密林の長
ガヴィル
つっ、あ……痛ぇなクソ……
トミミ
ガヴィルさん、やっと気がつきましたか! 大丈夫ですか!?
ガヴィル
平気平気、ただのかすり傷だ。
それより、ズゥママがずっと弄ってた機械の正体は、あいつだったのか?
トミミ
はい、「ビッグ・アグリー」という名前だそうです。ズゥママ、よくも……
ガヴィル
イカすじゃねーか!
トミミ
よくもガヴィルさんを……って、ええっ?
で、ですがあのデカブツ、ガヴィルさんまで倒しちゃって……
ガヴィル
ああ、すごかったぜ! 一発で気絶したからあんまり見れなかったけどな。
トミミ
うう、まあ、そうなんですけど……
ガヴィル
……ズゥママのヤツ、まさか本当にあんなすげーモンを作り出すとはな。
クロージャもたまに変なモンを作るが、ズゥママのあれを見たら、さすがにびっくりするだろうな。ハハ。
トミミ
ええっ? ロドスにも同じようなものがあるんですか?
トミミ
はわわ、ロドスは恐ろしいところです……
ガヴィル
ハハ、ずっとここにいるお前じゃ想像できねぇだろうがな。
ガヴィル
ハハ、言われてみれば確かに。クロージャがあの機械を見たら、驚く前に発狂するな。
ガヴィル
ん? つーかなんで霊殿が崩れてんだ?
トミミ
あのバケモノに壊されました。
ガヴィル
てことは、祭典はもうお開きか?
トミミ
はい。
ガヴィル
つまり、大族長はズゥママで決まりか?
トミミ
はい……
最初はみんな、あまりの出来事に呆然としていましたが……
ユーネクテス
この霊殿を壊した理由は、至って簡単だ。
こんな伝統はそろそろ終わりにすべきだ。その想いをみんなに伝えたかった。
腕の立つ者なら、拳一つで十人には勝てるだろう。ガヴィルだったら百人だって相手にできるかもしれない。しかし、それ以上の数ならどうだ?
いつかは、ガヴィルでも敵わなくなる。
これが拳に頼る人の限界だ。
だが道具にそんな限界はない。私の部族が作り上げた「ビッグ・アグリー」ならば、ガヴィルだって簡単に倒せるし、霊殿も打ち壊せる。
これが、道具の力なんだ。
道具の力を借りれば、お前たちだってあんなに強くなれる!
これからは、機械の時代だ!
トミミ
みんな彼女に説得されて、それで……
ガヴィル
大族長になったってわけか。はあ、こいつは参ったな。
ガヴィル
ん? いや、負けは負けだ。
ガヴィル
へっ、ドクター、慰めの言葉でも考えてんのか? いらねぇよ、アタシは落ち込んでないから。
ガヴィル
そんなことわかってるって。アタシを誰だと思ってんだよ?
ガヴィル
あ、だけどトミミには謝んねぇと。アタシが出てったせいで、お前の出番もなくなっちまった。わりぃ。
トミミ
……大丈夫です。私が先に出て行っても、きっと結果は同じだったでしょうから。
ガヴィル
まぁ、確かにな。
ガヴィル
で、これからどうすんだ、ドクター?
ガヴィル
だな。エンジンを取り戻さなきゃアタシたちは帰れねぇしな。
つーか、ロドスのヤツらは結局一人も祭典に来なかったな。迷子は勘弁してくれよ。
ガヴィル
まぁゆっくり考えよーぜ。休暇はまだまだ長いんだから。
ガヴィル
ハハ、ドクターのそういうとこが気に入ってんだ。そーだな、エンジンと仲間を探すついでに、観光でもしようぜ!
トミミ
えっと、その……
ガヴィル
ん? あそこの二人は……
アダクリス人A
おい、兄貴、大丈夫か!
アダクリス人B
へ、平気だ、だたちょっと……うぐっ……
アダクリス人A
兄貴、兄貴!
呪術医、呪術医はいるか!
ガヴィル
おい、見せてみろ。
アダクリス人A
ガヴィル!? 生きてたのか!
ガヴィル
ったりめーだ。あの程度で死んでたまるか。
話はいいから、お前の兄貴をそこに寝かせろ。アタシが診てやる。
ガヴィル
トミミ、アタシの救急箱を取ってくれ。
トミミ
は、はい!
アダクリス人A
兄貴は大丈夫なのか!?
ガヴィル
生きてはいる。ただちーとマズいな。
ガヴィル
呼吸は浅いし、泡沫状血痰が出てる……ん、これは? 体表に源石結晶まで!?
……ドクター、現段階では鉱石病による心不全の症状に見える。
アダクリス人A
なんだそりゃ?
ガヴィル
あー、つまり石塊病だ。症状は比較的軽いし、応急処置用の薬もあるから大事には至らないが、すぐにでもちゃんとした治療を受ける必要がある。
身体を起こしてやってくれ、まず酸素を吸わせてやる。
アダクリス人A
これも石塊病のせいなのか? クソッ、だから無茶をするなってあれほど……
ガヴィル
……
おい、お前名前は?
アダクリス人A
ヨギだ、兄貴はヨタってんだ。
ガヴィル
どこの部族だ?
ヨギ
ユーネクテス族だが。
ガヴィル
……
トミミ
ガヴィルさん、急に怖い顔して、どうしたんですか。
ガヴィル
ちょっと黙っててくれ。
ガヴィル
もう一つ聞くが、ズゥママはあの鋼鉄のバケモンを作るために、お前らに鉱石を採りに行かせたことはあるか?
ヨギ
あるが、それがどうかしたのか?
ガヴィル
……
わりぃな、ドクター。どうやらどうしても、ズゥママともう一度会う必要があるらしい。
ガヴィル
さすがドクター、アタシの考えがよくわかってんじゃねぇか。
ガヴィル
頭の良いドクターなら、もう察してるだろ。
ガヴィル
ああわりぃな、でもやんなきゃなんねぇことなんだ。
ガヴィル
ここは外とはほとんど関わらない閉鎖的なとこだ。ドクターや他のオペレーターたちからすれば、すごく原始的に思えるだろうな。
だけど、だからこそ良いことだってあるんだ。聞いての通り、鉱石病はここじゃ「石塊病」って呼ばれる普通の病気に過ぎない。
それで死ぬヤツはもちろんいる。だけどここじゃ「石塊病」だけが特別な病気じゃねぇんだ。どんな病気でも、死ぬ時は死ぬからな。
ここのヤツらには、「石塊病」は鉱石の採掘場で罹る病気って知識しかない。だからみんな普通の病人と同じように鉱石病患者の面倒を見るんだ。
病気に罹りたいヤツなんていねぇし、昔から採掘場に行くヤツはほとんどいなかったはずなんだが……
トミミ
私を助けるために罹ったんです。
ガヴィル
当時、こんなちっこかったトミミが、採掘場の奥に迷い込んでさ。アタシが助けに行ったんだけど、帰ってきたら鉱石病になってたんだ。
こいつが罹らなくて良かったけどよ。
トミミ
ガヴィルさんの代わりに、私が鉱石病になれば良かったのに……
ガヴィル
そんなこと言うんじゃねぇよ。病気になっていいヤツなんかいねぇんだ。アタシもただ運が悪かっただけさ。
トミミ
うぅ……
ガヴィル
ドクター、何回聞くんだよ。
アタシが病気になってからっつーもの、部族のみんなはアタシに何もやらせてくれなくなったんだ。猟にも、集会にも参加禁止なんて言いやがってさ。
特にトミミは、毎日わざわざ他の部族からやって来て、なんでも代わりにやってくれちゃってさ。おかげでアタシは、ほんとになんもできやしねぇ。
挙句の果てに、祭典にも参加させてくれないときた。
いつの間にか、「ガヴィルは何もしなくていい。代わりに全部やってやるから」みたいな扱いになっててさ……アタシはそんなの望んでないってのに。
トミミ
あの頃から、ガヴィルさんはほとんど笑わなくなりました……
ガヴィル
だからカッとなって、祭典に乱入して全員ボコったんだ。
トミミ
うう、私がガヴィルさんのお世話をし過ぎたせいで……
ガヴィル
ここじゃ戦えねぇヤツとイキイキしてねぇヤツは、みんな廃人と同じだ。
不自由な思いをするくらいなら、危険なことをさせられるほうがマシさ。
ガヴィル
鉱石病患者がそんな風に扱われるなんて、笑えてくるだろ?
外じゃ鉱石病患者があれほど嫌われるって知った今となっては、アタシも笑えるよ。
それからアタシも時間をかけて、ゆっくり現実を受け入れてった。
ガヴィル
おいドクター、言葉を選べよ。ぶん殴るぞ。
言わんとしてることはわかる。外じゃ忌み嫌われて差別されるのが普通だもんな。
だけどあの頃のアタシにとっては、気遣いは差別と同じだった。
ガヴィル
おっと、お前のせいで話がそれちまった。アタシが言いたいのはこんなことじゃねぇ。
えーっと、何だったか……
ガヴィル
ああそうだそうだ。
ガヴィル
なぁ、さっきは何の話をしてたっけ?
……おっと、思い出した。
ガヴィル
ほざけ。借りてねぇよ。
ガヴィル
おっと、思い出した。
ガヴィル
アタシが言いたいのは、あのバケモンは鉄鉱石を大量に使って作ったに違いねぇってことだ。
つまりズゥママは、あいつを作るために、子分に鉄鉱石を採りに行かせてたかもしれねぇんだ。
トミミ
そういえば、そんな話を聞いたことがあります。
ガヴィル
外側で少し採掘してただけだったら、大した問題じゃなかった。
だが患者まで出たってなると、話は変わってくる。
機械の時代を創りたいなら創ればいい。けど、他人の命を蔑ろにするような真似をするってんなら、何発かブン殴ってやらねぇと。
ガヴィル
サンキューな、ドクター。
ガヴィル
おっ、ドクターも目つきが変わったぜ。
ガヴィル
へっ、当然だ。
トミミ
ガヴィルさん……
トミミ
……
ガヴィル
トミミ、ズゥママの部族の縄張りはどこだ?
トミミ
えっ、私も知りません……
ヨギ
ガヴィル、機械だとか医者だとかはどうでもいい。兄貴の様子はどうなんだよ?
ガヴィル
ん? お前、サルゴン語がわかるのか?
ヨギ
ああ、族長に教わったんだ。
ガヴィル
……ズゥママのヤツ、いったい何を考えてんだ。
ガヴィル
チッ、まあいい。トミミ、子分たちに言ってこいつの兄貴をお前の部族のとこまで運んでやれ。まずはLancet-2に治療してもらおう。
ヨギ
おい、なにする気だ!
ガヴィル
兄貴を死なせたくねぇなら、アタシの言うことを聞いとけ。
トミミ
……でしたら、私も運ぶのを手伝います。
ガヴィル
ん? お前はアタシと来ねえのか?
トミミ
あ、い、いいえ! もちろんガヴィルさんと一緒に行きたいんですけど、準備をしなくちゃいけないことがあるんです。後で追いつきますから!
ガヴィル
何の準備だ? 手伝ってやろうか?
トミミ
だ、大丈夫です! 自分でできますから!
ガヴィルさん、大滝の場所は覚えてますか? あそこで待ち合わせるのはどうですか?
ガヴィル
覚えてる。じゃあそうしよう。
ヨギ
わかった、ガヴィルが言うなら信じる。だけどオレも一緒に行く!
ガヴィル
いや、来るな。お前が来ても役に立たねぇ。それにお前にはやって欲しいことがあんだ。
ヨギ
なんだ?
ガヴィル
部族んとこに戻って、ズゥママにアタシが探してたことを伝えといてくれ。