指の家族
焦る生物
見つけたの?
ぼうっとした生物
見つけた~。
羽獣が歌ってる時に見つけたよ。
焦る生物
今日の天気はどうだ?
ぼうっとした生物
悪いことが起こるまでは良い天気だよ~。
焦る生物
時間がない、すぐに集会を始めるぞ。
おい、来るのが遅いぞ。
アデル
……私ですか?
焦る生物
当たり前だ。お前が凡人たちと違うのは一目で分かるよ。
お前は俺たちのビッグプロジェクトに参加した方がいいぞ。
アデル
プロジェクト? 何をするんですか?
ここはどこですか……私はなんで、お母さんの服を着てるんでしょうか?
焦る生物
俺たちは、自分の一番好きなものを見つけたら、それを背負って、二度と下ろさないんだ。
ぼうっとした生物
そうそう。重たくて腰が曲がるけど、とても大事なんだよ~!
焦る生物
お前はどうして何も背負ってないんだ?
ぼうっとした生物
ううん、彼女は背負ってるよ~!
穏やかな生物
こんばんは、アデル。ベルの音は聞こえたかしら?
アデル
ベルの音? いいえ……でも、音が聞こえていないこともよくあるので、そのせいかもしれません……
穏やかな生物
では、あなたも私たちの集会においでなさいな。
アデル
どこで集まるんですか?
穏やかな生物
放課後を知らせるのベルの後の、世界の果てよ。
けれどその前に、あなたに見せたいものがあるの。
穏やかな生物
うーん、どうやら記憶違いじゃなさそうね。
これらの石、標本、それから赤い写真は、本当ならあなたを連れて見るべきものだったのね。
穏やかな生物は足を踏み出すと、軽やかに少女を先導した。
穏やかな生物
見て、これらの岩はもう数千年、数万年も生きているのよ。私たちがまだいない時から、とっくに地下深くに埋まっていたの。
とても美しくて、とても激しいの。地下深くでそれぞれ数百キロも隔てたところにいたけれど、最終的には一つに集まって、輝かしい噴火を迎えた。
あなたはそれが大好きでしょう?
アデル
火山のことですか? はい……
穏やかな生物
火山も、石も、どれもとても貴重な宝物で間違いないわ。
でも、私のアデル……
もし誰かがそれを使って悪いことをしたら、あなたはどうする?
アデル
悪いことって……? どんなことですか?
焦る生物
まあまあ素敵な集会だな♪
ぼうっとした生物
集会はまあまあ素敵♪
焦る生物
北風北風見つけたぞ♪
ぼうっとした生物
種よ種よどこにある♪
穏やかな生物
あぁ、そろそろパーティーが始まるわ。
アデル、あなたも岩を持って参加してみない?
早くついていきましょう。
アデル
……
穏やかな生物
どうしたの。考え事?
アデル
えーっと……すみません、私……
ちびめーちゃん……あなたはドリーさんですか?
穏やかな生物
私はドリーであり、ドリーではないわ。
私が誰かであるかは、あなたの心の中にある私の姿によるのよ。
アデル
あなたはドリーさんと、どこか違います。
ではこの子たち……みんなちびめーちゃんなんですか?
穏やかな生物
いいえ、「みんな」とは言えないわ。それぞれが唯一無二で、この世界との絆も同じく一つきりしかないの。
私たちがあなたたちを呼ぶ時、全員を「アデル」とは呼ばないのと同じようにね。
一人一人の「アデル」が、唯一無二なのよ。
アデル
分かりました。
ならあなたたちは、どうして私をここに招待したんですか?
穏やかな生物
理由は北風ね。
私たちは得た喜びを分かち合いたいの。このパーティーに参加できるメンバーは、選ばれし者なのよ。
あなたも含めてね、私のアデル。
アデル
……ここ数日、不思議なことが起き過ぎています。
穏やかな生物
不思議も生活の一部よ。
アデル、あなたは今楽しいかしら?
アデル
分かりません……
穏やかな生物
見せてみて、あなたは……
あなたは、あんまり楽しくないみたいね。
あっちを見て、あの子が証拠よ。
ちびめーちゃんたちがコンテナの上から下を見ていた。
小さなやせ細っためーちゃんが、そこに飛び乗ろうとしていた――一回、二回……しかし成功することなく、何度跳ねてもコンテナの上にたどり着くことはなかった。
小さい生物
うぅ……
アデル
あの子は取り残されちゃったんですか?
穏やかな生物
どうやらあの子はジャンプできないくらい体が弱いみたいね。
アデル
助けてあげることはできますか……
穏やかな生物
今はまだダメよ。
火山が噴火した時に、あの子は自分のあるべき姿になるの。
アデル
あの子も、あなたたちの一員なんですか?
穏やかな生物
そうよ、誰もが最後は私たちの一員になるの。
エニス
おはようございます、アデルさん、何か朝食を食べますか?
なんか元気なさそうっすね、コーヒーでも飲みます?
アデル
おはようございます……
昨晩はすごく長くて不思議な夢を見た気がして、とても疲れました……
エニス
ここいらじゃ、昼にたっぷりと溜め込んだ気持ちを、夜に残って夢の中でじっくり味わうってよく言うんすよ。
アデル
どんな夢だったのかあまりはっきり思い出せなくて……たしかとても騒がしい夢だったような……
興奮した女の子
本当だもん! 本当に見たんだもん!
ヘイリー
はいはい、信じるよ。
だから夜中に勝手に部屋を出て行ったことと、こっそり海の近くの区画に近づいた二つで、アイスクリームは二ヶ月お預けだね。
アイスを食べたい女の子
あっ……
諦めない女の子
でも、昨日の夜は本当にもこもこさんが一匹あたしの部屋に入ってきて、仲間がたくさんいる場所に連れて行ったんだもん……
綿あめみたいにふかふかの生き物がいっぱいいて、コンテナの上で輪になって歌ったり跳ねたりしてたんだよ……
ヘイリー
つまり真夜中のパーティーに招待してくれたんだね。
諦めない女の子
きっとそうだよ、だってあたしはいい子だから……
アデル
――!
辺り一面の惨状。
昨日まで、ここにはフェンツ運輸が運んだ各国の特産品がきっちりと積まれていた。
何事もなければ、それらは数日後の商品博覧会に登場し、この観光都市に外の大地の様子を伝えるはずだった。
しかし今、目の前のいたる所で棚がひっくり返り、商品が散らばっている。しかもその上にはくすんだ足跡らしきものまで見えた。
バイソン
これは、一体……