悲しむ暇なく
サルカズ傭兵
ボス、ボスの言ってた通り、見失いました。
あの反乱軍ども……どいつもこいつもサンドビーストよりも小癪な奴らです。砂に潜ったみたいにあっという間に姿を消しました。
ヘドリー
……確かにな。だから、労力を無駄にしなくていい。
奴らが次に現れるまで、持ち場をしっかりと守っておけ。
サルカズ傭兵
はい、ボス。その通りにします。
???
あら、どうやら忠誠を尽くしてくれる新しい部下たちが見つかったみたいね、「ボス」。
ヘドリー
彼らはここで成果が上げられると思っている。だから闘志を燃やしているんだ。
???
彼らはあなたを信頼しているわ。私にははっきりわかるわよ。一人の傭兵が別の傭兵に寄せる信頼をはるかに超えているわね。
ヘドリー
つまりマンフレッドの計画が功を奏したということだ。
???
彼を高く評価してるのね。そういえばあなたたちは、もう本音で話し合うほど仲良しなのよね? 彼があなたに与えた新居は、書斎だけであなたが前住んでたとこより広いもの。
ヘドリー
……あれは伯爵の邸宅だ。あそこの主は俺の手で死んでいる。
???
良心が痛むとか言うつもりじゃないわよね。
ヘドリー
あの時彼はアフタヌーンティーを楽しんでいた……妻と三人の子が彼の目の前にいたな。
???
……こういうの、私たちが昔受けていた仕事とは違うわよね。でもあなた自身が選んだことよ。だからずっと昔に葬り去った良心を悼む資格なんて私たちにはないわ。
ヘドリー
なら初めから言うな。確認したいことがあるなら、直接見ればいいだろう。すべてわかっているくせに。
???
あなたがストレスを感じてるのはわかったけど、私だって楽に生きてないわよ。
まあいいわ、この話は終わりにしましょう。今は慰めを求め合ってる場合じゃないもの。私があなたを訪ねたのは、一つ忠告してあげようと思ったの――足元に注意した方がいいわよ。
ヘドリー
それはつまり……
???
傭兵なんて、それほどに信頼に値するものじゃないことは知ってるでしょう。
歩いてる時に影の動きに注意を払っておかないと、ちょっとしたことで台無しになるわよ。
ヘドリー
……伝えたいことは、それだけか?
???
いいえ、それだけじゃないわ。
こっちが本命――これだけ長い間ふらふらしてた彼女が、向かっているわ。
マンドラゴラ
みんな位置についてる?
ダブリン兵士
はい、サルカズに言われた通り、あの場所へ向かいました……
マンドラゴラ
バカ言わないで。サルカズがあたしたちにやらせようとしてることを言ってんじゃないの。
ダブリン兵士
上官、本当に今夜やるつもりですか? それでは……
マンドラゴラ
……マンフレッドの思うつぼなんじゃないかって言いたいの?
あんた、あいつが何をしようとしてるかわからないほど、このあたしがバカだと思ってるわけ?
ダブリン兵士
いえ、そんな……
マンドラゴラ
あいつはあたしを試したいのよ、なら試させてやればいいわ。
うちの連中はあいつに指図させておけばいい……でもロンディニウムにいるダブリンの人数をあいつは知らない。
ダブリン兵士
ということは、我々はやはりサルカズのために、ちゃんと門番をしなければならないのでしょうか?
マンドラゴラ
……黙りなさい。
その言い方は大っ嫌いよ。なにそれ……まるであたしたちがサルカズの……サルカズの……
マンドラゴラ
チッ、まあいいわ。あとは今日だけ耐えればいいんだもの。この件を片づけたら、ロンディニウムを離れるわよ。
ダブリン兵士
ほ、本当ですか? 上官、みんな喜びますよ!
わ……私は幼い頃からロンディニウムが嫌いでした。両親はここに来て戻ってくることはありませんでしたから……
この都市は、人を呑み込むんです!
マンドラゴラ
……ええ。あたしもロンディニウムなんて嫌い。あんた今までこんなに区画が沢山あって、こんなに高い建物があって、こんなに排水溝がある都市なんて見たことある?
クソ貴族どものテーブルから漂ってくる脂っこい匂い、嗅ぐ度に反吐が出るのよ。
でもいいわ、やっと離れられるんだから。
みんなに伝えといて、夜は「ちゃんとやりなさい」って。死んでもマンフレッドに隙を見せちゃダメ!
あと、それなりに戦えるのを十人選んで。あたしが使うから。
あんたにはマンフレッドを追わせてたわけだけど……あいつがさっきどこへ行ったかちゃんと見てたのよね?
ダブリン兵士
はい、上官。
マンドラゴラ
ならいいわ。
今夜……必ずあたしたちの「スパイ」を救い出す。
ロンディニウムでこれだけ時間を使ったんだもの……何の成果もなしにおめおめ帰れないわ。
マンドラゴラ
あたしは……リーダーを失望させたりしないんだから。
ヴィクトリア兵士
ホルンさん、おかえりなさい!
ホルン
ええ。ロッベンたちは?
ヴィクトリア兵士
とっくに戻ってきてますよ。
ホルン
そう。薬は見つかった? サリーの様子を見てくるわ。
ヴィクトリア兵士
いや、それは……行かない方が。
ホルン
どうしたの!? まさかサリーが……
ホルン
……
やっぱり見に行くわ。
ヴィクトリアはまた一人の素晴らしい戦士を失った。
一人の可愛い少女もまた、素晴らしい父親を失った。
一体、あとどれほど失えば、私たちはこの悲劇の終幕を迎えることができるのだろう。
ホルン
……
サリーの娘さんの名前は何だったかしら? アイリーン? それともエルザ? 家はアスカラ郡だったわよね。
ブレイク、サリーの遺品をまとめてもらえるかしら。戦争が終わったら、彼の家を訪ねましょう。
ヴィクトリア兵士
ですが……彼は何も遺していません。
ホルン
……何も?
いや、違うわ、ブレイク。少なくとも彼は……彼の人生を遺した。やはり彼の家に行きましょう、娘さんはきっと、父の話を聞きたいはずよ……
娘さんに伝えなきゃ。皆が絶望に呑まれた瞬間も、あなたの父親は苦難に屈しなかったってね。
ヴィクトリア兵士
……はい。私も一緒に行きます、ホルンさん。戦争が終わったら。
それと、サリーからあなたに伝言があります。
ホルン
彼は……何て言ったの?
ヴィクトリア兵士
復唱します――「中尉、申し訳ありません、ですがあなたはどうか生きてください」。
ホルン
……私に謝っていたのね。
ヴィクトリア兵士
はい。そして、私は彼の気持ちが理解できます。きっと我々みんなそうでしょう。
一兵士として、いつか自分はどこかで戦死するかもしれないと考えるのは普通です。
ですがこれだけの経験をしたことで、サリーは……いいえ、我々は本当に恐ろしいことが何かをようやく理解できたんです。
今のロンディニウムを見てください。ここは我々の家であるはずなのに、監獄となってしまいました。
我々にとって、栄誉ある戦死は、もはや過分な望みとなってしまったのではないでしょうか?
ホルン
……そうあるべきではないわ。
ヴィクトリア兵士
はい、理屈はそうです。しかし、事実として私の認識は間違っていないと思います。
そうわかってはいても、それでも……ホルンさんには生きてほしいんです。我々に希望を与えてくれたのは、あなたですから。
ホルンさんは……本来、我々の希望なんて背負う必要ないんです。これは、重すぎる荷物ですから。
ホルン
……
生きることは……死ぬことより難しい、そういうことね?
ハッ……彼女には謝らないといけないようね。
ヴィクトリア兵士
彼女とは?
ホルン
あなたたちと同じ、最も優秀なヴィクトリア兵よ。
彼女は……この話は後にしましょう。
みんなに伝えて、悼み悲しむ時間はないとね。
ヴィクトリア兵士
――!
ホルンさん、捕らわれた他の兵士の居場所がわかったんですか?
ホルン
非常に有力な場所を見つけたわ。
聞き出した情報が確かなら、サルカズは明日の午前中に、閉じ込めていた人たちを移動させるはず。
それで……どうするか、あなたたちの意見を聞くつもりだったの。
ヴィクトリア兵士
ホルンさん、聞く必要なんてありません。命令をください!
ホルン
わかったわ。日が暮れたら、すぐに行動しましょう。
クロヴィシア
ターゲットが監禁されている可能性が高いポイントを地図上に示したから確認してくれ。何か意見がある者はいるか?
アーミヤ
まだ……八箇所もあるんですか?
私たちのオペレーターを合わせても、二日以内にすべてのポイントを調査するのは難しいかもしれません。
クロヴィシア
残念だが、この八箇所はいずれも一時的な監獄として必要な条件を兼ね備えている。
まず、これらの付近には居住エリアはない。これは情報の出入りがほぼ不可能であることを意味している。
また、中央区画へ続く幹線道路の近くに位置し、サルカズ兵が都市内外を往来するのに都合がいい。
それに……私たちがいる区画とも繋がっていない。
アーミヤ
サルカズの指揮官は自救軍が地下で活動していると感づいているのでしょうか?
クロヴィシア
彼は非常に頭がキレる。決して侮ってはいけない。
アーミヤ
では……捕虜を監禁する場所なら、厳重に守っているのではないですか?
クロヴィシア
それは私たちも考えた。
偵察員に各区画におけるサルカズ兵の行動ルートを追跡させたが、残念ながら何もつかめなかった。
クロヴィシア
廃工場だ。以前はキャンディを製造する……そうだ、誤解しないでもらいたいが、これは民間工業地帯で使われている俗称だ。
実際に製造されていたのは合成コールと呼ばれる、有機化合物だ。しかしパッケージが子供たちが大好きなキャンディに似ているためみんな「キャンディ工場」と呼んでいる。
アーミヤ
キャンディ工場? 聞き覚えがあります……
クロヴィシア
Dr.{@nickname}、説明をもらえるか?
アーミヤ
あっ……思い出しました。ドクターが言ってるのは……トーマスさんのことですね?
トーマスさんは、ずっとサルカズのために働かされていたんでしたよね? サルカズが自分のキャンディ工場を使って何かをしているのを目撃して、口封じをされそうになったと言っていました。
それにダブリン……ダブリンもトーマスさんが持っている情報を求めていました。
クロヴィシア
理解した。
クロヴィシア
フェイストに伝えてくれ、私たちの第一目標は合成コール工場だ。
クロヴィシア
ハマー、キミたちは移動作業を続けて。次善の策は常に用意しておかねばならない。
自救軍戦士
指揮官!
クロヴィシア
ローレンスか。どうした?
自救軍戦士
偵察小隊が戻ってきました。地上でサルカズの傭兵に遭遇したようです――
クロヴィシア
……被害状況は?
自救軍戦士
四人が負傷、一人が……捕虜に。
クロヴィシア
すまない、会議は中止だ。様子を見に行かないと……
ロックロック
……指揮官。
自救軍戦士
ロックロック、なぜ来たんだ? 傷の手当をしたばかりだろ!
ロックロック
いや……指揮官にどうしても伝えないといけないことがあるんだ。
クロヴィシア
もしかして……
ロックロック
はい、ゴールディングさんからメッセージが来た。彼女はまだ北部の居住区の学校にいて、無事だって……
でも彼女たちは二日前の集まりで、サルカズに襲われた。
あのトランスポーターさんが……捕まったって。
クロヴィシア
……
アーミヤ
待ってください――
今おっしゃったトランスポーターさんとは、あなたたちにロドスの迎えを依頼した方ですか?
クロヴィシア
ああ……彼女がそうだ。
アーミヤ、Dr.{@nickname}、救出計画を前倒しにしたい。
クロヴィシア
彼女は自救軍にとって非常に重要な存在なんだ。多くの情報を握っていて、私たちの撤退行動にも影響を与える可能性がある。
アーミヤ
はい、わかっています……
ロドスにとっても、彼女は不可欠な存在です。
クロヴィシア
ああ。私はロドスを信じている。キミたちは必ず、サルカズに捕らわれたあの人を――
クロヴィシア
強靭な戦士であり、重要な仲間であり、我らが信頼すべき友である――ハイディ・トムソン氏を救う力となってくれると。