東に声して西を撃つ
Dan
烈日、荒野、黄砂、熱風! よっしゃー! 新曲が心の底から湧き上がってくるぜー!
Frost
(solo)
Aya
二人ともうるさいよ。
Alty
そうよ。せっかくこんな広くて誰もいない場所なのよ。追われる心配もないんだし、少しは静かに休んだらどう?
Aya
でもAlty、ここでも海の匂いがするよ。本当に安全なの?
Alty
Ayaは相変わらず夢がないわね。
この大地に安全な場所なんてないわ。でも私たちだって、たまにはリラックスしなきゃ。そうでしょ?
Aya
そうかもしれないけどさ。
それで、次はどうやって道を拓くの? 手ぶらで帰るわけにもいかないでしょ。
Alty
今回は、あの医者が答えをくれたわ。
Altyは手に握った「鍵」を見やった。
Dan
おいおいマジか? そりゃどー見ても普通の代物には見えねーんだけど、ホントに貰ったのか? 何かと交換したのか?
Alty
ええ、知識とね。
Dan
知識とそいつで、釣り合いが取れんの?
Alty
さあね。でもあの医者はまるで、私たちにその知識を駆使するよう促してるみたいだったわ。
Aya
知識って、あの人が知らないこと?
Alty
いいえ、私たちが知ってることなら、恐らく彼女も……
……そうね。よくよく考えてみれば、今回の取引で彼女は、好奇心を利用することで私たちを動かしたのかもしれない。
Dan
つまり、アイツは実質何も差し出してねーってこと?
Aya
うん……
Alty
そうなるわね……
Aya
騙されたね。
Alty
いいえ、誘導されたと言ったほうが正しいわ。
Dan
操られたってことじゃねーの?
Frost
導かれた。
Aya
あの医者って、そんなに重要な人なの?
Alty
いいえ。あの医者が伝えたかったのはまさにそれだと思うわ。彼女の言動は重要じゃないということをね。
そう、重要なのは、私たちがどう考えて、どう動くか……
Aya
じゃあ鍵はどうするの? 放っておく? それともやっぱり行く?
Dan
めんどくせーよ。行かなきゃダメか?
Alty
これって音楽と同じだと思うわ……私たちは、他人を無理やり変えてしまうほどの力を持つべきじゃないの。ただ自分たちの歌を歌うだけでいい。
Aya
みんなに歌を聴かせて、それがいい歌なら――
Dan
人々も歌ってくれるってやつか。
Frost
(solo)
Alty
はぁ。じゃあさらなる知識とこの鍵を、準備が整った人に渡してあげましょ。
Aya
それって誰になるの?
Alty
わからないわ。
Aya
まだ生まれてきてないのかもね。
Dan
そりゃーいいな! まだ生まれてないでくれよー!
Alty
そんなこと期待しないで、Dan。私たちはね……あら?
Aya
どうしたの、Alty。
Alty
車のエネルギーが切れたわ。
Aya
ちゃんと準備してなかったの?
Alty
してたわよ。だけど寄り道しちゃったでしょ。
それに正直に言うと、こういう公道も標識もない荒野をずっと運転してると、簡単に方向感覚がなくなっちゃうのよね。
Aya
それって私たち、迷子になっちゃったってこと?
Alty
そうは言いきれないわ。おおよその方向は合ってるだろうし、新たな道を切り拓いていると言うべきね。
Frost
迷子。
Dan
迷子! いいネタになるねぇ!
Aya
あーあ。Danのポジティブさは時々本気で見習いたくなるよ。それで、これからどうするの?
Alty
向こうにジャングルがあるみたいだから、行ってみましょう。
Aya
それはいいんだけど、誰が車を推すの?
Alty
順番に推すのもいいかもしれないわね。
Aya
Alty.
Alty
なにかしら。
Aya
周りに人がたくさん集まってきてるよ。
Alty
そうね。
Alty
でも、何言ってるかわからないわ。
Aya
だからって、ついてくるのをこのまま放っとくの?
Alty
何かアイデアでもあるの?
Aya
全部やっつけちゃったら?
Alty
あなたがFrostとDanを説得できるならね。
Frost
(弾き歌い)
アダクリス人A
&*……%¥……&(なんだこの音! すげえいい響きだな!?)
アダクリス人B
&%……%(こんなすごい音、聞いたことない……)
Dan
よう! みんな!
何喋ってるかアタシにも教えてくれねー?
あっ、教えてくれても聞き取れねーか。
アダクリス人C
……%&¥(この人たち、どこから来たの!?)
アダクリス人D
¥……(こいつ、すげぇ変な恰好してんなぁ!)
Aya
ま、いっか。少なくともここは、無人地帯じゃないみたいだね。
Alty
どこか補給できる場所があればいいんだけど。
Aya
Alty、そんな夢みたいなこと言わないで。
ユーネクテス
お前たち、異郷人か?
Alty
あら? あなたが話してるのってサルゴン語?
ユーネクテス
ふむ、確かに異郷人のようだな。
ここに何の用だ?
Alty
私たちの車、エネルギー切れしちゃったの。だから補給させてほしいと思ってね。アーツがわかる人はいるかしら?
ユーネクテス
……ついてこい。
Alty
ほらね、Aya。希望が見えたわ。
Aya
へぇ、ホントこの大地って不思議がいっぱい。
Dan
おいおいおい、おいおいおいおいおい、なんだよこれ、いったいどういうことなんだ!
どっからどー見ても原始的なジャングルに、こんな村があんのか!
Frost
(鼻歌)~♪
Aya
確かにびっくりだね。どの建物も現代建築の面影がありながら、原始的な美しさを残してる。
Alty
変だけど、ユニークね。
ユーネクテス
私はこの部族の族長、ズゥママだ。この部族では大半の者が、お前たちの言葉を理解できる。
部族の祭司たちに車のエネルギーを補給させてやってもいいが、一つ条件がある。
Alty
なに?
ユーネクテス
車の内部構造が見たい。
Alty
……それだけでいいの?
ユーネクテス
ああ。
Aya
車を壊さないって保証はあるの?
ユーネクテス
壊さない。たぶん。
Aya
Alty?
Alty
背に腹は代えられないわ。
ユーネクテス
それでどうなんだ?
Alty
取引成立よ。
ユーネクテス
わかった。じいや。
大祭司
なんじゃ! ……ん?
むむむ?
お前さんたちは……
Alty
あなたは……
まさかこんなところで、あなたみたいな存在と出会えるなんてね。
大祭司
ふむ、正直に言うと、わしも同じことを思ったぞ。
じゃがわしは、お前さんたちより、お前さんたちの車のほうに興味があるぞい!
Alty
それじゃ、お好きにどうぞ。
Aya
さっきも言ったけど、ホントこの大地って不思議がいっぱいだね。
Alty
珍しく同意見よ。
一方、Frostはギターを祭祀用のスピーカーに繋ぎ、即興のソロを演奏し始めた。
Alty
いい曲ね、Frost。
Frost
この不思議な村から、インスピレーションを貰った。
Dan
イケてんねー、Frost。メロディーに変化を取り入れてみたんだな。
Frost
灼熱、抑圧……
この曲の名前は……『D』!
アダクリス人A
なんだこの音?
アダクリス人B
一体なんの音なんだ? 全身から力が湧いてくるぜ!
アダクリス人C
さっき来た異郷人たちがやってるみたいだ! 見に行こうぜ!
Aya
人がどんどん集まって来たよ、Alty……
Alty
まずいわね。
Frost
生命たちが渇望してる! 音楽を! 力を! そして……
アダクリス人B
この音は!
アダクリス人C
なぁ異郷人、もっと音を残していってくれ!
Aya
Alty……この雰囲気良くない?
いっそのこと、私たちのスピーカーも運び出してさ、一曲演奏してあげようよ。
Alty
反対はしないわ。
Dan
いいじゃんいいじゃん! こんなサイッコーのアレンジを聞かされたら、アタシだって我慢できねぇーよ!
Frostだけにいい恰好はさせねーぞ!
Alty
そうね。ここの人たちに、AUSの音楽を感じてもらいましょう!
アダクリス人A
ただ変な音が並んでるだけなのに、興奮が止まんねぇ!
アダクリス人B
まさかこれも祭司たちが使ってる祭楽と同じ、「楽曲」ってやつなのか?
アダクリス人C
こんな楽曲、今まで聞いたことねぇ! あいつらは一体何モンだ!
アダクリス人D
わかった、きっとあいつらは「クイカヨーティ」なんだ!
Dan
「クイカヨーティ」? なんだそれー?
大祭司
ふむ、彼らの言語で「歌う人」という意味じゃ。
ここは長きに渡って「クイカヨーティ」が不在じゃったからのう。お前さんたちの音楽が、皆の心を完全に虜にしてしまったんじゃ。
まあ正直に言ってしまうと、お前さんたちの音楽は、わしが昔に聞いた「クイカヨーティ」とはまったく違うがの!
じゃが大丈夫じゃ、お前さんたちの音楽の方が面白い!
アダクリス人E
「クイカヨーティ」、もう一曲聞かせてくれ!
アダクリス人F
欲しいものは全部やるから、どうかもう一曲!
Aya
Alty、どうするの?
Dan
しばらく残ろうぜー、Alty!
Alty
私たちの目的を忘れないでって言いたいけれど……
まあいいわ、時間はたっぷりあるし。
Aya
こんなところにもトランスポーターがいるんだね。
イナム
そっちこそ……雑誌でしか見たことないAUSがここに来るとは思わなかったわ。
Alty
ズゥママは?
イナム
あんたたちが使いたいって言ってたスピーカーを作ってる。代わりに私が道案内をしてあげるわ。
ここにはどのくらい滞在するつもり?
Alty
一週間、ううん、一か月。いや、もしかしたら一年になるかもしれないわ。
すっかりこの場所に焚き付けられちゃったの。だから、最後まで楽しまないとね。
イナム
だったら、ライブをするのに最適な場所があるわ。
Dan
イカした場所じゃねーか!
Alty
ここは……霊殿かしら?
イナム
そうよ。昔は全部族がここに集まって「マヒゾッティア」を開いていたの。だけど、ガヴィルが出て行ってから、もう長い間使われていないわ。
Aya
「マヒゾッティア」?
Alty
それに、ガヴィルですって? ロドスでも同じ名前を見たような気がするけど……まあきっと、同じ名前の別人でしょう。
イナム
ここで演奏すればいいわ。
Frost
最高の音楽を、ここの人たちに楽しんでもらおう。
Dan
ハハ、そうだな。ここにAUSの痕跡を残してくっきゃねーな!
二か月後
イナム
AUSって本当に不思議な人たちね……
まさか二か月もここに滞在するなんて。
いつかガヴィルが帰ってきたら、驚くでしょうね。こんな辺鄙な場所に、音楽の概念が生まれたことに。
そしてここの人たちが、ロックに心酔してしまったことに。
さてさて、今日はどんな演奏をしてくれるのかしら?
……一番夢中になってるのは、私自身なのかもね。
AUSのみんな、今日は……
あれ?
部屋には誰もいなかった。生活用品や寝具はきれいに片づけられ、部屋のテーブルの上には、一枚の紙が置かれている。
イナム
まさか、出て行っちゃったの?
これは手紙かしら、ええっと……
「もう行くわ、さようなら。どうかお構いなく。音楽があなたたちに喜びをもたらしてくれますように。私たちのアルバムは全部ここに残していくから、心ゆくまで楽しんで。――AUS」
……ふふ、本当に不思議な人たちね。
Alty
私はあのアカフラって場所をきっと忘れないわ。
Frost
(鼻歌)~♪ 忘れられない経験。
Aya
でもあの人たち、うるさくて乱暴だったじゃない。
Dan
そうか? アタシゃー気に入ったぜ!
Aya
あんた、あそこに残っても上手くやっていけそうだったもんね。
Dan
まーな。出てくるのだってすげー迷ったし。
あそこのヤツらってさー、天然っていうか、原始的な活力に満ちてる感じがしねー?
今までいろんな国や都市を回ってきたけど、こんなヤツらに会ったのは初めてだろ?
だからアタシも気に入ったんだ!
Aya
そうね、それは否定できないわ。
Frost
みんな私たちの音楽を理解してくれた。みんな最高の観客。
Alty
Frostも気に入ってるみたいね。
だけど、やっぱり他人の生活をめちゃくちゃにするのは良くないことよ。私たちはただ歌を歌うだけでいいわ。
Aya
みんなに歌を聴かせて、それがいい歌なら――
Dan
人々も歌ってくれるってやつか。
Aya
あれ、前にも同じことを言わなかったっけ?
Alty
さあね。もしかしたら何度も言っているのかもしれないわ。
さあ、私たちの旅を続けましょう。
私たちの歌に、大地は耳を傾けてくれるかしら?
車に揺られながら、彼女たちは冗談で話題を締めくくった。
手に握った鍵を見て、Altyは思う。ねえケルシー先生、あなたたちロドスは、この大地が求める答えを出せるのかしら?