歌い手
スカジは気を失った住民を見遣り、置いたばかりのケースを持ち上げた。
???
……こ、こんにちは。
スカジ
うん? もう一人いたのね。
女性住民
い、痛いことはしないでください……私はちゃんとわかってます。あなたが悪い人じゃないってこと。
スカジ
どうやら、あなたは話が通じるみたいね。
女性住民
だって、あなたはベンチを追いかけてここに来ただけですもん。
幼い住民
うぅ……あう~……きわく、きわく……
スカジ
ええ。この子が走っていったから、ついてきたの。
女性住民
あなたは、私たちに悪意なんて持ってない……そうですよね。
スカジ
この子が私の物を返してくれたらね。
女性住民
えっ?
ベ、ベンチ……何を盗ったの?
幼い住民
ぴかぴか……ぴかぴか……かたい……いたい……あぅ……
女性住民
た、食べちゃダメ! ほら、早くペッしなさい!
ごめんなさい。この子ったら見たことがない物を見ると、つい欲しくなっちゃうんです。人の物を取ったらいけないって、まだわかってないみたいで。これ、お返しします。
スカジ
どうも。
女性住民
あっ、よだれまみれ……すみません、手を汚しちゃった……
スカジ
いいわ。戻ってきたから。
女性住民
ここでは知らない顔を見ることなんてほとんどないんです。あなたは外から来たんですか?
スカジ
そうね。イベリアの他の都市から。
女性住民
よその人に会うなんて……これ、すっごく珍しいことですよ。
それに、あなたの服……すっごく変わってますね。私、そんな生地初めて見ました。外の人って、皆そういう格好なんですか?
スカジ
さすらいの歌い手は、こういう服を着るものなの。
女性住民
さすらいの……歌い手? さっき、トタンたちにもそう言っていましたよね。それって何ですか?
スカジ
当てもなく旅をしては、時々立ち止まって、ハープを片手に歌を歌う……私みたいな人をそう呼ぶの。
女性住民
そのケースには何が入ってるんですか?
スカジ
サックスよ。
女性住民
サックス……?
スカジ
楽器よ。
女性住民
その……本当にさすらいの歌い手なんですか?
スカジ
ええ。
女性住民
えっと……
なら、あなたは何をしに来たんですか? 歌を歌いに来たとか?
スカジ
人探しよ。
女性住民
誰を探してるんですか? その人もさすらいの歌い手ですか?
スカジ
そうよ。彼女は私の仲間。私たちは僚友なの。
女性住民
その人も、サルヴィエントに?
スカジ
ええ。彼女を見なかった?
女性住民
どんな格好の人なのか、まだ教えてもらってないんですけど……まあいっか。さっき言った通りですよ。あなたみたいな人は、他に見たことありません。
スカジ
そう。それなら、他の人に聞いてみるわ。案内してくれる?
女性住民
案内……私がですか? ……あの罠、私が作ったんですよ? あなたにはバレちゃってると思ったんですけど。
スカジ
別に、どうでもいいわ。
女性住民
怒らないんですか? 私、痛い目に遭わされると思ってました。
スカジ
行きましょう。時間が惜しいから。
女性住民
は、はい……
スカジ
……
女性住民
きゃっ!
あいたた……ど、どうしたんですか、急に止まったりして……ケースにぶつかっちゃいましたよ。
スカジ
言い忘れてたわ。私のケースには、あなたの役に立つ物は入ってないから。
けど、あなたの手伝いで無事に彼女が見つかったら、お礼に何だってあげるわ。これ以外ならね。
女性住民
あっ、すみません。ちょっと気になっただけで……そんなにわかりやすかったですか?
スカジ
あなたの罠と同じくらいね。
女性住民
わあ……歌い手さんって器用なだけじゃなくて、すっごく目が利くんですね。
住民
九十八……
住民
九十九……
スカジ
……
聞きたいことがある時、ここではどう尋ねたらいいのかしら?
女性住民
えっ? 外ではどうしてたんですか?
スカジ
このケースの……
……中に入ってるものを使うのよ。
女性住民
え? サ……サックス、でしたっけ? 楽器を使うんですか?
スカジ
……ええ。
ダーッ、ドンッ、パパッてね。
女性住民
……か、変わった音がする楽器なんですね。
スカジ
普通ならこれですぐに口を開くわ。
それでも話さない相手には、もう一度味わってもらうけど。
女性住民
ちょっとここでは、うまくいかないかも……なのれす。
スカジ
ええ、そうかもね。
そうでなきゃ……
さっきの二人も、話してたはずだもの。
女性住民
トタンたちのことですか? 多分、楽器なんて知らないんだと思いますよ。ここの人っていつも自分のことばっかりで、他のことを気に掛けたりしませんから。
それに、なんていうか……あの人たちって、滅多にお喋りもしないんです。だから知ってたとしても、なんて答えたらいいのかわからないんだと思います。
スカジ
あなたは私を気に掛けてくれるみたいだけど。
女性住民
……それは多分、私がおかしいからです。皆とちょっと違う、っていうか。
スカジ
話も上手だものね。
女性住民
本当ですか? 嬉しいです。ペトラおばあさんが教えてくれたお陰ですね。
あっ、そうだ。他の人にも聞いてみるんですよね? それじゃ、ペトラおばあさんの所に案内しますよ。おばあさんはここで一番のお年寄りで、なんでも知ってるんです。
スカジ
そう。それじゃ、お願い。
女性住民
はい! こっちですよ、歌い手さん。
スカジ
……こっちでいいの?
住民
九十九、九十九……
住民
九十九。
女性住民
あっ、あの人たちのことは気にしないでください。ただ立ってるだけですから。少し狭い道ですけど、ちょっとぶつかるくらいなら彼らも気にしませんよ。だよね、机の脚?
住民
……
スカジ
……
女性住民
え……? 頭の上を飛び越えちゃった!? い、今のどうやったんですか? 誰にもぶつからずに進めちゃうなんて……
外の人は、皆そんなことができちゃうんですか? すごいなあ……
女性住民
あっ、着きましたよ!
女性住民
ペトラおばあさん! ペートーラーおばあさーん!
年老いた住民
あんまり大声出さないでおくれ、私の鼓膜を破る気かい?
女性住民
えへへ、おばあさん、今日は元気そうですね! また――えっと、ひなたぼっこしてたんですか?
年老いた住民
ひなたなんて、どこにあるってんだい。もう何年も待ってるが、太陽なんて長いこと拝んでないよ。なのに、アニタ。あんたときたらいつも一大事みたいに走り回ってるね。今日は何の騒ぎだい?
いや……そもそもこんな場所で、今更何が起きるっていうんだか。
女性住民
ペトラおばあさん。今日は私の用事じゃないんです。おばあさんに会いたいって人がいて……
女性住民
――あれ、どこ行っちゃったんだろ?
スカジは路地の向こうを見つめていた。
そこには誰もいない。少なくともそう見えた。
スカジ
……
女性住民
あっ、いたいた。どうしてこっちに来たんですか?
スカジ
視線を……感じたの。
女性住民
ん? 視線? 路地には誰もいないみたいですけど……
スカジ
うまく隠れてるわね。ちょっと詰めが甘いけど。
女性住民
どうしてそんな怖い顔してるんですか? さすらいの歌い手さんなんですよね? 人前でよく歌うんだったら、人から見られるのも慣れっこじゃないんですか?
スカジ
……そうね。
女性住民
だったら、もう行きましょう! ペトラおばあさん、今日は元気なんです。きっと何か聞かせてくれるかも。
通りの端で、一人の老女がぐるぐると柱の周りを回っている。
わななく体と裏腹に、その足取りはしっかりとしたものだった。
年老いた住民
空をも染めた夕焼けが、私のドレスを赤く染め……愛しい人よ、私を連れてあの青い海を渡っておくれ……
女性住民
ペトラおばあさん、何してるんですか?
年老いた住民
アニタ、まったくあんたときたら、鬱陶しい子だね! 踊ってるんだよ、見えなかったのかい?
それに乙女が踊ってる時、邪魔をするのは野暮ってもんだ。どれ、あんたも一緒に踊るかい?
女性住民
えっと……遠慮しておきます。
あの、もっとゆっくり回らないと、また目が回っちゃいますよ。
年老いた住民
目が回るだって? ばかばかしい! 私ゃ一度に十回だって回れるんだよ、街中の人が拍手喝采さ!
年老いた住民
いいかい、私は……ごほ、ごほごほっ……
女性住民
ちょっと休みましょう、おばあさん。ほら、歌い手さんが来てるんですよ。おばあさんに聞きたいことがあるんですって。
年老いた住民
歌い手? そんなもんが来るなんざ、数十年ぶりじゃないか。
はぁ、なんだってまだ明るいんだい? さっさと夜になりゃ、バーで誰かしらハープを弾いてるもんなんだが……あんた、ハープは弾けるんだろうね?
私たちは広場で踊るんだ。そう、この場所でね……何度でも、何度でも回っていられるさ。それとね、私は赤いドレスを持ってるんだよ。お嬢さんや、あんたが着てるのよりずっと綺麗なやつさ。
昔は私と踊りたがる男は大勢いたもんさ。その中でも、私はマニュエルが一番好きだった。若い頃は一番ハンサムだったよ。
女性住民
そうね、ペトラおばあさん。私にも何度もその話をしてくれましたよね。
年老いた住民
……ん? なんだって? 誰が私を訪ねに来たって?
年老いた住民
ああ、あんたか。その赤いドレスは、本当に綺麗だね。
年老いた住民
あか……赤……や、やめとくれ……赤なんていらないよ!
そうだ……海! 海は生きているんだ!
女性住民
いけない、また始まった……
年老いた住民
……突然押し寄せてきて、皆死んじまった! あんなに……あんなにたくさんの人がいたのに……しかも生き延びた連中には、食べる物が一つもなかった……
マニュエルはね……最初は私を外に連れ出すと言ったんだ。けど急に考えを変えちまった。出て行った連中は誰一人帰って来ない、皆外で死んだに違いない、とか言いだしてね。
女性住民
その話も、前に聞きましたよ。
年老いた住民
マニュエルは……私を守ると言った。約束もした――私を守ると、そう言ったんだよ! でも奴は私を騙したいだけだった――
私が隠していた食べ物を全部騙し取るつもりだったんだ。だから……わ、私は騙された振りをして、母親の形見を……銀の花瓶を手に取って――ごほっ、げほっ、ごほごほ――
赤……私は、赤が好き……いや……いやだ……
女性住民
ペトラおばあさん、ペトラおばあさん! もうやめてください。その話をするたび、苦しそうにするんですから。
今日は他のことを話しましょう。ほら、おばあさんに聞きたいことがあるって人を連れて来たんです。
年老いた住民
聞きたいこと? 誰が何を聞きたいっていうんだい?
女性住民
この人ですよ、外からやってきたさすらいの歌い手さんです。
探してる人のこと、早く聞いちゃってください! ペトラおばあさんに答える元気があるうちに。
スカジ
こんにちは――
年老いた住民
誰だい? あんた……
スカジ
さすらいの歌い手よ。人を探してるの。私も、その彼女も、街の外からやってきたんだけど……
年老いた住民
外……? 外だって!? 嘘をつくんじゃないよ!
外から人なんて来るわけないだろう。よそ者はとっくに私らを見捨てたんだから……
さては私の物を奪うつもりだね? 食料、服、果ては私の血肉まで貪り食らう――
化け物! この化け物め!
スカジ
何を……
女性住民
おばあさん、ここには化け物なんていません。彼女はただの歌い手さんですよ。
年老いた住民
あか……赤い、ドレス……あぁ、見つけた。ここで……歌が、聞こえる……マニュエルが、待っているんだ。行かないと……もう、行かないと……
……愛しい人よ、私のドレスを赤く染め……赤く、染め……
女性住民
はぁ……
女性住民
ごめんなさい。今日はかなり興奮してるみたいです。あなたを連れてくるべきじゃなかったのかも……
とりあえず……おばあさんを部屋の中に連れて行きますね。歌い手さん、少し待っててください。
女性住民
……もしかして、まだ視線を感じるんですか?
はす向かいに渡った黒い影が、より深い影へと隠れるのが見えた。
スカジ
大丈夫よ。
今のところ、大した面倒ごとじゃないわ。牙を剥かない小さな獣みたいなものね。だから、気にしないで。
女性住民
は、はい……えっと、その……ペトラおばあさんは……
スカジ
ハープも踊りも知っていた。彼女は外の人とそう変わらないわね。
女性住民
そうですか。おばあさんが言ってること、大抵よくわからないんですけど……そういうことなら、当然なのれす。
スカジ
私を化け物だって。
女性住民
悪気があって言ったわけではないんです。おばあさんは、その……いつも夢の中にいるみたいで……だから、ありもしないものが見えちゃうみたいなんです。
スカジ
……皆、そんなものよ。
女性住民
おばあさんは、病気なんです。なので、あなたの質問には答えられそうにないですね……
スカジ
残念なことにね。
女性住民
で、でも安心してください、歌い手さん。
私が住んでる場所には、他にも兄弟がいますから。あとで聞いてみましょう。話してくれるかは、わかりませんけど……時々、私でもお話するのがすごく難しかったりするのれすよね。
スカジ
「兄弟」……?
女性住民
はい。血は繋がってませんけど、私にはたくさんの兄弟や姉妹がいるんですよ。街の人全員が兄弟っていうルールになってるんです。
あなたもイベリア人のようですけど、こういう呼び方はしないのですか?
スカジ
……
あなたたちは、それを信じてるのね。
女性住民
当然なのれす。私が小さかった頃、ペトラおばあさんが口にしていた暗黒の時代に……私たちは過ちを犯してしまったので……
当時は、皆が自分のことだけを考えていて、家に隠れて籠もりきりで……話だってしませんでした。そのせいで、缶詰を掘り出した時は、たまに……ええと、ケンカをしてましたし。
でも、分け合うことを学び始めてからは、徐々に状況は良くなっていき……今では一緒に暮らしたり、時々お喋りができるようになったのれす。
女性住民
――「私たちは生きたい。だからこそ互いをより深く愛するのだ。愛が私たちを強く結びつけてくれる。奪ってはいけない。争ってはいけない。」
「己自身を強健にせよ。一族すべてを強健にせよ。素晴らしい生活を送るために。」
スカジ
聞いたことがあるわ。
女性住民
宣教師さんは、外の人たちもこれを信じていると言ってました。
あっ、そうそう! これは全部、宣教師さんが私たちに教えてくれたことなんです! いつもたくさんお話してくれるんですよね……
何言ってるかはよくわからないんですけど。さっきの以外で私が覚えてることといえば、皆を兄弟として扱って優しくするように、ってお話だけですし。でも、これってためになりますよね。
スカジ
宣教師がいるの?
女性住民
はい。あなたと同じで、彼も外から来た人なんです。もう何年も前のことですけどね。
宣教師さんが来てからです……私たちが、いい方に変わっていったのは。あの人も、私たちの兄弟なんですよ。
スカジ
その人はいつも一人なの? それとも、誰かと一緒にいるとか?
女性住民
大体一人ですよ。あ、トタンたちから聞いたんですけど、あとから一人増えたんですって。
スカジ
どんな人?
女性住民
あんまり見たことないんですよね。彼女、滅多に姿を見せなくて。たまに宣教師さんが私たちに話をする時、宣教師さんの後ろに立ってますけど……遠くから、ちらっと見たことあるくらいです。
スカジ
そう……
女性住民
ど、どうしたんですか? 急に歩き出したりして……
スカジ
教会へ行くの。
女性住民
行き方、知ってるんですか?
スカジ
どこにあるかってことくらい、見ればわかるわ。
女性住民
ちょっとわかりづらい道なのれすよ? ここからずーっと海辺の方へ行くんです。私が案内してあげますよ。
少女はスカジを連れ、その長い道のりを歩き出した。
二人は次第に海岸に近付いていく。教会の屋根はすぐそこにあるように見えていたが、実際のところ、まだずっと遠くにあった。
女性住民
あれ? なんで止まっちゃうんですか?
スカジ
……
まさかついてくるなんてね。
女性住民
えっと……言ってることが、よくわからないんですが……
スカジ
さっきの小さな獣のことよ。まだつきまとってくるみたい。
女性住民
ん? 獣って動物のことですよね……? でしたら、ここにはいませんよ。とっくにいなくなっちゃいましたから!
スカジ
……まあ、大したことないわ。行きましょう。
女性住民
はい、歌い手さん。
女性住民
見えますか? あそこが教会です。
でも、私たちは普段、こんな時間に教会には行かないんですよね。
スカジ
入れるなら問題ないわ。
女性住民
中に入ることくらい、誰でも皆できますよ。教会の扉は、信心のあるすべての人にいつでも開かれているって、宣教師さんが言ってましたから。でも……あなたは人を探しに行きたいんですよね?
だったら、その……宣教師さんは普段、この時間は教会にはいませんよ。
スカジ
いつならいるの?
女性住民
実は一定の期間ごとに、私たちの元にやってきて、一人一人と心をこめてお話してくれる時間があるんです。
聞きたいことがあれば、その時に尋ねてみるといいと思います。どんな質問をしても、宣教師さんは嫌がったりしませんから。
それに宣教師さんが来てくれる日は、次の日の太陽が昇るまでずっと教会にいてくれるんですよ。
女性住民
あっ、そうだ! 宣教師さんならきっと人探しも手伝ってくれるはずです! 私たちよりもたくさんのことを知ってますし!
スカジ
……一定の期間ってどれくらいなのかしら?
女性住民
うーん、最近見かけてないんですよね。私は他の人たちみたいに日にちを数えてないですし……でも、多分あと数日くらいで来ると思いますよ? 皆、もうすぐ食べ物がなくなっちゃいますから。
スカジ
そう。わかったわ。
女性住民
不思議ですね。あなたが「わかった」って言う時、なんだか心からの返事じゃないように聞こえます。
でも、そう思うのは良くないですよね。人を疑っちゃいけないって宣教師さんも言ってましたし。私こんなだから、お前は質問ばかりだ、そんなのは何の役にも立たないって、いつも言われるんです。
スカジ
……それも宣教師が言ったの?
女性住民
あははっ、宣教師さんはそんなこと言わないのれす。第一、お話が長いからいっつも私は途中で逃げ出しちゃうのれすよ。
質問ばかりだって言うのはトタンたちですよ。皆、私のこと鬱陶しいと思ってるみたいで……私だっていつもお喋りなわけじゃないのに。ここの人たちが静かすぎるだけですよ。
誰も何も話してくれない時なんか、とっても退屈で……もう、一人でずっとお喋りするしかないんです。
ペトラおばあさんしか私のお喋りに付き合ってくれないんです。でも今はあなたがお喋りしてくれるから……それがとっても嬉しくって。あっ、でも……あなたも鬱陶しいと感じてたら、すみません。
スカジ
……
私が普段いる場所には、あなたよりもずっとお喋りな人がたくさんいるわ。
女性住民
それじゃ、きっと素敵な場所なんですね!
スカジ
……そうかもね。
女性住民
歌い手さんの所には、踊りを踊る人もいますか? ペトラおばあさんが言ってたみたいに、広場でダンスパーティーをやるんでしょうか?
スカジ
ええ、時々。
女性住民
それじゃ、どうしてあなたは踊らないんですか? ハープを持っているのに……
ペトラおばあさんが言ってました。ダンスパーティーは皆で歌ったり踊ったりするもので、歌い手はそれが得意なんだって。
スカジ
……私の踊りを、あなたが見ることはないでしょうね。
女性住民
どうしてですか?
スカジ
こんな時、こんなところで、あなたみたいな人に見せるものじゃないから。
女性住民
あなたってすっごく変ですよね、私よりも変ですよ。あなたの家は一体どこにあるんですか? あなたの所の人って……皆あなたみたいに変な人なんですか?
スカジ
そうね……
私が普段いる場所は、私の家じゃないの。
私の家がどこなのかは、私にもわからない。もうなくなってしまったから。
女性住民
なあんだ。そんなの、大したことありませんよ。私の家もそうですから。何年も前の強風で、潰れて壊れちゃいました。お母さんはその時家にいて……だから、お母さんもいなくなっちゃって。
スカジ
……
女性住民
でも、それも大したことじゃありません。皆そうですから。家がなくなったなら、誰も住んでない場所を探してそこに住んだらいいだけです。ここは、家ならたくさんあるのれすから。
そうだ、踊りたくないなら、代わりに歌を歌ってくれませんか?
他の人が歌ってるの、聞いたことないんです。
スカジ
……考えておくわ。
女性住民
やったあ!
うーん、たくさん歩いたから、お腹すいちゃいましたね。
あなたもきっとお腹すいてますよね? お腹すいたままじゃ、歌なんて歌えないですよね?
それじゃ、食べる物を探しに行きましょう。
スカジ
ちょっと……
女性住民
あっ、走るの速すぎました? すみません、あなたがまだこの辺の道を知らないってこと、すっかり忘れてました。
……そうだ! 私、アニタっていいます! これからは名前で呼んでください。そうすれば、あなたが追いつけない時も待ってあげられますから。