啓聖

ヒルデガルト
待ってください、執行人さん。つまりあなたは、最初からアルトリアさんをランデン修道院に連れ戻す気はなかったのですか?
フェデリコ
そのような意図を表明した覚えはありません。
ヒルデガルト
でしたら、私が彼女を連れ戻します。
フェデリコ
まだ彼女に確認すべき事項が残っていますので。
ヒルデガルト
……
???
おいおいフェデリコ、そんなふうにシスターをいじめるなって!
フェデリコ
リケーレ?
リケーレ
まったく、ちょっと告解ロボの前でジョークを言っただけだったのに、そんなに慌ててどっか行くことないだろ。
フェデリコ
ジョークとは何のことですか?
リケーレ
あー、まあいいや……とにかく、指名手配犯の件が厄介そうなのはわかったから、応援を呼んどいてやったぞ。
わざわざ降誕の儀式を拝むチャンスまで手放してな。感動だろ?
フェデリコ
私は公証人役場に応援要請などしていませんが。
リケーレ
わかってるって。そもそも、お前は他の執行人と行動したこと自体ほとんどないくらいだしな。
はぁ、俺だって好きで首を突っ込んでるわけじゃないんだぜ。これは教皇庁の七つの官庁合同で発令された特別行動指令なんだ。
正直、通信が来た時はビックリしたよ……俺は思わず、アルトリアがお前をそそのかして、一緒に国家反逆でも企んでんのかと思ったくらいだ。
フェデリコ
?
アルトリア
……
フェデリコ
私にはそのような傾向はありませんし、彼女にもそのような能力はありません。
評価は完了しました。教皇庁のリスク予測は除外視して問題ないと判断します。執行人リケーレ、ただちに部隊を率いて帰還してください。
リケーレ
俺の考え違いでなけりゃ、特別行動指令を拒否するってことか?
お前にそんな権限はないぞ。
俺が受けた任務は――降誕の儀式が始まるまでに、フェデリコがアルトリアを捕縛するよう監督することだ。仮に二人に妙な動きがあれば、まとめて連行しろとさ!
アルトリア
まだ早すぎるわ、執行人さん。
リケーレ
アルトリアさん、今のは俺に対しての発言か?
アルトリア
もちろん。
帰国してから、私はずっと修道院にいたの。ようやく出てこられたのに、こんなに早く帰らされるなんて御免だわ。
私はもう十年以上も、聖都が少しずつ夜に沈んでいく姿を見てないのよ……ここから眺めたらさぞ素敵でしょうね。
リケーレ
あくまで抵抗するつもりってことか……ったく、こりゃまた残業だな。
シスター・ヒルデガルト、俺たちの後ろに隠れていてくれ。
フェデリコ、この先の指揮は任せるぞ。重要指名手配犯アルトリアの担当は、ずっとお前だったからな。彼女の手口はお前が一番よく知ってるだろ。
アルトリア
ラテラーノはずっとあなたに目を向けていたようね、フェディ。
銃を構えなさい。これが初めてじゃないのだから。
フェデリコ
……
アルトリアは屋上の端に立っている。フェデリコにはまだ聞きたいことが山ほどあったが、相手の指がすでに弦に触れていることに気がついた。
彼女越しに見えるのは、その全貌を目視できないほどに高くそびえる育児聖堂と、絶え間なくそこに押し寄せていく群衆の姿だ。
一方彼の背後には、リケーレが同僚たちと共に立っており、銃の装填音が聞こえてきた。
事態は複雑化し始めており、執行人として、彼は突然何かを証明せねばならなくなったかのようだった。
ほとんど考える間もなく、フェデリコは守護銃を構えた。
フェデリコ
アルトリア、あなたは自らの脱獄行為を認めました。ゆえに公証人役場を代表して、あなたへの危険性評価及び拘束措置を正式に再開いたします。
よってあなたは、ラテラーノ公民としての義務を果たし、我々がラテラーノのリスクを排除することに協力すべきです。
何の前触れもなく、フェデリコの守護銃が火を噴いた。
その瞬間、チェロの音色が流れる水の如く響き渡り、育児聖堂のほうから聞こえる讃美歌の声と溶け合い、屋上の騒音をかき消した。
ヒルデガルト
うっ――!
リケーレ
フェデリコ、何のつもりだ?
――
フェデリコ
私はあなた方の横の建造物を撃っただけです。あなた方を狙ったわけではありません。
リケーレ
そうは言ってもだな、いてっ……*ラテラーノスラング*、頭に瓦礫が……これ、血が出てないか?
お前、自分が何をしてるのかわかってんだろうな……
フェデリコ
ええ、あなたは出血していますね。
事が片付き次第、詳細な任務報告を提出いたします。
……あなたの頭部の負傷に関する詳細説明も含めて。
アルトリア
ずいぶん思い切りがいいわね、執行人さん。
それで、倒れてる人たちはどうするつもり? ……何を探しているの?
フェデリコ
リケーレは告解ロボットの年間パスポートを所持していますので、それを使います。目的地を設定しておけば、ロボットたちが彼らを病院へ運んでくれるでしょう。
それよりも、今はあなたの発見を私に共有し、私がラテラーノのリスクを排除することに協力すべきです。
アルトリア
これは単なる推測よ。
でも、わざわざここまで追ってきて、同僚たちのことまで遠ざけるなんて、あなたも私と同じことを考えているみたいね。
もうすぐよ、フェディ。
この都市に何が起きているのか、もうじき都市自らが語ってくれることでしょう。
ループス
……
クランタ
……
フェリーン
……
フィアメッタ
ラテラーノにこんなにたくさん異種族がいるところなんて初めて見たわ。
モスティマ
そうだね。
前回の万国サミットの時は、各国の来賓全員を合わせても、ホテル一つも埋まらなかったのに。
教皇庁の枢機卿も、ほとんど全員集まってる……人が多すぎて、大聖堂よりよっぽど落ち着かない雰囲気だよ。
フィアメッタ
これでも相当端のほうにいるのよ、モスティマ。私たち、はたから見たらカジノの外で床掃除の出番を待ってる人たちみたいに見えるでしょうね。
モスティマ
降誕の儀式なんて言うけど、話し始めたくらいの子供をアンドアインが抱きかかえて、総主教がいかにも象徴的な感じでその子の「光輪を磨いてあげる」だけのことでしょ……
そんなの単なる見世物だよ。家に帰って『片腕チェーンソーガール2』でも観てたほうがマシだね。
フィアメッタ
保育士アンドアインの働きぶりを見るチャンスだとでも思ったら。
モスティマ
あれ? 君、伝えたいことは全部伝えたんじゃないの?
フィアメッタ
……
なぜかわからないけど、さっきから、なんだか胸がざわつくような……
フィアメッタ
――――!
ねえモスティマ、あなたも感じた?
モスティマ
うん。
フィアメッタが隣に目を向ければ、親友はかつてないほど真剣な表情をしていた。
フィアメッタ
何かに緊張しているような……いいえ、というよりは焦りや恐怖、理由のない興奮、それと少しの期待感……?
うまく説明できないけど、鼓動すら自分のものじゃないみたいに感じるわ。
これが共感なの?
堕天使にも、リーベリにも、こんな能力があるはずない。ううん、私たちだけじゃなく……
エラフィア
……
リーベリの通行人
……
リーベリのシスター
……
周囲を見渡したフィアメッタは、その鼓動が錯覚でないことをはっきりと理解した。
彼女が感じ取っている様々な感情が、周囲の人々の表情にも表れていたのだ。今やその場にいる全員が、自分のものではない鼓動に心を揺さぶられていた。
モスティマ
……上を見て。
フィアメッタ
何?
モスティマ
あのモビール。
フィアメッタは親友の視線を辿った。
降誕の儀式が始まってからは、すべての窓と戸が閉じられて、少しの風も入っていない。
それでも、明らかにモビールが規則正しく揺れているにもかかわらず、彼女たちがいる啓聖ホールにも、育児室へ通じる廊下にも、本来鳴っているはずの澄んだ音は聞こえてこなかった。
モスティマ
あれは媒介だね……リターニア人がよく弄ってる音楽装置みたいなものだと思う。
私の推測通りなら、私たちが今感じているのは、出産中の母親の鼓動だ。
フィアメッタ
……
サンクタ
あの時と同じだ!
私は、妻が出産した時も分娩室の外で待っていたんだ……その時とまったく同じように感じる!
激しい痛みに耐えながら、それでも諦めない妻の気持ちがはっきりと伝わってきて……その感情に突き動かされるようにして、考えておいた子供の名前を二人で一緒に呼び続けたんだった……
「ベイリー、ベイリー……」
リーベリ
なんてこったい!
あのサルカズ、気を失ってしまったのかい? 身体が弱りすぎていたせいで、出産の痛みに耐えきれなかったんだね――こ、このままじゃまずいよ!
ペッロー
こっちまで今にも心臓が飛び出しそうだ……
ループス
っ、でも彼女は諦めてないはずだ……!
リーベリ
主よ、白く穢れなき聖都よ、どうか我らをお守りください。
三人
我らをお守りください。
フィアメッタ
我らをお守りください。
モスティマ
なるほど、これは確かに……「共感」だ。
聖堂中のモビールが激しく揺れて、心臓の鼓動は乱れに乱れ、目まぐるしく変化する感情が全員の神経を締め付けていた。
そのうちの誰一人として、その母親が何者なのかも、その名前も、年齢も、どこから来たかも知らなかったが……彼女が今何を味わっているのかを全員が理解しており、誰も動こうとはしなかった。
脆くか弱い新たな命はいまだ死に打ち勝ててはおらず、それが蒙昧の殻を破る日ははるか遠いように思われた。育児聖堂の中では、数千人もの人々が一つの出産を共に体験していたが――
ラテラーノには、これほど鮮明な共感は存在しないはずだった。
長い、長い時間が過ぎて……
心音は少しずつ弱まっていき、やがて止まってしまった。
フィアメッタ
……
モスティマ
……
エクシア
このリモートケーブルを繋いで、タイマーをオンにして。
最後の爆弾を……セット!
エクシア
ああもう、この心臓の音……こんなのが聞こえてたら、どうしても感情移入しちゃうって!
すぅ……はぁ……
あたしはペンギン急便イチの頭脳の持ち主だからまだいいけど!
なんせあたしは左手で『レコポリー』やりながら、右手に持ったライトガンで射的やって、ボスとテキサスに同時に勝った超人なんだから!
あの猛練習も無駄じゃなかったってわけ……
よーし、あと二分!
この廊下を爆破しちゃえば、育児室への道は完全に塞がれるんだよね。
姉ちゃんの情報が間違ってないといいけど……
育児聖堂は移動修道院からサルカズの妊婦さんを連れてきて、わざわざ儀式なんかをやって、万国サミットの場でサルカズの子を産ませようとしてる……
そうする目的はわかんないけど、とにかくその人をみんなの前に出させないようにすれば――
???
ちょっとどいてくれる? ここで立ち止まるのはやめて。
もうすぐあの子の出産だから、近くで祈ってあげたいの。
エクシア
サルカズの妊婦さんって……キミのことじゃないの!?
オマケ
そうだけど、それがどうかした?
エクシア
えっ……?
でも、キミは今出産中のはずじゃ――
パトリツィオ
レミュエル、じゃな?
前におぬしが、レミュアンと共にワシの家に遊びに来た時、顔を合わせたことがあったはずじゃのう。
エクシア
あはは、フィアメッタのおじいちゃん、こんにちは――えっと……
銃騎士
……
聖堂巡衛隊
……
銃騎士
パトリツィオ殿、残りの人員は現在、爆弾の捜索と、発見次第その排除を進めております。
パトリツィオ
ご苦労。
そのサンクタを取り押さえよ。まだ爆発物を隠し持っておるぞ。
聖堂巡衛
ご安心ください。狙撃部隊がすでに配置についておりますので、容疑者が逃亡を図った場合には、即座に射殺いたします。
エクシア
……
アモス
ふぅ……
レミュアン
パトリツィオ殿……
パトリツィオ
遅かったのう、レミュアン枢機卿。
容疑者を第七庁へ連行してもらおうか。
エクシア
ちょっと待って、降誕の儀式がこのサルカズのためのものじゃないなら……
いつの間にか、聖堂中に響いていた心音は静まり返っていた。
廊下の奥で、扉が開く。エクシアが音のほうへと目を向けると――
アンドアイン
……
保育士が小さなおくるみを抱いて、扉の前に広がる光の中に立っていた。その両手とローブは血に染まっていたが、おくるみはきれいなままだ。
彼はうつむいたまま、ゆっくりと啓聖ホールへ、心配そうに待ち続けている総主教の元へと歩み出る。人々は自然と、彼のために道を開けていた。
総主教
ご苦労様でした、アンドアイン。
アンドアイン
……
総主教は保育士の手から生まれたばかりのその子を受け取った。盲目の彼女には、アンドアインの眉間に深く刻まれた悲しみを目にすることはできなかった。
彼女がそっとおくるみを開くと、小さな命がその姿を現す――
それは一匹の幼獣だった。
総主教の肩にもたれる幼獣は、その柔らかな爪を包む粘膜もまだ剥がれきっておらず、濡れてくしゃくしゃの毛は広がりきる様子もなかった。
その子はぐったりと目を閉じており、呼吸はほとんど感じられない状態だ。
総主教
ご覧の通り、育児聖堂完成後、最初に取り上げられた命は、この木攀獣(もくはんじゅう)の子供です。
羽のように軽いこの子も、その命は敬うべき重みを持っているのです。
ラテラーノを訪れる前、私はとある放棄された移動修道院で、この子の母親を見つけました――その身体は痩せ細り、羽は抜け落ち、ほとんど木攀獣であることもわからないような姿をしていました。
猟師の槍がその腹部を貫いていましたが、お腹の赤ちゃんからはほんの少し逸れているのがわかりました。
この子の母親はどのようにして人目を避け、長い間身を隠していたのでしょうか。そして、どのようにして命を繋ぎ、重い怪我と飢えに耐えながら……
今日に至るまで、ずっと意識を保ち続けてきたのでしょうか。
この強き母親に感謝を捧げます。そして、ここにいるすべてのサンクタと、リーベリの同胞たち、さらには遠方から来てくださった異種族の客人方にも感謝を申し上げます。
この子は我ら全員の祈りを受けて生まれ落ちた――あなた方が共に作り上げてくださった奇跡なのです。
ですが、なぜ……
なぜ、目を開こうとしないのでしょうか?
アンドアイン
総主教、その子の呼吸は弱まっています……
総主教
……
アンドアイン
私もあらゆる方法を考え、その子の母親も全力を尽くしたのですが……
おそらく、母体の傷が深すぎて、胎内にいるうちに十分な栄養を与えられなかったのでしょう。
総主教
恐らく、我々は皆、あることを見落としていたのでしょうね。
アンドアイン
それは……
……この長く苦しい出産の間、我々がモビールを通じて感じ取れたのは、最初から最後まで、一つの鼓動だけだった、ということですね。
この子はあまりにもか弱く、本来であれば生命が最初に発するであろう声を上げることすら――生への渇望を表現することすらできません。
アンドアインは目を伏せ、それきり黙り込んでしまった。
フィアメッタ
モスティマ、降誕の儀式がこんなことになるなんて予想してた?
モスティマ
ううん。
本当なら今頃は、産声を上げる赤ちゃんを囲んで、ケーキでも切り分けてるはずだったろうにね……
フィアメッタ
こんなの、あんまりだわ。
ループス
あいつはあんなに頑張ってたのに、死産だったってことか!?
*シラクーザスラング*!
フェリーン
なんてことなの!
何かできることはないの? さっき数千人で一緒に祈ったみたいに……
サンクタ
仮にあの時、何時間も待ち続けた末に、ベイリーの鼓動が感じられなくなっていたら……俺も妻も、どうしていたことか……
いや……考えたくもないな。
可哀そうなその子に、もし俺の呼びかけが届くなら……
群衆からは、微かにすすり泣く声が聞こえてくる。
そうして、次第に多くの人々が感情を抑えきれなくなり、彼らの泣き声が合わさって、広い聖堂に響き渡る……哀れな母親と、早逝した赤子のために。
するとまた一つ、泣き声が響き渡った。
それは悲しみによるものではなく、幼くも、よく響くものだった。
人々の感情に呼応するかのように、木攀獣の子が目を開き、生命の最初の叫びを発したのだ。それと同時に、その子は四肢を伸ばし始め、その毛並みは奇跡を体現するように豊かになっていく。
総主教は、思わずといった様子で腕の中の命を抱きしめ、歓喜の涙を流した。すると一粒の涙が、マスクの下にぽっかりと空いた眼窩からこぼれ落ち、幼獣の頭に落ちて、太陽のきらめきを反射した。
泣き続ける幼獣の声に導かれるように、その小さな光は虚空の中から抜け出して、輪の形を成し始め――
光輪となった。
サンクタの証であり、法の象徴であり、具象化した真理でもあるそれが、この瞬間、馴染みない同胞の頭上に灯ったのだ。
その輝きは奇跡のようだった。
総主教
……
今再び、主は我らの期待に応え、この子に祝福を授けてくださいました。
災厄を前にして、この類まれなる聖跡が現れたのは、法が我らに示した啓示でしょう。
これは我らの一人一人が見届け、一人一人が関わったことです。
この時より、聖都を起点であり終着点となる場所として――我らは皆、生まれながらに平等な、一つの存在――
――サンクタとなるのです。
総主教の懐では、今や完全に目を覚ました幼い命が彼女の腕を舐めていた。
その時、再び風もなくモビールが揺れ動き、力強い心音が育児聖堂全体に鳴り響いた。
アルトリア
――!
フェデリコ
――!
アルトリア
……ラテラーノが木攀獣の子に光輪を与えた……?
『聖徒行記』で一番誇張されたシーンでさえ、この光景には及ばないでしょうね。
フェディ、あなたはこれを神聖なる祝福と捉えるのかしら? それとも、恐ろしき災いと見なすのかしら?
フェデリコ
それよりも気になるのは、これが真実かどうかという点です。
アルトリア
あら、いつから目の前のすべてを疑っていたの?
フェデリコ
細かな兆候は数多くありました。
怪しげな動きを見せる告解ロボット。
アルトリア
果てしない麦畑。
フェデリコ
銃器及び爆薬製造に対する厳格な統制と、銃工房の全面閉鎖。
アルトリア
突如としてその役割を変えられたランデン修道院。
フェデリコ
教皇庁の行政体制における大幅な変化と、突如として私の捜査に強く干渉してきた同僚。
私の行動に気付いていなかったはずのリケーレが、最も重要な瞬間に部隊を率いて現れたことで、私の判断は裏付けを得ました。でなければ、今頃私はあなたに手を下していたでしょう。
アルトリア
……
数々の異変はすべて、この突如現れたように感じる育児聖堂と、群衆が期待の目を向ける降誕の儀式に帰結するのね。
フェデリコ
つまり、あなたが移動修道院で聞き込みをしていた、「失踪した母親」というのは、あの妊娠した木攀獣だったのですか?
アルトリア
そういうことよ。
チェロの音が偶然彼女の心音と重なったものだから、ここまで追ってきてみたの。
フェデリコ
……
先ほど述べた兆候以上に、私の判断に影響を与えたのは――こうしたすべてにまったく気付かないラテラーノ人の姿でした。
生活のあらゆる面に大きな変化が起きているにもかかわらず、この国もこの都市も、今なお秩序を維持しています。
アルトリア
六百万人ものラテラーノ人がいつも通りの顔をして過ごしている中で、正気を保っているのは自分だけだと己に言い聞かせ続けるのは至難の業でしょう。
あなたみたいな頑固な人には、この手の自己懐疑は珍しい体験だったでしょうね。
フェデリコ
……
アルトリア
それで、もう確信は得たのね?
フェデリコ
はい。
数学、物理、地理、考古学、天文学……現代のあらゆる科学的見地を踏まえても、さらには神学や哲学のいかなる理論を以てしても、説明がつかないことではありますが……
六百万もの人口を有する都市全体を、集団幻覚に陥らせる力が存在するのだと思います。
さらには、この状況はすでに、ラテラーノの秩序、法の根幹と完全に相反するものです。
ゆえに、もはや迷いはありません!
アルトリア
奇遇ね、私もよ――
モビールの鈴の音が都市の上空に響き渡る中、チェロの音色が都市に手を伸ばすかのように、小さな隙間を切り開く。次の瞬間、二つの音は同時に断ち切られた――
「静寂」――その訪れを、フェデリコは内心感じていた。
広場の前を行き交う人々など、初めから存在しなかったのだ。かつて、彼が大聖堂の屋上から都市全体を見渡した時ですら、ラテラーノがこれほど静まり返っていたことはなかった。
フェデリコとアルトリアには、自分たちがその瞬間、まばたきをしたかどうかすらわからなかった。それは、あまりに奇怪な光景が目の前に広がっていたからだ――
あの場違いな聖堂は変わらず街の中にそびえ立っていたが、先ほどまで見えていたものとは違い、夢の中のようなその色彩が、表面から流れ出ていた。
空高く、雲まで届くほどの高さから、周りに建つ純白の建物の上へと、色彩が降り注いでいる。
ラテラーノ内の、聖堂の影に覆われた至るところで、扉、あるいは窓のようなものが次々と開き、奇妙な形の生物がその中から姿を現していた。
こうした不可思議な現象を言葉で言い表すことはできなくとも、二人はこの上ない確信を得ていた。これこそが、本当のラテラーノなのだと。
次の瞬間、同じ言葉が二人の口を突いて出た――
「災厄」。