十字路に立ち、再出発

宝石で飾り立てた市民
はぁ、残念だよ。うちの庭は半分だけが壊れてしまってね。この機会に庭の様式を変えようと思っていたのだが、残された像と植物の処理に困っているのだよ。
しかし修復作業も大方終わってね、休みの日に来てみないか?
凝った服装の市民
ご厚意に感謝します。ですが忙しくてですね。私の宝石のコレクションがすべて入り乱れてしまい、あの数百年のコレクションルームを復元するには、石の効果を全部鑑定し直さないと。
アナト
それで、博物館の被害の件は……
ぺぺ
絶対に隠し通せるさ! もしダメそうだったら、父様を理屈で説得し、さらには情にも訴えてみるよ……とにかく、父様なら出資者全員を説得する力になってくれるさ。
アナト
それと博物館の特殊な新たなコレクションも。
ぺぺ
安心したまえ。それも手紙でちゃんと説明しておくから。
でも、父様は貴石の使いが復元した古代建築の一部を誰かに展示するようなことは許さないと思うよ?
アナト
はい、それは理解しています。展示よりも、博物館の役割は歴史を保存する方ですから……歴史の裏側を見られないようにすることも含めて。
ありがとうございます、ペペ。今夜はゆっくり眠れそうです。
ぺぺ
違う違う。私の方こそ君たちに感謝すべきだよ? 君とティティが私の宝石探しを手伝ってくれたおかげで、今回の歴史的大発見ができたんだ。それに……
ナラントゥヤ
……
ぺぺ
えーっと……ナラントゥヤさん?
ナラントゥヤ
……ん? ああ、何でもないよ。ただあなたたちがずっと博物館の話をしてて少し退屈だと思ってね。
アナト
申し訳ありません。本当はペペと一緒に感謝を示したくてあなたをお招きしたというのに……
ナラントゥヤさんは、「アジャジとアジャニの優遇」を博物館規則に盛り込んでほしいとおっしゃっていましたね。そのことについて……わたしたちは今間接的な方法で果たそうとしています。
ぺぺ
それっていつかの時代の陶器の人形か何か?
アナト
いえ、博物館に正式に入社した二名の新人です。
ナラントゥヤ
道が溶けるほどの暑さでも時間通り出勤するバカ二人だ。
アナト
館長代理の職を辞し博物館を離れる前に、彼女たちの面倒を見ておくよう皆さんに伝えておきます。
ぺぺ
……いまだに信じられないよ、アナト。本当に今の職を辞めちゃうの?
アナト
あはは、お父様はきっとわたしの決定を喜ばないでしょうね。
ただ、わたしは物心ついた頃からずっとこの都市を窓越しに眺めてきた。今思えば、もうこの都市をすべて見尽くしたのかもしれません。
この都市の歴史と前の姿。そして地下深くに埋もれた、あなたのようなまっすぐ突き進む冒険家がいなければ発掘されることのない秘密。
……本当に不思議ですね。たった二日で、都市の機能は復旧したんです。
家屋の修復作業がまだ多く残って、いつまでかかるかわかりませんけど、ひび割れた道も舗装し直さなければなりませんし……ですが水路は完全にきれいになりました。
ナラントゥヤ
そりゃ当然よ。川っていうのはずっと流れてるもんだからね。
ぺぺ
そうさ。川は永遠に前へと流れ続ける。どれだけの都市が砂になろうと、そしてその砂の上にどれだけの都市が築かれようとね。
……もしかして流れる水にすべてを運ばれることは選択とは言えなく、ただ永遠を前にしたら必然の結果にすぎないかもしれない。
アナト
ですが永遠には本来意味がありません。
はぁ、ティティが言っていたように、博物館でたまには奇抜な展示会をするのも悪くありませんね。
ぺぺ
フフーン、私もそう思うよ。
そういえば、ここに来る前、本当に手に汗握る冒険を妄想してたんだ。
でも、私が想像してたのは今みたいな状況じゃなくて、人に宝石を狙われて、知恵と勇気でそいつと戦うことだったんだけどね。
はぁ、でも実際は私と敵になる人はいなかったよ。そう思うと少し残念だね。
ナラントゥヤ
……あはは。
アナト
そうだ、ペペ。もう一つ聞きたいことがあります。
わたしがずっとエリクソン氏に憧れているのは知っていますよね。
これまでズバイルさんを研究していた論文がすべてダメになってしまったからには……エリクソン氏のように、この大地の他の場所も見てみたいと思っています。
それから彼のように自分の見聞を手紙に整理して……彼に送るんです!
とにかく、絶対にエリクソン氏と文通します!
ぺぺ
おぉ、それは博物館を去るには十分な理由だね。
でも君は街の庭園で立っているだけでも熱中症になるんだ。フィールドワークに出るなら、せめて戦士に訓練をつけてもらわないとね?
アナト
ですからあなたから経験を学びたいんです、ペペ。
……エアコン付きの長距離バスに乗って大地を巡ることはできますか?
アジャジ
ごめん、ナラントゥヤ。私たちももっと遠くまで見送りたかったんだ。
でも皆勤賞のためには、博物館で頑張って仕事をしなければならない。
それにこの撮影機は本当に面白いんだ――
アジャニ
黙ってて。これはナラントゥヤにプレゼントするビデオテープで、ずっと身につけてもらうんだから。
ねぇ、ナラントゥヤ。あなたのことがとってもとっても恋しくなったら、あたしたちは川に金貨を投げるわ。
この街の川は大地の果てまで流れていると聞いたから、あなたがどこに行こうと、あたしたちの金貨をきっと拾えるはずよ。
アジャジ
そうそう、アジャニの言う通りだ。
アスパシア
地理的事実を指摘する必要がある。実際はこの川はミノスにさえ繋がっていない。
ナラントゥヤ
口に出さなくてもいいことだってあるんだよ。
それに、あたしも大地の果てまで行くつもりはないしね。
アスパシア
……どうして突然彼女たちを置き去りにして、一人で「天路」を歩むと決めたんだ?
ナラントゥヤ
別に置き去りにしたわけじゃない。ただあの一番バカな二人の子もようやく行き場を見つけたってだけさ。
あたしはこれまで、天路の決まりを何一つ守れてなかった。今なら、少なくとも一人であちこち歩けるようになって、ついでにこの旅を天路って名付けることができてね。
手間が省けるってもんでしょ?
アスパシア
……
これまで何度かあなたがナイツモラである可能性を考えたが、自分の正体について避けているではないかと思っていた。
ナラントゥヤ
ん? 別にわざわざ言うことでもないし、だから言わなかっただけよ。このナラントゥヤという名をナイツモラという身分よりも轟かせることができないなら、赤っ恥でしょ。
アスパシア
……ならあなたの天路の終着点はどこなんだ?
ナラントゥヤ
理屈からすれば、天路は最終的に家に帰るべきなんだろうね。でもあたしはずっと昔にそこでちょっと事情があって、もう帰れないのさ……
アスパシア
家?
ナラントゥヤ
そう。普通なら自分で選択した試練の地を終着点って呼ぶんだろうけど、天路の場合は試練の地に着いてからまた生きて家に帰ってようやく終わる。
ハッ、それこそ一番難しいんだ。多くの人がどんどん遠くへ行っちゃうからね。
あたしは自分を追い込むのが嫌いだし、いっそ……次の手下を迎えたら、天路も終わりにしようか。
アスパシア
……旅が順風満帆に進むことを願っている。
ナラントゥヤ
あなたは? ここ数日博物館を十分見て回れたの?
アスパシア
メジェティクティさんのご厚意で非公開の所蔵品をたくさん見ることができた。しかし見れば見るほど、私の知識不足、ひいてはミノスの歴史の空白を感じられた。
ミノスの展示ホール改築の書類作成を手伝い終わってから、ここにはもうできることはない。
これらの所蔵品の写真をミノスに持ち帰り、資料を専門家に渡すとする。それでミノスにはかつて哲学的弁論という競技種目があったことを彼らが証明してくれることを願うよ。
……それから、金杯を持って家に帰るかもしれない。
ナラントゥヤ
おっと、そういえば、あなたにプレゼントがあったんだった。
あんたが乗るやつが出発しようとしてるよ。これを持ってさっさと逃げ……じゃなかった。ミノスに帰りな。
じゃあね、友よ。
夕日を背に、ナラントゥヤが颯爽と身をひるがえし、足を踏み出す。
予想通り、しばらくして、背後からアスパシアの驚いた声が聞こえてきた。
アスパシア
これは博物館に保管されていたあの金――
ナラントゥヤ
シッ。
お礼だけ言って、黙ってそいつを持って大急ぎでここを発てばいいんだよ。
それ以上の質問はなしだ。いいね。
アスパシア
……感謝する。
ナラントゥヤ
……ハッ、本当に質問しないの?
アスパシア
口に出さなくてもいいことだってあるからな。
心から感謝する、ナラントゥヤ。おかげで今回の旅の収穫は豊富だった。
ナラントゥヤ
うん。よろしい。
車列の出発のベルが鳴り、ナラントゥヤは振り返ることなく手を振った。
ナラントゥヤ
あたしがあげた金を祝福として、せいぜい金メダルを取るんだね。
……
収穫か……
一ヶ月間駆けずり回って、手に入れた唯一のお宝があの金杯か……ほかにも何かあった気がするけど、もう思い出せやしない。まあいいや。
……いいんだ。どうせ全部あたし自身が選んだんだから。
ただの金で打った杯だ、今後手に入れる機会はいくらでもあるさ!
ミオ
ねえラズバール、もう行くっていうのに、本当にダメなのか。
絶対お前のカラクリおもちゃを丸呑みして、それから歯形も残さずに吐き出してやるよ。
ラズバール
……本気でやりたいと思っているなら、私が止めても聞かないだろう?
やればいいさ。
それが生まれ変わって本物の羽が生えてくるかどうか、私も見たいしな。
ワオ
ミオは君が名残惜しいだけだ、ラズバール。歩みを止める必要はないよ。
宝石取引所が定めた規則はすでに人の心に深く根付いている。君がいなくても、グランドバザールは新たな支配人を選出するだろう。それかまた別の秩序を作り出すとか。だから安心して離れていい。
ラズバール
……お前たちの存在は永遠に近い。それでも名残惜しさなど感じるのか?
ミオ
そうさ、ここは輝ける都市の宝石取引所だぞ。僕はいつだって一番良い住みかを選ぶんだから!
ワオ
あるいは君は本物のペットを飼ってみてもいいかもしれないね。わたしやミオのような獣主でも、カラクリ羽獣でもなく。
ラズバール
わかった。
ミオ
僕の観察によると、成功した商人はみんな特別なペットを飼うんだ。だから少なくともアルビノ羽獣か三メートルある彩色鱗獣を基準にしろよ、わかったか?
ラズバール
……
こっちに来い。頭を撫でてやる。
ミオは渋々といった様子で少年の目の前にある四角いテーブルに飛び乗ると、頭を下げて、尻尾を巻いた。
ミオ
(ゴロゴロ音)
ミオ
……
ミオ
じゃあね、ちっぽけな人間よ。
ミオ
じゃあね。
長い時間が経って、ミオは目を開けた。誰も注目しない部屋の中で、ミオの背後の影は雲獣のサイズをはるかに超えるほど大きくなっていた。
ミオ
……それで、お前はここに残るのか?
ズバイルはすでに安らぎを得た。シャアの子孫は宝物庫の真相を知った。あれらの長い歳月の中でこだまする寝言をね……
それに、お前もナイツモラをあの金銀財宝のところへ案内してあげたよね?
ワオ
彼女は地下水路の深くに飛び込み、自らの勇気を証明した。だからズバイルとの約束を果たしたんだ。
ミオ
約束……ズバイルは旅立ったから、これで僕たちの約束も全部果たされたってところかな。
現在のも、そして千年前にしたものも、全部果たされたよ。この都市はもう僕たちの最初の約束とは何の関係もなくなった。
ワオ
それでも残るよ。なぜなら今この都市は生きているからね。
わたしが死者を守ることを約束したのは、その者たちの復活のためだ。
ミオ
でっきりお前なら、黄金の都市を恋しがると思っていたよ。
ワオ
今のあの沈黙する黄金の都市を? あそこはもうわたしたちを必要としていない。
ミオ
フンッ、そうだね。あの都市が丸々諸王の王に舌を切り落とされたみたいだ。僕は嫌いだね。
だからお前とは違う考えがあるんだ。僕は見に行くよ。
メジェティクティ
さてと、訪問する必要のある出資者リストをちょうだい。
こっちの所蔵品は数えておいて、後で私が修復作業を手配しておくから。
……待って、これは琥珀じゃないわ。自然展示エリアに運ばないで。中は貴石の使いの破片なのが見えないの?
これは私の個人的なコレクションとして、とりあえずあっちに置いておいて……
――見覚えのある雲獣ね。ラズバールの所の子じゃない?
おいで、なでさせてちょうだい。今回は何を吐き出すのかしらね……
ミオ
うん、うん、そう、これぞ僕の求めていたものだよ。
メジェティクティ
……
ん!?
ミオ
そうだよ、今のは僕がしゃべったんだ。
お前は今、僕の飼育員として選ばれたんだ、わかった?
今後どこに行くかは僕が決めるんだぞ。
ぺぺ
……
アナト
ペペ、お客様です。
ぺぺ
ちょっと待って……あと結びの言葉で終わりだから。
アナト
ズバイルさんに関するわたしたちの論文は学界やメディアたちの間で多くの注目を集めて、ここ数日はあなたを訪ねに来る人が後を絶ちません。
もし迷惑なら、断っておきますよ。
ぺぺ
いや、構わない。全部会うよ。
この論文がもっとたくさんの人を引きつけて、ズバイルに関する言葉が全サルゴンの注目を浴びてほしいんだ。
アナト
わかりました。じゃここに案内しますね。
ぺぺ
とても軽やかな足取りですね。アクセサリーが鳴る音は聞こえましたが、あなたの足音は全く聞こえませんでした。
???
あぁ……輝かしい史官の一族……選ばれぬ継承者……
ぺぺ
あなたは……?
???
失礼いたしました。自己紹介を忘れていましたね。私は諸王の王の使者……
黄金の都市からの使者
陛下に代わり、あなたに感謝と賛辞を伝えに参りました。サルゴンの歴史に素晴らしい一筆を加えてくださることに感謝を申し上げます。また、陛下のご意向をも申し上げたいと思います。
ぺぺ
……
黄金の都市からの使者
ハトシェプスト、陛下はあなたに黄金都市へと足を運び、ミナトハマイでの経験を直接話してくださることを望んでおられます。
出発の準備をお願いいたします。陛下はご到着を大変心待ちにしておられます。