密会

Bエリア囚人A
くらえ!
Aエリア囚人
ぐふっ、くそがっ……!
カフカ
うわあ! ちょっと、何これ? なんで急に大乱闘が始まっちゃってんの?
Bエリア囚人A
カフカ、隠れとけって言ったろ? なんでここまで出てきてんだ!
カフカ
カフカなら大丈夫だよ、それよりもどういうことか説明してよ。
Bエリア囚人A
見りゃわかんだろ? 目障りな非感染者のヤローどもを、今日こそ完膚なきまでにぶちのめしてやんだよ! まあ向こうも同じことを思ってんだろうけどな。よくあることだろ。
カフカ
確かによくあることかもしれないけど、こんなに堂々と殴り合うって……看守は何してんの!?
Bエリア囚人A
看守たち? ハッ! 周りをよーく見てみな。
看守A
ハハッ、コイツら、飽きもせずまた喧嘩してやがる。こりゃ見ものだわ。
今日が当番でラッキーだったな。
看守B
ハハッ、そうだな。
こんなクソみたいな職場で唯一の娯楽といや、このバトルロイヤルくらいだからな。
頑張れー、Aエリア! 今日はお前らに賭けてやるぞー!
Bエリア囚人A
ほらな、あいつらが一番楽しんでるだろ。
勝った方はしばらくの間、飯のグレードが良くなるんだ。
カフカ
楽しんでるのは看守たちだけだよ、殴り合わなきゃダメなの?
Bエリア囚人A
殴り合わないだと? カフカ、お前俺が監獄に入った理由を知ってるか?
それは俺を見下した奴らをぶちのめしたからだ!
Bエリア囚人A
カフカ、この監獄は多分この大地で唯一、感染してねえクズどもを後先考えずにボコれる場所なんだぜ。
もし殴り殺しちまったところで、しばらく懲罰房に閉じ込められるだけだ。
それにもし自分が死んじまってもそれはそれだ。監獄に入るような連中の誰がそんなことにビビるってんだよ!?
てなわけで、俺はぶん殴りに行ってくるからよ。お前は隠れてろ!
カフカ
チェッ、カフカも甘く見られたもんだよ……
それにしても、感染者と非感染者の対立って、こんなところにまで波及してたんだね。
しかも、ただ対立してるだけじゃなくて、監獄の環境の影響で、超歪んだ形になっちゃってるし。
監獄の外でも色んなものを見てきたけど、こんな光景は初めてよ……もしサイレンスが見たらきっと目を回すだろうなあ……
でも、カフカは違うもんね、へへ。
混乱はカフカの大好物だよ。
君たちは殴り合ってればいいよ。カフカは、何か面白いものがないか探すからさ。今後のための布石が打てるかもしれないしね……
カフカ
えぇ……こんなところに食べ残しを持ち出すなんて。
なんで靴下が? しかも片っぽだけ……
ふーん、さすが州立の監獄、やることはちゃんとやってるじゃん。使えそうなものはパッと見、特に何もないな……
でも――
Bエリア囚人
死ねや、クズが!
Aエリア囚人
死ぬのはてめえだ!
カフカ
おおっ! めっちゃエキサイトしてんじゃん! しかも……みんなずるーい、密かに色々、変な武器まで作っちゃって。
カフカ
その調子でやり合っててね、もっと夢中になるといいよ。カフカはその隙に――
???
うわっ!
Bエリア囚人
捕まえたぜ。こんなとこに隠れてやがったか。へへへ……
カフカ
ああ、あの女の子危ない!
助けてあげた方がいいよねぇ……
???
......
Bエリア囚人
へへ……
カフカ
あれ、あの子、意外とやるのかも。これは面白い……
???
何をしている!?
看守A
バートン隊長、囚人たちがケンカを始めました!
バートン
ならお前たちは何故黙って見ているのだ。さっさと止めないか!
看守B
あっ、隊長、もう終わりにしますか?
バートン
終わりも何もない! 囚人を管理するのが我々看守の役割だろう! さっさとしたまえ!
看守A
わ、わかりました!
おい、お前ら! 隊長命令だ、もうやめろ!
Bエリア囚人たち
*クルビアスラング*
Aエリア囚人たち
*クルビア方言*
バートン
ああ、全く何度言わせれば気が済むのか。ここは監獄である。お前たちの戦場ではない。
お前たちはここできちんと働いて、真面目に過ごすべきだ。そうすればこそ、外にいる家族や友人に早く会えるのではないか。
俺がこんなこと言うのはお前たちのためなのだからな。
Bエリア囚人A
チッ、また始まったぜ。
カフカ
うっわー、傷だらけじゃん、大丈夫?
Bエリア囚人A
こんなモンかすり傷だ! そんなことより、Aエリアのクズどもを何人もぶっ飛ばしてやったぜ! へへっ、ざまあみろ!
カフカ
いつもこんな感じで終わるの?
Bエリア囚人A
あ? バートンのことか?
まあそうだな……バートンはいっつも気取った態度で現れて止めに入るんだ。そしてクソみてぇなキレイごとを言いやがる。あいつが看守長だ。
特に今は、監獄が都市に立ち寄ってて獄長が留守にしてるからな。まるで、自分がこの監獄の主みてぇに振る舞ってやがんだよ。
いけすかねえ野郎だ。
でもな、毎度毎度こんな感じで終わるってわけでもねえ。
ヒートアップして収まらないことは、過去に何度もあった……いやむしろ収まらないのが普通だな。今日みたいにやめろって言われて収まる方が珍しいんだ。
まあ収まらない時は、バートンが応援を呼ぶんだがな。
カフカ
応援?
Bエリア囚人A
ほら、来た。
???
......
カフカ
アンソニー!?
Bエリア囚人A
どうやらマジであいつを知ってるみてえだな。
カフカ
カフカが見たのは正装した姿だったけどね……
バートン
お前たち、ミスター・アンソニーを見習え。
彼は囚人の身ではある。そうだ。彼は、罪を犯した囚人でありながらも! それを深く悔い、理性を尊んで暴力に走らない。普段は読書や音楽なども嗜む。なんと品のあることか!
Bエリア囚人A
おえぇ。
カフカ
アンソニーが嫌いなの?
Bエリア囚人A
いやいや、勘違いするな、カフカ。
この監獄で、アンソニーを認めない奴はいねえ。
普段のあいつはバートンが言ったように他人に暴力は振るわない。だが俺たちはみんな知ってる。あいつこそ、この監獄で一番強い奴だってな。
なんでもあいつは、監獄に入ったばかりの頃、Cエリアの奴ら全員をぶちのめして服従させちまったらしい。
あいつはCエリアのもんだ。普段は俺たちと関わることはねえが、本当にいい奴なんだ。AエリアだろうがBエリアだろうが、みんなあいつのことを認めてる。
ああ、俺が吐き気を催したのは、バートンのクソ野郎のせいだ。
お前も聞いただろ、あれは本当にアンソニーを褒めてたかよ? 恥をかかせてただけだ。
アンソニーは、唯一あいつが頭の上がらない囚人だ。だがそれでもあいつは、アンソニーに頼らないと俺たちを抑えられない。だからあんなふうに嫌味を言うことくらいしかできねぇんだよ。
バートン
我らが州立マンスフィールド監獄は、首都特別認可の試験監獄だ。将来的にはここのシステムが、手本として他の州にも広められる。
Bエリア囚人B
ケッ、囚人ばっかなのに何が手本だ……肥溜めで金でも探してんのかよ。
バートン
とにかく! お前たちには自分のため、そして俺のために、是非とも色々と考えられるようになってもらいたい!
行くぞ、アンソニー。今日は特別に読書の時間を一時間やろう。
アンソニー
はい。
カフカ
普段はアンソニーに会えないの?
Bエリア囚人A
まあ、そうだな。
あいつら重罪人たちのスケジュールは、俺たちとは全然違うんだ。それにほとんどの時間はCエリアにある塔の中にいるからな。
なんだ、あいつに会いたいのか?
カフカ
まあね。
アンソニーに相談したいことがあるんだよね~。もちろん、看守に知られたらマズいやつだけど。
Bエリア囚人A
安心しろ、わかってる。あいつと内密に話したいなら、チャンスがないわけじゃねえ――