暗雲の中へ
冬ごもりの山が、のっぽの煙突背負って♪
キャタピラーが我が家をがたごと引いていく♪
錆び付いたネジの隣のドブに、どんぐり見つけ……♪
ホルン
――倉庫内に入った。偵察チーム、状況を報告して。
トライアングル
南東にバイタルサインあり。隊長の位置から七列目の棚付近、活動範囲は1メートルです。
ホルン
数は?
トライアングル
一つです。
ホルン
源石反応はどう?
トライアングル
現状、ありません。
ホルン
よし――各自、配置について。
ホルン
ちょっと、バグパイプ?
バグパイプ
はい、隊長!
ホルン
何か気になることでもあるの?
バグパイプ
えっと、誰かの歌が聞こえた気がして……
ホルン
歌はターゲットが気を緩めている証拠よ。集中して。
ホルン
作戦通り、私の合図で突入してちょうだい――さあ、行くわよ。
ホルン
5、4、3……
ホルン
用意――!
バグパイプ
遮蔽物を破壊! 突入!
慌てる青年
わっ――!?
慌てる青年
ごほ、げほごほっ……な、なんだ!? 急に煙が……!
ホルン
動くな! その場で両手を挙げなさい!
慌てる青年
お、お前たち……ヴィクトリア……ヴィクトリアの兵士か?
バグパイプ
それはそうだけど、おめーさんもヴィクトリア人でしょう?
慌てる青年
う、ううっ……
ホルン
ターゲットは逃走する気よ! チェロ、止めて!
バグパイプ
待って隊長! あの人、出口には向かってない――引き返してる!
ホルン
!!
ホルン
トライアングル! ターゲットは後ろの棚へ向かってる! 源石反応を感知したら即、狙撃して!
ホルン
ほかのメンバーは、この盾の後ろへ!
ホルン
早く!!
ホルン
……ッ!? バグパイプ、何を!?
バグパイプ
――
バグパイプ
目標物は押さえた! 総員退避して!
ホルン
あなたっ――
バグパイプ
――!
トライアングル
隊長、源石反応がありません。バグパイプが押さえている箱は爆弾ではないようです。
バグパイプ
ほんとに? ふぅ~……なら、一安心だね。
ホルン
……ターゲットの男性は?
バグパイプ
それがその、ちょっぴり強めにぶつかったから、しばらく伸びてると思う。
ホルン
じゃあ、この箱は……
バグパイプ
うちが見てみるよ。どれどれ……ジャガイモと、ニンジン、それにカリフラワーだ! はぁ、もったいないことしたなあ~。美味しそうな野菜がぺちゃんこだべ。
ホルン
……
警戒を怠らずに、確認を続けて。
バグパイプ
これも、こっちも。この列も……みーんなおんなじだ! 隊長、この倉庫には野菜と果物しかないみたいだよ。
ホルン
トライアングル、周囲から接近してくる人物がいないか、目を配っておいて。
オーボエ、あなたはバグパイプと一緒に倉庫を調べてちょうだい。何か見つけたら、すぐに合図するのよ。
チェロは地面に倒れているターゲットを捕縛して。
慌てる青年
う、ぐっ……
ホルン
さてと……それじゃ、質問に答えてもらいましょうか。
慌てる青年
し、知らない! 何も知らないって……! 俺は、毎日ここでジャガイモの仕分けをしてるだけだし……
ホルン
そう。あなた、ヒロック郡に住んでるの?
慌てる青年
あ、ああ……
ホルン
なら、「亡霊部隊」について聞いたことはある?
慌てる青年
ぼう……何だって? ……は、ははっ、し、知らないよ……でも、その部隊ってのは、あんたらみたいな兵士のことを言うんだろ?
ラウリーもジュリアもクリスも皆、連れてかれちまった。まさか、今度は……今度は俺の番なのか?
ホルン
落ち着いて、話を聞いてちょうだい。
ホルン
いい? 昨日の夜遅く、源石製品がこの倉庫へと運び込まれるのを見た人がいるの。だけど今、ここに現物はないわよね。その理由を説明してもらえないかしら。
慌てる青年
説明……? 本気でそんなもんがほしいって言ってんのか? 俺の首じゃなくて? お、俺はな……俺は!――ペッ。
バグパイプ
ちょっと! つばなんて吐かないでよ。不衛生だべ!
ホルン
はぁ……何か手がかりはあった? バグパイプ。
バグパイプ
全然だよ、隊長。見渡す限りジャガイモだらけ! 目撃情報が確かなら、向こうさんは相当動きが早いみたいだね。
ホルン
そう、了解。
彼を連れて行って。話すつもりがないだけで、きっと何かを知っているはずだから。
慌てる青年
ッ……ちくしょうが! やっぱりな。お前たちは、どいつもこいつも皆同じだ! あの手この手でケチをつけて、俺たちを苦しめる機会を狙ってるんだ。このヴィクトリアのケダモノめ!
バグパイプ
ん? だからおめーさんだってヴィクトリア人でしょ。そうやって呼んで侮辱になるとでも思ってるのかな?
トライアングル
――隊長、誰か近付いてきます。
ホルン
――数は?
ホルン
(小声)……散開に備えて。
バグパイプ
(小声)……はい、隊長。
トライアングル
報告。隊長、彼らは味方のようです。
???
ここか。
ヴィクトリア兵
……
バグパイプ
(小声)隊長、味方って言うけど、うちら包囲されてるよ。
ホルン
(小声)人数だけ見れば、そうなるわね。
バグパイプ
(小声)でも、聞こえてくる音からすると、外にはあんまり人を残してないみたい。うちの前の、この辺の壁を壊したら突破できるかも!
ホルン
(小声)ちょっと、落ち着きなさい。
???
……どうやら、激しい戦闘が行われたばかりのようだな。
ホルン
――私はリタ・スカマンドロス。第七前線歩兵大隊、第二テンペスト特攻隊の隊長です。
???
やあ、ご機嫌よう。スカマ……スカマンドロス中尉、だな。
ホルン
ええ。覚えやすくはありませんし、どうぞ「ホルン」と呼んでください、大尉。
???
了解した。では、ミス・ホルン。私はケリー、ルイス・ケリーだ。本名で悪いが、ここではコードネームが流行らなくてね。
ホルン
お気になさらず。ケリー大尉、あなた方もこの倉庫の調査にいらしたんですよね。
ケリー大尉
ああ。我々の方でも、情報を掴んでいたものでな。
ホルン
ならば、事の大きさはご理解いただけているでしょう。二ヶ月前、軍の輸送ルートから大量の源石製補給物資が盗まれ、この一帯で消息を絶ちました。
ケリー大尉
……ああ、ええと……
ホルン
申し上げるまでもないと思いますが大尉、こうした兵器に加えて、周辺の各郡で盗難された物品までもが、違法組織の手に渡っていたとすれば、その脅威はヒロック郡を脅かすのみには留まりません。
ケリー大尉
……ああ分かっている。説明に感謝する。
ホルン
いえ。こちらからも、ご協力に感謝します。
ケリー大尉
――ヒル!
副官ヒル
はい、上官。
ケリー大尉
この若者……いや。この容疑者を、兵営に連行しろ。
バグパイプ
えぇっ、なんでよ! うちらがやっと見つけた手がかりなのに!
副官ヒル
上官、彼女の矛が任務遂行を妨げているのですが。
ケリー大尉
うむ、あー……そうだな……
ホルン
……
ホルン
バグパイプ、矛を下ろしなさい。
バグパイプ
だけど、うちらの任務は――
ホルン
――私たちは今、ヒロック郡の管轄地域にいるのよ。
ケリー大尉はポケットからハンカチを取り出し、額の汗を拭った。
ケリー大尉
わかってもらえて嬉しいよ、中尉。……君と、そちらの若いヴイーヴルの女性、それからほかの諸君も……
ええと、とにかく皆、ロンディニウムから駆けつけてきたんだし、過酷な道のりで疲労も溜まっているんじゃないか?
ホルン
これはヴィクトリアの軍人として、我々が負うべき責務ですから。
ケリー大尉
確かに、その通りだな。……それで、もしこの後も君たちがヒロック郡で活動したいと言うのなら――
ホルン
――無論、我々には引き続き、源石製品窃盗事件を調査する義務があります。ロンディニウムからの命令に基づいた活動ですので、恐らくハミルトン大佐にもご理解いただけるかと。
ケリー大尉
もちろん、もちろんだとも。我々と共に、兵営へ来てくれても構わない、という話だよ。
バグパイプ
隊長、本当に引き渡していいの? 絶対、わざとこうなるように仕向けられてたよ! きっとこの人たち、うちらが郊外に入った時から、ついてきてたんだよ!
バグパイプ
それで、うちらがこうして捕まえたからって――
ホルン
――「帝国駐屯軍には、駐屯地の治安を脅かす事件に対処する責任がある」。
ホルン
彼らの行動は、規定に反するものじゃないわ。
バグパイプ
う~……わかった。
ホルン
ケリー大尉。捕縛した人物は、そちらに引き渡します。ですが規定により、我々も取り調べには参加できますので――その点はどうかお忘れなく。
ケリー大尉
規定か……は、ははっ……確かに、君の言う通りだな。
慌てる青年
や、やめろ……放せ! いやだ、行きたくない!
副官ヒル
ふん……
慌てる青年
助けて……なあ、助けてくれよ! 俺は何もやってない……何も知らないんだ……!
う、ああああっ……!
ケリー大尉
おい、ヒル……
副官ヒル
ターラーのクズどもときたら、騒々しい奴ばかりだな。
ケリー大尉
……はぁ……連行しろ。
バグパイプ
ちょっと! どうしてそんなひどいことするの!?
バグパイプ
(小声)隊長、あのフェリーンのおにーさん……うちらに助けを求めてたんじゃないかな。きっと、あの人たちに連れてかれるのが怖いんだよ。
ホルン
……
ホルン
(小声)……トライアングル?
トライアングル
はい、隊長。――倉庫外の樹上で引き続き待機中です。彼らには気付かれていません。
ホルン
(小声)助かるわ。じゃあ、あなたは偵察チームを率いて、付近の輸送ルート沿いに調査を続けて。手がかりが見つかったら、すぐに報告してちょうだい。
トライアングル
了解。駐屯軍への報告は必要ですか?
ホルン
……
ホルン
いいえ。いらないわ。
ホルン
ただ……自分の安全には気を配るようにね。