目覚め

ラヴァ
これは……なんだ? 感染生物か?
クルース
感染の痕跡はないみたいだよぉ、それに生物かだって怪しいねぇ。射抜いたら黒い水たまりになって消えちゃったしぃ。
ラヴァ
……アーツの類いか?
クルース
そうかもねぇ。
ラヴァ
このままじゃまずい、数が多すぎる……化け物の発生源を探して手を打たないと。
こいつらはどの方角から町に入ってきてる?
クルース
暗くなってきたよ、ラヴァちゃん。
ラヴァ
……分かってる。
クルース
まだ追うのぉ?
私たちがどうやってここに来たのかだって、まだはっきりしてないのに……今ここで深入りしすぎるのは危ないと思うよぉ。
手がかりが掴めるかもしれないけど、そんなに急がなくてもぉ。
ラヴァ
…………
ウユウ
お二方! 恩人様方!
ラヴァ
おい、何で付いてきた……?
ウユウ
何を仰いますか! 恩人様を放って、私一人逃げられるはずが――
ラヴァ
あれが何か分かるか?
ウユウ
わ、私も見たことがありません……あまりの恐ろしさに、足がガクガク震えております……
ラヴァ
なにか……炎国の名物とかじゃないよな?
ウユウ
ありえません! こんな面妖な奴らがその辺を走り回っていたら、すでに全国にとどろく大ニュースになってますよ!
ラヴァ
……クルース、ウユウ、聞いてくれ。
アタシはあの古い家の木戸を押し開けたところまでは覚えている。けどその後何が起こったのかは「全く覚えていない」。気がついたときには、すでにあの庭園であいつの話を――
ウユウ
煮傘居士ですね。
ラヴァ
そうだ。その煮傘居士の話を聞いていた。だが自分がどうやってそこへ来たか、全く覚えていない。それに、ここがどこかも分からない。
クルース
私もそうだよぉ。
ウユウ
恩人様、一つはっきりしている事がございます。ここは泥翁町ではありません……
私も、泥翁町へは数年訪れておりませんが、ここの人々や風土は、いささか時代に逆行していると言わざるを得ません。ここまで来る途中も電線一本すらありませんでした。
ラヴァ
となると余計に面倒だ……
クルース
まるで夢みたいだねぇ。
ラヴァ
…………
クルース
……ラヴァちゃんが考えてることは分かるよぉ。だけど今確かめる方法はないし、お互いを信じるしかないよねぇ。
ウユウ
え? 恩人様! 私を信じてください! 私は絶対に恩を忘れ義に背くような輩ではありませんから! もっと言えば、そもそも人を惑わすような術を使う腕前もありません!
ラヴァ
そういうことじゃない……
……今置かれてる状況を考えてただけだ。何もかもが奇妙すぎる。
クルース
やっぱり何かの罠だと思うなぁ。だとすると目の前の光景が本物かどうかも……怪しいよねぇ。
冷静に色んな可能性を考えなきゃいけないからねぇ。別にウユウくんを信じてない訳じゃないんだよぉ。
ウユウ
ウユウ「くん」とはまた……恩人様……私は見た目こそ若く、洒落た格好をしてますが、恐らくあなたよりそこそこ年上ですよ……
ラヴァ
やはりアーツ……なのかもしれないな。だが高度すぎる。どこかへ飛ばされたのか? それとも見えるもの全てが幻影なのか……?
ウユウ
やはり恩人様方は奇才であられる。普通の人はこのような状況に出くわしても、瞬時にあれこれ想像を巡らせることなどできませんよ……
ラヴァ
「普通の人」はな。
ここがどこかは分からないが、ここの地理には不可解な点が多すぎるんだ……
太陽と月の位置が向かい合って固定されていて、住居はほぼ全てが夜の側に、田畑や市場はその逆側にある……そして住民たちもそれを不思議には思っていない。それにさっきの化け物ども……
いち早く情報を集める必要がありそうだ。
ラヴァ
また鐘が鳴った……?
クルース
こういう鐘の音は、炎国と極東でしか聞いた事ないよぉ。
粗暴な町民
鐘だ、鐘が鳴った! みんな、大丈夫だ! もう大丈夫だ!
警戒した町民
こんなに早く?
粗暴な町民
ああ、もうあいつらの気配もしない! それに俺は見たぞ! あの旅人らが化け物たちを追い払ってくれたんだ!
警戒した町民
彼らは化け物が怖くないのか?
粗暴な町民
今思ったんだけどよ、俺たちも勇気を出してあの山へ行って、奴らを根絶やしにするべきなんじゃねぇのか!? 何度も襲われるのはもう懲り懲りだからな!
講談師
そんなことを言ってはいけません。あまり皆を困らせないように。
粗暴な町民
あ、先生……お戻りで!
講談師
イツセン、すぐにあの三名の英雄を探し、話がしたいのでぜひ私の所へ来てほしいと伝えなさい。前回は何のお構いもできなかったので、きちんとお礼を言わなくてはなりません。
粗暴な町民
へいっ!
???
ふふふ、やはりこの鐘を鳴らす仕事は拙僧にピッタリでござる! 拙僧が遠い異国の地でこのように勤勉に働いていることを知れば、住職様もさぞお喜びになるだろう。
サガ!
サガ
おお、女将殿。どうしてこちらに?
女将
鐘の音を聞いたわ。もう終わったのね?
イツセンおじ様から、遠方からの客人がこの町を守ってくださったと聞いたわ。あなたは見てない?
サガ
いいや。拙僧はここでずっと鐘を守っておったのでな。拙僧のいた寺のような鐘楼があれば、もう少し遠くを見渡せたやもしれぬが。それにしても――
拙僧がここへ来てずいぶんと経ったが、墨魎(ぼくりょう)がこんなにも大規模に仕掛けてきたのは初めてだ。そこで示し合わせたように助っ人が現れ、町を守ったとは……こんな偶然があるものか?
女将
だからこそあなたに、あの異郷の人々に会ってみてほしいのよ。
サガ
ほう?