燃焼の断章2
切りつけ、突き刺し、振り下ろし、薙ぎ払う……剣が敵陣を隈無く舞い踊る。
泣き叫ぶ声、怒号、呪いのようなつぶやき、咆哮が鳴り響いた後、戦場は静けさを取り戻した。
その間、ロスモンティスの表情は一切変わることはなかった。
ロスモンティス
片づいた。
敵の陣地と待ち伏せ地点はもうないから、これで前に進める。
盾兵
見事だ、フェリーン。味方に怪我一つ負わせることなく終わらせるとはな。
それに、奴らの頭を貫く際のお前の手腕は、速度といい、精密性といい、思い切りの良さといい、どれも素晴らしかった。
お前が大尉を殺ったことを知らなければ、仲間としてスカウトしていただろうな。
お前は天性の戦士だ。あのコータスに付き従ってるのが、惜しくてならない。
ロスモンティス
アーミヤの悪口は許さない。
盾兵
いや、批判したわけじゃない。
俺が、ずっと前に聞きたかった言葉、そしてかつて耳にしたことのある言葉を彼女は口にした。
彼女はいい奴さ……フェリーン、あいつは善人だ。
だが、それでは通用しない。無理なんだよ、フェリーン。
ロスモンティス
私は、アーミヤならできるって信じてる。
盾兵
そうかもしれないな。だがお前たちが一緒にいることは、お前にも彼女にも良くない。
ロスモンティス
どうして?
盾兵
お前たちは違う種類の者だからだ。
ロスモンティス
違う種類ってなに? アーミヤとは仲良しだよ。たくさんのことを教えてくれる。
盾兵
ふっ……そのうちわかる。
ロスモンティス
もったいぶって……別にそんなこと知りたくもないけど。
さっき、私をスカウトしたいって言ったの?
盾兵
ああ。
俺たちはどんな者も拒まない。
感染者の運命を嘆き、ウルサスに怒り、戦いたいと思うならな。
お前は合格だ。
お前、俺たちの隊にはウルサス人しか――この国の民しかいないとそう思っているんだろう? それは違うぞ、フェリーン。
ロスモンティス
……あなたも、フェリーンなんだね。
盾兵
俺はレム・ビリトンで生まれ育った。そして両親に連れられてウルサスに渡り、この凍える大地に根を張ったのさ。
幼い頃からケンカ好きでな。だから、軍に入ることに決めたんだ。
ウルサスの入隊試験はフェリーンにとっては厳しいものだったが、俺は合格することができた。
そして、大尉の部隊に入り、大尉と共にあちこちを戦って回った。十年もの間な。
戦争、戦争、そして戦争。これがウルサスだ。
かつてはこの国を誇りに思っていた。
俺だけじゃない。そう思っていた者は無数にいるだろうな。
ロスモンティス
それなら、どうして……?
盾兵
俺の両親が鉱石病に感染し、都市を追い出されたあげく、荒野で命を落としたんだ。
しかも、二人が死んだと俺が知ったのはその半年も後だった……
ロスモンティス
……!?
盾兵
俺のような経験をしたやつなんて珍しくもない。
お前も、同じような経験をしたと聞いた。
だがウルサスで起きていたことは、それだけじゃなかった。
もし、俺だけが不幸にもそういう星の元に生まれたって言うなら、まだ納得できていたかもしれない。
だが、そうじゃなかった。
かつては戦争だけが、俺の頭の中に存在するたった一つの目的――やるべきことだった。
だが、その時になってようやく考えるようになったんだ。そして、ウルサスを知ろうと思った。これまで俺が命を懸けてきたこの国を理解しようとした。
大尉がいなけりゃ俺なんて、司令部での不敬罪でとっくに軍事裁判にかけられていたはずだ。
そして、大尉に付き従い北原に足を踏み入れ――
今日まで歩んできた。
耐えること、怒ること、憎むこと……全てこの間に身につけた。
ロスモンティス
……アーミヤが、そういうのは身につける必要ないって言ってた。
盾兵
お前も、いつかは身につけることになるさ。
その感情を上手く扱えなければ、逆に呑み込まれてしまうからな。
ロスモンティス
つまり、パトリオットはあなたの家族なの?
盾兵
二十年も一緒に戦ってきたんだからな。大尉は最高の兄弟であり、最も親しい戦友、そして最も尊敬する存在だ。
間違いなく、家族だ。
やはり言わせてもらおう。お前は俺たちといる方が合っている。
ロスモンティス
それなら、アーミヤも入れてくれる?
盾兵
あのコータスか? それは、無理だな。
彼女が俺たちに加わることはできない。
ロスモンティス
それなら私も入らないよ。
盾兵
それに言っただろう。お前は大尉を殺した。だから俺が仮にお前をスカウトしたところで、本当に俺たちの仲間に加わることなんてできないのさ。
ロスモンティス
別にいいよ。
盾兵
いいか、これだけは覚えておけ。彼女はお前を守ろうとしている。しかし、お前より早く命を落とすだろう。
ロスモンティス
どうして、そう言い切れるの?
盾兵
似たような人を、知っているからだ……
どうやら、盾兵は何かを思い出しているようだった。そして、それ以上ロスモンティスには構わず、兜を被り直すと仲間のもとへと歩いて行った。