終点

ヴィクトリア兵
うっ……
っ、ここは……
暗い表情の兵士
まあ、痛みがあるなら大丈夫だろ。この腕はまだダメになっちゃいない。
ほら、死んでないならさっさと起きろ!
ヴィクトリア兵
ッ! 優しくしろよ、チャールズ!
リーダーの兵士
こら、騒ぐな。ハロルドの仕事をこれ以上増やすんじゃない。
まだ歩ける奴は先に湖畔まで向かって整列しろ。ケガの軽い奴は自分で応急処置しておくように。
それから、まだ体力が残ってる奴は俺と一緒に来い。動けない連中を運ぶぞ。
暗い表情の兵士
俺が行くよ、ジェファーソン。
リーダーの兵士
へえ? 足がいらないならそう言えよ。あとでお前にも義足を作ってやってくれってハロルドに頼んどくからさ。
全員、さっさと動け! *ヴィクトリア常用語*、しかしこんなになるまでやり合っといて全員息があるとはな。*ヴィクトリア常用語*な奇跡だよ。
まさかこいつがイェラガンドのご加護か?
暗い表情の兵士
それがあったのは向こうだろ。千を超える人数を一人で相手した彼女のほうこそ、これだけ戦ったのにまだ歩けるくらいだなんて……
リーダーの兵士
そう思うと、確かにご加護は本物らしいな。
エンヤ
いいえ、そうではありません。
イェラガンドは仁愛の神。ですがこの結果は、主のお力によるものではございません。
ここで誰一人命を落とさずに済んだのは、我々の双方が共に起こした奇跡でしょう。
身共はそう信じております。
リーダーの兵士
あんた……いや、あなたは、イェラグの巫女様じゃありませんか。
そんなお言葉をいただけるなんて、恐れ多いことです。
ところで、何かご用事ですか?
エンヤ
用事というほどのことではございません。
ただ、当地の人間として務めを果たしに来たのです。皆様を、式典後の宴にご招待させていただきたく。
今回は、祝いの席へご参列くださるためだけに、イェラグへお越しくださったのですものね?
リーダーの兵士
……私はてっきり、良くてもこの地からは追放されると思っていたのですが。
宴にまで参加できるのですか?
エンヤ
では伺いますが、宴への参加と、先ほどの件を「軍事行動」と認め牢に繋がれること、どちらをお望みですか?
リーダーの兵士
うっ……
エンヤ
さあ、どうぞこちらへ。
ヤエル
巫女様。
準備は整っているわ。宴はいつでも始められるわよ。
エンヤ
ええ。今回はありがとうございました、ヤエル。
ヤエル
どうしたの、急に改まって。
エンヤ
何でもありません。ただ言葉にしたかっただけですから。
――イェラグはきっと、これからもっと良くなっていきますよ。
いずれ、外の人々がこの国について知るものはカランド貿易だけではなくなり、そして彼らが目にするものも、果てなき雪と山谷だけではなくなるでしょう。
その時、彼らはイェラグの名を知ることになるのです。
満ち足りた生活を送る人々が独自の風習を持ち続けている、尊敬に値する国であることを知ることになるでしょう。
ヤエル
それはとっても素敵なことね。
だけどエンヤ、今回は本当に、「ちょっとしたお手伝い」はいらないの?
いらないって言うなら、前回みたいな綺麗な虹も見られないわよ?
エンヤ
イェラガンドの祝福は、それが貴重であるがゆえに、心を揺り動かすものなのです。
これから先、事の大小にかかわらず、そのすべてに奇跡が必要とされてしまうのなら、それで得られるものは恐らく信仰ではなく依存でしょう。
あまつさえ、奇跡に慣れてイェラガンドへの畏敬の念を失う者が出てくる恐れもあります。
そう思えば、今のままがいいと思います。
とはいえ、イェラガンドが私のこうした考えを無礼に感じ、お怒りになることがなければいいのですが。
ヤエル
……ふふっ、安心しなさい。
手を引かずとも我が子が歩けるようになったら、母は喜びを感じるだけよ。怒るはずなんてないじゃない。
代弁者モーブ
演説は終わりましたよ、シルバーアッシュさん。
屋外でこうした演説をするのは初めてだったのですが、問題ありませんでしたか……?
エンシオディス
完璧でしたよ、モーブさん。
非の打ち所がない素晴らしい演説でした。あなたの声は、情熱に満ちていましたしね。
先ほど、私の部下のアーツによる音量増幅は辞退されてしまいましたが、その代わりに用いていらしたその拡声用の装置があれば、確かに十分、いえ、十二分でしたね……
失礼ながら、そちらはもしや貴社の新製品ですか?
代弁者モーブ
ああ、この拡声器ですか?
いえ、違いますよ。確かにこれは良い製品ですが、カジミエーシュの拡声器市場はとうに大手企業数社に占有されていますから、我々に介入の余地など……ごほん! 失礼、失言でした。
エンシオディス
カジミエーシュにおける企業間競争については、ある程度耳にしています。あなたは実情を述べたまでのことでしょう。
さておき、それでは先ほどお使いになっていたのは……?
代弁者モーブ
列車で出会った人から頂いた物なのです。
恐らく、向こうはちょっとしたおもちゃを渡しただけだと思っているでしょうが……
まさか、それがこんな形で役に立つとは! それも、あなたのご依頼を受けてだなんて、誰に想像できたでしょう!
エンシオディス
そうでしたか……
モーブさん、カランド貿易は今回に限らず、末永くそちら様との協力関係を築いていけたらと考えております。
そこで、今後数日にわたって、我々の鉱区及び工場を含む現地視察をしていただけるよう、ご案内をさせていただく専任担当者を手配いたしました。
こちらも、私からの誠意としてどうかお受け取りください。
イェラグが貴社を失望させることなど決してないと、私は確信しております。
リェータ
マジで止まりやがった……
ドクターの言った通りだな! あのスーツの奴が話し始めたら、すぐに戦いが収まった!
私はてっきり、派手に暴れられると思ってたんだが……なんせ、シルバーアッシュがわざわざお前たちに連絡して、できるだけ急ぎで来てくれとか言ってたんだろ?
なのに結果を見れば、こんなにあっさりお開きか?
なあドクター、どうしてあいつが出てきた途端にあの戦いが収まったんだ?
商業連合会の代弁者……って、何がすげーんだ?
あっ、待てよ、わかった!
大事なのは、あいつがカジミエーシュから来たって部分だよな?
ヴィクトリアは利益目的でイェラグをいじめてたが、同じような利益を求めるカジミエーシュが現れたから、迂闊に動けなくなった……アンナが出してくれた問題にも、そんなんがあったな。
待てよ? だったら、シルバーアッシュがロドスを呼んで、ついでにミュルジスまで連れてこさせたのも……そのためなのか?
お前たちもあいつの切り札だったってことだよな?
道理でドクターが急いでここへ来たわけだ。
こういうまどろっこしいことって、マジで頭使うな。
だけどよ、ドクターはどうしてあのスーツの奴が、その代弁者とかいう仕事してるのを知ってたんだ?
知り合いなのか?
ああ、そりゃそうか。ドクターとアーミヤは一時期カジミエーシュに行ってたもんな。
私もこの先、機会があったら母ちゃんと一緒に行ってみようかな。
他のことはともかくとしても……カジミエーシュには、好きな騎士が結構いるんだよ。戦ってるとこがマジでかっこよくてさ!
見た目? 声?
ま、確かにあれは忘れらんねえよな。すっげー特徴的で、しかもデカい声だったし。
どうやったのかは知らねぇけど、あいつの声、ここまで届いてたもんな。
あ、そうだ、ドクター。
あの時駅で、スーツの奴に何か渡してなかったか?
ほんとかあ?
お前はいつもそうやって、さも簡単そうに言うけど、そんな単純なものじゃないような気がすんだよな。
おっ……ミュルジスが話し込んでるぜ。なんか随分打ち解けて盛り上がってるみたいだな。
ドクター、私たちも行かなくていいのか?
Sharpの兄貴だって、ここに知り合いがいるんだろ?
Sharp
今は仕事の時間だからな。
リェータ
それもそうか。
そんじゃ、私もお供しようかな。
私を待ってるって――うわっ!
チッ、なんであいつがいんだよ。
……
別に話すことなんかねーし……
あああっ、たく! うっぜえな、もう!
二人とも、悪ぃけどちょっと待っててくれ!
すぐ戻るから!
アークトス
ロザリン。
……
リェータ
話があんならさっさとしろよ、モジモジしてんじゃねえ。
何も言わねぇならもう行くぞ!
アークトス
待ってくれ!
……少しお前の様子を見に来ただけなんだ。無事で何よりだった。
さっきは事態が混乱していたせいで、すぐにお前の元へ来られなくてな。
リェータ
余計なお世話だよ。
そもそも、あのヴィクトリア人たちのターゲットは私じゃねーわけだし、あの「グレーシルクハット」とかいう奴も、Sharpの兄貴とドクターにかかれば相手になんねぇからな。
アークトス
あの野郎、まだお前にちょっかいを出してきたのか!?
リェータ
そういうわけじゃねぇよ。向こうだって、私が目的ってんじゃなさそうだしな。
にしても、逃げ足の速い野郎だぜ。本気でやり合うことになったら私とSharpの兄貴で絶対コテンパンにしてやる。
アークトス
「グレーシルクハット」を甘く見るなよ。
あの振る舞いは気に食わんが、奴の腕前は中々のものだ。
リェータ
アイツがか? 大した実力があるようには見えなかったけど。
アークトス
それはエンシオディスの元に、奴を抑えるに足る実力者――デーゲンブレヒャーがいるからだ!
良いかロザリン、いかなる敵も侮るな。これが戦士の鉄則だ!
リェータ
言いたいことはそれだけか? だったらもう行くぜ。
アークトス
待て!
……
リェータ
3。
2。
アークトス
ろ、ロザリン!
……昨日一晩、ずっと考えていたんだ。
当時の俺は、確かに軟弱者だった。
タチアナとの日々は蜜のように甘く、俺にはあいつを忘れることもできなければ、最初から出会ってもいなかったと自分を騙すこともできなかったんだ。
俺は身勝手にもタチアナとお前を渦中に巻き込んでおきながら、その圧力に耐えきれず、独断でお前たちのことを諦めてしまった……
ロザリン、お前の言った通りだ。
今さらどんな理由を並べようと、どれも下手な言い訳にすぎん。
この十数年、俺の記憶は、俺自身に代わって言い逃れを繰り返してきた。
自らの弱さと向き合おうとしない男に代わって、かつての思い出を美化させ、心の安寧を与え、逃避させ続けてきたんだ。
そうして嘘を重ねすぎた挙句、自分までもが欺かれかけていた。
すべては、俺の責任感が足りなかったせいで起きた。
だから今、お前にどれほど罵られようとも、どれほど軽蔑されようとも、すべては当然の報いだ。
お前が俺とイェラグに完全に失望していたとしても、それは当然の結果なんだ……
俺は、お前とお前の母親に申し訳ないことをした。
お前たちに謝らせてほしい。
リェータ
……
一つ勘違いしてるみてぇだが……
母ちゃんは、イェラグの悪口なんて一度も言ったことねーぞ。
それに、父ちゃんを悪く言ったことだってねえ。
それどころか、イェラガンドへの祈り方まで私に教えてくれたくらいでよ。まあ、私にゃ信仰心なんてもんは大してないけどさ。
母ちゃんの話に出てくるイェラグは、いつだって良いところだったんだ。
アークトス
タチアナは……イェラグを恨んでいないのか?
リェータ
ここで嘘ついてどうすんだよ。
あ、そういや言わなかったっけ? 母ちゃんはな、父ちゃんのこと超イケメンだとか言ってたんだぜ。
まあ、私は今じゃ母ちゃんの見る目を疑い始めてるけどな。
アークトス
――!?
確かに、あの頃は俺もひげをたくわえてはいなかったし、タチアナにはよく顔が好きだと言われていたが……
いや、それよりなぜあいつがそんなことを……っ、まさか……!?
あいつは……タチアナは、俺を責めてはいないのか?
リェータ
ストップ、そこまでだ。
言っとくが、あんまうぬぼれんじゃねぇぞ。
自分の間違いを自覚したなら、誰もあんたを責めてないなんて甘ったれたこと考えんじゃねえ。
何かを恨んで生きる人生なんかしんどすぎるってだけだ。それを十年以上もイェラグとあんたを恨み続けてるんじゃないかとか……あんた母ちゃんをナメすぎだよ。
あんたのためにそこまでするわけねーっての。
アークトス
……ああ、そうだな……
夫として相応しくない俺のような男のために、苦しみながら生きるなどもったいないことだ。
これでいい。これでいいんだ……
リェータ
わかったんならよし。
私はこれまで自分の父ちゃんを知らなかったけど、今は知ってる。でも、たったそれだけの話だ。
私のことをあんたらの一族に認めてもらう必要なんかねえし、ペイルロッシュなんて私には何の関係もねえ。
私は、タチアナ・エフゲニエヴナ・ラリーナの娘だ。
それで私の名は、ロザリン・タチアノヴナ・ラリーナ。コードネームはリェータだ。覚えとくといい。
アークトス
元々、お前の名前はタチアナがつけたものだった。「ロザリン・タチアノヴナ・ラリーナ」というのは、確かにペイルロッシュより良い響きだな。
それに、「リェータ」か……これまた、実に良いコードネームだ!
リェータ
へへっ、あんたもちょっとはセンスあんな。
おっと、そうだった。
ほらよ。
アークトス
これは……振込先か?
リェータ
裏に書いてあんのは十何年分かの養育費な。端数は切り捨ててやったから有難く思えよ。
わかったらその口座に振り込んどいてくれ。
アークトス
よ、養育費?
リェータ
昨日言っただろ?
生活費に教育費、医療費、それと愛情不足に対する慰謝料。全部まとめてリストアップしといたから、踏み倒すんじゃねぇぞ。
ってわけで、まだやることが残ってっからもう行くよ。
アークトス
まっ、待ってくれ!
この……養育費だが、為替の手続きに少し時間がかかるかもしれん……! いや、しかし、すぐに人をやってなるべく早く振り込んでおくからな!
それと、その……ロザリン!
タチアナに一目会わせてはくれないか!? 頼む、一目でいいから……!
リェータ
寝言は寝て言え!
老修道士
……
我らがイェラガンドよ……これもあなたの思し召しでしょうか?
世に起きるすべては、凡人には予測のつかぬものだ……
ペイルロッシュ家平民
大旦那様?
こちらで何をなさっているのですか? この先には……特段面白いものなどなさそうですが。
老修道士
なに、偶然通りかかっただけだ。
それよりルーカス、この間参拝しに来た時に、孫娘が生まれたと言わなかったか?
ペイルロッシュ家平民
ああ、そうなんですよ!
これが息子の嫁によく似ていて、大層可愛いもんでして!
うちの息子ときたら、どうしても外国のおなごと結婚すると言って聞かなかったんですよ。確か、シなんとか……シラクーザ! そこから来たおなごでしてな。これがまた、気が短いのなんのって!
しかしまあ、これで息子もおとなしくなるってもんです。
老修道士
その結婚には、反対しなかったのか?
ペイルロッシュ家平民
若者同士が好き合っとるのに反対してどうするという話でしょう?
これが昔、私の若い頃だったなら、きっと説得せにゃならんかったんでしょうが――
今はもう、好きにさせてやろうじゃありませんか。
老修道士
……
おぬし、この間の参拝で、孫娘のために無病息災の聖石を授かりたいと言っておったな。
ペイルロッシュ家平民
ええ。あの子に、巫女様とイェラガンドの祝福を少しでもいただけたらと思いましてな。
老修道士
では、これを。
ペイルロッシュ家平民
この模様……これは、巫女様の祝福を受けた聖石では?
こ、この数年欲しくたって滅多に手に入らないような代物ではありませんか。受け取れませんよ大旦那様、あんまり貴重すぎます!
老修道士
孫娘に会う時の手土産とでも思って、受け取ってくれ。
私は祈ろう。イェラグに生まれしすべての子らが、病や災厄、悲しみや苦痛に苛まれることなく、健やかに育ちゆけるように。
我らのイェラガンドに。
ペイルロッシュ家平民
我らのイェラガンドに。
ハロルド
ふぅ……
しかし、さすがは黒騎士ですね。本気で殺しにかからずとも、これほどの打撃を与えてくるとは。
この老骨には、本当に堪えますよ。
ヴィクトリア兵?
上官、お怪我は……
ハロルド
何のこれしき。かすり傷ですよ。
お次は巫女様主催の祝賀会ですしね。私も待ちきれなくなってきました。
しかしそれより、貴方から「上官」と呼ばれるなど、そうそうないことですな……ううむ。
妙ですね、急に食欲がなくなってきましたよ。
「グレーシルクハット」
それは大変残念です。
ですがこの度の、あなたのイェラグでのお働きと、この地の情勢変化については、ありのまま公爵様にご報告させていただきますのでご容赦ください。
ハロルド
どうぞお好きに。
公爵様の不興を買う行いはしなかったと記憶しておりますので。
それよりも貴方のほうですよ、「グレーシルクハット」。
以前は、ロンディニウムの泥沼をかき乱す程度の働きは見せていたように思いますが、残念ながらこのイェラグにはそうする余地などなかったようですね。
「グレーシルクハット」
ご心配には及びません。
私も、公爵様より下された任務は完遂いたしましたので。
ハロルド
……ほう?
「グレーシルクハット」
実を言うと、イェラグはそこまで注視に値する対象ではないのですが……この地にも、公爵様が懸念を抱かざるを得ない要素は存在しています。
ハロルド
ふむ、というと……
……この地に目を向ける理由と言えば、カランド貿易や、イェラグという土地の地理的優位性、そして将来的には天然の要塞となり、貿易中枢となるであろう点だと我々は思っていたのですが……
なるほど。公爵様はそれほどの具体性をお持ちだったのですね。あるいは、これぞ先見の明と言うべきでしょうか。
つまり貴方は、イェラガンドそのものを探りにここへ来たと?
「グレーシルクハット」
そうなりますね。
公爵様は、いわゆるイェラガンドが、本当にイェラグの土地に存在するのかを――
そして、それが実在するのなら、イェラグが苦難に出くわした時、その民を守ろうとするのかを知りたいとお思いなのです。
ハロルド
興味深いですね。
それで、貴方の結論は?
「グレーシルクハット」
公爵様には、現状イェラグとの武力による正面衝突はお勧めできないとお伝えするほかありませんね。
カランド貿易との合意を大々的に打ち出したカジミエーシュ企業はもちろん、ここに来る途中出会ったクルビアのとある科学者のことも気にかかりますので……
武力を以てねじ伏せるのは賢明ではないでしょう。
勝つのは難しくありませんが、利益を上げることは簡単ではありません。我々はウルサスではないのですから、これでは割に合いませんよ。
ハロルド
珍しく意見が合いましたね。
貴方、何やら人が変わったのでは?
「グレーシルクハット」
私も、あなたと同じで争いは見たくないのですよ。
ハロルド
うーん……
そうやって妙に素直に話をされると、何やら気持ちが悪いですね。普段通り話してもらえますか?
「グレーシルクハット」
それで仕事が楽になるのなら、喜んでそうしましょう。
ところで、子爵様。
ハロルド
なんでしょう?
「グレーシルクハット」
これをご存知ですか?
ハロルド
……今大人気の駄獣ブラインドボックスではありませんか。
どうしてこんなものを?
ああいえ、そこはどうでもいいことですね。それより早く開けてみましょう。この中身を確かめるほうが大事ですから。
これは中々凝った作りをしていましてね。私もほとんど買い揃えたのですが、どうしてもシークレット版だけが出ないのです!
「グレーシルクハット」
未知なる箱というものは、開けてみるまでその中身が良いものか悪いものかは誰にもわからぬものです。
その未知こそが人々を惹きつけるわけですが、あるいはそれを開けるべきではないのかもしれませんね。
ハロルド
くだらない話はよしなさい。開けるのですか、開けないのですか?
開けないのなら、私にください。
「グレーシルクハット」
では、開けてみましょう。
ん……? これは?
ハロルド
何が出たんですか? 見せてごらんなさい……*ヴィクトリア常用語*!!
なんたる豪運でしょう! 私はイェラグに来てからずっとこれを引き当てようとしていたのに、一度として当たらなかったのですよ!
おお、イェラガンドよ! なんと不公平なことでしょう!
「グレーシルクハット」殿、どうか公爵様の部下同士、同僚のよしみでこの駄獣フィギュアを……
「グレーシルクハット」
恐れながら、それは無理な相談です。
というのも、この報告書を提出したあとは、私もまだ暫しイェラグに留まることになるでしょうし――
その間の退屈しのぎとして、駄獣の置物をコレクションするのもいいかもしれない……と、あなたのおかげで気付けましたので。
エンシオディス
歩けそうか?
デーゲンブレヒャー
まあ、死にはしないわ。何日か横になってたら良くなるでしょう。
エンシオディス
何よりだ。
デーゲンブレヒャー
ノーシスは?
エンシオディス
先に下へ向かった。
曰く、今夜はご馳走する、だそうだ。
デーゲンブレヒャー
ノーシスは料理を選ぶセンスがないのよね。あなたが代わりに選んでちょうだい。
エンシオディス
わかった。
……
デーゲンブレヒャー
さっきから何をまごまごしてるの? 話があるならさっさとして。
エンシオディス
……カジミエーシュからここに至るまで、お前への借りは増えるばかりだと思ってな。
それなのに、お前には何も返せていないだろう。
デーゲンブレヒャー
私が転職でもするんじゃないかって心配してるの?
エンシオディス
そうなれば、その損失はなかなか大きいな。
デーゲンブレヒャー
で、借りを返すつもりはあるの?
エンシオディス
何か要望があるのなら。ノーシスが手配してくれる。
デーゲンブレヒャー
そう。結構よ。
十年前の私が、生意気な若者の後についてこの年中気温が10度も超えない山奥へやってきたのは、単なる気まぐれだしね。
そうしてみた結果、ここでの生活が悪くなかったから、今はできることをやってるだけ。
それがあなたと何の関係があるの?
エンシオディス
そうだな。
お前を留まらせたのはこの土地であって、私ではない。
お前自身の口からそんな言葉が出てくるとは思いもしなかったが。
デーゲンブレヒャー
……あなたも、わざとらしく借りがどうとか言わなくていいのよ。
それより、正直に言いなさい。今は何を考えてるの?
エンシオディス
私は……
いずれ、外の人々がこの国について知るものはカランド貿易だけではなくなり、そして彼らが目にするものも、果てなき雪と山谷だけではなくなるだろう、とそう考えていた。
その時、彼らは「イェラグ」の名を記憶に刻むことだろう。
デーゲンブレヒャー
まだ喜ぶには早すぎるわよ。
この一局に勝つことで、あなたは面倒な相手をもっと増やしたわけだから。
カジミエーシュを私の周りにまた近付けてくれたこと、感謝しておくべきかしら?
エンシオディスは暫し沈黙し、足元から氷の破片を拾い上げると、太陽へとかざした。
それは手中で強烈な冷気を放っていたが、日差しに照らされ輝くさまは少し眩しくさえあった。
エンシオディス
そうだ、カジミエーシュが来た。クルビアも間もなくやって来るだろう。
この先、状況はさらに複雑になっていく。
デーゲンブレヒャー
ずっと勝ち続けることなんてできないわよ。
エンシオディス
では、お前は負けたことがあるのか?
デーゲンブレヒャー
ないけど。
エンシオディス
それは残念だな。お前はきっと、私のような相手に出会ったことがないのだろう。
デーゲンブレヒャー
へえ?
今度ノーシスと一緒に、チェゲッタの訓練場に来なさい。まとめて相手をしてあげる。
ハンデとして、私は片手だけでね。
エンシオディス
ふっ、ノーシスの剣術は実のところ悪くない腕前だぞ。
デーゲンブレヒャー
なんだかご機嫌ね。
エンシオディス
大勢は決したからな。
この三年の忍耐がついに実を結んだ。
我々は局面を打開し、カスターはもはや致命的な脅威ではない。
イェラグの独立は、ついに妄想などではなくなったんだ。
デーゲンブレヒャー
言い換えれば、あなたは、傲慢なヴィクトリア貴族だけでは飽き足らず、底なしに強欲なカジミエーシュの商人たちまで引き入れたことになるけどね。
そのうえ、倫理を無視した科学者たちまで、この地に足を踏み入れようとしているのよ。
あなたはこの国をさらに混乱させることでしょうし、そうなればより多くの人から恨みを買うことになるわ。
エンシオディス
そうした人々には、好きなように言わせておこう。
私は気にしないさ。
何しろ、私が気にかけるのはただ一つ――
征戦騎士A
失礼――
もしや、黒騎士でいらっしゃいますか?
エンシオディス
……
デーゲンブレヒャー
……ええ。
征戦騎士A
おおっ、イェラグにいらしているという噂は本当だったのですね!
征戦騎士B
本物の黒騎士にお会いできるなんて、来た甲斐があったな!
征戦騎士A
あの……そちらの方は、カランド貿易の社長さんでいらっしゃいますよね?
私、五歳の頃から黒騎士のファンなのですが、彼女にサインをお願いすることはできますでしょうか?
エンシオディス
それは本人次第だな。
デーゲンブレヒャー。この若者たちに、サインをしてやってくれるだろうか?
デーゲンブレヒャー
……まあ、いいでしょう。
征戦騎士はそれを聞くなり、急いで仲間たちを呼び寄せた。
すると一瞬で、氷上に小さな列が作られていく。
そうしてあっという間に、カジミエーシュ市街のあちこちで見かけるような、小規模なファンミーティングの場が出来上がった。
デーゲンブレヒャーは征戦騎士たちが差し出す騎士カードを一枚一枚受け取っては、自分の名前を書いていく。
エンシオディスは時折彼らと言葉を交わし、地元の人間として当然の歓迎を表した。
そのすべてはとても自然で、そこに問題を感じる者など、誰一人いなかった。
騎士たちが満足げに立ち去ると、氷上に再び静けさが戻る。
デーゲンブレヒャー
私が見てきた征戦騎士は、あんなに締まりのない連中じゃなかったけど。
エンシオディス
カジミエーシュとのパートナーシップはまだ始まったばかりだ。この状況で監査会が「真の」征戦騎士を送り込むはずがないだろう。
今回、ブラウンテイル家は私財を投じ、若者たちを旅行に招いたにすぎない。
向こうが応じたのも、恐らく「黒騎士」に免じてのことだろうな。
デーゲンブレヒャー
フッ。
エンシオディス
どういう気分だ?
もしかすると私も、お前の嫌うカジミエーシュと同じで、お前を単なる手駒の一つと見ているのかもしれないぞ。
「黒騎士」としての立場も、カジミエーシュにおけるお前の娯楽的価値も、そして武力と戦士としての価値も、そのすべてをな。
だとしたら、受け入れられないとは思わないのか?
デーゲンブレヒャー
……何を今さら。
そういうのはとっくに慣れてるわ。
エンヤ
皆様、遠方よりいらした我らが友人を改めて歓迎いたしましょう。
イェラグの扉は、常に善意のためにこそ開かれています。我々の全員が、今在るこの友情をそれぞれの心に深く刻んで忘れぬように願いましょう。
我らのイェラガンドに。
ラタトス
我らのイェラガンドに。
アークトス
我らのイェラガンドに!
チェゲッタ部隊
我らのイェラガンドに!
ミュルジス
ご招待いただいてありがとうございます、巫女様。
エンヤ
あなたは……ライン生命のミュルジスさんですね。
ミュルジス
あら嬉しい、覚えててくださったんですね。
ここへ来る途中イェラグの山河を見てきましたが、息を飲むほどの美しさでした。きっとこの協力関係は上手くいくものと思います。
エンヤ
ライン生命と提携させていただくのは、カランド貿易ですよ。
ミュルジス
でも、イェラグで決定権を持つのは巫女様ですよね?
カランドに発射サイロを建設するなんて、並大抵のことではないですから。エンシオディスさんも、この件は必ず巫女様のご意見を伺わないといけないと仰ってましたしね。
エンヤ
確かに、エンシオディス様からはその件について伺いました。
カランドはイェラガンドの背であり、そのお身体の一部ですので……身共は、そこへ好き勝手に手を加えることにはあまり賛同できないのですが――
ヤエル
失礼いたします、巫女様、こちらへ。
エンヤ
……申し訳ありません、少々外させていただきます。
エンヤ
どうしたのですか、ヤエル。
ヤエル
その発射サイロって、空に何かを打ち上げるためのものよね?
それを身体に建設するとして……
エンヤ
……大砲って……
ヤエル、あなた……イェラガンドはそれに反対なさらないと言うのですか?
ヤエル
反対なんてするはずないでしょ?
すっごく面白くて、とってもカッコいいのに。
ねえ巫女様、せっかくならオーケーしてみたら?
美しい女性
リスバーン、何があったの!?
ひどい傷じゃない……!
老練の兵士
こんくらい、どうってことねえよ。
……
なあ、フレイヤ。今日は、大事なことを伝えに来たんだ……
……
…………
美しい女性
大事なことって?
老練の兵士
そ、その……
あ……愛……
…………
……「アイラブイェラグ」か! お前の服の刺繍、綺麗だな!
はは、あははっ、今日は良い天気だなあ! 雪山もやけに綺麗に見えるし!
美しい女性
んっと……? ええ、そうね!
ずる賢い兵士
*ヴィクトリア式の優雅でご挨拶な言葉*!
嘘だろ! この期に及んであの*ヴィクトリア式のご挨拶な言葉*話逸らしてんじゃねえよ! ビビりやがって、あの腰抜け!
リーダーの兵士
ジャック、静かにしろ!
ハロルド
お前たち、正直に吐いてもらおうか。私がプロポーズした当時も、こんなふうに隠れて覗いてたわけか?
リーダーの兵士
そんなのいちいち気にすんなよ、ハロルド。俺たちは仲間に対して平等だから、プロポーズは全部こうして見守ってきたんだぜ。
暗い表情の兵士
しかしリスバーンの奴、さっきまで思いっきりやり合ってたのに、このタイミングでよくプロポーズなんかする度胸があるな。
ハロルド
むしろ、こうなったからこそ開き直っているんじゃないか。
上手くいったらここへ残って余生を送れるし、ダメならきっぱり諦めてヴィクトリアに帰ればいい。何にせよ、あの腰抜けっぷりを見るに、失恋したら立ち直るまでだいぶかかりそうだが。
暗い表情の兵士
……確かに、一理ありますね。
ハロルド
それにしても、お前らポンコツどもときたら、どうしてもっと早く私を呼ばなかった?
仲間に手ぶらでプロポーズをさせるなんてどういうつもりだ。指輪はともかく、花の一つも摘ませなかったのか?
ずる賢い兵士
こんな氷しかないところで、花なんてどう見つけるんですか?
ハロルド
氷も花にできるだろう! お前たちの武器はお飾りか? 自分の手で彫って作れば誠意も伝わるというものだ。レディはこういうものがお好きなんだよ、どうしてそんなこともわからないんだ?
リーダーの兵士
……確かに、俺たちゃあんたほど女心はわかんねえだろうな。
しかし、あんたはよーく「わかってる」みたいだなあ。「氷を花にする」なんてアイデアがあったとは。今の話は、奥方の代わりにきちんと覚えとくよ。
ハロルド
……
ま、待て! 妻に妙なことを吹き込むんじゃないぞ!
リリー以外のレディに、氷の花など贈ったことはないんだ! その……今のは思い付きで話しただけなんだよ、本当に!
デーゲンブレヒャー
あなたも来ていたとはね。
Sharp
ドクターを守るのが俺の仕事だからな。
デーゲンブレヒャー
ふうん、またそれ?
どう、一勝負しない?
Sharp
……
お前の怪我が治ってからな。
その時になってもまだ俺がイェラグにいるようなら、どこか退勤後の時間でやろう。
デーゲンブレヒャー
わかったわ。
ところで、あなたたちの所って、あなたより戦れる人はどのくらいいるの?
もしも大勢いるようなら、直接そっちへ行ってみるのも悪くなさそうね。
リェータ
へえ、あんた元々は騎士競技のMCだったのか!
道理で、さっき声を聞いた瞬間なんかビビっときたわけだ。もしかしたら、あんたがMCやってる試合を見たことあるのかも!
代弁者モーブ
ははっ、ありがとうございます。この声は、私の唯一の取り柄ですからね。
それにしても今回は、まさか私だけでなく、征戦騎士まで来るとは思いませんでしたよ……
リェータ
あの銀色の甲冑着てる連中か? あれマジかっけえよな!
スキウース
あの人たちはあたしが招いたお客様よ!
それと、ロザリン! あなたもあたしのお客様なんだからね。
イェラグからのおもてなしを、心行くまで楽しんでいきなさいよ!
エンシオディス
お前に礼を言わなくてはな、ドクター。
此度の招待に応じてくれたことに。そして、モーブ氏へ「ささやかなプレゼント」をしてくれたことにも感謝しよう。
あれには実に助けられた。
だが、それを使うにはいくらか手間がかかったのも事実だ。
あの状況を、少しでも早く解決へ導けたことは十分に有難かった。
今回のもてなしに満足してもらえるよう願っている。
どうやら、三年前の対局が随分と印象に残っているようだな。
だが今や、三年前の比ではないほど我々の関係は良くなった。ゆえにお前も、そこまで私に用心する必要はない。
いいや、あれは私個人ではなく、カランド貿易としてのことだ。今後の提携について商談をしたいと思ってな。
だが、お前を招いたのはこのエンシオディス個人だ。式典に参列してもらいたい、という以外の意図は何もない。
何にせよ、目の前に広がる賑やかな景色も、お前が最初にあの局面を切り開いてくれたからこそここにある。
さあ、我が盟友よ。
今のイェラグを見てみたいと思ってくれるようならば、喜んで私が案内しよう。
ではそのように。それともう一点、別件なのだが――
盟友たるお前なら、私の言いたいことはお見通しか。
そうか。それを聞いて安心した。
この重要な場に出席できなかったことは残念に思うが、彼女が今も高みを目指して登り続けているのなら、どの頂に身を置いていようと……
カランドより吹く風の音が聞こえることだろう。
ノーシス
……ラタトスか?
こんな時にここへ来るべきではない。巫女様の宴に三家の当主がいないとなれば、不必要に注目を集めてしまうぞ。
ラタトス
スキウースが上手くやってくれるさ。
私よりも、カランド貿易の最高技術責任者様こそ、今ここにいるべきじゃないんじゃないか?
例のライン生命の主任さんには、あんたと話したいことが山ほどあるだろうに。
ノーシス
彼女のことはエンシオディスが丁重にもてなしてくれるだろう。
我々はライン生命の技術を導入したいと思い、一方で彼らは空により近いカランドの地形を利用したいと考えている。となるとこれは本質的には取引に近しいものだ。
取引となれば、私よりもエンシオディスのほうが得意だからな。
ラタトス
なるほど、確かに。
私もようやくわかってきたよ。きっとエンシオディスは、今回の件を上手く収める方法を十数種類は用意していたんだろうってね。
にしても、あの不安げな演技は傑作だったが。フッ、あんたもあいつからは何も知らされてなかったんじゃないか?
ノーシス
彼はそういう人間だからな。何ら不思議でもない。
だが、君の発言には一つ間違いがあるぞ。
今回のあれは、珍しく演技ではなかった。
ラタトス
……そうだね。らしくないことに。実利重視の観点も、確実性も不十分だ。けど、これは誰にとっても最善の結果だった。
やれやれ。
……
そら、聞こえるかノーシス。金属が継ぎ合わされて化け物になっていく音がさ。
この重たく響いてうるさい音には飽き飽きだね。
ノーシス
第一号となるプロジェクトはまもなく完了するはずだ。
ラタトス
ああ、もうすぐにな。
だが、私らが全力を注いで、イェラガンド像の建設を目くらましにしてまで銀心湖の下に基地を造り……
あらゆる手段で誤魔化して、これほど長い時間をかけた結果ようやく作り出せたのが――
――この高速戦艦一隻だけとはね。
こんなもの、あまり長くは隠し通せないよ。今回ヴィクトリアが追及してこずとも、いずれ私たちのやっていることはすべて白日の下にさらされるだろう。
ノーシス
ゆえに、あえて隠す必要はない。
だが、あまり目立ちすぎてもいけない。
ヴィクトリアに手を止めさせたのは何なのか、君にわからないはずがないだろう。
各勢力が手をこまねいているこの隙に、我々はできる限り自らを発展させておく必要がある。
それこそが、イェラグ唯一の活路なのだから。
ラタトス
そう上手くいけばいいけどね。
ノーシス
ところで、ラタトス。
ラタトス
何だい?
ノーシス
妙な噂を耳にしたんだが。
君たちは本気で、プロジェクト第一号の戦艦に、「ウォルナッツ」などと名付けるつもりか?
ラタトス
……
フッ。
それの何がいけないんだい?
うちのおバカな妹も、珍しく面白いことを思いついたもんだよ。
この先子供が生まれたら、その子に教えてやるんだと。あの戦艦はあなたのお兄ちゃんなのよ、ってね。
どうだい、可愛いもんだろう?
???
ロザリン!
今回は残念だったわ。一緒にイェラグへ帰りたかったのに。
そうだ、私の形代はちゃんと山頂に持って行ってくれたのよね?
リェータ
母ちゃん!
なんだよ、私に任せちゃ心配だって?
っつーか、どうしてまた病室から出てんだよ。なるべく安静にして寝てろって医者から言われてただろ!
タチアナ
あら、大丈夫よ。ちょっとお散歩しているだけだもの。
骨が一本折れたくらいで、大げさにすることないでしょ! 私だって一日中病室に閉じ込められてちゃ息が詰まっちゃうわ!
リェータ
あのなあ、そもそも母ちゃんが勝手にジェットパックをいじってなけりゃ、こんなことになってねぇだろが……
タチアナ
あははっ、あれは本当にスリリングだったわね!
チャンスがあったらもう一回やってみたいわ。あっそうだ、イェラグに行ったならクライミングもできたでしょうけど、やってみた?
リェータ
それはやってねぇや。
タチアナ
だったら次は試してみて! とっても楽しいわよ!
私の足が治ったら、サルゴン探検に連れて行ってあげましょう……ああ、サーミでもいいわね!
ふふふっ……
待ちきれなくなってきちゃった!