彼女の影

彼女はすべてが終わる可能性を想像したことがある。たとえドラコの火が永遠に収まることがなくとも。
焼けるように痛む胸から怒りの炎が迸って、与えられた殻と身分を焼き払い、己の枷から逃れられると彼女は想像した。
しかし実際に自らの炎に触れ、それを握り締めようとした時、彼女はふと、自分はこれまでにそれを制御できたことなどなかったのではないかと思った。
エブラナ
よくやった、ラフシニー。
お前は私の心からの賞賛を求めていたな。これで満足か?
それとも……ようやく「影」が自らを取り戻し、私に取って代わって「リーダー」になる準備が整ったのか?
私はお前にそのチャンスを与えてやってもいい。さあ、お前の次の火は私を灰にできるぞ。
お前は……私に――そのチャンスに手を伸ばすか?
リード
……
炎が燃え上がり、エブラナの影がわずかに揺れる。
しかしリードは視線を逸らした。
さほど遠くない場所、敷かれた古いエプロンの上で目覚めたばかりのケリーがゆっくり起き上がり、モランが歌を口ずさみながら彼女の傷口を洗っている。
リード
……姉さん。姉さんはどうしてここに来たの?
ここに立った時、姉さんの目に映ったものは何?
あの夜の焚き火はとても明るかった。
あの時、ヴェンは商売がうまくいくような新しい場所が見つかるようにとうろうろしながら祈り、セルモンは武器にさらに多くの有刺鉄線を巻きつけていた。
皆が冗談交じりに彼女をリーダーと呼び、そしてここまで先導してくれたことに心から感謝していた。
リード
ヴィクトリア人はゲル王に称号を授けた後、儀式用のストーンサークルの上に王城を建てた……
それより前……そこはターラー人の故郷だった。
彼女ははるか昔の、祭日の雪の夜を思い出した。
彼女たちは暖炉の前で全く同じ新しい上着を着て、共に笑い合って写真を撮った。
それは愛くるしい……小さく温かな火。
リード
だから私は……
私は今でもただの影……それはいいの。
だけど、もう姉さんの影なんかじゃない。たくさんの人、そしてたくさんの理想がダブリンに火を灯して――その光によって映し出された「リーダー」の影だよ。
彼らは逃げる道を求め、自分の生活を取り戻したいと思っている。そして私はちょうどそこにいて、彼らに必要とされている。
姉さん、どうして私は姉さんに打ち勝たなければならないの?
モラン
死ぬのが怖くない? そんなことを言わないでください、ケリー。死を恐れるのは悪いことではありません。
他のターラー人の力になれないまま、同じようにターラー人を救いたいと思っているダブリンの手にかかって死ぬなんて、残念なことだと思いませんか?
ターラーの流民
……あなた、前よりずっと口が達者になったわね。
モラン
痛かったですか? ごめんなさい……
モラン
あっ、リードさん、戻ってきましたか。
リード
今夜はここに隠れていれば、アーツに支配された死者たちにも遭遇することはないはずだよ。
モラン
付近を確認してくれたのですか? ありがとうございます。
モラン
私もできるだけ長くここに留まりたいと思っていました、ケリーの傷は……酷い状態ですから。
リード
……
ターラーの流民
どうしたの、ボーッとした顔して……
……フフッ、たしか最初、私たちはあなたをお医者さんだと思っていたけど、後になってみんなと同じただの怪我人だったってことに気付いたのよね。
ねえ教えて。私の傷は……深刻なの?
リード
いや、大丈夫……キミの傷は治る、そんなに心配しなくていいよ。
リード
ただ治すには……ねえ、キミたちは私の火が怖い?
モラン
もちろんそんなことはありませんよ。
リード
それなら……
彼女は目の前にいる傷を負ったターラー人に手を伸ばした。
ドラコの怒りの炎が彼女の血の中で逆巻いている。かつて赤き龍は自らの民に代わり血を流し、一滴の血で野原全体を焼き尽くした。
彼女は焼けつくような吐息を呑み込み、抑えつけられた炎は彼女の身体の内を焼く。
しかしもし、これで目の前のターラー人の傷の痛みが和らぐなら、彼女は喜んで耐える。
──彼女の手の中に本物の火が燃えることはなかった。それどころか目視できる光すらもなかった。
ただそこにいる全員がある感覚を覚えた──命が流れ込むような、朝起きて最初に目を開けた時のような柔らかさを。
ターラーの流民
ふぅ……
モラン
その表情……楽になったんですか?
ターラーの流民
うん……リード、あなた、本当にお医者さんじゃないの? お医者さんらしいやり方ではなかったけど、体は楽になったし……
リード
今日はよく眠れるといいね、ケリー。
ヴィクトリア士官
まさか、ヴィクトリア軍人ではない者が、この高速戦艦に乗るとは考えたこともなかったな。
ダブリン士官
この船がヴィクトリアの旗を降ろした時、お前たちでもそのくらいは想像できるものと思っていたんだがな。
ヴィクトリア士官
ターラー人よ、私は貴様らに敵意はない。私はただ貴様らの軍人としての素養と、あのリーダーに興味があるだけだ。
公爵の貴重な客人が、ただドラコの血統を笠に着ているというだけの者ではないことを願おう。
ダブリン士官
ヴィクトリア人よ、お前は骨の髄から俺たちに対する傲慢に満ちているようだな。
だがあのお方が壇上に登り演説を始めれば、あの方こそこの戦艦に乗るあらゆる勢力の主だと悟るはずだ。
負傷したターラー人
いや、やっぱりわからないなぁ。あんたたちはダブリンなのか? その格好はまったくダブリンには見えないが。
もちろん、あんたたちが何者だろうと、ヴィクトリア人から俺の命を救ってくれた以上、あんたたちについていくよ。
リード
……ごめん、キミの仲間までは救えなかった。
負傷したターラー人
いい……いいんだ。これから俺が他の人を救えれば、あいつの魂も救われるってもんだろう。
リード
……そうだね。
モラン
そういえばリードさん、あの人たちはもう私たちを追いかけるのを諦めたのでは?
リード
うん。急にいなくなって驚いたけど……いずれにしろ私たちにとっては良いことだね。
リード
ダブリンの軍隊は、恐らくすでに集結しているはず。
リード
……ターラー人は、まもなく全ヴィクトリアに対して、自分たちの声を伝えようとしている。
エブラナ
兵士たちよ。
私が率いるダブリンの部隊が、ヴィクトリア各地からこの場へと集まり、公爵閣下の軍隊と合流したのは、諸君らと共にこれより生き残りをかけた戦争を開始するためである。
諸君の中には、今日までダブリンの名を聞いたことがない者がいるかもしれない。あるいは我々が一体何のために戦うのか理解していない者も多いだろう。
お前たちの戦争はこれから起きる。しかしターラー人を巡る我々の戦いは、過去十年の間既に何度も行われてきた。今この瞬間にも、ターラー人のために立ち上がった志ある者たちが血を流している。
ターラー人のこれまでの境遇は、受難は、周囲からの虐待という言葉で一括りにするには、恐らく不十分である。私はターラーの街並が灰と化すのを、ターラーの都市が荒廃した土地と化すのを見た。
空腹を抱えたターラー人は、その上処刑される危険を冒してまで我らの兵士を迎え入れて、我らのためにパンを半分に割ってくれた。
エブラナ
私はターラー人がもがきながら我らに助けを求めている姿を見た。それはまさに彼らの数百年を象徴するものだった。彼らは救いが訪れるのを、現状を打開する機会が訪れるのを待ち望んできたのだ。
エブラナ
彼らは力ある同胞に……良識ある隣人に、悪には染まらぬヴィクトリア人に懇願した。
彼らの懇願は、ターラー人を取り巻く現実に目を向けてほしい、それだけだった。
今、我らの中には自らがターラー人であることを知る者もいれば、我らは一体誰に救いの手を差し伸べるのかと問う者もいるだろう。
モラン
あなたと長い間一緒にいて、「ターラー人」という呼び名にはもう慣れました。
モラン
でも、あなたが仰っていたように、私が以前いた工場の作業場は防護措置が不十分だったので、みんな鉱石病に感染し、死んでいったんです……
ターラー人をそんな危険な場所で無理に働かせていた工場の管理人本人も、同じターラー人でした。
あなたのように、正しいヴィクトリア語を完璧に話せるターラー人もたくさんいたのですが、そういう人たちは私たちと会話することで、訛りが出てしまうことを最も恐れていました……
モラン
ターラー人とは一体何なのですか? 私たちは誰を救うのですか?
リード
……それについては私もずっと考えてきたんだ。私の考えを話してみてもいいかな。
ターラーの流民
うん、教えて。急いで逃げなくてもよくなったし、喜んであなたの話を聞くわ。
リード
ありがとう……私が思うに、「ターラー人」というのは、数百年の時を経て、私たちの苦しみにようやく付けられた呼び名なんだと思う。
リード
過去、ヴィクトリア人は何年もかけて、ターラーという名前を消し去ろうとした。でも、キミたちもターラーとの繋がりはずっと感じてきたでしょう?
ヴィクトリア人は私たちをターラー人とは呼ばず、「下品な訛りを持つ教養のない田舎者」、「遊んでばかりのごろつき」、「卑しい生まれの下等な者」と言う……
エブラナ
またあるいは、多くの者が経験してきたように、我らの名を理由に財産や領地、権利……さらには近しい者の命さえも奪っていく。
我らにこう問う者もいるかもしれない。「ではなぜお前たちの言語と伝統を放棄しない? なぜ祭日にヴィクトリア人と同じ歌を歌わないのだ?」と。
自分がターラー人であると気付かれさえしなければ、我らは彼らと同様の扱いを受けることができるからだ。
なんとなれば「自分はターラー人であるが、意志と野心によって富を得て、十分な教養を身に付け、ヴィクトリアの上流社会まで登り詰めた」と、こう得意げに言い放つ者もいるかもしれない。
──何たる皮肉だろうか。自らの文化に別れを告げ、自らの家族を裏切らなければ、我らは一般人としての尊厳すらも獲得できないのだ。
我らの中には目覚ましい成果を上げた優秀な者も少なからずいる。だが、その成果の第一歩とは、まず自らがヴィクトリア人になることなのだ。
エブラナ
ウェリントン公爵閣下、あなたならばきっと誰よりも理解していることであろう……
あなたにターラー人の血が流れていることを覚えている者が、一体どれほどいるであろうか?
ヴィクトリア士官
……
エブラナ
さて、ヴィクトリアは我らから名を奪おうと四苦八苦しているが、では彼ら自身は本当にターラーの存在を忘れ去っているのであろうか?
エブラナ
もし本当に忘れているのであれば、なぜターラー王朝が滅びた二百年後、私が──ゲル王の末裔、幸いにして生き延びたドラコが……
──自らの両親がアスランの刺客によって暗殺され、血だまりの中に倒れる姿を見なくてはならないのか?
エブラナ
理由は明白だ。ヴィクトリアは未だ恐れているのだ。我らが己の名を思い出し、それによって自身が吐いた嘘が暴かれることを。
そしてまさに今、皆にすべてを思い出させるために、私はここに来たのだ。
モラン
つまり、ヴィクトリアの貴族が何年も前にターラーにやってきて、現地のターラー人全員を自らの領民にしたということですか?
リード
そう、歴史書には大まかにそういったことが書いてある。
ターラーに関することは、多くが作り上げられたものだけど……真実も含まれているんだよ。
ヴィクトリアはターラーの君主を強制的にゲル王として封じ、彼の領土を多くのヴィクトリア貴族へ割譲するように迫った。ターラー地区に対する不公平な待遇は、条例として明文化までされた。
リード
その頃からターラー人の訛りは彼らの身分や地位と結びつけられるようになったんだ。ヴィクトリア人はターラー人を愚かで下品で教養に欠けると揶揄して……
エブラナ
しかし誰がターラー人に教育を施した? この数百年、我らに教育を施した者など誰もいない。
ターラー人は、今や故郷の地から出て、移動都市と共にヴィクトリア各地に散っている。だがヴィクトリア人と同等の選択権を得られたことなどないのだ。
これまで、由緒あるパーティーや最高学府において、我らの居場所はあっただろうか? 我らの中に働けずにいる者たちが多いのは、ヴィクトリア人が我らから働く権利を奪ったからではないのか?
「ターラー人」という言葉が不当に消されていた長い間、我らが受けた不公平はかくも巧妙に姿を潜めていた。今になってようやく我らはターラー人が窮地に追いやられた原因に気付いたのだ。
リード
ターラーの歴史も、後世の人間が作り上げたターラーの根源を探る伝説も、私はたくさん知っている。
真実の不公平さや、虚構の夢、そういうものであれば、いくらでもキミたちに話せる……
だけど、そんな話を聞くよりも、キミたちは……より現実的な願いとして、過去の生活から逃れたいと思っているはずだよね。
ターラーの流民
もちろんだ、このままじゃいずれは野垂れ死にだからな!
リード
うん。その通り。だから、過去の物語を知らなくたって、自分たちの「ターラー人」としての出自を深く理解できていなくたっていいんだよ。普通の暮らしを求めているだけなんだから。
鎮火の鐘が鳴るような場所では、闇夜を打ち破る火が必要だって、誰もがわかるでしょう。
難しいことを考える必要はないよ。私たちが抗わなければならないのは、自分たちに無理やり押しつけられた不幸。
だから、私たちはターラー人の生存のため、自分たちに押し付けられた不幸を跳ね除けて生きるために、戦わなければならないんだ。
エブラナ
現在、我々が停泊しているオークグローブ郡には、かつてターラー人の居住区があったが、一部の暴虐な者たちが起こした大火により灰と化した。
もし遠目が利く者ならば、天災により滅んだターラー王城が見えるかもしれない。これらはすべてターラー人の身に刻まれた傷痕だ。
しかし、我らの目的はかつてのターラーの地を取り戻し、あの歴史の残骸を再建することでは決してない。
我らは新たな大地の放浪者であり、私がお前たちを導くのは、新たな時代、新たな秩序を築くための道である。
──この戦艦の次の停泊場所は、ロンディニウムの港湾だ。
もちろん、我らはヴィクトリアの王冠を奪いに行くわけではない。我らはただヴィクトリア人から己の運命、人生を取り戻し、それを手中に収めたいだけだ。
我らはもうはっきりと理解している。不幸の始まりはヴィクトリアがターラーに押しつけた統治と隷属にこそあると。ならば、我らはヴィクトリアに自身の過去の行いの過ちを認めさせるべきである。
この戦争は、ロンディニウムだけではとどまらないかもしれない。しかし、我らが長く厳しい戦いを恐れるだろうか?
火はすでに灯された。
その火はこの大地の古き秩序を、我らを縛りつけている腐敗した枷を焼き尽くすであろう。
そして来たるべき新たな秩序の中で、私はお前たち皆に願う。
ターラーもヴィクトリアも関係なく、地域と出身に関係なく、ただその栄誉ある公正のために、かつてない良き時代のために戦ってはくれないだろうか。
ターラー人がヴィクトリア人同様、自らの夢を自由に描き、誰に阻まれることなく自分で選択できるようになる日まで。
モラン
でも、リードさん、私たちは何と戦うんですか? 「ターラー人の生存のために」ってだけだと、漠然としすぎていて……
リード
うん……これまで、私はずっと、命は脆いものだと思っていた。
この地には、私たちの命を奪う物は無数にある。私たちのあらゆる努力は、ただ必死に死と戦い、抗うことでしかない。
そして……最終的には誰も死には抗えない。
たしかに、人々の命をあまりに気にかけ過ぎてしまえば、どこにでもある犠牲や、追及しようがない非業の死に押し潰されてしまうかもしれない……
それでも、命は、とても重いもの――その事実から逃げることなんてできない。
死に打ち勝つことは不可能だけど、私たちは……一つひとつの命に生きる尊厳を与えてあげることはできるし、与えるべきだと思う。
私はこう思う……ターラー人は、夜に温かな火を焚いて、歌う時はグラスにお酒が満たされているべきだって。
ターラー人には、逃げることも家族と離れ離れになることもないような日々を過ごしてほしい。
私はターラー人に、安らかに暮らせる自らの故郷を持ってほしい。
私は、この道の途中で別れを告げたすべての人たちが、そこで再会することができたらと思う。
葦を吹き抜ける風がざわめく中、彼女は脈打つ炎がもたらす焼けるような痛みを感じた。
彼女はわかっていた。それはささやかではあるが、遥か遠くの夢なのだ。今ここに立っている者たちの誰一人、その日の訪れを目にできないかもしれない。
リード
……ダブリンの火は、この地まで燃え広がる。
リード
それは……きっととても残酷な火。無数の命が、戦火を燃え上がらせる燃料になるしかない。
リード
でも、その時が来ようとも、命の重さは決して軽くはならない。
リード
……行こう。私たちだってそんな命の一つなんだから。
ターラーの流民
そうだ、昨日家から手紙が届いたのよ。
みんなどうにか生きてるって。戦いが終わって帰る頃には、もっといい生活をしてるかもね、アハハ。
モラン、何を黙ってるの。
モラン
ごめんなさい。ただ、自分の生活とはどうあるべきなのかと考えていたんです。
リード
……なら、歌を歌ってみるのはどうかな?
ターラーの流民
歌ってよ、誰かに追い回されてないっていう、こんなに素晴らしい日は滅多にないんだから。
モラン
……
暖炉の火のそばで静かに眠り、蜂蜜とスイートワイン、ポタージュの夢を見る♪
ターラーの流民
でも、リード。もし私たちがまたダブリンに加わるって言いだしたらどうするの?
リード
心配ないよ。
お互いに、「ターラー人」に関する夢――同じ理想を目標にしているなら、私と姉さんに違いはないから。
時が来たら、私も姉さんに会いに行く。