それぞれの長所
ガヴィル
で、どうしてお前はアダクリスたちを率いて、野盗みたいなマネしてたんだ?
ウタゲ
えっーと、ちょうどいいとこに村があったから、乱戦してみるのも面白いかなーって……
クロワッサン
……さすがウタゲはん。戦うことになるとすっかり別人や。
ウタゲ
もうー、悪かったって~。
ガヴィル
だけどお前、言葉も通じねぇのにどうやってあいつらをまとめてたんだ?
ウタゲ
それがさぁ、あたしにもよくわからないんだ。
ウタゲ
あ、ネイル剥がれてんじゃん、ウザ。
ネイルセットも飛び降りたときにどっかいっちゃったんだよね。ウザウザ。
喧嘩でめちゃくちゃ汗もかいたし、ここの空気は湿っぽいし、服がべしょべしょだよ。ウザウザウザ。
ってか、ただ歩いてるだけなのに、あのアダクリス人たちはなんでどいつもこいつも喧嘩を吹っかけてくんの。ウザウザウザウザ。
ウタゲ
だいたいバカンスの名所って言われたから来たのに、ここのどこが名所だっつーの!
ウタゲ
ん? 誰かが近づいて来る? あれは……アダクリス人?
ウタゲ
っつーことで、寄ってきたヤツらを、とりあえず全員ボコボコにして――
そしたらもっといっぱい来たから、またボコボコにしたってわけ。
で、徹底的にボコしたら、みんな何か知らないけどあたしにペコペコするようになったんだよ。
イナム
あーなるほど。彼らはきっとあんたが珍獣に見えて、それで捕まえようとしてたんでしょ。ここじゃそんな恰好の人はいないから。
ウタゲ
ハァ!? このピッチピチの美少女のどこが珍獣だっての!?
イナム
えっとね、傷つかないで聞いてほしいんだけど、アダクリス人から見たら、あんたはすごく変なの。
それと、ジャイアントウッド族の族長さんもいたから話を聞いたんだけど、今はあんたがこの部族の族長らしいわよ。
ウタゲ
は?
イナム
つまりね、あの人たちは、部族の族長を倒しちゃったあんたを新しい族長だって認めて、それでついてきたの。
ウタゲ
マジ? あたしの言葉がわかんないのに? そんなのアリなの!? 面白がってついてきただけだと思ってた……
イナム
ここでは、強ければなんでもアリなのよ。
ウタゲ
ドクター、どうしよ……
ウタゲ
ううう、ドクターの薄情者!
ウタゲ
うう、そんな目で見ないでよ、ドクター。
あたしだってわざとじゃないもん……
ウタゲ
ええ、ヤだよあたしは! テレビもエアコンもない生活なんて絶対ムリ!
ガヴィル
まぁ放っときゃいいだろ。とりあえずお前とクロワッサンとは合流できたし、あとはブレイズだけだ。
ウタゲ
ブレイズの姉さんなら大丈夫っしょ。あの人なら何があっても余裕だよ。
クロワッサン
せやな。それで旦那さん、これからどないする? 霊殿っちゅうとこに行ってガヴィルはんが言うてた祭典に参加するん?
ガヴィル
あー、そっか。お前らは知らないんだったな。ドクター、説明してやれ。
ウタゲとクロワッサンに状況を説明した。
クロワッサン
なるほどなぁ、つまり今はズゥママっちゅー人からエンジンを返してもらおうっちゅー話やな。
ガヴィル
そうだ。
ウタゲ
えっ? じゃあ祭典はもう終わっちゃったってこと?
ガヴィル
ああ。
ウタゲ
じゃああたしがわざわざ来た意味ないじゃん!
はぁ……まーいいや。なんか聞いた感じ、つまんなそーだったし。
それよりガヴィル、最初に言ってたバカンスの名所ってどこ?
ガヴィル
あ? ここいらって悪くないとこだと思わねぇか?
ウタゲ
それは、確かに……そうだけど!
でも、バカンスっぽい要素なんて一個もないじゃん!
ガヴィル
バカンスっぽい要素ってなんだよ。
ウタゲ
そりゃもちろん、海、砂浜、パラソル、アイスクリームに決まってるでしょ!
そのためにわざわざ新しい水着まで買って、服の下に着て来てんだから!
クロワッサン
えっ、水着まで用意してたんか? ウチは単純に暇やからついてきただけなんやけど……
ガヴィル
そんなもんがあるなんて、最初から言ってねぇだろ。
ウタゲ
水遊びできるって言ってたじゃん!
ガヴィル
ああ、それならジャングルの奥にでかい滝があるから、そこで遊べるぜ。
どうせ、ズゥママの部族に向かう途中に通るしな。
それに、水着ならアタシも持ってきてるぜ。まだ出してねぇけど。
ウタゲ
マジ? よっしゃー!
イナム
仲間が見つかってよかったわね。
ガヴィル
お前のおかげだ、イナム。ありがとな。
イナム
お安い御用だわ。
ああそういえば、トミミは? あんたたちと一緒にいるはずじゃないの?
ガヴィル
やることがあるんだってさ。あとで落ち合う予定だ。
イナム
そう。じゃ、この本を渡しといてちょうだい。
ガヴィル
ああ、わかった。どれどれ……『シティーレディ』、『100日で学ぶ企業管理』、『ファッション通になるには?』……
ガヴィル
何だよこのわけわかんねぇ本は!
イナム
トミミはこういう本で、サルゴン語や外の知識を勉強してるのよ。基礎を教えたのは私だけどね。
ウタゲ
うえー、そんなやり方でサルゴン語を覚えるなんて大変でしょ?
イナム
そうね。でもあの子はそうやって地道に学んだのよ。文字や単語を一つずつ覚えながらね。
あの子にとっては、勉強の大変さよりも、外について学びたいのにやり方がわからないことのほうが辛かったみたい……
あの頃は本当に見ていて痛々しくて……だから私もサルゴン語を教えてあげたくなったのよ。
イナム
ガヴィル、あんたに追いつくために、あの子は一生懸命頑張っているわ。
ガヴィル
……そんなこと、言われなくてもわかってるよ。
イナム
ただ私自身も外のことはそんなに詳しくないし、本のお土産だってたくさんは持ってこれないから、あの子が本当に役に立つ情報を吸収できてるのかはわからないんだけどね。アハハ。
ガヴィル
……どうりでなんか変だと思ったぜ。
ひょっとしてズゥママのサルゴン語もお前が教えたのか?
イナム
違うわ。ズゥママのサルゴン語は私も気になってるのよ。機械の本を頼まれたことはあったけど、サルゴン語は教えてない。知らないうちに話せるようになってて驚いたわ。
しかも彼女、部族の人たちにもサルゴン語を教えてるのよ。
ガヴィル
……ドクターはどう思う?
ガヴィル
ドクターも同じ考えか……
ガヴィル
んだよ、自分で考えろって言いてぇのか?
へっ、わーったよ。アタシの流儀で解決してやるぜ。
イナム
新規のお客さんだから、300サルゴン幣でいいわ。
ウタゲ
ドクター、もう完全にどーでもいいって感じだね。
クロワッサン
せやけど、サルゴン語を教えるんは悪いことやないんちゃう? 外と交流できれば、ここの人たちももっとええ生活ができるやろ。
イナム
かもね。だけど、より良い生活なんてできなくても、今のこの生活があればそれで十分なのよ。
あんたたち都会暮らしには理解できないかもしれないけどね。
クロワッサン
そっか……
ウタゲ
あっ、あたしはちょっと理解できるよ! あたしの故郷も極東にある田舎だから。
クロワッサン
へー、そうなんか。ウタゲはんはファッションに詳しいから、都会育ちやと思っとったわ。
ウタゲ
いやいや、あたしはただそういうのに興味があっただけだよ。
イナム
ふあ~、眠くなってきた。昼寝してくるわ。
イナム
私の部族じゃ、外に並べてあるものは全部売り物だから、欲しいものがあったらガヴィルに通訳してもらってちょうだい。
イナム
なに?