外勤記録
シュヴァルツ
これが最後の一匹です!
レンジャー
誰ぞ、ケガなどしておらぬか?
リスカム
問題ありません。
フランカ
こっちも大丈夫よ。
レンジャー
通信機器は無事かの?
リスカム
はい。
レンジャー
地面を掘ってきたのか? ……どうも変じゃのう。
フランカ
やっぱりサンドビーストっぽいわね。
リスカム
でも2メートルはあったけど……
レンジャー
……生涯の大半を荒野で過ごしてきたが、穴を掘るサンドビーストなど見たことはないのう。
シュヴァルツ
……このサンドビーストたち、体に源石結晶があります。
リスカム
……うーん……
源石汚染による突然変異という考えは?
フランカ
こんなところに移動都市なんて来ないし、工場や鉱山もないわ。そんな状態で源石汚染なんて起きる?
リスカム
じゃあ……天災による変種という可能性は?
フランカ
あなた大自然をなめ過ぎ。野生生物たちはあたしたちよりもはるかに天災に敏感なの。源石汚染をどうやって回避するかだって、本能であたしたちよりもずっとわかってる。
天災は都市を滅ぼす力を持ってるけど、野生生物はほとんど影響を受けない――
――この無情な大地じゃ、源石の影響を回避する手段を持つ生物じゃないと、ここまで存続してこられるはずないもの。
シュヴァルツ
……なるほど。よく目にするオリジムシもそうですね。オリジムシは外殻で源石成分を全て吸収して、軟体部は完全に汚染を免れているそうですから。
リスカム
PRTSの記録には、参考になるような情報はない?
フランカ
ないわね、クルビアのアイアンフォージで起きた汚染物質漏洩事件の時ですら、あんな突然変異みたいなのは確認されてない。
レンジャー
サンドビーストは臆病な生物じゃ。源石による変異だとしても、その臆病な性質には大きな影響は出ないはずじゃ。アーツによる影響でもない限り、あれほど攻撃的にはならんじゃろう。
くれぐれも警戒を怠るでないぞ。
シュヴァルツ
……アーツの影響だとすると、術師がどこかにいるのでしょうか? 今回はもうこれ以上、余計なことは起きてほしくないのですが。
レンジャー
考えすぎるのも良くないぞい。とりあえずは、計画通り、前に進むとしようかのう。
シュヴァルツ
わかりました。
リスカム
これ……ロドスの緊急救難信号?
フランカ
だとしたら、他のロドスの外勤チームから?
???
……あぁ……ようやく応答してくれた!
……た……助けて……支援を求む……
リスカム
こちらロドス外勤小隊です。聞こえたら応答を。
???
こちら……ロングスプリング……展望タワー33……
……暴徒が……今……
……入って来た!
レンジャー
落ち着くのじゃ! おぬし、何があった!
リスカム
電波状態が悪くて、途切れ途切れです。
???
……助けて……たす……あっ。
激しい雑音の中、通信が途切れた。
リスカム
……
フランカ
面倒なことになったわね。
シュヴァルツ
展望タワー33とは、何のことでしょうか?
レンジャー
うーむ、ロドスのセーフハウス・コードに聞こえるのう。
フランカ
セーフハウス? 任務報告にはこの近くにセーフハウスがあるなんて書いてなかったけど。
レンジャー
うむ……
ロドスは特殊外勤任務のために、僻地に隠れたセーフハウスを仕込んでおくこともあるからのう。
シュヴァルツ
ですが、その展望タワー33の所在地は一体……
レンジャー
ロングスプリング……ロングスプリング……
どことなく聞き覚えがある気がするのう。地図を見てみよう。
ふむ……
恐らくここじゃ。トランヒルに沿って東へ20キロほど進むと、別の峡谷が見えてくる。その付近に小さな町があったはずじゃ。
当時、町には井戸があってのう。この近くでは数少ない、長く使われてきた確かな水源じゃった。
リスカム
だから「長く続く泉」――ロングスプリングと呼ばれていたということですか?
フランカ
じゃあこれからどうするの? その町に向かう?
リスカム
このままフェコンへと急いでもいいと思います。事務所に連絡して救援を寄越してもらえれば……
レンジャー
……セーフハウスのオペレーターは、恐らくそれでは持たんじゃろうな。
おぬしたちは引き続きフェコンへ向かい、なんとか支援を求めてくれんかのう?
儂はロングスプリングへ向かい、状況を見てくる。儂には土地勘があるからのう、一人で行動した方が動きやすいのでな。
もしどうにもならない状況ならば、儂も改めてフェコンへ向かい、おぬしらと合流しようぞ。
リスカム
それは……
シュヴァルツ
賛成できません。
レンジャー
ほう? その理由は?
シュヴァルツ
砂地から這い出てきた変異生物、それとセーフハウスの救援信号、この二つに関係があるかどうかは別として、私たちは最大限の警戒態勢を維持する必要があります。
ロングスプリング周辺の状況がハッキリしない中、隊を分断して単独行動するというのはあまりにも危険です。
リスカム
わたしも隊全体で行動した方がいいと思います。そうであればどういう状況であれ、何かあれば互いにカバーできます。
レンジャー
うむ……
確かにその通り、じゃな。
今回はおぬしらの言う通りにしよう。儂ももう年じゃ……若い頃のように単独行動などと思い上がるべきでないな。
ドラッジ
なかなか醜いな。
レヴィ
醜さとは、個々人の主観的な美的感覚による感想だ。君はこの生物の象徴的意義を、進化の過程で現れる無数の可能性のうちの一つとして見るべきだ。
秩序とは人間が文化と呼ぶ集団行動の中で獲得した虚構の概念にすぎない。本来、すべてが混沌としてなおかつ無常なのがこの世の理なのだよ。
レヴィ
(ロシア語)もちろん、君がそれを理解できるとは思えないがね。君程度の矮小な脳みそでは生物の進化という自然の作りたもうた偉大なる結果など理解できるはずがない。
ドラッジ
おい! 俺が理解できる言葉で話せ!
レヴィ
とりあえず、こいつの美醜という主観のぶつけ合いはさておいて、現在の結果に、君は満足していないように見えるな。
でなければ、今の時点で、私の所に来たりはしていないだろう?
ドラッジ
醜い上に弱すぎる。こいつじゃ領主の衛兵隊どもにすら敵わねぇ!
レヴィ
それは君の雇った兵の方に問題があるからではないのかね?
そもそもこの生物たちはただの道具だ。だがもし、こいつらが戦術を理解するようになったら、君の傭兵をゴミ箱に捨ててしまうことをお勧めするね。
傭兵
なめてんのか、この老いぼれが! ひねり潰すぞ。
ドラッジ
やめろ!
……はぁ(額に手を当てる)。
俺が今からする話をよく聞いておけ。
俺がお前の研究に金を出してやってたのは、ここでお前が好き勝手にやったことの言い訳を聞くためじゃない。
お前の研究がどう優れているか、そんなことは関係ない。
だが、俺の親父をぶちのめす役に立たなければ、お前と、このモンスターたちの方こそゴミ箱行きだ。
俺の我慢にも限界がある。
レヴィ
それは私も同様だよ。すでに何度も説明したはずだがね。これ以上時間を浪費させないでくれ。
ドラッジ
黙れ!
この半年、俺はお前の「実験」とやらのために、お前が人生で見たことないほどの金をつぎ込んでやったはずだ。だが、俺が出した金に見合うだけのリターンはどこだ?
お前の言った「残忍かつ恐ろしい軍隊」はどこだ?
お前の言った「人々を震え上がらせる力」とはなんだ?
まさか、その光を放つ、腫れ上がった醜い変種の生物がそれだとでも言うつもりか?
レヴィ
いったい何度説明すれば、理解してもらえるのだろうね。研究が実を結ぶには、時間が必要なのだよ。
科学の進歩が金だけで成立するものならば、私はとっくに月へ行っていたさ。
ドラッジ
話はここまでだ。あと二日だけくれてやる。俺に説明したものを見せろ。いいな?
レヴィ
(ロシア語)無能が。
ドラッジ
いいか? 今度、俺がわからない言葉で話したら、荒野に放り出してやる。そこでお前の作った生物と仲良く暮らすがいい。
構わないのなら、いくらでも話せばいい。
レヴィ
はぁ……
では、死体を用意してもらおう。
ドラッジ
は? 死体だと?
レヴィ
その通り。死体を用意しろ! 人間の、君たちのような生物の死体をだ! 人種、性別、年齢は一切問わん!
源石の病気を患っていたものならば、それが最高だ。
ドラッジ
何をする気だ?
傭兵
この老いぼれが! 死者を侮辱する気か!
レヴィ
「人々を震え上がらせる力」を要求したのはそちらだろう?
ならば「倫理」などクソくらえだ!
レヴィ
死体だ! 死体を持ってこい!! 面白いもの、素晴らしいものを見せてやる!!!
ドラッジ
……
傭兵
ボス、これはバイエル首長の大戒律に反しています。あの老いぼれはボスを陥れようとしてるんじゃ……
ドラッジ
不死隊でも生み出そうということか?
レヴィ
不死隊とやらがどんなものかはわからないが、私の研究成果を見せてやると言っている。
傭兵
ボス、そんなこと……
ドラッジ
黙っていろ!
いいか、老いぼれ! よく聞け。
お前は恐らく、自分だけは極めて聡明で、それ以外の人間は愚かだとでも思っているんだろ。
だが、俺に小細工しようなどとは考えるな。お前みたいな奴は腐るほど見てきた。
自分の中だけで通用する賢さに溺れて死んでいく、お前のような奴を何人も見て来た。
俺が今、お前に我慢してやっているのは、お前にまだ利用価値があるからに過ぎない。
俺が、お前の必要なものを与えてやる。
だから俺を失望させるな。俺を失望させた場合の結末はお前でも想像できるだろう?
レヴィ
ふむ。では私は何も言わず、ただ従おう。それでいいのだろう?
どうか期待していてくれ。
ドラッジ
誰がお前を生かしているのか、忘れるんじゃないぞ。
俺がいなければ、お前とその研究は、ただの家畜のクソ以下だ。
俺が相手をしてやらなければ、お前は半年前にこの坑道の中で腐っていたはずだ。そうだな?
(サルゴン語)クズが。
お前たち二人はここに残って老いぼれを見張れ。
傭兵
わかりました、ボス。
レヴィ
(ロシア語)低能どもめ! お前らの相手をしてやっていること自体が私の脳細胞の無駄遣いだというのに、時間までも無駄にさせるか。
年老いた科学者は、洞窟の奥深くへと歩いて行く。
コンクリートのフレームが奇妙な形で不規則な洞窟にはめ込まれていた。
それは本来、ここにあるべきでないもの。
灰色の金属壁の内側には、この世界のものではない装置が動作を早めている。
透明なガラス製の培養槽の中で、結合組織に包まれた源石が漂っている。
まるで源石ごと痙攣しているかのようにうごめきながら……
レヴィ
(ロシア語)源石……
(ロシア語)この世界に、これほどまで偉大な存在があったとは。
(ロシア語)愚かな者どもは、この力がもたらす力と影響を恐れてすらいる。
(ロシア語)だが、それも当然だ、無知なるものは恐れるべきだ。
(ロシア語)愚者は未知なるもの、偉大なる力を、そして進歩を恐れる……
レヴィ
(ロシア語)なんと愚かなことだ。