過去と現在の終点

「ドクター、この戦争は終わるべき時がきた。」
「例のドラコが城壁に灯した紫の炎は、戦争の歩みを大きく推し進めた。模範軍と公爵連合軍の部隊がネツァレムの最後の陣地まで前進した時――」
「この戦争を止めるという我々の目標も、ついに手の届くものとなる。」
「ですが……ケルシー先生。やっと見えた終わりまでの、ほんの少しの道を歩み終えるまでに、あとどれだけの時間がかかるのでしょうか?」
「その疑問に明確な答えを与えられる者はいない、アーミヤ。」
疲弊した負傷兵
源石……
源石め、本当に旗艦を真っ二つにしやがった。私はここで駐屯軍に加わって戦闘を続けねば……
お嬢ちゃん、申し訳ないね。これ以上、君とは行けない。
気丈な感染者
ここまで来る途中で見たのは廃墟と死体ばっかりで……駐屯軍なんてどこにもいませんでしたよ。
あと、お嬢ちゃんって呼ばないでください! 修道院の皆さんからは、成人祝いだってしてもらってるんですから――
疲弊した負傷兵
ははっ、本当にうちの娘と性格がそっくりだな。
あっちの高い方、光ってるところが見えるか? あれはカスター公爵閣下の「グロリアーナ」号の一部だ。
あの艦砲がまだ動いているなら、放送で聞いた話は本当だったということだ。駐屯軍は存在している。私は元々カスター公爵閣下の部隊に所属していたから、隊に戻るのは当然だ。
気丈な感染者
でも、その傷……
疲弊した負傷兵
君の治療のおかげで、もう歩ける。
むしろ君の方こそ、本当にこのまま街に向かうつもりか? あっちは汚染が一番ひどいエリアだ、活性源石に囲まれていたら死んでしまうぞ。
気丈な感染者
司教様が言っていました。採掘場から私を救ってくれた心優しい人も、私を修道院に送るために大変な苦労をして、長い道のりを歩いたと。
救済には必ず代償が伴うことは知っています。
私の心配はいりませんよ。危険を回避する方法なら修道士たちからたくさん教わってますから。
この命が終わる前に、一人でも多くの人を救えるなら、私はそれで……
疲弊した負傷兵
正直言って、修道士で君ほど敬虔な人は見たことがない……感謝する。君の善良さはヴィクトリアの誇りだ。
気丈な感染者
司教様が言っていました、信仰とは己が栄誉を得るために抱くものではないのだと……信仰心を持つ人々は、善行がこの大地をより良くすると心から信じています……
疲弊した負傷兵
より良くか……ハッ、かもしれないな。
なんにせよ、子ウサギちゃん、ありがとうな。君の存在に救われたよ。
最後に一つ頼まれてくれないか? もしも街に戻って、うちの家がまだあったら……私の娘がまだいたら……
伝えてくれないか。パパはここで、ずっとお前を守っていると。
ヴィクトリアの軍人は負傷した腕を無理に上げ、コータスに向けて綺麗だとは言い難い敬礼をした。その後、あっさりと振り返り、遠くの軍艦の残骸へと向かうと、源石のジャングルの中に消えた。
コータスは、遠くに見える艦砲の淡い金色の光を眺め、思わずため息をこぼした。
砲撃の音の響きが伝わってくる中で、小さなコータスはその地平線上の都市へ――ロンディニウムへと進み続けた。
「こちらにも砲声が聞こえました、ドクター。キャサリンさんの『クローラー』はすでにナハツェーラーの陣地に突撃しています。」
「ですがナハツェーラーを倒せば、この戦争は終わるのでしょうか? それに影響を受けた罪なき人たち……彼らはどうすべきでしょうか?」
「戦争の只中で、全員を救うことはできない、アーミヤ。我々にできるのは、ロンディニウム人がより早くこの災いを終結させるための手伝いだけだ。」
「それは、ナハツェーラーが我々にとっての最後の関門ではないことを意味している。」
気丈な感染者
メアリー、デービー、この子をここに隠していることは誰にも言わないでください。
城壁の下で見つけたんですけど、この子にはもう他に行き場がないんです。彼の両親はロンディニウム人で、この子が言うには、ずっと前にあなたたちとは公園で会ったことがあるんですよね?
怖がる子供
……
嫌そうな表情の子供
覚えてない。でも、お姉ちゃんは私たちを助けてくれたから、手伝うって約束する。彼じゃなくて、お姉ちゃんを手伝うんだからね!
黙る子供
……
気丈な感染者
ありがとうございます。この子はここに隠れるだけで、走り回ったり、声を出したりはしません。迷惑をかけないと約束します。
怖がる子供
(素早くうなずく)
気丈な感染者
少し離れますが、すぐに戻ってきますね。ある人に娘さんへの伝言を頼まれたんです。
一緒に連れて行くことができなくてごめんなさい。外の通りには乱暴な人たちがたくさんいて、私ではあなたを守りきれません――
それに、本当ならもっと居心地のいい場所があったらいいんですけど、今の私じゃここしか思いつかなくて。少なくとも、ここには私が助けた人がたくさんいますし、この子たちを私も信頼できます。
小さなサルカズがコータスの腕をぎゅっと掴む。だがその手に触れたのは鋭い源石結晶だった。
彼は思わず手を引っ込めた。
怖がる子供
(小声)ご、ごめんなさい! お父さんとお母さんと一緒にいた時は……感染者にほとんど関わったことがなくて。
気丈な感染者
……また戻ってきますね。
怖がる子供
……
嫌そうな表情の子供
……
黙る子供
……
コータスがその場を離れていた時間は長くはなかった。
住所を頼りに軍人の家へとたどり着いた時、そこには何も残っていなかった。
しかし廃墟の中で見つけた手紙によれば、軍人の娘はすでに都市でサルカズに反抗するための部隊――「模範軍」に加わっているらしい。
避難所への帰り道は、楽な道のりではなかった。ヴィクトリア人が団結して聖王会西部大広間のサルカズ軍に攻め入る傍らで、源石の影響を受ける都市内のエリアは拡大し続けていた。
そして、至る所を逃げ惑う狂気じみたサルカズ傭兵も、拠りどころを失ったように好き勝手に行動していた。
彼女は都市内の最悪な現状と、体にはびこる最悪な黒い結晶に頭が痛くなった。
「もしかしたら、私の命も終点に近付こうとしているのかもしれません、司教様。」
気丈な感染者
あの……傭兵たちが避難所で騒ぎを起こした時に、ここの人たちを守ってくれたのはあなたたちですか?
興奮した軍人
はい。我々の小隊には模範軍と公爵連合軍どちらの兵士もいます。聖王会西部大広間の陣地に向かおうとしていた際、突然救援要請を受けたのです。
混乱は間もなく収まるでしょう。子供たちと避難した者たちの面倒を見ていただき感謝します。
気丈な感染者
……
興奮した軍人
あの、誰かお探しですか?
コータスは首を横に振った。
興奮した軍人
そうだ、ついでにこの近辺に隠れている魔族も片付けておきましたよ。敗北を目前にして、奴らも身を潜めようという魂胆だったのでしょう。
気丈な感染者
――!
興奮した軍人
ではこの辺で失礼しますね。我々は前線へと急がねばなりませんので。
気丈な感染者
……あの子が見当たらない。
黙る子供
……
嫌そうな表情の子供
……ついてきて。
子供がコータスを連れて、工場内にいくつもある掩体を通り抜けて行く。コータスは歩きながら、サルカズの死体を黙って運ぶ避難所の人々を目にした。
やがて積まれたコンテナの前まで来ると、先導する子供はぐちゃぐちゃに被さった覆いを苦労してどかした。
中から姿を覗かせたのは、コータスが探していた相手だ。縮こまったサルカズの子供が怯えた様子で彼女たちを見ている。
嫌そうな表情の子供
お姉ちゃんが戻ってきたよ。
守るのに手を貸すって約束したけど、さっきは急すぎて、ほかに隠す場所がなかったんだ。
黙る子供
けど、もうここにはいられないよ。
気丈な感染者
……帰ってくる途中でレユニオンという部隊に出会いました。彼らならこの子を引き取ってくれると思います。
レユニオン構成員
安心しろ、その子は俺たちがちゃんと面倒を見る――お前はどうするつもりだ?
ひどい感染状況だぞ……お前も一緒についてくるべきだ。
気丈な感染者
私は……まだやらないといけないことがあります。
レユニオン構成員
そうか。ならば無理強いはしない。お前は俺の知ってる多くの仲間に似ているよ。
この抑制剤と防護装備は餞別だ。じゃあな。
気丈な感染者
……さようなら。
遠くの方で、ヴィクトリア人が次から次へとナハツェーラーの王が構える最後の陣地へと向かって進み、命が消えてゆく。
それは彼女の戦争ではない。彼女は怖いと思った。どうして人々が死の恐怖を感じてなお、戦いの中に身を躍らせるのかも理解できなかった。
しかし、コータスの少女はたくさんの人を救いたいと願っているのだ。このまま何も考えずに、ひたむきにたくさんの人を……一人また一人と救うつもりだ。
……たとえそれが無駄だったとしても。
修道院を去ったあの日、河畔の教会の外で司教と座り、別れを告げた時のことを思い出した。
司教
ふむ。信仰とは何か、か。
ははっ……若い頃に諸国を巡っていた時イベリアを訪れた際に、大いなる静謐により人々の生活が崩壊する様を目にしたことがある。しかし、かの国は決して屈しなかった。
初めはイベリアのしぶとい生命力に感心していただけだったが、それから歳を重ねるにつれて少しずつ気付き、理解したのだ……
あのような生命力こそが、信仰なのだ。
あの時、私やイベリア人に進むべき道を教え導いてくれる者がいただろうか? 必ずやあの恐ろしい災いを乗り越えることができると保証してくれる者がいただろうか?
いいや、誰もいなかった。しかし災いを前にした時、私たちは常に己に言い聞かせるのだ。いま経験していることには必ず意味があり苦難はいずれ終わるものだと。美しい未来が訪れるのだと。
これこそが信仰だ。
信仰は経典の中にあるわけではなく、祈りの言葉や賛美歌の中にもない。私たちの命の中にこそ存在する。
信仰は私たちの身体と思考に、心臓の鼓動一つ一つに、そして繰り返す呼吸の中に宿っている。信仰こそが、私たちが持つ全ての力の源なのだ。
……「信じる」という一事が、それを為す。
気丈な感染者
司教様。もし本当に司教様の言うように、どのような苦難にも終わりがやってくるなら、来るべき美しい未来は、どこにあるのですか……
司教様……私は、もう力を尽くしているはずですよね。
コータスは疲れ果てて廃墟の中に倒れる。砲火と微かな泣き叫ぶ声が遠くに聞こえている。
この体に、終わりがやってきたのだという残酷な事実を、激しい痛みが彼女に告げている。
コータスは周囲の者たちに手を振った。彼女が救った人々から遠く離れ、がらんとした場所に一人残る。
彼女の体が崩壊を始めた。
気丈な感染者
……私は信じます。
彼女の目が捉えることのできる光は次第に少なくなり、ついに永き闇夜が視界を覆った。
しかし、崩れかけている自分の手を誰かが握り締めているような気配を感じた時、再び視界に光が戻った。
アーミヤ
……!
また、聞こえた気がしたんです……感染者が崩壊する音が。
離れた場所であっても、去りゆく人が最後に放つ光は、いつも見えます。私たちからそれほど遠くない場所です。
ここしばらくの間で、もう数え切れないほど見ました……
ドクター、行きましょう。
ドクター?
情報の波が彼に押し寄せ、呑み込まんとしている。
しかしテレシスは身じろぎしない。
テレシス
テレジア、そなたが創り出した偉業を、ついにこの目で見たぞ。
テレシスは虚空にそびえる塔を見上げる。崩れ落ちた欠片が再び無秩序な情報となって虚空へと帰る。
彼は舞い落ちる欠片を掴んだが、握り締めたはずの欠片は跡形もなかった。
テレシス
そなたが私のためにこの扉を開いてくれた。最後の道のりは、そなたに代わり、私が歩み切ろう。
サルカズに属するこの源石を手にすることで、サルカズは初めて己が運命を掌握する権力を得ることとなる。
テレシスは手中の剣をきつく握り、近付いてくる巨大な菱形を冷ややかに見つめている。
そして、崩壊する塔へと歩み出した。向き合おうとしている存在はそこにいると彼にはわかっていた。
何かを滅ぼし、階段を作る。テレジアはすでに彼に道を残した。
「消えるまで争うことを諦めなかったサルカズの魂は、源石の中でサルカズのために最後のことを成した――」
「あらゆるいまだ生きる人のために、平等に生きるために戦う権利のある未来を勝ち取った。」
「みんな、前へ進みましょう。」
テレシス
これまでと同じだ。そなたは方向を指し示せ。私の剣が道を切り開こう。
私は約束を違えたことなどないぞ、テレジア――
彼は階段を上り、崩壊間際の塔の頂へと向かった。