裏切り
バートン
チッ、おかしいな、カードキーはどこにいった……?
バートン
まさか、トイレに行った時流しちまったのか?
看守A
バートン隊長、どうされましたか?
バートン
うるさい黙っていろ!
看守A
は、はっ! 失礼しました!
看守A
チェッ、なに怒ってんだよ……
看守B
どうせまた誰かが、隊長の気に障ることをしたんだろう。
看守A
へっ、そりゃアンソニーに決まってる。
どういうことかは知らんが、あいつを殺そうとしてる奴がいる。
バートンはいっつも、この監獄の警備体制がどれだけすごいか自慢してるだろ? だからこの件で赤っ恥かいてんだぜ。
看守B
私たちだって同じだ。ここの看守なのだから。
看守A
いやいや、俺はアンソニーの暗殺騒ぎを喜んでいるわけじゃない。あのバートンがイラついてる様子を見るのが気分いいんだよ。
ていうかよ……ここ数年、ランドルとバートンの二人が汚いことに手を染めてきたのをたくさん見てきただろ?
賭けてもいいが、この暗殺者たちがどこから来たのか、ランドルは絶対知ってるぜ? 金をもらったから目を瞑ってるだけだ。
看守B
……そうかもな。
ロビン
ぐっ……
アンソニー
動かないでください、ロビンさん。
私に貴方を殺させないでください。
ロビン
……
カフカ
うぅ、まさかロビンがスパイだったなんて全然気付かなかったよ。
その道の才能があるんじゃないの?
アンソニー
待って、その手に持っているのは……
カフカ
それって……爆弾のスイッチ!?
アンソニー
カフカさん! 装置を起動してください! 急いで塔を沈降させないと――
カフカ
うわぁ! 燃えてる!
アンソニー
早く!
カフカ
どのボタンだったか忘れちゃったよ!
それにどれもこれも壊れちゃってそうだし……
あっ、見つけた! きっとこのボタンだ!
お願い、起動して!
押すよ!
動いてる感じしないよ、本当に壊れちゃったの!?
アンソニー
ロビンさん、どうしてこんなことを?
ロビン
私は……
カフカ
動いた!
バートン
*クルビアスラング*
バートン
まあいい、前回最上階に行ったのはいつだったか覚えていないくらいだ。すぐには使わないだろう。
今度ランドル獄長に言って、もう一枚もらえばいい。
チッ。
看守A
バートン隊長……
バートン
なんだ。
看守A
どうされたんですか?
バートン
どうって……あのクズどもの掃除が終わったか見に行くんだ。
看守A
な……なんだこれ!?
バートン
どうした、何が起きた!?
アンソニー
近くにあるものに掴まって、カフカさん!
カフカ
アンソニー! ロビンがエレベーターの中に飛ばされそうだよ!
アンソニー
……
私に掴まってください、ロビンさん!
ロビン
どうして……
アンソニー
今は話をしている場合じゃありません!
歯を食いしばって。でないと舌を噛みますよ!
カフカ
ふぅ……アンソニー、そっちは無事?
アンソニー
はい。ロビンさんは私が抱えていますが……無事のようです。
どうやら監獄全体の電力系統が麻痺してしまっているようですね。ここも真っ暗です。
しかし、我々にとってはチャンスです。
カフカ
うん。
塔がそのまま一層、下に突き抜けるのを感じたよ。
多分カフカたちは今、地下二階辺りじゃないかな? 医務室まではまだちょっと距離があるね。
アンソニー
はい、看守たちが行動を起こす前に行きましょう。
ロビンさん、どうしました? どこか怪我でも?
ロビン
……
わ……私が無事なのは良いことなの?
アンソニー
良いことですとも。
この件について貴方が気にする必要はありません。
「引き続き暗殺を試みてもいい」と言ったのは私ですから。
貴方が、自分のしたことは一種の裏切りだと思っているのなら、教えてあげましょう――
もともと私たちの関係自体、完全に信用し合えるほどには深まっていませんでした。
カフカ
えっ、カフカも?
アンソニー
貴方もです。
カフカ
えぇー? アンソニー、それはひどいよぉ。
アンソニー
すみません。ですが、むしろ知り合って数ヶ月の人を完全に信用するのは問題があると言えるでしょう。
もちろん、私は確かに少し失望しました。でもそれだけです。
アンソニー
しかしそれでも私は興味があります。貴方が私たちと過ごす間に見せた、あの感情は演技ではないはず……それはわかりますから。
私の興味の対象は……ロビンさん、貴方にこのような選択をさせたものです。
ロビン
……
私の父は、優しくて、ビジネスで成功していて、自慢の父だった。
でもある日、父の会社が突然潰れた。
それ以来、父は二度と立ち直ることはなかった。
そして父は変わってしまった。酒に溺れ、怒りっぽくなり、周りの全てを憎み始めた。
母はそれが原因で家を出た……父は莫大な借金を抱え、そして、肝臓の病気と多くの合併症で入院した。
母はずっと私に、一緒に暮らそうって言ってくれてた。
でも私は、昔の優しかった父のことがずっと忘れられなくて……
父のために何かしてあげたかった。だから好きなことを諦めて、色んな仕事をした。でも治療費や薬代はあまりにも高価すぎた……
そんな時、ある人が私に連絡してこう言った。ある人物を始末してくれれば、たくさん報酬を払うって。
アンソニー
そのある人物というのが、私ですね。
そういうことでしたか……私は貴方に何も約束してあげることができない。だから貴方は仕方なくこの選択をした。
ロビン
違うの。その人はジェッセルトンっていう男で、実はこの監獄で看守に扮してあなたを観察していた……
あなたが私を誘った後、彼は私を訪ねてきて、こう告げた――
父の会社が潰れたのは、サイモン家が行った最後の反撃によるものだと。
アンソニー
……まさかそんなことがあったとは。
だとしたら……私は貴方を責めるどころか、貴方に謝罪すべき立場ですね。
ロビン
違う。謝らなくていい、私が言いたいのはそんなことじゃない――
ロビン
違うんだ、アンソニー。
私もこんなのは間違ってる、こんなのは良くないって思ってた。
ロビン
でも結局、私はその考えを捨てた……
こうする以外、他に方法がわからなかった……わからなかったの。
ロビン
もう疲れちゃった……母さんに選択を迫られ、父さんにも選択を迫られ、生活に、ジェッセルトンに、あなたにまで選択を迫られて――
私はもう選択したくない……それが正しいのか、間違ってるのか、良いことなのか悪いことなのか、考えたくない。もう考えたくないの。
もう疲れたよ、どうしてこんなことになっちゃったの!?
アンソニー
ですがロビンさん……選択権を他人に譲り渡してはいけません。
辛いでしょうが、貴方は自分で考え、選択し、その選択に責任を負わなければなりません。
でなければ、貴方は自分の運命の手綱をとることはできません。
これは、私がこの監獄で過ごした六年間で学んだ、最も重要なことです。
力は重要です。知恵も重要です。しかし、最も重要なのは勇気――自分の選択に責任を負う勇気です。
私も、自分が過ちを犯すのではないかと常に恐れています。でも、だからといって目前の選択から逃げることはできません。
私はこれまで、自分に頼れる者がいないのは、頼れるような対象が見つからないからだと思っていました。しかし後で気付きました。そんな対象などそもそも存在しないのです。
私たちは自分自身に頼るしかないのです。
ロビン
……
アンソニー
もっと早く貴方の苦しみに気付けなかったことを私は申し訳なく思います、ロビンさん。
しかし敢えて強く言います。貴方の行為は危うく私の脱獄計画を台無しにするところでした。なので、私は貴方を許すと簡単には言いません。
ただ……かつて貴方と同じような苦しみを経験した人間として、貴方にはひとまずこのことを忘れていただきたい。
貴方はもう一度自分を見つめ直し、自分が一体何をしたいのかを考えなければなりません。
ロビン
私が……何をしたいのか……
アンソニー
ドゥーマさんの部屋はもう目の前です。どうぞゆっくり考えてください。
ロビン
待って……私の話なんて信じないかもしれないけど、ジェッセルトンは私から脱獄計画を全て聞いている。あいつはきっとどこかであなたを待っているはずよ。
アンソニー
わかりました。用心しましょう。
???
その必要はありませんよ。私はすでに、ここであなたたちを待っていたのですから。
アンソニー
!?
ロビン
ドゥーマの部屋から?
アンソニー
まさか……!