観客の皆様へ

ティッピ
モリー、めっちゃ痩せてるじゃん!
モイラ
ベッドで二ヶ月寝込んでたから。
ティッピ
あの時区画が止まって真っ先にあんたを探しに行ったんだよ。血まみれでピクリとも動かないあんたを医療スタッフが運び出すのを見て、あたしてっきり……
モイラ
あの人の歌声は……とても恐ろしかった。
でもただ私を止めたかっただけで、殺す気はなかった。
彼は絶対にグレータさんが言ったような、オークションで偶然会って、説得されてチームに加わったわけじゃない。彼には別の目的があった。
ティッピ
別の目的?
モイラ
彼はとある存在を、そばにいるのに私たちが気付かない存在を探していた。
ティッピ
ほんとごめんねモリー、会いに来るのがこんなに遅くなって。そ、その連邦移動監獄の面会申請にちょっと手間が掛かっちゃって……
モイラ
わかってるよ、ティッピ。
私があなたを利用したせいで、あなたは誤解されてしまった……
ルシアンさんの言う通り、私は手にしていた真実を無視していた。狂気に陥っていた最後の瞬間、あなたのことを思い出しすら、しなかった……
ティッピ
モリー、聞いて。
どんな経験をして、どんな目的があったにせよ、あんたは一緒に過ごしてきた人たちを傷つけて罪を犯した。そのことをあたしはずっと、ずーっと許さないから!
……でもねモリー。だからといって、あたしたちが二人でソファに丸まってホラー映画を観ていた時間が、恋しくないわけじゃないんだよ。
あんなに楽しくて、あんなに生きてるって感じる時間だったんだもん、でしょ?
モイラ
……うん。
ベッドで寝込んでいた間、傷がとても痛くて眠れなくて、ここしばらくで起きたことを一からずっと思い返してた……
一晩中思い返してたけど、結局のところ記憶の中のことよりもその時感じていた痛みが一番本当のものに感じられた。
実はね、物語がどんなにでたらめでも、私たちが運命の操り人形だろうとなかろうと、私にチャンスがなかったわけじゃないんだよ。
一緒に映画を観てた時に、もっと集中できていたらと思うよ。本当だと思い込んでいたことや、憎しみや狂気、血や人形のことを考えるんじゃなくて……
ごめんね、ティッピ。
ティッピ
もし、もっと早くあんたと出会えていたら、「お姉さん」に頼ることもなかったかもね……
あと数日で最終審理だよね? 何人かの弁護士に相談したけど、多分……
モイラ
……
ティッピ
……
モイラ
結果は気にしなくていいよ、ティッピ。
看守長がすごくいい人でね、最後の数日間は監獄の後方勤務部で、囚人たちが使えそうなものを作らせてくれるって。
私は前みたいに、嘘偽りの中で待つことはないよ。最後の……
ティッピ
うん、ならよかった。
モイラ
あはは、面会の時間もあと少しみたいだし、楽しい話でもしようよ。
結局私たちの映画はどうなったの?
ティッピ
わぁ、みんなもういるじゃん、遅れてごめんなさい!
スティーヴン
……
グレータ
スティーヴン、緊張しているの?
スティーヴン
少しな。
グレータ
リラックスしなさい。
最後の撮影はとんでもない形で終わったけど、編集、カラーグレーディング、音楽制作……たった二ヶ月でポストプロダクションを完成させるなんて、みんなよく頑張ったわ。
メラニー
スティーヴン、映画のタイトル変更について、意見が一致してうれしく思うわ。
スティーヴン
メラニー、こちらこそ天災の中でのあの演技に感謝しているよ。でなきゃ、あの二文字を削除することは、俺の独りよがりな自己陶酔になってたからな。
メラニー
『ミズ・デュポン』は『ミズ・デュポンの死』ほど興味を引くタイトルではないわ。宣伝に関してはグレータにどうにかしてもらいましょう……でも間違いなく、これこそが物語に最も相応しい名前よ。
グレータ
任せなさい。
興奮する記者A
俺をつねってくれ。夢じゃないよな?
興奮する記者B
そんなのどうだっていい、早く撮れ! 明日のトップニュースになるぞ!
「アヴァンギャルド映画祭」みたいなニッチな芸術賞が、こんな大物ゲストを呼べるなんてな、組織委員会はいくら積んだんだ?
興奮する記者A
マリアンナさんがランクウッドに現れるなんていつぶりだ?
ヤラ
……
ティッピ
ヤラおばあちゃん!
ヤラ
あら久しぶりね、ティッピちゃん。
その格好……うーん、今は何の仕事をしているのかしらね。スクリプター? 小道具担当? それともスタントウーマンかしら。ファニチャーシティ・ウォーズみたいな?
ティッピ
スプレーアーティストだよ! 背景を作ってるんだ!
もう半年以上やってて、先週なんて、ランクウッドの撮影区画の修復チームにも選ばれたんだ!
うちのチームが借りてた区画が天災でめちゃくちゃになっちゃってね。責任者から再建後のデザインを頼まれて、大忙しなんだ~……
ヤラ
ふふ、ようやく自分のやりたいことがわかったみたいね。
ティッピ
言ったでしょ、あたしは映画が好きなんだよ。映画を構成する工程の一つ一つ、各要素の一つ一つが……
で、やっと、その中でいっちばん好きなものが見つかったってわけ!
ヤラ
つまり、まだ戻る気はないのね?
ティッピ
へへ、おじいちゃんの方は、これからもヤラおばあちゃんにうまくごまかしてもらえると嬉しいな。
ヤラ
ティッピちゃん、あなたのおじいさんはランクウッドでの最高のパートナーで、長年の親友よ。でもだからといって、子供の教育に関して私の意見に耳を傾けるとは限らないわ。
ティッピ
「あのね、私たちはもう引退したのよ。そんなにいちいち口を出さないでもいいじゃない……」
「ほら、ティッピちゃんはあなたのコネを一切使わず、歴史映画監督になるというあなたの計画にも従わなかったけど、ランクウッドでうまくやってるでしょ?」
「将来、ランクウッドの背景画の半分はあなたの孫娘の作品かもしれないわよ!」
ヤラ
わかったわ。録音しておいたから、今度直接彼に聞かせるわね。
ティッピ
……もう、ヤラおばあちゃんったら。
ヤラ
はいはい、というより、今回はクルビアに戻ってきたものの、あなたのおじいさんに会いに行く時間はなさそうなの。
ティッピ
そうだ、この前はレム・ビリトンにリフレッシュに行ってたんだよね。今回はライン生命の件で帰ってきたの?
ヤラ
それ以上の詮索はなしよ、ティッピちゃん。
メラニー
久しぶりね、マリアンナさん。
ヤラ
ヤラと呼んでちょうだい。
引退して数十年が経っているのよ、「マリアンナ」という名前はもう他人みたいに感じるわ。
メラニー
いずれにしても、感謝するわ……ヤラさん。
今の私の影響力じゃ、ランクウッドでは大した発言力はないから……
あなたの助けがなければ、選考が終了した「アヴァンギャルド映画祭」で、例外的に『ミズ・デュポン』が上映される許可はおりなかったでしょう。
ヤラ
どういたしまして。
メラニー
でも知らなかったわ、まさかティッピが……
ヤラ
私が協力したのは、あの子とは関係ないことよ。
あの天災の中での演技を見て、これが観客に観てもらえないのはあまりに惜しいと思ったから、古い友人の力になりたいと思っただけ。
メラニー
……
ヤラ
でも、『ミズ・デュポン』が「アヴァンギャルド映画祭」で事前に盛り上がっても、最終的な興行成績には役立たないかもしれないわ。
メラニー、私よりもよくわかっているでしょう。ランクウッドが一人の人間だとしたら、これほど記憶力と寛容さに劣る人はいないわ……
……だから、自分の胸へと戻ってくる恋人を受け入れてくれるとは限らない。
ましてや、あなたたちは区画を丸ごと壊したんだもの。映画が大ヒットしても、回収したお金じゃ賠償金には到底足りないわよ。
メラニー
少なくとも私は自分のしたことに、悔いはないわ。
そんなことより……一つ聞きたいことがあるの。
ヤラ
どうぞ。
メラニー
当時、『永夜に輝く暁星』を撮影した際にあなたも天災に遭遇し、カメラにはあなたと嵐とのすれすれのシーンが映っている……
あれはあなたが記者会見で言ったように、偶然だったのか、それとも……
あなたも自ら天災に向かっていって演技したの?
ヤラ
……
メラニー、今のあなたにとって、答えは重要なのかしら?
メラニー
……
あははは、そうね、もう重要じゃないわ。
はぁ、結局、あなたに勝ったとはなかなか言えないわ!
華やかな服装の主演女優がメディアのカメラの前で大笑いする。彼女自身、自分がどうして笑っているのかわからなかった。
しばらくして、彼女はかつてのライバル、想像の中で永遠に追いつけない天才、これまでに幾度となくカメラの前でチークキスをした最大のライバルに向けて両腕を広げた……
二人が抱き合う。
ヤラ
行きましょうか。
観客A
……終わった?
観客B
終わったね。
観客A
映画の感想は?
観客B
聞いた話だと、この制作チームは殺人事件だったり天災だったりを経験して、プロジェクトの進行は散々だったらしいよ……
観る前は、そういったゴシップの方が映画の内容自体よりもずっと面白いんだろうなって思ってた。でも……
荒唐無稽な貴族の婚姻が、最後には天災で締めくくられる――どんでん返しはどれも自然な流れだったけど、登場人物たちの行動がどれも少し不気味に感じたよ……
良い悪いの評価をするのは難しいけど、鑑賞する価値はあると思ったかな。
観客A
正直言うと、俺もそう思う。
ストーリーは一旦置いておいて、演出も物議を醸しそうだよな。撮影スタイルすらも統一されてないし……
前半は丁寧で細かいシリアススタイルだったけど、後半になるにつれて荒々しくなって、特に天災のクライマックスシーンなんて、完全にドキュメンタリーに変わってたよ!
好きな人は満点をつけるだろうけど、嫌いな人は容赦ないだろうな。
観客B
でも、とても面白かった。でしょ?
ここ数年、ランクウッドはどんどんつまんなくなってた。この「アヴァンギャルド映画祭」で上映する映画でさえ、オルタナティブじゃなくなってきてたしね……
少なくともこの『ミズ・デュポン』は、お金を払ってチケットを買ってもいいと思えたよ。
観客A
この後の上映後のトークショーで、主要制作スタッフたちはどんな話をするんだろうな。
そうそう、あの最前列の幸の薄そうな顔をしてる人、制作チームのメンバーだったらしいぞ……
ホーティン
ふぅ……ほんとついてない。
申し込んで一ヶ月経って、ようやく最後の一人の裏方として採用されたのに。チームに加わるなり色んなことが起きて、そのうえ死体に出くわして、何日も眠れなくなるだなんて……
天災が迫って来た時みんなと一緒に動力層に逃げ込んで、安全だと思ったのに。不眠で頭がぼうっとしてたせいで壁を蹴っちゃって、足を骨折しちゃうんだもんな……
そしたら骨折のせいで、バスに乗り遅れて、映画の前半を見逃しちゃうし……
エンドロールが流れ、ホーティンはぶつぶつとつぶやく。ここしばらくの自身の経験を思い出した彼女は、わずかに悲しみが湧いてきた。
スクリーン上の映像さえも、彼女には見知らぬように思えた。見慣れた顔やシーンが、彼女には理解できない形で組み合わされていた……
まるで彼女の「波乱万丈」な人生のように。
そうして、彼女はクレジットの最後に自分の名前を見た。
ホーティン
「アシスタント ホーティン」……
運命の手がどんなに翻ろうと、それはやがて、自身が確かだと思う真実を書き記すことだろう。
劇作家
上映は終わりました、トークショーには参加しないのですか?
ルシアン
私は彼らの一員ではない。ましてや……君たちが来ているからな。
劇作家
ふっ、それもそうですね。
そうだ、大変素晴らしい出来でしたよ……劇の中でも、外でも。
シャレム
ルシアン……
ルシアン
なんだ?
シャレム
彼は死んだのですか? 今度は本当に?
それとも、いまだに何らかの形で生きているのですか?
ルシアン
それは私が考えるべき問題だ。
シャレム。君はただ、ロドスに隠れてなお、過去の影が夢に忍び寄ってくるという心配をする必要はもうないということだけ知っておけばいい……
劇作家、どんなテーマでも、どんなスタイルでも、君は自分の脚本を思う存分に書けばいい……
クリムゾン劇団はもう存在しない。君たちは自由だ。
シャレム
……
劇作家
……
ではあなたは?
まだ彼の結末について考えるべきだ、と言っていましたね――つまり、あなたはこの道から離れることはできないということ、そうですね?
「劇は死なない」……私のそばにいるのは、もはや「クリムゾンソリティア」ではなく、「トラゴーディア」ですか?
シャレム
ルシアン、聞く限り、あなたは大きな代償を払ったようですね……
ルシアン
そうとは言えない。
もし、これまでの我々の復讐や脱走さえも、書き上げられた脚本であるならば、この瞬間、我々はついに未来へと踏み出せる。
私は再び各地を巡り、歌い、演じる。私の形作るものが、私の喜びと苦痛に見合うと確信できるまで……
それは新たな劇団や主張、新たな巡り合いや物語、あるいは、よりまばゆい明日、より凄惨な真実かもしれない……
シャレム
……
劇作家
……
シャレムさん、何と言っても昔馴染みなのです……彼の力になってあげますか?
シャレム
ルシアン、あ、あなたは自信があるのですか?
ルシアン
もちろんだ。
迷路の中を突っ走る者、感覚も心も閉ざした修行者、偉大さと卑小さの狭間で彷徨う凡人、痛みを噛み締める生きとし生ける者たち……
この大地が役者に欠けることは決してない。
……ようこそ、「劇団」へ。