沈黙者の憤怒-1

11:30 a.m.
迷彩狙撃兵
タルラ様。
タルラ
よく戻ってきてくれたな。ご苦労だった。
随分大きな部隊になったな。皆、龍門にいた同胞なのか?
迷彩狙撃兵
はい。数多くの感染者が我々と共に来ました。
まさかこのような形で救助していただけるとは思いませんでした。
タルラ
チェルノボーグの資源を利用すれば、より多くの人々を救うことができる。さらに、この中枢区画は我々が龍門を攻め落とす際の絶好の武器となるのだ。
迷彩狙撃兵
え? い、いや、お待ちくださいタルラ様……
そもそも、龍門の状況が作戦と違ったのはどういうことですか? 大勢の仲間たちがあそこで無駄死にしてしまったんですよ!
レユニオン構成員
貴様、口の利き方に気をつけろ!
タルラ
よい。彼の言葉は間違っていない。
同胞たちはずっと奴らに苦しめられてきた。そして我々の作戦すらも敵の狡猾な罠によって大きく頓挫させられてしまったのだ。
だが、一時的な妨害に遭ったとしても、レユニオンは必ず彼らの仇を討ってみせよう。彼らの受けた傷、払った犠牲は全て、やつらに償ってもらう。
安心するがよい。私はいつでも君たちと共にある。
迷彩狙撃兵
……そう願いたいですね。
タルラ
む、君が背負っているのはメフィストか? ということは彼は——
…………
ファウストは、メフィストを救うために自身を犠牲にしたのか?
迷彩狙撃兵
……そうです。ファウストは俺たちを逃がすために、アーツで皆の移動ルートを擬装したんです。自分の命を投げ出してまで。
タルラ
ほう?
…………
君たち同様、我々……レユニオン・ムーブメントは、ファウストのことを永遠に忘れないだろう。
彼を——メフィストを早く休ませてやってくれ。
君たちを今の駐屯地へ連れて行かせよう。
迷彩狙撃兵
それとタルラ様……クラウンスレイヤーは消息不明です。どの方角に向かったかも確認できていません。
それとスノーデビル小隊は、フロストノヴァさんを含め、全員……
タルラ
…………
とてつもなく悲しいニュースだな。
少し……一人にしてくれ。
タルラ
…………
サルカズ。彼らには都市内のレユニオンと接触させるな。
サルカズ戦士
どの程度です?
タルラ
一切だ。徹底的に、永遠にないように。
タルラ
ファウストに私の知らない能力があったとは……戦いの最中に成長したのか、それとも——
わざと隠していたか……そんな常識を超えたアーツについて、彼は私に黙っていた。
……寡黙は格好の偽装というわけか。しかし予想外だな。てっきり生き残るのはファウストの方だと思っていた。
それならば、たいして驚きはしなかったのだが……
???
……お前は誰だ?
私は、誰?
???
何がしたいんだ?
私は、何がしたい……?
???
お前たちに……加入する? 自分のために戦う?
戦う……?
タルラ
ふっ、誇り高きウルサス人よ。
最後まで生き残るのは、お前たちの方だったはずなのだがな……
アーミヤ
都市の移動速度が元に戻ったようです。停止した時間はほんの僅かでした。
楽観的に考えれば、レユニオンは龍門から出てきた一部の感染者を受け入れたはずです。そうであってほしいです。
ケルシー
だが、それによって我々も作戦変更を余儀なくされるだろうな。
今後もこの移動都市は、何度か停止すると予想される。敵指揮官が馬脚を露わして、感染者難民の受け入れを拒否しない限りは。
もしウェイが、停止したタイミングで攻撃を展開すれば、敵は防衛配置を変更するだろう。そうなれば我々は奇襲のアドバンテージを失うことになる。
アーミヤ
フミヅキさんが少しでも引き止めてくださることを祈ります……
でも、もうずいぶん中央エリアに近づいてきましたね。
地上と地下を走る無数の通路が、都市の流通システムの一部だったようです。天災の影響によって、システムは全産業施設と共に停止していますが。
こんな状況で、都市自体がまだ活動していて、さらに移動まで……これはケルシー先生が言ってた地下施設と何か関係が?
とにかく、この通路は私たちのいい侵入経路になってくれてます。敵の守衛の数はほぼ倍に増えてますが……
都市に入ってから、まだそこまで多くの交戦は発生していません。ですがこれから中央エリアに入ると、レユニオンとの衝突や戦闘は一気に増えると思われます。
ケルシー
偵察小隊と特殊工作小隊は先に到着しているはずだ。全てが順調に進行している。今のところはな。
ケルシー
偵察小隊と特殊工作小隊には、それぞれ単独の任務がある。
今回の作戦では、ロドスの通信スペシャリストの一人、Raidianが偵察小隊を率いている。
Raidianの采配により、偵察小隊は我々作戦部隊の通信ハブとして機能する。
ここから他の隊と連絡を取れるということは、偵察小隊がきっちり仕事をしている証拠だ。
偵察隊員は常に単独隠密行動だからな。
Outcast、Raidian、それからチェルノボーグでの救出作戦で犠牲になったScout――
偵察部隊の隊長を担当するオペレーターは、隊を率い、危機の探知と報告、そして時には排除までをも一身に担う。
Raidianは、他の二人ほど戦闘に長けているというわけではないが、戦局を左右するという面では、ロドスでも屈指の人材と言えよう。
今回の攻撃はこちらの三つの作戦小隊によって行う。Raidianたちは戦闘には参加しない。
特殊工作小隊の任務は、正面での作戦とは関係ないところにある。
今は必要なことだけ知っていれば作戦に支障はない。それ以上の事については、これから自ずと判ってくる。
それぞれ役割の異なるチームによる最小編成を一単位として部隊を構成する。その強固な構造は安定した戦果をもたらす。
それに対し、強大な敵には複雑で緻密なネットワーク構造がある。喩えるなら大木のようなものだ。地中に張り巡らせた根から養分を吸い上げるため、多少枝を切られても活動維持に影響はない。
我々の任務は、地を這って接近し、土に潜って根を燃やすことだ。
ふっ。君に理解できないはずはない——
「ドクター」。
ロスモンティス
待って。
この先の遠い場所から、いくつかぼんやりした気配がする。
整ってて、方向が安定してて、互いの間隔も一定に保たれてる。
……そして硬い。慎重に移動してる。
アーミヤ
それがレユニオンの守衛部隊ですね。とりあえずは彼らとの接触を避けて、他に通れそうなルートを探しましょう。
急がないと……
ケルシー
――アーミヤ。
アーミヤ
え?
ケルシー
気を付けろ……感じないか?
ケルシー
オペレーター諸君……防護装置を着用せよ。
アーミヤ
……まさか……ロスモンティスさん、何か異常を感じますか?
ロスモンティス
ん? ……いや、私にはわからない。
ケルシー
あれは彼女のアーツの感応領域ではないよ。
アーミヤ、感情ばかりに頼るな。感情だけが感覚ではないだろう。手で髪に触れた時、最初に受ける感覚は、恋しいや嬉しいといった感情ではないはずだ。もっと表層にも意識を巡らせて。
アーミヤ
表層……?
ケルシー
内面よりも表面的なものに集中するんだ。君ならできる。
アーミヤ
はい先生。やってみます——
アーミヤ
えっと……なんだか……力を感じます。空中に何か匂いが広がっています。これはまさか……
……死体?
違う、これは死体じゃない。まさか……いや、でもどうして……?
サルカズです! これはサルカズのアーツ、死の匂いを纏った……儀式?
ケルシー
術の完成後は自律的に作動する、古い儀式だな。
――これは現代のアーツでも、戦術でもない。
アーミヤ
はい。でもこれは普通じゃありません。こんなアーツを扱うことは今のサルカズ人にはできないはず……
ケルシー先生の言った通りだと思います。おそらくこれは、現代で完成されたアーツ理論に基づくものではなく、失われたはずの古代サルカズの儀式です。
ケルシー
敵は、「純血種」のサルカズかもしれない。現代では使われるはずのないこの技術は、古代サルカズとサルゴン人の間だけに伝わっていたものだ。
アーミヤ
……これは、鉱石病と源石に関する特殊な解釈に基づいて行われた儀式です。
乱雑なエネルギーが源石核から外部に拡散されて、このエリア一帯を覆っています。
この儀式の源となっているアーツの波動が、生命活動にどれほどの影響を与えるか想像もつきません。
自身もその周囲も……全ての生物がその波動に浸食されます。
これは現代の戦術の需要には合致しません。なぜならそれによってもたらされる損害が成果よりも大きくなる可能性があるからです。
ケルシー
巫術「人喰い」。
確かこの儀式はそういう名前だったはずだ。不穏にも程があるが、それに見合った凄まじい殺傷力を持つ。
儀式で使用される装置を「祭壇」と呼ぶのも無理からぬことだ。
アーミヤ
私……普通のサルカズ傭兵にこんな術が使えるとは思えません。
カズデルで、長年にわたってアーツの研究と実戦の経験を積んだ人でなければ、こんな儀式を行うことなどできないはずです。そしてそんな人は、術師である必要すらない……
その人はきっとカズデルのサルカズに違いありません。各地で放浪しているような、混血のサルカズではないと思います。
……ケルシー先生、二つ目に用意した防護装置は、こういうアーツの威力を消すためのものですよね?
ケルシー
完全には無理だ。儀式が生み出すエネルギーは、装置の耐久性能を遥かに超えている。
天災で破壊されたこの都市では、儀式は最大限の効果を発揮する。
我々の防護装置では、儀式による影響を相殺することはできない。古に創られた巫術だからこそ、その威力は計り知れない。
我々にできるのは、防護装置でそのダメージを少しでも削ぎつつ、エリア全体を制圧してから「祭壇」を破壊することだ。
サルカズの儀式は、現代アーツへの挑戦というだけではない。
あれは、この大地にある他の全文明へのアンチテーゼとも言える。歴史上のサルカズたちがそう画策していたように。
ケルシー
ああ。だがサルカズの歴史は比喩ではない。
チェルノボーグの中枢区画を守っているのは普通のレユニオンだけではない。この点については既に話したはずだ。
連中はおそらく、「ニューラルネットワーク」における各「中枢」を頼りに、大規模な連携行動を取っているものと予想される。
そんな集団に対し、通常の近代的戦略を想定して応戦しても、連中はセオリーに反する動きをするだろう。
想像してみるといい。近代における戦争の経験しかなく、サルカズの戦い方を知らない部隊が、連中の前にのこのこ出て行ったら……
惨敗は火を見るより明らかだ。
アーミヤ
……わかっています。
少し……考えさせてください……
……Dr.{@nickname}、ケルシー先生。
敵が「祭壇」を設置する場所は、きっと重要な拠点か、交通の要所であるはずです。
彼らはこの都市を熟知しています。私たちの通りそうなルートや、潜伏しそうな場所……彼らは先回りしてそこに「祭壇」を仕掛けるに違いありません。
私たちの唯一の利点は情報です。私たちは敵の布陣を知っているのに対して、彼らは私たちについて何も知らないも同然です。
……ですから、まずはこのエリアにいる敵をいち早く排除する必要があります。早ければ早いほど安全です。彼らに、他の守衛部隊へ連絡する隙を与えてはいけません。
待ち伏せは諦めましょう。ここで時間を無駄にできませんから。
ケルシー
いいだろう。私が奇襲に同行しよう。
アーミヤ
えっと、そうですね……
先生、あの、もし……
ケルシー
――わかった。
私の助力が必要ないなら……Dr.{@nickname}。
ケルシー
アーミヤの采配に協力してやってくれ。
状況の判断は君たち自身に任せる。
アーミヤ
はい!
アーミヤ
ロスモンティスさん、行きましょう!
アーミヤ
この戦いが終われば、地上に到達できます!
少なくとも……陽の光を見ることができます。
ロスモンティス
陽の光~
ケルシー
…………
(ふっ。)
(あとは任せた、Dr.{@nickname}。我々を失望させないでくれよ。)
ケルシー。あなたを失望させるようなことはもう起きないわ。
同じ川に再び足を踏み入れることなんてない。同じことは二度は起きないの。
同じ人、同じ場面でも……時代が違ったならば、きっと違う結果を残してくれるわ。この大地は……きっと変えられる。
だけどあなたは、信じないのね?
ええ……それも無理ないわ。
だけど私は信じている。Dr.{@nickname}という人を……私にはわかる、今のこの時代じゃなければ、Dr.{@nickname}はこんな人間にはならなかったはずよ。
あれほど多くのものを共に見て、経験してきたのだから……たとえ全ての人に拒絶されても、私はあの人を肯定する。
ケルシー……ケルシー。
もう少し……私たちにもう少し時間があれば……きっと……
ケルシー
(君が、過去のDr.{@nickname}とは違うと証明してくれ。)
(今こそ……)
(いや、どういう状況でもだ、Dr.{@nickname}。君はそうする他に選択肢はない……)