火も、光もなく

???
目を覚ませ!!
......?
???
目を覚ませ……起きろ!
こっちだアダム! お湯を持ってきてくれ!
お父さ……。
???
あっ……。
生きてる! 良かった、この子は生きてる、生きてるんだ、我が先祖に感謝を!
アダム! 早くしろ!
お父……さん……?
???
お父さん?
……そ……そうだ! 私がお父さんさ!
よし、いいぞ! 私がお父さんだ、その通りだ!
ダメだ、寝るんじゃない、頑張って目を開け! お父さんの手を掴んで離すな!
お父さん……わたし……さむい……。
???
寝てはいけない、娘よ、我が娘よ! 生きるんだ!
体温がさらに下がっている! ミシカ、どうにかしてくれ!
なんとか体温低下を止めることはできないのか?
さむい……! お父さん! さむいよ!
???
……娘よ……わが娘よ! 保ちこたえてくれ!
お父さん、いやだ……もうどこへも行かないで……。
10:48 A.M.
チェルノボーグ移動都市「エリア14」跡地
基礎フロア上部
フロストノヴァ
……。
フロストノヴァ
もう目は覚めている。
私が気を失っている間に殺さないとは、自信があるのか、それとも何か別の狙いがあるのか?
フロストノヴァ
何はどうあれ、お前はそうしなかった。
フロストノヴァ
……。
情けをかけられた身だ、今お前を殺さないことで、その借りを返したことにしよう。
フロストノヴァ
その複雑な表情はなんだ?
まさか……夢の中のことを全て口にしてしまっていたか?
フロストノヴァ
気を失っている間に、面白くない話を漏らしてしまったようだな。
まったく記憶というのは、捨てたくても捨てられないものだ。
ところで、周囲は調べたのか?
出口は見つからなかったということか。
我々二人とも、しばらくこの場所を離れられそうにないな。
フロストノヴァ
……。
フロストノヴァ
私が父と呼ぶのは、かつてウルサスの尉官だったボジョカスティという男だ。
本当の父親はとうの昔に死んでいる。
一人の男が矢を身体で受け止め、一人の女を守った。そしてその女は私を胸に抱き、背中で第二波の矢を受けた。幼い頃から頭にこびりついて離れない光景さ。
フロストノヴァ
ああ。もっとも当時の私は、その光景が意味することは全く理解できなかったがな。だがそれは、確かにずっと頭に残っていた。
その時、何が起きたのかは、後に祖母が教えてくれた。
記憶にこびりついたその光景について、私はしつこく祖母に尋ねたものだ。もう誤魔化してはおけないと悟ると、祖母はしぶしぶ教えてくれた。
「あれは君の実の両親だ……死と引き換えに君を守った」と。
可笑しなものさ。私は二人のことを全く知らないというのにな。あの脳裏に焼き付いた光景以外に、二人に関する記憶は一つもないんだ。
血の繋がった実の両親だというのに、私はそうやって忘れてしまったんだ。自分が彼らにどんな感情を抱いているのかすら、うまく言葉にできない。
……。
半分はそうだ。残りの半分は、ウルサス感染者の血に育まれたと言えるだろう。
ふっ……。
フロストノヴァ
私は西北凍原の採掘場で生まれた。
へんぴな場所にある小さな採掘場で、どの都市にも属さず、周囲に集落もなかった。一年を通して、雪しか見えないところだった。
あの採掘場は、ただ死と奴隷制を正当化するために建てられた流刑地だった。同じような採掘場が、雪原には無数に存在している。
私の両親は、その採掘場の採掘工だったのだ。
祖母は私の幼少期にずっと面倒を見てくれたが、両親がどのような罪を犯し、あの地へ送られたかは、ついに話してくれなかった。
私はある程度の年齢になってから、採掘場の各所を尋ね歩いて、ようやく両親がかつてウルサス皇帝の戦時政策に反対していたということを教えてもらった。
しかし彼らが捕えられたのは予想外のことだった。逮捕者リストの最後の空白の二枠を埋めるために、捜査を担当した士官が目に入った表札の名前をそこに書き込んだだけだったそうだ。
裁判などは行われず、私の両親は名を奪われ、温かい都市から凍える北地へ送られ、そして数百年の刑期に処された。
勿論、数百年の刑期など生きてそれを全うできるはずはない。あの地を離れることなど夢のまた夢だっただろう。
そして祖母は、「犯罪者を庇護した者」として同様の刑に処され、採掘場に送られたという。
実際のところ、あの採掘場の全ての採掘工が、みな似通った経緯で採掘場に送られてきたそうだ。
そして当然のことながら、私の両親は採掘の過程で鉱石病を患ってしまった。全ての採掘工がそうやって鉱石病になっていったんだ。
そうなれば、たとえ採掘場からなんとか逃げ出せたとしても、誰も彼らの言葉なぞ信じない。最も恐ろしく、悪辣で過激な感染者の言葉なのだから。
だがそんな折、採掘場の監視官——ウルサスの某駐在軍は、感染者たちが自然に死んでいくのを待つのでは遅すぎる、と判断したようだった。
そこで奴らは、くじ引きで鉱石病患者の運命を決め、殺人に興じるようになった。
真白な雪が採掘工ではなく、奴らの方を狂わせたのかもしれない。そもそも感染者なんて奴らにとっては、人ですらなかったのかもしれない。
私が五歳の時、両親が黒いくじを引いた。
私が十歳の時、祖母が黒いくじを引いた。
そして十一歳の時、私自身も黒いくじを引いた。しかし、それはもう意味を成さなかった。奴らはくじ引きなどどうでも良くなっていた。既に採掘場全体を遺棄する計画が動いていたからな。
当時、採掘場の成人患者は既に全て死に絶えていた。皇帝の新しい施策は、採掘場を人手不足に陥らせたのだ。
命令に従い、ウルサスの監視官たちは最後に残った感染者たちを始末することに決めた……感染者の子供たちを。
そして最後には採掘場を爆破し、感染者の墓場に仕立てることで、自分たちの罪を闇に葬ろうとしていた。
後々知ったのだが、奴らはこれまでずっとそれを繰り返してきたそうだ。
奴らの魔の手が迫ると、私は悔しさのあまり胸が張り裂けそうに痛んだ。
これまでに山ほどの鉱石を採掘し、共に生活をしてきた兄弟姉妹同然の仲間たちが、無念にも死んでいかざるを得ないと。
そしてそれ以上に強烈な感情が私の胸で弾けた。両親と祖母の死の光景が脳裏に鮮やかに蘇ったんだ。
彼らが私に手を掛けたまさにそのとき、私のアーツが身体の中から爆発するように湧き上がった。私はその場で四人の士官を血祭りに上げてやった。
とはいえ、それだけのことでは状況を覆せなかった。
子供たちは監視官にとってはただの家畜に過ぎない。奴らを軍人たらしめる鋭い刃と堅固な装備を前にすれば、私たちは虫ケラのようなものだ。尻尾の棘で少し刺した程度だった。
程なくして私は地面に組み伏せられ、最後の殺戮を目前にした兄弟姉妹たちの泣き声が耳に届いたその時……。
突然、ある遊撃部隊が現れた。
それがボジョカスティの部隊だったのだ。
西北凍原に駐留するウルサス軍からすれば、あの部隊は最も恐ろしい悪夢のような存在だっただろうな。
ああ、誇って良いなら、そうさせてもらおう。
彼らは徹底的に処刑者たちの抹殺を行った。そして採掘場の感染者の子供たちは、なんとか生きながらえることができた。
ただ……。
あの温情の欠片もない白い大地の上で、一部の不運な仲間たちは、その身体に流れる熱い血と、ウルサス軍人の濁った血と共に、氷に成れ果ていってた。
改めて思い返して、一つ気付いたことがある……。
あのウルサス兵たちは、初めはただ命令に従っているに過ぎなかっただろう。初めの頃の奴らの身体には、私たちと同じ血が流れていたように思う。
天地を覆い尽くさんばかりの多数の流言に尾ひれが付いていき、意図的に生み出された敵意が、残忍さと冷酷さという形になって奴らの身体の中で芽吹いたのだ。
奴らをあんなふうに変えたのは、他でもないウルサスだ。
フロストノヴァ
うっ、ぐっ……。
少し……手を貸してもらえるか。
私のコートの左ポケットに、キャンディが入っているはずだ。それを一つ取ってくれ。
……お前も食べたければ、自分の分も一つ取ればいい。
フロストノヴァ
……毒でも警戒しているのか?
もしくはキャンディ自体が好きではないのかもしれないが、食べてみるといい。これは龍門では食べられないものだ。
ウルサス特有のキャンディだ。一粒減ってしまうが、構わない。
キャンディを取ってくれた礼として、試してみてくれ。
フロストノヴァ
ほう? お前も菓子に興味があるようだな。
予め言っておくが、これはお前がこれまで食べてきたキャンディとは全く違うものかもしれない。
だが人生は短いものだ。新たな物事への挑戦は、多ければ多いほど良い、そうだろう?
私の口に入れてくれないか。皮膚には触れないように気をつけろ。
指先から首まで痺れてしまって動かせない。今は首から上しか動かないからな。
だが、少し舌を動かせば、いつでもお前を凍死させられる。
だから細かいことは心配しなくていい。もしお前が私に何かするつもりなら、すぐに命を落とすだけだ。
ありがとう。
辛い。
とても辛い。
恐ろしいほどの辛さだ。
フロストノヴァ
……。
フロストノヴァ
その表情……。
フフ……。
すまない、つい悪戯をしたくなってな。
仲の良い者たちには使い古した手だ、もう誰も引っかからなくなってしまった。
だが今……またとない機会が巡ってきたと思ってな。すまない、どうしても……我慢できなかった。
フロストノヴァ
……。
フロストノヴァ
私の「冷たさ」が原因だ。
先程、私が気をつけろと言ったのは、お前が少しでも私の皮膚に触れれば、ひどい凍傷を負うことになるからだ。
カマをかけたという訳ではないが、もしお前が私に触れたことがあれば、そのときの反応で判断ができた。だが本当にお前は何もしなかったようだ。私に殺意を向けることはなかったのだな。
私の「冷たさ」は、冬そのものを超えている。
外部からの熱は、私の身体にまとわりついた厳寒を通り抜けることはできない。だから熱い飲み物を好んだ。熱流が食道から胃に流れ落ちる際に、その温度を感じ取れるからな。
だが残念ながら、私の内臓はその熱さには耐えられなかった。
そして私の楽しみは、このキャンディ——アルコールと刺激性の調味料に、少しの糖分を加えたものだけになった。
こいつから得られる温もりは、ほんの一瞬だけのまやかしだが、それでも私にとっては少しばかりの満足感を与えてくれる。
すまなかったな、つまらない悪戯をして。
……ああ、鉱石病がこの恐ろしい身体を作った。
だがあの時、ボジョカスティはこの冷たい身体を強く抱きしめてくれた。暖かさというものを知らないこの身体を。
鎧を脱いだ両腕が、私の冷気で壊死してしまうことすら全く厭わないようだった。
私にも分からんが、あの時の奴の感情が私を引き戻したのかもしれない……それから私はなんとか意識を保ち、生き延びたというわけだ。
私の家族みたいなものだな。幼き私は、奴をまるで父のように慕っていた。
血の繋がった父のことは覚えていないと言ったが……心の中では、あの巨大な獣のような男を代わりに父として見ていたのだろう。自分でもうまく説明できないが。
ただ見た目とは裏腹に、奴は感傷的な男だ。そしてこだわりがあることに関してはとんでもなく頑固で石頭なんだ。そんな男が、かつてはウルサスの殺人マシーンだったなんて、可笑しな話だろう?
さすがに笑えないか? ああ、私も笑えない。
奴はかつてウルサスの英雄と呼ばれていた。老いた後は前線を退き某都市の守役に就いた。
ウルサスは頑なに認めようとしないが、そのような者は決して少なくない。とは言え、感染者たちに「愛国者」と呼ばれるのは、奴ただ一人だが。
奴の妻は早くに亡くなり、息子と二人で暮らしていたそうだ。
そういえば、奴はサルカズでもある。最も凶悪とされる種のな。しかし奴の息子は、その身分でありながら学者になったのだ。ウェンディゴの学者は……おそらくウルサス史上初めてだっただろう。
ボジョカスティは最後に参加した作戦で鉱石病に感染したという。
部下たちは奴のために病のことを隠蔽し、奴自身も息子に全てのことを黙っていた。息子に迷惑を掛けたくなかったのだろう、病身を引きずりながら、どこか目につかない死に場所を求めていた。
あの「大反乱」の頃、息子がまさに感染者の権利のために奔走していたことも知らずにな。二人は久しく連絡を取っていなかったし、息子の方も未だ奴をウルサスの手先だと考えていたようだ。
確かにその通りだ。奴が受けた命令は、自身の部隊を使いどんな犠牲を払ってでも秩序を守ることだった。奴は部下に武器の使用を認め、そしてそこで生まれた衝突が、舞い散る雪の中に無数の人を沈めた。
かつての奴は、確かにそんな男だった。
その後、奴は道端で息子を見つけたという。既に体温を失った息子をな。
奴が私を抱き上げた時、もしかするとその光景が奴の中で重なったのかもしれないな。
息子は奴のような感染者の為に自身の専門分野で奮闘していた。そして奴は自分が息子を殺したと思い込んでいる。なんとも悲しい話だ。
その後、奴は部隊を連れてウルサスを離れた。ほどなくして西北凍原で、感染者を虐待するウルサス人を震え上がらせる、伝説の遊撃部隊が誕生したというわけさ。
……。
この話、あの年老いた獣は、私には一言も語らなかった。
あるいは、本当に私のことを娘だと考えていたのかもしれないな。だがこれらの過去は、私には一語一句伝えてほしかったものだ。
そう、この話は全て奴の部下がしてくれたものだ。ボジョカスティ本人は、決して誰にもその過去を話さないのだ。
あの怪物の如き頑固者は、その内側に、か弱くて穴だらけの心を隠している。
私とそこに一緒にいた感染者の子供たちを救出する前に、奴の部隊は既に四つの採掘場を訪れたという。
だが私たちより前の採掘場にいた感染者たちは、我々ほど運が良くなかったようだ。彼らの死体は崩れた採掘場に埋まり、処刑を行ったウルサスの連中は既に跡形もなかったそうだ。
奴は私に何を見たのだろうか? 家族愛? 贖罪? それとも少しばかりの慰め? 私にはわからない。
……ゴホッ、ゴホッ。
恐らくな、だが、なんてことはない。もしかするとアーツを使いすぎた後遺症というだけかもしれん。
たが今回は特に強烈なようだ。こんなことは、これまでに一度しかなかった。
気絶、全身麻痺、意識が戻った後も身体が動かない……どれも経験したことはある。自分の状況は自分が一番よくわかっている。
無理な話だ、まさか私の代わりにお前が戦ってくれるとでも?
ロドスの……何と呼べばいい?
Dr.{@nickname}?
Dr.{@nickname}。
……お前たちロドスが良い戦士たちであることは認める。だがやはり信頼を置くことはできない。元はただの製薬会社という話も眉唾ものだ。
戦闘以外のことは、私とは関係ない。
チェルノボーグで、お前たちの戦いを観察させてもらった。お前たちが、確固たる信念を持って行動しているのは、私もこの目で確認できた。しかし、だからといってお前たちの善悪は判断できない。
……アレックスがお前たちの手にかかり、命を落としたと聞いた。その報を受けて、お前たちを疑わざるを得なくなった。
お前たちをここから逃がしてやることはできない。お前たちがこれから更に多くのレユニオンの感染者を傷つけることを防ぐために。
だがお前は私の無駄話を文句も言わず聞いてくれた……。
お前たちは恐ろしいものだと言われているが、その全てがそうとは限らないのかもしれない。
他人に死をもたらす相手を、恐れない者などいないだろう?
Dr.{@nickname}、今のお前は、恐れているか?
恐怖を感じるのは当然のことだ。
それがつまり、お前はまだこの大地に未練があるということだ。お前には、まだまだできることがある。
そもそも、お前には恐怖という感情はあるのか?
大いに疑問だ。
死に直面しているにも関わらず、それだけ落ち着いていられるというならば、お前には欲というものがないのかもしれないな。
面白い。怖くないのか?
死を恐れないとするなら、お前はもうこの大地に未練はないのだろうな。
私も常に考え、自らに問いかけている……。
「死が怖いのか?」と。
ウルサスの駐留軍が、私のことをスノーデビル部隊の姫君、厳冬の死神などと呼んでいると耳にしたが……。
実際のところは、私たちはボロボロの小隊の集まりに過ぎず、凍原をのたうち回り、なんとか生きながらえているだけなのだ。
私のアーツは強力だ。それは敵や仲間の眼差しを見れば、否が応にでも分かることだ。
とは言え、私の身体は見ての通り、一人の鉱石病に蝕まれた感染者の身体に過ぎない。
それでも、私は自分が特別であると感じた。病の痛みによってではなく、私の冷たさがもたらすある種の感覚によってだ。
私は自分の能力を祝福だと考えたが、ボジョカスティの石頭はそれを呪いだと言った。
深い泥沼を渡り、脚が冷たい水に浸っても、私はそれを冷たいと感じない。
あの石頭は、私たちが戦場に出ることを許さなかった。だが奴の部下たちの間では、かなりの死傷者が出ていたことを知っている。
ある夜、奴がランプを灯し、一人テーブルに佇んでいるのを見た。確証はないが、泣いていたのかもしれん。私には慰めてやるべきかどうかもわからなかった。
奴と出会ってから五年程経った頃、私は初めて敵の前で寒流を呼び出した。
一人の兵士が氷の塊になり、もう一人がその氷の上に滑り転げ、最後に二人は粉々になった。
それから私は戦闘に参加するようになり、兵士たちは畏敬の眼差しで私を見るようになった。兄弟姉妹たちはそれを誇りに思ってくれたのか、他の感染者たちにこう言った——
「この人こそ俺たちの姐さんだ、俺たち全員の命を救ってくれた人なんだ」と。
だが、私のアーツは本当に誰かを救ったのか?
あの採掘場出身の子供たちは、私が作り出した源石を背負い、私と共に「スノーデビル小隊」と呼ばれる存在になった。
あの源石は私の寒冷を撒き散らし、感染者の怨敵たちにその凍えんばかりの冷気と復讐をもたらした。
だがあれは……ただ「冷たい」だけだ。新しい命を生むこともできない、冬の冷たさに過ぎない。
それでも、私は自分が幸運だと思っている。兄弟姉妹たちが生き延びることができたのだから。
そう、この大地で生き延びたのだ。
普通の人……
普通の人とは、どんな人だ?
チェルノボーグで感染者が処刑される様子を、ただ冷やかに見ていた市民か? それとも採掘場で感染者を撃つことを快楽にしていたあのウルサスの兵たちか?
あの監視官たちの顔を思い浮かべる度に、私は悔しさで歯を噛みしめている。奴らの喉を切り裂き、その血を啜ってやれないことが恨めしい……。
……。
だがウルサス人そのものを恨んでいるわけではない。
我々の遊撃部隊が雪原を渡っていた時、谷底から撤退していた時、そしてウルサス軍に追われていた時……。
窓際にクワスを置いてくれたのも、ウルサス人だった。
冷血なのはウルサス人そのものではない。私の敵は、感染者を死に追いやるウルサス帝国だけだ。
洗脳されて感染者を恨むようになったウルサス人も、怨恨に目を曇らせる前は、ただの一人の人間だった。そんなただの人間は、私は怨敵とは見なさない。
ウルサス帝国とは、ただ「敵同士であれば殺し合う」という理由だけで、ここまで戦ってきた。それだけだ。
私は感染者だ、それは間違いない……だが感染する前は、同じようにただの人間だった。
……私とボジョカスティの一番の不和の原因は、奴があらゆる手を尽くして感染者団体を擁護する点にある。
「レユニオンは、感染者が知る中で、最も頼りになり、その名が一つ目に、挙がる、団体となる、べきだ。」
「レユニオンが、どのようになろうと、我々は、それを直接、葬るわけには、いかない。レユニオンの、崩壊は、感染者全ての、自信を奪う。明日を戦う、自信を。」
——あの老いぼれはそう言った。そしてそれを心から信じていた。
ああ、それが今の奴の話し方さ。それの、ゴホゴホッ、真似をしてみただけさ。
Dr.{@nickname}、ロドスが何故、今に至るまでほとんど無名の医療機関でいられているかわかるか?
お前たちは表舞台に立たないからだ。表舞台に出てくれば、今のレユニオンと同じ道を辿るようになる。
そう、お前たちも同じ道を歩むことになるのだ。
フンッ。
凍原を転げ回って十数年経ったある日、一人の感染者の女が私たちに手を差し伸べた。「私と来い、全ての枷を打ち破る為に」と。
彼女はたった一人で、手にした名簿と連絡帳以外に、何も持っていなかった。想像してみろ。私たちは戦場跡の古い廃都市で彼女と出会ったんだ。
彼女の言ったことも、笑えるほどに荒唐無稽だった。
それでも彼女は我々に「私と来い」と言った。
彼女は我々と共に戦い、その考え方や力量が認められ、我々の友人となった。その後、我々は共に雪原を離れ、あるウルサスの都市へと向かった。
彼女が熟考しながら紡いだ言葉も、私との訓練に励む際に振るった大剣も、そう、彼女が背負っていた力は誠実で重いものだった。
怪我をした戦士の治療をする時も、彼女はそこにいた。感染者たちに我らの策略と彼女の学説を説く時も、彼女はそこにいた。そしてウルサス殲滅隊と戦う時も、彼女はやはりそこにいたんだ。
……あの頃の我々は、時として非感染者たちと食事を共にすることもあった。彼女は身分など気にしてはいなかったのだ。彼女の眼差しは嘘を付かない。
我々の部隊は、日を追う毎に大きくなり、その連帯感も強固なものになっていった。彼女が連絡をとった仲間たちは、皆手練で、皆良い人だった。
私は彼女のことを本当の友人だと思っていた。このキャンディは、彼女が何も言わず作ってくれたものだ。不器用で、見た目もひどいものだったがな。
これを彼女が一つ食べた時の、何とも言えない表情は未だに覚えている。奇妙な味を我慢しながら、私に笑顔を見せてくれた。
あの表情は本当に可笑しかった。彼女が無理をしているのは一目瞭然で、どうにも笑いを堪えられなかった。
今となっては、全てが変わってしまったが……。
お前が目にした通り、チェルノボーグは天災に沈んだ。多くの一般市民は、死ぬか新たな感染者となった。
彼らの目からは、生きたいという意志はもう微塵も感じられない。
これが彼女が求めていたものだと言うのなら、私たちは初めから彼女と共に行くことなどしなかった。
お前が知らない秘密を一つ教えてやろう……。
今、彼女は龍門を奪取しようと画策している。チェルノボーグの時と違うのは、それを瓦礫の山にするのではなく、そのまま感染者たちの都市に仕立て上げようとしていることだ。
そんなことをしようとする者を信じられるか?
もし昔の彼女の姿が一種の演技だったとすれば、彼女はこの大地の全ての者を欺けるだろう。
一つ、片時もこの頭を離れない考えがある。
「もし彼女と正面から衝突すれば、どれほどの勝算があるのか?」
我々が袂を分かつことになるのなら——彼女が感染者たちを欺いているのなら、あるいは感染者の不利になる陰謀を画策しているというなら……。
私は彼女と戦うだろう。彼女には、裏切りの代価を払わせる必要がある。
幾度もくぐり抜けて来たウルサスとの死戦で、私の思考や能力は鍛えられてきた。
はっきりと言えるのは、私がたとえ敗れたとしても、彼女を道連れにすることはできるということだ。
だがあの石頭の老いぼれは、私の考えに賛同しないだろう。奴は長く戦いすぎた。老いそのものが、犠牲しか生まない道を奴に強要している。
奴は敵に対しては意志が堅く、友人に対しては誠実な男だ。それらの友人を守ると決めたからには、嫌でも彼らが直面する現実に向き合うことになる。それが奴を弱くするのだ。
生涯他人を信じ続けてきた老いぼれ……あの石頭は、信じる者に裏切られたらどうすればいいかなど、一度も考えたことはないのさ。
あるいは、その苦しみを無理に飲み込んできたのかもしれない。裏切られたことの苦しみを一人で受け止め、誰にも何も語らずにな。
レユニオンには、噂を聞いて加入してきた感染者もいれば、自身の行動の全てが許されると考えている感染者もいる。
レユニオンの内部派閥は細分化されつつある。だが我々のリーダーは何もしないままだ。それらの行為を黙認している節さえある。
龍門の件が落ち着いたら、私はチェルノボーグに戻るつもりだ。今回ばかりは、どうあっても彼女と向き合うことになるだろう。
私に残された時間は……もう多くないからな。
……兄弟たちには居場所を、いつか帰れる家を見つけてやると約束してある。私が倒れる前に、その約束も果たさねばならないな。
フロストノヴァ
お前のその眼差しが、お前は新たな殺戮者にはなり得ないと教えてくれたからだ。
フロストノヴァ
自らを疑うのは良いことだ。そうでなければ、何かを盲信してそれに入れ込んでしまうことは避けられない。
……いまの外の音が聞こえたか?
上の瓦礫を掘り起こしているようだ。
私の身体ももう……。
大丈夫だ……指が動かせるようになった。
ありがとう。
私の暇つぶしに付き合ってくれただろう。改めて感謝する。
Dr.{@nickname}、一つ賭けをしないか。
……。
もしお前の仲間が先にここを掘り当てたら——
私はお前とお前の仲間たち全員を一瞬で殺す。
逆にもし私の兄弟姉妹たちが先に掘り当てたら、お前の命はそこまでだ。
どうだ、賭けるか?