヘレナ
はぁ……あなたたち、ケンカはやめてちょうだいね。
荒々しいチンピラ
あんたにゃ関係ねえだろ。黙ってな、おかみさん。
ヘレナ
まあまあそう気を立てないで、みんな温かいものが食べたくて来てるんでしょ? もっと仲良くしましょうよ、ね?
横暴なチンピラ
へぇ、あんたはそいつの肩を持つんだな?
ヘレナ
ちょっとした口論でナイフを構えるのは大げさすぎるって思っただけよ。
横暴なチンピラ
黙れっつったろ。でないとあんたもグサリといくぜ。
ヘレナ
やれやれ……
レオーネ
ヘレナ、あんたは関わらなくていい。この馬鹿どもは俺がきっちり教育してやる。
横暴なチンピラ
んだとコラ!!
チンピラがナイフを構えて前へ出ようとした瞬間、一本のテーブルナイフが飛んできて、彼の足元に突き立った。
横暴なチンピラ
なっ!?
ヘレナ
それ以上前に出ないことね、坊や。もう夜も遅いし、早くママのところへお帰りなさい。
横暴なチンピラ
このアマ――
チンピラが足を踏み出すよりも早く、二本目のテーブルナイフが彼の頬をかすめ、背後の壁に突き刺さった。
数滴の血が彼の足元に滴り落ちる。
横暴なチンピラ
うわぁ!? お、俺の耳!?
ヘレナ
まだちゃんとついてるじゃないの、何騒いでるのよ。
でも早く帰らないと、次こそ本当になくなっちゃうかもね。
女店主は身をひるがえして棚から布巾を取ると、バーカウンターを丁寧に拭き始めた。
指の間にもう一本のテーブルナイフを挟んだまま。
横暴なチンピラ
クソが……
荒々しいチンピラ
やめだやめだ、行くぞ。こいつらと片をつける機会はこの先いくらでもある。
ヘレナ
お待たせ、ご注文は以上でお揃いよ。
一度の食事で二回も舌をやけどするなんて、ここらでそんなことできるのはあなたくらいでしょうね。
レオーネ
今日は一日腰を下ろしてゆっくり飯を食ってなんかいられなかったもんでな、気が急いちまってんだよ。そんなことより、ヘレナ、最近町にゃ馬鹿な奴らがますます増えてないか?
ヘレナ
ウッドロウが人探しで外に出ているせいで、あの連中は自分たちを押さえつけられる人間がいなくなったとでも思っているんでしょうね。
レオーネ
フンッ……だがマイルズの奴も困ったもんだ、黙って燃料を探しに区画の外に行っちまうなんて。結局行方不明になってウッドロウが探しに行くはめになったじゃねぇか、迷惑ばっかりかけやがって。
ヘレナ
燃料不足を解決するにはほかに手がなかったのよ。まあ、マイルズが何かに出くわしていたとしても、ウッドロウなら三秒でハチの巣にしてくれるでしょうし心配いらないわ。
レオーネ
でももしウッドロウでも間に合わなかったら――
ヘレナ
ほらほら、グチグチ言ってないで、ビーンズでも食べてなさい。
レオーネ
だけどよぉ……
ヘレナ
はい、おまけのバターよ、これで少しは黙っていられる?
だらけた女性の声
ボクちゃんたち、目は覚めてる?
どうやら、この先の林で待ち伏せされてるらしいよ。先遣隊が偵察に向かってくれてるけど、もし支援要請が飛んできたら、あたしたちもこうしちゃいられないわよね?
だらけさを払った声
だからみんな、起きて身体を動かして、装備を整えてちょうだい。自分の身は自分でしっかり守ってね。それじゃ、三つ数えたら行くわよ――
だらけさを払った声
きゃっ、目が……
通信音
どうした?
フランカ
ううん、何でもない。日差しが雪に反射して、ちょっとまぶしかっただけ。
通信音
雪原での作戦時の注意事項は教えたはずだよね? サングラスは?
フランカ
みんなあなたみたいに用意周到なわけじゃないの。とりあえずは有り物で何とかするしかないわね。
それで、前方の状況はどう?
通信音
もう少し待って、今ちょっと厄介な状況になってる。ここの地点は積雪が高く、隠れている敵を見つけるのが難しい。相手の位置を正確にマークするには時間がいる。
フランカ
はぁ~あ、出発前は動力炉の修復任務としか言ってなかったのに、野盗の掃討までやんなきゃいけなくなるなんてね……任務ついでに区画のためのボランティア――ってことにしておきましょうか。
どう思う、ボクちゃんたち?
BSWオペレーター
はっ、準備は整いました!
フランカ
あたしの部下ちゃんたちは突撃が待ちきれないみたいよ、隊長。ところでデイヴィスタウンのお偉いさんとはもう連絡取れてるの?
通信音
迎えの人間を区画の入り口に待機させてくれることになったけど、区画外の戦闘については、力を貸したくてもできないって。
フランカ
あら~、感激しちゃうわ。街の中で迷子になっちゃわないかすっごく不安だったのよねえ。
通信音
そう言わないの。仕方ないよ、デイヴィスタウンは破産したも同然の採鉱区画だし、これ以上は要求できない。
現地の動力炉爆発が原因で起きた燃料漏れ事件についても、年初には州政府に報告してたらしいけど、余裕がなくて対応してもらえなかったそうだよ。
それでも広範囲の汚染に至らなかったのは、町民たち自身の努力の賜物だね。ただ、動力炉自体の損傷は修復が難しくて、現地で対処できる人はいないって。
フランカ
待って、どうして年始めのことがこんな年末になってようやくあたしたちのところに回ってきたの?
通信音
地方の財政が厳しいせいだろうね。これ以上先延ばしできないって時が来るまでそこにお金が注ぎ込まれることは絶対にないんだよ。
多分、年初には動力炉もまだどうにかプラットフォームの移動を支えられてたけど、数ヶ月前には完全に麻痺、今では恐らく最も基本的な暖房機能さえ確保するのが難しいんじゃないかな。
フランカ
今の気温、マイナス14度よ……
通信音
夜になればもっと下がるね。
フランカ
何かいい知らせはないの?
通信音
地図によれば、デイヴィスタウンはもう目と鼻の先。その林を抜ければ見えてくるはず。
フランカ
もう一声。
通信音
……たった今、ターゲットの位置が全て特定できた。これで掃討作戦の実行が可能になったよ。
フランカ
上出来じゃないの。
最後にもう一つ、ジェシカとローラは? あの二人をどこに送り込んだの?
通信音
敵の野営地だよ。現地住民が一人そこに拘束されてるんだ。守りはそう固くなかったから、少人数で十分と判断した。
フランカ
そう、わかったわ。手早く終わらせましょう。
残忍な野盗
おい、老いぼれ、吊るされてからもう一時間経つぜ。そろそろ喉が渇いてくる頃か? 水、飲みたくなってきたろ?
マイルズ
……
残忍な野盗
何も言わねぇってことは、飲みてぇってこったな?
(地面の雪をつかむ)
おらよ、飲むの手伝ってやらぁ、礼はいらねぇぜ!
マイルズ
オエッ……ゴホゴホッ……
頼む、解放してくれ、わしは何も持っとらん……ゴホッ、ゴホッ!
残忍な野盗
何言ってやがる。俺ぁ、このだだっ広い雪原に退屈してたとこなんだよ。せっかく会えたんだから、ちったぁ楽しませてくれよな。
冷淡な野盗
ふざけてないでさっさと始末しろ。騒がしいんだよ。
残忍な野盗
おいおい、どうしてくれんだよ爺さん。お前のせいで俺のダチが機嫌悪くしたじゃねぇか。もう騒ぐんじゃねぇぞ、っと――
マイルズ
ううっ……!
冷淡な野盗
……お前も物好きだな。
残忍な野盗
だってよ、他の連中は例の車列の待ち伏せに行ってんのに、俺らだけ留守だぜ?
みーんな荷物をパンパンにして帰ってきて、テキトーにゴミみてぇなもんを寄越して来たらどーするよ。それでもおめぇは落ち着いてられるってか?
冷淡な野盗
チッ……お前がやらないなら、俺がやる。
マイルズ
な、何をする気だ!?
冷淡な野盗
静かにしてろ。今、楽にしてやる。
マイルズ
やめてくれ!!
冷淡な野盗
うっ――
残忍な野盗
誰だっ!?
マイルズ
お……お前さんは?
BSWオペレーター
シッ! お爺ちゃん、静かにしてて。
ロープをほどいてあげるね。このまま音を立てずにあたしちゃんについてきて、いい?
マイルズ
あ、ああ。
BSWオペレーター
こちらローラ。人質の救出は完了したよ、そっちはどう?
ジェシカ
こちらも完了しました。ただ……
ローラ
どしたのジェシカちゃん、怪我でもした?
ジェシカ
いえ、そうではなく……わたしの通信機に故障が……ジジッ……自分で対処できるので、問題ありません……
ジジッ……ありがとうございます。
ローラ
もう、あたしちゃんにお礼を言う必要なんかないってば。
ジェシカ
ジジッ……はい。
ローラ
それじゃあたしちゃんは人質を集合地点まで送り届けるから、また後でねー。
ジェシカ
ジジッ……はい、また後で。
抵抗する暴徒
ぶっ殺してやる!
フランカ
正面から来るなんて、お兄さん勇気あるのね~。
抵抗する暴徒
ぐっ――!
フランカ
最後の一人っと。
隊長にご報告しま~す。目標はすべて殲滅したわ。
通信音
了解、こちら撤退中。およそ数分後に合流可能、引き続きジェシカとローラを待って――
フランカ
ちょ、ちょっと? 通信が急に切れたんだけど!?
リスカム
ここまで近づけば、もう通信機でやり取りする必要はないでしょ。
フランカ
紛らわしい真似しないでくれる?
リスカム
戦闘の緊張をほぐすにはイタズラが有効だって、誰かさんが言ってたと思うけど。
フランカ
……あなた、いじわるになったんじゃない?
リスカム
誰かさんの教え方が上手いおかげでね。
フランカ
ここの天気ってほんとコロコロ変わるわね……さっきまで晴れてたのに、もうガスってきたわ。
リスカム
マイルズさん、これで各箇所の傷の手当ては終わりました。腹部の打撲に関しても問題なさそうですが、念のため帰ったら病院で検査を受けてくださいね。
マイルズ
病院? ……デイヴィスタウンに病院などない。とっくに無くなっとるよ。
フランカ
あちゃ……えーと、あたしたちの目的地もちょうどそこなのよね、ついでにお爺さんも送ってあげるわ。
マイルズ
あの町へ何をしに行くんだ?
リスカム
そう気を張らないでください。わたしたちはこの移動区画が運航を再開できるよう手助けしに来たんです。
物資と燃料も持参してきています。これで動力炉の修理が終わるまでの間、住民の皆さんも持ちこたえられるはずです。
マイルズ
それは……だが、技術者がいないことには。連れてきとるのか?
動力炉はこれ以上持ちそうにない。対処できる者もいない中、ひとたび動力炉が完全停止すれば、区画に住む人間はこの悪天候を乗り切れんだろう……
ローラ
それも大丈夫だよ、小隊チーフエンジニアのあたしちゃんがいるんだから。改めてよろしくね、ローラって呼んで。
マイルズ
……デイヴィスタウンのボイラーマン、マイルズだ。
感謝する……ほんとにありがとう……
フランカ
ところで、マイルズさんはどうして区画を離れてたの? この辺りは危険だよ。
マイルズ
区画にはもう燃料に使える物がなくてな。一か八か外に出てみたんだ……ともあれ、時間がもったいない。そっちも動力炉の修理が目的ならちょうどいいだろう。早速戻ろう。
ローラ
待って、メンバーの現状を確認させて。
もしもし、ジェシカちゃん? ローラだよ。片付けは済んだ?
ジェシカ
ジジッ……もう終わりました――ジジッ……
ローラ
じゃあ待ってるね、急いで――
もしもし? ジェシカちゃん?
ジェシカちゃん!?
ジェシカ
はい、まだ集合地点にいますか? すぐに向かいます――
ローラさん? もしもし? もしもし!?
よりによってこんな時に切れちゃうなんて……
座標を確認しよう……野営地は……
目印になるものが全然見当たらない……わたし一体どこにいるんだろう? まさか迷子になったんじゃ……
落ち着いて、ここは冷静に……今いるのはデイヴィスタウンの外周区域で、区画まではそう遠くないはず……
……とりあえずは、この風がやむのを待つしかないかな。
はぁ……寒い。
ため息をついて、ジェシカは手をポケットに突っ込む。
するとベルベットの感触が指に伝わり、小さく硬いものが入った袋に触れた。
彼女はその袋を取り出すと、中にあるものを掌に出した。
ジェシカ
報告します。
「クリップ」クリフ
なぜお前が?
ジェシカ
リスカム隊長が帰路で嵐に遭遇し足を取られているので、わたしが代わりに報告に上がりました。
「クリップ」クリフ
では、デイヴィスタウン行きの任務通知はもう受け取ったのか?
ジェシカ
はい。
「クリップ」クリフ
任務内容は? 把握しているか?
ジェシカ
はい。我々が向かうのはデイヴィスタウン――小規模の居住区域に発展した採鉱プラットフォームです。
現在、そのプラットフォームは動力炉の爆発事故によりクルビア東部の林に座礁中であり、今回の任務目標は動力炉の修復と区画の走行の回復になります。
「クリップ」クリフ
よろしい。資料は今日渡されたばかりだろうが、よく調べたな。その後のプロセスについては?
ジェシカ
任務の指示はそこまでしか書かれていませんでした。
「クリップ」クリフ
まあいい……お前に伝えても構わんだろう。デイヴィスタウンは元の航路に戻った後、そこで待機しているバロン基地によって、近くの移動都市まで牽引されて合併回収される。
ジェシカ
なぜわたしにそのことを?
「クリップ」クリフ
ジェシカ、ヴィクトリアから戻って以降、お前の業務態度は前ほど積極的ではなくなった。
ジェシカ
……なぜそのような評価を受けるのか理解できません。
わたしは割り当てられた任務に対して最善を尽くしてますし、担当する任務の目標も……すべて達成しています。
「クリップ」クリフ
先月、お前は源石粉塵汚染区域からの撤退を拒否しようとした。
ジェシカ
あの時は付近に救助が必要な人がいたため……
「クリップ」クリフ
半年前の突撃作戦において、お前は上官の命令に背き、居住区から離れたルートを選択することに固執したせいで、危うく小隊全体を不必要な戦闘に巻き込むところだった。
ジェシカ
当初のプランは現地住民に甚大な被害を与えるものでした……わ、わたしは……
「クリップ」クリフ
そして一年前、お前はヴィクトリアからバロン基地へ戻ってすぐに司令部へと飛び込んできた。もしあの時に銃を携えていたのなら、反乱でも起こす気かと思っただろう。
ジェシカ
も、申し訳ありませんでした、ミスタークリフ。当時は自分の感情を上手く制御できず……数百名のヴィクトリア市民の命がかかっていたので……
「クリップ」クリフ
お前の怒りが理解できないというわけではない。だが考えたことはあるのか? もし「クルビアに根付く」我々BSWが、一刻も早く撤退せず、大公爵に気取られでもしたらどうなるかを……
その後起こることは、両国の間では「摩擦」や「衝突」と呼ばれるものだが、一般人にとっては、「災難」や「惨禍」と呼ばれるものとなる。
ジェシカ
おっしゃる通りです。ですがわかりません……その件と今回の我々の任務に何の関係があるのですか?
「クリップ」クリフ
私はただお前に注意を促しているだけだ。ヴィクトリアの時と同様の過ちは犯すなとな。
ジェシカ
同様の過ち……とはどういう意味ですか?
「クリップ」クリフ
……
それと、この袋を持って行ってくれ。中のものをデイヴィスタウンのウッドロウ・ビアンキという男に渡すんだ。
ジェシカ
その方の詳細な情報を教えていただけますか、例えば見た目や種族など――
「クリップ」クリフ
必要ない、見ればすぐにわかるだろう。
ジェシカ
……ミスタークリフ、やはりわかりません。ただ動力炉を修復するだけなら、なぜ――
「クリップ」クリフ
一つ忠告しておく、ジェシカ。お前は傭兵だ。行っている任務はビジネスであり、ボランティアではない。
もう行きなさい。
ジェシカは袋から出した弾をつまみ、日差しに照らしてしげしげと観察した。
ジェシカ
リムド弾、.44口径……弾底部(ヘッド)に模様が刻まれてる。
ダメだ……かすれて何の模様かわからない。
サンクタの弾だけど……見た目はBSWのエッチング弾とそう変わらないみたい……
薬莢部分は錆び、表面の銅は茶色くくすみ、強い光を当てられても光沢はない。
ジェシカはため息をつき、弾を袋に戻した。
ジェシカ
「ヴィクトリアの時と同様の過ち」……?
デイヴィスタウンに一体何が?
ふと、風と雪以外の音が彼女の耳に届いた。
???
そこを動くな、お嬢ちゃん。
銃弾を無駄に浴びせられたくはないだろう?