狂えるシグナル
ライン生命研究員
おや、ミュルジス主任。珍しいですね、こんな時間に。
ミュルジス
えーっと……こほん。そうなのよ、終わらせたい仕事があってね。
ライン生命研究員
それはお疲れ様です。
ライン生命研究員
ところで、そちらのお二人は?
サリア
……
ミュルジス
……あたしたちの大事なパートナー様よ。
あなた、まさかわからないの?
ライン生命研究員
え、ええと……お顔がよく見えませんもので……
ミュルジス
この方は名のある源石理論学者で、鉱石病の専門家、しかも天災研究の権威でもある――
ライン生命研究員
ああ、あの方でしたか! あなたのような素晴らしい科学者にお会いできるとは、何たる幸運!
ミュルジス
じゃあ、悪いけど急いでるから――次の機会があったら、また一緒にランチでもしましょ。
ライン生命研究員
ええ、ぜひとも。では、お邪魔にならないように失礼して……
サリア
……
ライン生命研究員
……!? お待ちください、もしやあなたは……
???
コーティング関係の有名な専門家だね。
サリア
パルヴィス……
パルヴィス
ライン生命はここ数年で急速に大きくなったから無理もないが……
パルヴィス
新米くんにはまだまだ見識を広めてもらわないといけないかな。
ライン生命研究員
……しゅ、主任がお二人も……!? す、すみません、あの、仕事が残ってますので……お先に失礼しますっ!
パルヴィス
ふふっ。
サリア
……私の帰りを奴らに伝えはしないのか?
パルヴィス
これは失礼、以前お会いしたことがあったかな? 美しいヴイーヴルのお嬢さん。申し訳ないが、私は老眼がひどくてね。
サリア
……
パルヴィス
ほかに聞きたいことがなければ、失礼させてもらうよ。こんな年寄りがあまり遅くまで起きていると、体調に響いてしまうのでね。
パルヴィス
そうだ、ミュルジス主任。約束の黒豆茶を忘れないでおくれよ。
ミュルジス
ふぅ……ねえサリア、今の本当に通りかかっただけだと思う?
サリア
現在時刻は朝の四時だ。
サリア
普段通りなら、パルヴィスは九時間前に退勤している。
ミュルジス
案の定……フェルディナンドとクリステンのどちらに賭けるか、ギリギリまで決断を先延ばしにしてるのね。
ミュルジス
そうやって勝率の高いほうを見極めるつもりなのよ。
ミュルジス
やれやれ……ライン生命が廃墟になっても、彼だけはきっと生き残るでしょうね。
ホルハイヤ
……あの人たちがライン生命本部へ入っていったわ。
ホルハイヤ
先行部隊は準備しておいてね。
Mechanist
そう急くな。
ホルハイヤ
あら、あなた……
Mechanist
君とサリアの戦いを見て、その装備に興味が湧いてね。
Mechanist
少し見せてはもらえないか?
ホルハイヤ
……
ホルハイヤ
ロドスのエリートオペレーターって、戦う前にそういう挨拶をするものなの?
Mechanist
誤解しないでくれ。今のはエリートオペレーターとしての発言じゃない。
Mechanist
私は、一人のメカニックとして、優れた技術とその発明者には敬意を払っている。
Mechanist
だからこそ、その変わったアーツユニットを取り上げる前に、そちらの意向を確認しておきたいだけだ。
ホルハイヤ
……あなたって面白い人ね、Mechanistさん。
ホルハイヤ
当初の目的としては、サリアに会いたかっただけなんだけど……あなたとあのドクターがもっと素敵なサプライズをくれて嬉しいわ。
Mechanist
私の名前を知っているのか?
ホルハイヤ
あなただって、私のことを調べたでしょ?
ホルハイヤ
私たちみたいなタイプは、仕事に取りかかる前になるべくたくさん情報を集めておくものなのよ。
Mechanist
……ホルハイヤ。ライン生命本部のデータベースで、君の名前を見つけた。
Mechanist
しかし、フェルディナンドが同僚を追わせるためだけに歴史学者を雇うというのは信じがたい。クルビアの学術界はありえないことだらけだが、それでもさすがにデタラメだ。
ホルハイヤ
ふふっ、ただの副業よ。
Mechanist
副業として歴史を研究している、と?
ホルハイヤ
そっちじゃなくて。
ホルハイヤ
私は本来、ただの歴史学者なの。ここにいるのだって、千年前からの予言が実現する様を見届けるためでしかない。
ホルハイヤ
それと同じように、未来の行方が埋もれていた歴史の一部を白日の下にさらしてくれるとも考えているし――
ホルハイヤ
つまり私はあなたたちと同じ、真実の探求者なのよ。
メアリー
着いたわ。
メアリー
例のクソ主任がどこにいるかは知ってるの? 研究員さん。
エレナ
監視室にいると思うよ。
メアリー
あの角に通風口があるわね。あれをよじ登れたら近道できそう。
メアリー
さあ、急ぎましょう。
メアリー
どうせ、すぐに出迎えが山ほどきてくれるでしょうし。
ライン生命警備課職員
……保安官。
ライン生命警備課職員
あなたとは、こうして対面することになると思っていました。その犯罪者との過去を、きっとあなたは忘れはしないでしょうから。
メアリー
彼はまだ犯罪者じゃないわ。それに、有罪かどうかを決めるのはあなたたちの仕事じゃないでしょう。
ライン生命警備課職員
……あなたはもう引き返せません。
ライン生命警備課職員
そんなに優秀なのに……どうしてあなたたちは、わざわざ自分の将来をダメにしてしまうんですか? あの人は、なぜ……私の説得を聞いてくれなかったんでしょうか?
メアリー
それを本当に聞きたい相手は私じゃないでしょう?
メアリー
だけど、その人の代わりに私がもう一度教えてあげる。
ライン生命警備課職員
っ――
メアリー
私たちは、自分が何のために戦っているかを知ってるの。
メアリー
件の主任みたいなクズに踏みにじられないように、ルールを、そして誰かを守るためなら、絶対に躊躇わないわ。
メアリー
私たちは、あなたみたいに……
メアリー
有利かどうかで誰につくかを判断したり――
メアリー
手を下す前にあれこれ理由を聞いたりなんかしないのよ!
ライン生命警備課職員
ぐ、っ……!
メアリー
どう、進めそう?
エレナ
うん、多分……
メアリー
だったら早く行きなさい。
エレナ
あなたはどうするの?
メアリー
自分の心配だけしてなさい。私にはこの武器があれば十分よ。
エレナ
……ありがとう。
エレナ
気を付けてね。
サニー
……
メアリー
あんたはどうして行かないの? あいつと決着を付けるために来たんでしょ?
サニー
……武器なら俺も持ってるからさ。
メアリー
えっ?
サニー
こうして一緒に戦うのは久しぶりだな、メアリー。
メアリー
何言ってるんだか……あんなのただの遊びじゃない。
メアリー
それに、そんな遊びですらも私がリードしてあげてたんだけど?
サニー
ははっ……うん、ありがとな。
サニー
本当に……あの頃が心底恋しいよ。
ミュルジス
あのエレベーターなら、統括のオフィスまで直行よ。
サリア
後ろの非常階段を使うほうが安全だ。
ミュルジス
わかってるけど、早く着いたほうがいいでしょ?
ミュルジス
だったら絶対直通のほうが速いし、相手する数も少なく済むし……
サリア
待て、それ以上進むな――
ミュルジス
えっ?
サリア
……
ミュルジス
ごめんなさい、うっかりしてたわ。この辺りから監視エリアだったわね……
サリア
ドクター、予備のプランに移行するぞ。
ライン生命警備課職員
侵入者発見!
ここだ、ここにいるぞ!
ライン生命警備課職員
全員捕らえろ――って……しゅ、主任……?
サリア
しばらくぶりだな、レジー。
ライン生命警備課職員
……
ライン生命警備課職員
なぜお戻りに……いえ、今のあなたには権限がありません。無許可では進めませんよ……
サリア
侵入者の前で心の迷いを見せたところで、相手にチャンスを与えるだけだぞ。
サリア
もう一度教育が必要か?
ライン生命警備課職員
……た、盾を構えろ!
ライン生命警備課職員
フラッシュガン用意! 目標はサリア……!
サリア
ギリギリ及第点だな。
フェルディナンド
最新版のデータは記録されているな?
???
はい。
フェルディナンド
よし。ドローンの方向には注意しろ。
被験者の行動が一次データの収集に影響しないようにな。
???
安心してください、ボス。
エレナ
お求めの一次データなら、ここに。
フェルディナンド
……
フェルディナンド
エレナ。
フェルディナンド
無事で……何よりだ。
エレナ
……私も、あなたのもとで何年も働いてきましたから、小さな表情の変化くらいは読み取れるようになりました。
左の眉が少し上がっているのを見るに……相当驚いてますね?
フェルディナンド
……君はいつも私を驚かせてくれるな。
フェルディナンド
だが、こうして戻ってきてくれたお陰でようやく一息付けるよ。――気の利かない新人たちには、君のような優秀な研究員の指導が必要だからな。
エレナ
私をチームリーダーに、と?
フェルディナンド
いいや。
フェルディナンド
君は自分の能力を完璧に証明してくれた。もはや助手という立場に甘んじる必要はない。
フェルディナンド
次のプロジェクトでは、君が最高責任者だ。
フェルディナンド
さあ、テーブルの上の鍵を受け取りたまえ。
フェルディナンド
それは君のために用意していたプレゼントでね。完成したばかりの……真新しく広々とした、君だけのラボが待っている。
フェルディナンド
君が望むならどんな研究でも、私とライン生命が全力でサポートしよう。
エレナ
素晴らしいお話ですね。
エレナ
もしかして、エネルギー課主任の後継者に、とも考えていただいていますか?
フェルディナンド
……それもアリかもしれないな。
エレナ
……
フェルディナンド
どうした……? 嬉しくないのか?
エレナ
だって、あなたがどんな未来を用意してくれたとしても……私の答えは「ノー」だから。
フェルディナンド
……アーツユニットを降ろしなさい。
エレナ
何を怖がってるの? 大きな成功を目の前にして、私の裏切りで、輝かしい未来を手に入れ損ねることだとか?
エレナ
もしかすると、本当にそうなっちゃうかもね。
フェルディナンド
理解できんな。君にはこれまで多くを与えてきたというのに……
フェルディナンド
君は才能を、勤勉さを、そして野心を持っているはずだ。
フェルディナンド
これは成功するのに必要な資質であり、私を私たらしめる要素でもあるんだがな。
エレナ
あなたには理解できないに決まってるよ。
エレナ
本気で私を重用してたっていうなら――実験の真相を事前に伝えるべきだった。
エレナ
これは被験者たちの安全なんて度外視した実験で……私はドロシーを監視する道具でしかないし、使えなくなったら自分の犯罪の証拠ごと消すつもりだ、って言ってくれたらよかったんだ。
エレナ
……結局、あなたは私のことを扱いやすいバカだとでも思ってたんでしょ?
エレナ
実際バカだったよ……オリヴィアが何度も警告してくれてたのに、私はあなたが手を下す最後の瞬間まで目を覚まそうとしなかった!
フェルディナンド
落ち着きなさい、エレナ。私は君の準備が整っていないと判断していただけだ。まさに今、そうして心が揺れているように……
エレナ
――そう言って、私を信じてくれたことなんて一度もないよね。
エレナ
それどころか、誰のことも信用してないでしょ。あなたが信じてるのは自分だけ……
エレナ
なのに、どうしてあなたを……その約束を信じられると思うの?
フェルディナンド
聞きなさい。……これほど多くのチャンスを与えるのは君が初めてなんだ。
フェルディナンド
君は私によく似ている。血の繋がった我が子よりもな。
フェルディナンド
これまで私は、君に多くの心血を注いできた。今ならまだ間に合う……私の元へ戻りたいと言ってくれたら、すべてを許そう――
エレナ
……
最後にお願いしたいことがあるの。
それ以上喋らないで。
その「プレゼント」と偽善もろとも、私の前から消えて。
私はもう、言いなりになんてならないから――
二度と顔を見せないで。
ライン生命警備課職員
……フェルディナンド主任!
ライン生命警備課職員
総員、彼女を捕らえろ!
エレナ
っ……!
ライン生命警備課職員
主任、お怪我はありませんか?
フェルディナンド
大丈夫だ。
フェルディナンド
エレナ……
エレナ
……そうやって……心配そうな目で、こっちを見るのはやめて。
エレナ
腹が立ってくるから……
フェルディナンド
……理解できないに決まっている、と君は言ったが……理解していないのは君も同じだ。
フェルディナンド
確かに、私は今……焦りと躊躇いを見せただろう。
フェルディナンド
だがそれは、君に邪魔されることではなく、君のことが心配だったからだ。
フェルディナンド
私は本気で……君にこんな真似はさせたくないと思っていた。
エレナ
――その言葉……
エレナ
そっくりそのままお返しするよ。
ミュルジス
はぁ……ふぅ……困ったわねえ、警備課の人がどんどん来てるわ……
ミュルジス
フェルディナンドってつくづく用意周到ね。いくらサリアでも、これだけの人数を一気に蹴散らすのは難しいんじゃない?
ミュルジス
……あたし? 無理よ、ケンカは苦手だし。
ミュルジス
攻撃をかわすだけで精一杯っていうか……
ミュルジス
もう息切れしちゃってるくらいなんだけど。
ミュルジス
あら……気付かれてたの?
ミュルジス
あたしは……きゃっ!
ミュルジス
……危ない危ない……
ミュルジス
ドクター……今、引っ張ってくれたわよね?
ミュルジス
あたしの行動には裏があると踏んで……それでもあたしを助けてくれるの?
ミュルジス
……さっきのを合わせると、あなたには二度も助けられたことになるわね。Dr.{@nickname}。
ミュルジス
うん、いいわ。
ミュルジス
それなら、今回は恩返しとして――あなたたちに味方してあげる。サリアが行きたいところに行けるようにね。
ミュルジス
――
ミュルジス
水を織りなす分子たちよ、我が呼び声に応えなさい。
ミュルジス
眼前の生き物すべてに口づけて、邪魔者を皆押し流すのよ!
ホルハイヤ
……エルフが心変わりしたようね。
ホルハイヤ
ほんと、可哀想な生き物だわ……いつだって、誰かと明日の約束をすることばかり望んでいて。
ホルハイヤ
まあ、自分とその一族が過去にしか存在できないなんてこと、喜んで認める人はいないものね。
ホルハイヤ
クリステンが与えられなかったものを、あのドクターが与えてあげた……ってとこかしら?
クルビア傭兵
ホルハイヤ様、サリアが警備を突破しました。
ホルハイヤ
構わないわ。旧友に会わせてあげましょう。
ホルハイヤ
私にはほかの仕事があるし……あのメカニックさんとは、また次の機会にお喋りしたいところね。
ホルハイヤ
――彼がパワードスーツの包囲網から逃れられたらの話だけど。
ここを離れてどれだけの時間が経っただろう?
――1497日か。
かつて別れを告げた時、私たちは敵同士だったのかもしれない。
次に再会した時は――まだ友人と呼べるのだろうか?
???
おかえりなさい、サリア。
サリア
……久しいな、クリステン。