生存

W
このまま進むつもり?
治療しないと、間違いなく感染するわよ。
たくましい子供
――魔族の話なんて信じるもんか!
W
魔族……魔族ねぇ。
周りが「魔族」だらけだから、その呼び方自体忘れかけてたわ。
たくましい子供
クソッ、ついてくるなよ!
W
十分離れてるでしょ?
たくましい子供
殺したいなら今すぐ殺せばいいだろ!
弱々しい子供
ル、ルブレフ君、あまりあの人を刺激しないほうがいいよ……
たくましい子供
……ああもう! わかったよ。行くぞ。
あんな奴、気にするな。
弱々しい子供
ご、ごめん……
たくましい子供
魔族と関わるより、病気になるほうがマシなんだからな!
弱々しい子供
……うん。
W
ふーん……
そう言えば、この近くに廃病院があるわよ。チェルノボーグの地区病院。
どこにあるか、教えてあげましょうか?
たくましい子供
……
弱々しい子供
ルブレフ君……?
たくましい子供
無視しろ、俺たちを騙そうとしてるんだ。
……あいつを撒こう。
あの街道が見えるか? そこの角から走っていって、一分以内に逃げ込むぞ!
弱々しい子供
……わかった。
たくましい子供
――よし、走れ!
W
へえ、なかなか速いじゃない。
たくましい子供
あ、あいつはなんでこんな早く追いついて来るんだ――うっ!
弱々しい子供
ルブレフ君……足が! 血、血が黒くなってる……
たくましい子供
クソッ、お前を助けてなけりゃ、あんな奴簡単に撒けるのに……!
弱々しい子供
ごめんね、ごめんね……
たくましい子供
もういい! 静かにしろ。
隠れるぞ。
W
......
この先の道を左に曲がると、廃墟になった広場があるわ。
広場の西側に見える、一番大きな白い建物が病院よ。
打ち捨てられた病院。
弱々しい子供
……僕たち、見つかってるみたい……
たくましい子供
お前が言うこと聞かないからだろ――もういいよ。
おい、魔族。
……なんで俺たちにそんなこと教えるんだ?
W
ただの気まぐれよ。
あんたたち、どんな関係?
弱々しい子供
……
たくましい子供
……食べ物を探してたら、こいつを見つけたんだ。
弱々しい子供
ルブレフ君は、僕を助けてくれた……
W
へぇ……だからその子の言うことを聞いてるの?
弱々しい子供
……
W
そしたら今度は、あんたが恩人を助ける番じゃない?
たくましい子供
こいつに何をさせるつもりだ?
弱々しい子供
ルブレフ君……
W
別に何もさせないわよ。ただ、この先のそう遠くないところに病院があるなあっていうだけで。
レユニオンは医療物資をただ放置しておくほど馬鹿じゃないわ。だから、もしあんたがそのルブレフ君を助けたいなら……奪うしかない。
あそこは暴徒と化した感染者で溢れてる。あんたらの家族や親戚、友達を殺した奴らよ。
だけど、鉱石病の初期症状を抑える薬があるのはあそこだけ。
奪うのが無理なら、盗んでもいいと思うけど――
あそこにいる人が手を貸してくれるなんて、甘いことは考えないようにね。
たくましい子供
行くなよ! こいつの言うことなんて聞かなくていい!
弱々しい子供
で、でも……
W
――行くな?
ルブレフ、この子はあんたの名前を知ってるみたいだけど、あんたはこの子の名前を知ってるの?
たくましい子供
そんなこと、お前に関係ないだろ!?
おい、絶対に行くな! お前には無理だ! あそこはみんな――
弱々しい子供
僕は――
僕は……やってみたい……
ルブレフ君以外にも、天災で怪我をした人はたくさんいる……
みんな痛い思いをしてるんだ……だから、僕が……
たくましい子供
クソッ、こんな悪魔にそそのかされて! 何で俺の言うことを聞かないんだ!
弱々しい子供
僕は……
W
この子に、あんたの言うことを聞く義務なんてないわ。
みんなを助けたい。いい考えね。
教えてあげる。あの病院の医療物資は、地下倉庫にあるわ。
駐車場の通気口から忍び込んでもいいし、科学廃棄物だらけになってなければ、排水溝を進んでもいい。
もしかしたら、死んじゃうかもしれないけどね。
弱々しい子供
……
たくましい子供
ほら、足が震えてるじゃないか! やめとけ! こんな魔族の言うことなんて聞かないほうがいいんだ!
さっさと行くぞ!
弱々しい子供
待ってよ、ルブレフ君! 僕は……
うわっ――
たくましい子供
な、何だ?
W
龍門で色々あったから……ここにも影響が出てるのね。
天災が起きて、怪我人が溢れて……今のチェルノボーグでは医療物資は貴重よ。みんな放っておくわけはないわ。
魔族のあたしが、ここの病院についてこんなに詳しいのは……どうしてだと思う?
たくましい子供
この――うっ、ああ――
弱々しい子供
僕は……僕は……
W
――あの子、苦しそうね。このままの勢いで悪化すれば、いずれ薬も効かなくなる。
もしあんたが今、決断しないんだったら……
二人とも、ここで死ねばいいわ。
弱々しい子供
ああ……
たくましい子供
おい、お、お前、何するつもりだ! 近づくな!
W
行くの?
行かないの?
ああ……でも今から行っても遅いかもね。もう暴動が起こってるみたいだし、盗み出すのもきっとかなり難しくなった――
弱々しい子供
で、でも……ぼ、僕は行くよ。
W
――へぇ……死ぬわよ。
たくましい子供
な、なんでそいつの言うことを聞くんだ、せっかく俺が助けてやったのに!
弱々しい子供
で、でも……僕は、やってみたいんだ……
たくましい子供
そんなこと……お前にできるわけないだろ! 大丈夫、このまま薬局と食べ物を探して歩いてれば、きっとどうにかなる!
弱々しい子供
でも――
ごめん……ごめんね! ルブレフ君!
たくましい子供
おい……おい! 待てよ! 行くな! おい!
W
あの子の名前すら知らないあんたが、止められるわけないのよ。可哀想に。
たくましい子供
お前……あいつを騙したな!
W
騙す?
嘘は一つも言ってないわ。
もちろん、信じる信じないはあんた次第だけど。
あの子を信じるかどうかも、あんた次第よ。
たくましい子供
……クソッ、俺が、あいつを止めに行く、うぐ……
W
どうして? あの子を信じられないの?
たくましい子供
あ、あいつは、俺がいなきゃ何にもできないんだ……
W
あの子が逃げないか心配してるのね。
あんたはこう考えてるんでしょ……あいつはどうして俺をこんな魔族のところに残していったんだ、俺が殺されてもいいのかって。
たくましい子供
デタラメ言うな!
*ウルサススラング*! この化物め――
W
――黙って。
……ここで一歩も動かず、あの子を待ちなさい。
そうじゃなきゃ、今すぐにでも殺すわよ。
たくましい子供
うう――
W
あんたは知らないだろうけど……
あたしは殺人鬼よ。
この街を破壊し、あんたの両親や友達を傷つけた殺人鬼。
……ああ、アハハ、そうだ。
あんたはまだその刀を持ってるんだったわね。その血に染まった柄の装飾は、サルカズのものよ。
血は、誰のだと思う?
たくましい子供
う……うう、し、知らない……お前はあいつを……クソッ、こっち見るな!
W
……泣けばいいわ。子供は泣くものだから。
これからの生死は……あんたたち次第だけどね。
たくましい子供
あいつには無理だ……
W
そうかしら?
たくましい子供
だって、俺が瓦礫の下から掘り出さなかったら、あいつはとっくに……
……だからあいつは、俺なしじゃダメなんだ。
W
......
誰にも……その人がいないとダメなんて相手はいないのよ。
そう、誰にもね。
たくましい子供
……
W
静かになってきたわね。
あの大虐殺以来、抵抗する奴は減ったわ。いい傾向ねぇ。楽ができるし、死人も減る。
病院の方も静かになった。
たくましい子供
……
あいつは……もしかしたら……
W
何?
たくましい子供
あいつはもしかしたら……行ってないかも……
もうこんなに……うう、時間が経ったのに……
W
そうね、逃げたのかもね。
たくましい子供
……
W
だけど、あんたがあの子を助けたんだから、あの子もあんたのために頑張るはずでしょう?
たくましい子供
……俺は……
W
それとも、あんたはあの子を救えるけど、あの子はあんたを救えないと思ってるの?
たくましい子供
あいつは……ずっと何をさせてもダメだったんだ!
食べ物を探しに行ったときもそうだ! あいつは店の中に人がいることにも気づかなかった!
あいつのせいだ! あいつのせいで俺の足が――
W
......
たくましい子供
……
W
どこに行くつもり?
たくましい子供
……一人で帰る。
W
言ったでしょ、ここを離れたら死ぬって。
たくましい子供
でもあいつは逃げたんだ!
W
へぇ――
その目……あんた、あの子を恨んでるのね。
たくましい子供
ち、違う!
だって、もし……本当に行ってても……こんなに時間が経ってる……きっともう……あいつは……
W
――黙りなさい。
あの子が戻るまで、あんたに本当のことはわからない。
あの子が帰って来るって思っててもいいし、帰ってこないって思っててもいいわ。
だけどあの子じゃ無理だなんて思ったり、恨んだりするのは、あんた自身に問題があるわ。
……あんたはどうして、あの子が失敗するか、逃げるに違いないって決めつけてるの?
あんたがあの子を助けたから? あんたの方が上だから?
たくましい子供
……うう。
うわああ――
W
まだ泣く元気があるのね。
安心して、すぐに痛みで泣く余裕すらなくなるわ。
あんたはまだ小さいしサルカズでもないから、ホントに耐えられなくなったらあたしに言って。
楽にしてあげるから。
W
......
たくましい子供
う……ううん……うう……
W
意識が混濁してきたわね。
あーあ……間に合わないかぁ。
たくましい子供
やめろ……俺はまだ……
あいつを……待……
W
......
死ぬのが怖いから、あの子を信じることにしたの?
子供は人の顔色を窺うのが上手ね。そうやってあたしの機嫌をとっても、何にもならないわよ。
たくましい子供
……うう……
W
だけどあの子……確かに時間がかかりすぎね。
……最後に、もう十分だけ待ってあげる。
安心して。いくらあたしだって、子供を苦しんで死なせるなんてことはしないわ。
たくましい子供
……
W
……大人しくなったわね。
……泣く余裕もなくなったの?
あたしを恨んでる? それともあの子を?
もしかして、お節介で人を助けて、怪我したことを後悔してる?
たくましい子供
……して……ない……
W
そう?
まだ喋れるのね。ちょっと感心したわ。
たくましい子供
……
W
ルブレフ。
あの子の……人の行いを決めるのは、何だと思う?
出身? 立場? 過去? それとも約束?
……どれも違うわ。
答えはね、あの子の人生があの子にもたらす影響の全て、変化し続けるあの子自身の信念と考え方よ。
それと、あの子がどれほど自分を信じてるか。
あんたはあの子を助けた。でも心の奥ではあの子を信じてないし、見下してるでしょ。自分があの子の救世主だなんて思って。
でも、あの子はどう? すごく単純よ。あんたに助けられたから、あんたのことを助けたい、ただそれだけだもの。
その点で言えば、あの子はあんたより強いわ。
刀をしっかり持っておきなさい。それはサルカズの刀だけど、持ち主に代わって、あたしがあんたにプレゼントするわ。
それを使いこなすもよし、売ってお金に換えるもよし、好きにすればいい。
――それだけよ。
たくましい子供
お前……何を言って……
弱々しい子供
ル、ルブレフ君! 大丈夫!?
見て! 見て!
医療キットを盗んできた! 痛み止めも、包帯もあるよ!
えっ、なんで返事しないの? ルブレフ君、まさか――
たくましい子供
うるさい、なぁ……生きてるよ……
弱々しい子供
よかった……! じゃあ僕、傷口の手当をするね……!
えっと、包帯はどうやって使うんだっけ……これが抑制剤? あ、開けてみよう……
たくましい子供
……お前の親、医者じゃないのかよ?
弱々しい子供
そうだけど……使い方は教わってないよ。でもやってみる……痛っ……
たくましい子供
……怪我、してんのか?
弱々しい子供
うん……でも大丈夫、大したことないよ……鉄パイプでちょっと殴られただけだから……
たくましい子供
全然……ちょっとじゃない……だろ。この、ばかやろう……
弱々しい子供
……ヘヘ……
たくましい子供
あの……サルカズは?
弱々しい子供
あれ……僕が来たときにはいなかったよ……ずっと一緒にいたの?
たくましい子供
……
弱々しい子供
ルブレフ君?
たくましい子供
……
……えっと、その……お、お前の名前は?
弱々しい子供
えっ? ……アンドレイ。
たくましい子供
フルネームは……?
弱々しい子供
アンドレイ・フョードロヴィチ・オストロフスキーだよ……へへ。
たくましい子供
何笑ってんだよ?
弱々しい子供
やっと聞いてくれたね、ルブレフ君。
たくましい子供
……ごめんな。
弱々しい子供
そ、そんなつもりじゃないよ……謝らないで……
これでよし。少しは楽になった?
たくましい子供
ああ……
弱々しい子供
よかった!
じゃあ支えるから、一緒に戻ろう。
みんな、この医療キットを見たら喜ぶよ!
あの二人の子供を見ながら、あたしは微笑んでいた。
不安の種が消えたとき、あの子たちは本当の意味で、この街で……この大地で生きていくことができるようになるだろう。
生きなさい。生きてこそ、苦しむこともできる。
炎に向かう虫のように、罠に飛び込む獣のように。
代価を払ってでも、何かを追い続けなさい。
W
そうでしょう?
……タルラ。