非常口

Ela
Fuze、状況は?
Fuze
クリア。
相手はだいぶ怠け者らしい。奇襲に対して完全に無防備だった。おかげで、上に報告する暇を与えず蹴散らせたよ。
Ela
よくやったわ。
それじゃあ、強襲開始と行きましょう。
皆、行動はくれぐれも無駄なく迅速に。敵に反応する隙を与えないこと。
行くわよ。
小心者の軍人
なんか外で音がしなかったか? 爆発かな?
怠け者の軍人
みたいだな。
小心者の軍人
まさかコミュニティの連中が、本気で突っ込んでくるなんてないよな……
怠け者の軍人
突っ込んでくるって、何しにだよ? レイネルを助けにか?
余計な事考えてないで、慎重に運べよ。これは炎国の陶磁器らしいから、ぶつけたら壊れちまうぞ。気を付けろよな。
小心者の軍人
偉そうに。さっきガラスケースを割った時、危うく陶磁器まで一緒に壊しかけた癖に……
……そういえば、隊長はどうしたんだろう。瓶を割ったことを大尉に報告しに上へ行ったきり、帰ってこないよな?
怠け者の軍人
きっと、最初に来た時みたく階段上ってる途中なんだろ。
盗んだ美術品をどこで売りさばくか相談してんのかもな。もしかすると、分け前をどうするか話し終わってる頃かも――
Iana
グレネード、投擲完了!
Iana
室内に人質なし! 敵兵の制圧を優先する!
怠け者の軍人
なっ、どうしてお前らが!?
怯むな! あの連射銃、威力は大したことないぞ!
小心者の軍人
別に……怯んでなんかない! ただ、安全な場所を見つけて増援を呼ぼうと――
Ela
そうはさせない。
怠け者の軍人
チッ、通信機を一発で……いい腕してやがる。
だが、残念だったな。お前らの使う弾薬は威力が貧弱すぎる。こんなもん当たったところで、オリジムシに刺されるようなもん――
ディアス
それじゃあ、こいつはどうだ?
小心者の軍人
待て、なんでお前らまでいるんだ!? まさか本気で――
ディアス
本気に決まってるだろ。
こういう時は……クリア、だったか?
Ela
ええ。上手くいってよかった。次は一声かけてから動いてね。
Doc、Iana。二人はテキーラの言ってた場所に向かって。人質が大勢監禁されているはずだから、その安全確保をお願い。
状況が悪い場合は不用意に動かないこと。私は残りの皆と一緒に、一階の敵を掃討してくるから、終わり次第すぐに合流するわ。
Iana
了解。
Ela
ディアスさん、テクノ。ついてきて。
どうかしたの?
ディアス
……
この作品を見ろ。『槍を投げるパラドリス』、ミノスの彫刻だ。それに、炎国で作られた純金製の琺瑯彩の転心瓶もある……
ウルサスの文豪、セルゲイ・カターエフの原稿まで……これはどの作品だ?
『しびれる受信機、あるいは泥沼の心中』か……
クソッ、これがレイネルのコレクションになっていたなんて。
あいつもマッテオも絶対に許せん。こういう作品を台無しにしようとする奴も、売りさばこうとする奴も……
だが、今は切り替えないとな。片づけは後の連中に任せて、俺たちは先を急ごう。
心臓が跳ねる。
鼓動が激しくなっていく。
静まり返った室内で響くのは、ドクドクと絶えず跳ね続ける心音と――
テレビの声
く、来るな! 絶対に開けないからな! 入ってきたら、道連れにしてやる――
(ドアを引っ掻く音)
音が……音が止んだ。行ったか……
サボっている軍人
ふぅー、今のシーン怖かったな。
くたびれた軍人
こいつは何て映画だったか……ああ。『パニックミュージアム:殺戮のサンクタ』だ。監督はクルビア在住のサルカズだってよ。
サボっている軍人
道理でサンクタが悪役やってるわけだ。
くたびれた軍人
レイネルのボディガードたちは、いつも暇してたんだろうな。ここで座ってビデオ見ながら、ギャラリーを舞台にしたとんでもサスペンスを妄想するくらいしか、やることがなかったんだろう。
サボっている軍人
でも暇なのはいいことだろ?
大尉のお眼鏡に適った奴は皆、芸術品の運び出しなんかをさせられてるんだ。それに比べりゃ、大尉に嫌われてる俺らは、こうしてのんびり見張ってるだけで済むんだから――
マッテオ
おい、下で何か起きてるぞ! お前らも知ってることがあればすぐに報告しろ!
サボっている軍人
な、何かってなんですか?
マッテオ
銃声やら爆発音やらが六階まで響いてるんだぞ! 聞こえてないわけないだろう! 耳がイカれてんのか!?
くたびれた軍人
(小声)だからさっき音がデカすぎるって言っただろ。
サボっている軍人
(小声)黙ってろって!
直ちに下の者たちと連絡を取ります!
――げっ、繋がらない……
マッテオ
通信が無事なら、お前らにわざわざ連絡するわけがないだろう!?
さっさと下まで降りて状況を確かめてこい! 騒ぎを起こしている奴がいればぶちのめせ! 侵入者はつまみ出すんだ! ただし、何よりも美術品の運搬が優先だからな!
テレビの声
行くな、スカルドゥーロ! 行かないでくれ! 降りてった奴は誰一人戻ってこなかったんだぞ!
あのサンクタ女は狂ってやがる! 俺はこの目で見たんだ! 奴がトイレにいた連中を皆殺しにしたのを! しかもあいつは、今度は俺たちの命まで狙ってやがる!
テレビから絶叫が響く中、制御室で窮屈そうにしている軍人たちは互いに顔を見合わせた。
Iana
良かった。制御室の見張りたちは、まだこっちのドローンに気付いてないみたい。
人質は皆怯えてるし、所持品も奪われてるけれど、幸い、死傷者もパニックになっている人もいないわ。
制御室の連中はさっき大尉と連絡を取ってたから、下で何かが起きてることはわかってるようね。でも、安全そうな部屋を出るのが怖いらしくて、誰が出るかでモメてるわ。
Doc
わかった。ひとまず君は監視を続けてくれ。こちらはElaと連絡して、対策を練ろう。
サボっている軍人
ガビ、聞こえてるな? 応答しろ、そちらの状況は? 下で一体何が起きている?
追い出された軍人
わ……わ……分からない……
サボっている軍人
分からないって、なにをグズグズしてるんだよ! 時間を無駄にするな!
追い出された軍人
い、いやその……状況を慎重に確認してるんだよ。ほら、階段の扉のところまできたぞ!
サボっている軍人
声が震えてるじゃねぇか! お前、まさかホラー映画観てビビってんじゃないだろうな、ハハハッ!
追い出された軍人
うるせえな! お前らのほうこそ……なんで自分で降りてこないんだよ! いっつもそうだよな、何かあれば全部俺に押し付けて――
サボっている軍人
ん? どうした?
ガビ?
テレビの声
ダメだ! もう誰一人、下に行かせるわけにはいかない!
監視カメラを見ただろ! あの女は指一本触れもしなかった!
ただ電話に向かって一発ぶっ放しただけで、その向こう側にいたスカルドゥーロが……ぐ、ぐちゃぐちゃに……
(すすり泣く声)
マッテオ
状況は分かったか? 何が起きてる?
サボっている軍人
報告します。偵察に向かわせた仲間との通信が……突然途絶えました……
マッテオ
この役立たずどもが!
サボっている軍人
た、大尉。誰か手隙の者を一階に向かわせるのはいかがでしょう。その……こ、こちらは、人手が足りてなくてですね……
マッテオ
連絡が途絶えたなら、別の奴が行けばいいだろう! 俺にぶち殺されたくなかったら、モタモタしてないでさっさと動け!
怯える軍人
動くな! 出てこい!
よかった……誰もいない……
偵察に向かった奴が一人ずついなくなるなんて……ひょっとして一階には……幽霊でもいるんじゃ……
???
あれこれ考えるのはやめて、しばらく寝ていろ。
怯える軍人
誰だ――
サボっている軍人
おい、ラモン? どうしたんだラモン? な、なんか言えよ……
まただ……これでもう四人目だぞ……
四人とも、一階に行った直後に……
誰一人、応答しない。
端末は部屋の隅に放り投げられていて、時おり大尉の怒鳴り声がかすかに聞こえてきたが、それに応える者ももういない。
くたびれた軍人
一人ずつ行ったのが良くなかったのかもな。ほら、どうしても各個撃破されやすくなるし――
サボっている軍人
だからって全員で行ったところで同じだろ!?
くたびれた軍人
……
テレビの声
あの女が、サイコパスのシリアルキラーが! ドアの……すぐ前にいる! インターホンのカメラ越しに、微笑んでやがるんだ!
インターホンを切れば大丈夫よ、マイオ。そうしたら入ってこられな――
こいつ、銃を向けてきやがった! ひ……引き金を引く気だ!
そんなことしても、カメラを壊すくらいしかできないでしょ? いいから落ち着きなさい!
(銃声)
マ、マイオ……? マイオ……! 死んじゃったの? ど、どうして銃創が!?
きゃああああああ!
サボっている軍人
ええと……その……ビデオ変えないか?
虚ろな目で互いにしばらく見つめ合った後、くたびれた様子の軍人が立ち上がり、制御室の隅にあったビデオを適当に取ってデッキに入れた。
テレビの声
……それでは本日のゲストです! カジミエーシュからやってきた「美術商」、ドッソレスの文化産業を担う期待の新鋭、レイネル・コワルスキーさん!
サボっている軍人
なに流してんだ、トチ狂ったのか!?
くたびれた軍人
こんなのが流れるなんて知らなかったんだよ!
サボっている軍人
もっと別のがあるだろ! 早く換えろ!
テレビの声
やほやほ~! 初見さんははじめまして! そうじゃない人は一日ぶり! この番組の司会を務めます、みんなのユーリ――
サボっている軍人
これもダメだ、換えてくれ。司会の女がやかましすぎて、頭が痛くなる。
くたびれた軍人
……この三つしかないんだよ。
サボっている軍人
うそだろ! ここのボディガード、メンタルでもやってんのか!?
テレビの声
今日のテーマはこちら! 初めてドッソレスを観光する皆のために用意した特番……
くたびれた様子の軍人は、リジェクトボタンを思い切り押した。
くたびれた軍人
やっぱりさっきの映画にしよう。
テレビの声
魔族どもよ……制裁の……時が来た……
や、や、やめろ! 俺の爺ちゃんはカズデルの大物なんだぞ! 巫術をかけられたくなんかないだろ!?
フフッ、アハハハハハ……
やめろ、そんなふうに笑うな――
ハハハッ……巫術ね……フフフフ……
空が太陽の光で満たされ、大地のあらゆる闇が消える時……
双子の月が貴様ら獣の檻に落ち、あらゆる闇が貴様らの両目に注がれる……それこそが……
Iana
ジェミニ・レプリケーター起動。
部屋の中央から、かすかな物音が聞こえてくる。
唇をギュッと噛みしめ、全身をガタガタ震わせながら両手を握りしめた軍人は、スクリーンから視線をそらし、恐る恐る振り向いた。
彼の視線の先に映ったのは……室内に突如現れた、奇妙な女性の姿である。
その顔は、髪と同じく真っ白だった。
見たこともない大型の銃器が、自分に向けて突き付けられている。そしてその弾丸が、今にもカメラを介することなく、彼の心臓を貫こうとしていた。
しかし奇妙なことに、その女性はすぐそこに立っているにもかかわらず、生気をまるで感じさせない。本当はここにはおらず、呼吸すらしていないように思えた。
そしてその頭上には……
光輪が輝いていた。
テレビの声
振り返るな……私はお前の後ろにいる。
振り向いた瞬間、軍人は小さな悲鳴をあげた。それにつられて不安に駆られた他の者たちも、その視線の先に目を向ける――
サボっている軍人
な、何なんだこいつは!!
間違いなく命中したはずのクロスボウの矢が、何に阻まれることもなく空を切り、女性の身体を突き抜けていく。
と思えば、女性は唐突に消え去った。後にはただ、頭上に輝いていた光輪の残像だけが残されている――
パニックに陥る軍人たち
うわああああああああ!?
サボっている軍人
た、大尉! サンクタです!
敵は空間移動系アーツを使うサンクタです。サイコパスで、シリアルキラーで、カメラ越しに銃で人を殺せる――
ぐわっ!
Ela
状況、クリア。
Doc
状況、クリア。
Ela
ジェミニ・レプリケーターが攻撃を受けた瞬間に照明を消しただけなんだけど。まさかここまでパニックになるなんてね。
部屋の隅のテレビの中では、ドアを破ったサンクタが殺戮を繰り返していた。
テレビの声
殺す。殺す。全員殺す。貴様らの角を切り落とし、教皇庁の天井から吊るしてやる。
若手投資家
いやあ、おかげで助かった!
もし芸術投資関係で力になれることがあれば、いつでも――
テクノ
無駄話してないで、さっさと逃げな!
若手投資家
あ、ああ……
コミュニティの音楽家
あれ? あんたが背負ってるその人、どうしたの?
コミュニティの住民
抵抗したせいでぶん殴られたらしいよ。まだ意識が朦朧としてるみたいだから、担いで逃げた方が早いかなって。
コミュニティの音楽家
へえ、あいつらの中にも気骨のある奴がいたのね。
ところで、第二ホールってここのことでしょ? さっき読みたいって騒いでた手稿はもう見たの?
コミュニティの住民
あー、しまった。避難誘導のことばっか考えて、忘れてたよ。
崖っぷちの貴族
手稿……?
コミュニティの住民
ミノスの詩人が書いたやつだよ。チラシにも第二ホールの「一番の目玉」って書いてあったろ。どこにあるか知らない?
崖っぷちの貴族
先ほどちょうど見かけたよ。このホールの向こうにあるんだ。よければ案内を――
コミュニティの住民
是非とも!
崖っぷちの貴族
それなら、下ろしてくれても大丈夫だ、自分で歩けるから……
コミュニティの住民
まだフラフラしてるんだろ? 背負って行った方が早いよ。案内さえしてくれたらいいからさ!
Iana
ホールの人質はもうすぐ避難完了ね。
Ela
ええ。ジェミニ・レプリケーターのおかげで、びっくりするくらいスムーズに事が進んだわ。
Iana
偶然よ。単なる囮役がハマッただけ。なんならコミュニティで使った時みたいに、コピー目掛けて乱射されるかと思ってたくらい。
Doc
ホログラムの位置が良かったことに加えて、相手が暇潰しに見ていた映画が効いたのだろうな。
カタパルト
外の連中も全部片づけたよ。それで、この後はどうするの? 三階のエルネストを助けに行く?
コミュニティの画家
待ってくれ!
その――えっと……とにかく、あそこに近づいちゃダメだ!
Ela
何があったの?
あら、ミウォシュさん。レイネルと一緒じゃなかったの?
ミウォシュ
ええ。
Ela
そう。今は一刻を争う事態だから、早くギャラリーから離れて。
ミウォシュ
……私を拷問して、情報を引き出さなくともいいのですか?
Ela
それは私たちのやり方じゃないし、そんな暇もないもの。
ミウォシュ
ならば、取引をしましょう。有益な情報を提供しますので、あなた方には……
Ela
レイネルを救ってほしい、と?
ミウォシュ
はい。
Ela
レイネルが爆弾を仕掛けていなければ、こんなことにはならなかったと分かっていてそれを言ってるの?
ミウォシュ
その爆弾をギャラリーに隈なく仕掛けるなど、レイネル一人ではできません。確かに考えたのは彼ですが、実行したのが誰かは……言わずともお察しいただけるでしょう。
つまり、爆発までのタイムリミットも、効率的な解除方法も、私が誰より良く知っているというわけです。
Ela
脅迫するつもり?
ミウォシュ
……まさか。あなた方にはそんなことをしても効かないでしょう。
私はただ、皆さんに協力することで、彼の命を救えたらと思っているだけなのです。
Ela
そう。じゃあ、知ってることを全部話して。
ミウォシュ
我々が仕掛けた爆弾は時限式で、本日の午前十時に爆発するよう設定しています。それを阻止するには、起爆ルート上に四つある分配器を全て解除しなくてはなりません。
地下室に一つ、三階の隠し部屋に一つ、六階階段の踊り場に一つ、そしてレイネルの執務室内の通風孔に最後の一つがあります。
Fuze
……嘘じゃなさそうだな。
ミウォシュ
地下室にある物が最も大きく、解除方法も複雑ですので、あなた方の内どなたか一人に同行していただき、私が解除するのがいいかと――
Fuze
俺が行こう。
Ela
ええ、お願い。そうしたら、テクノは他の人と一緒に被害者の捜索を続けて。まだどこかに隠れてるかもしれないから。
ディアスさん、カタパルト。ふたりはそれぞれ三階と六階の装置を解除して。DocとIana、そして私はこのまま上層に進んで、屋上の装置を解除する時間を稼ぐわ。
ミウォシュ
三階の隠し部屋は、少々見つけにくい場所にありますのでご注意ください。このホールのほぼ真上にあるのですが、入るのは難しいはずです。地図を書きますので、紙とペンを――
テキーラ
それなら心配いらないよ。俺に任せて。
カタパルト
エルネスト!
テキーラ
隠し部屋は俺とアリータでなんとかしよう。
ミウォシュ
では続けて六階の分配器ですが、これは階段の踊り場にあります。ひと目で不自然だとわかるような、簡単に壊せる壁の中です。
ディアス
わかった、任せろ。
コミュニティの画家
はぁ、やっと来たな。もうお前ら二人以外は避難したぞ。で、例の手稿はどう――
って、おい!? 何でお前の方がそいつを背負ってんだ?
崖っぷちの貴族
それが……手稿を見た途端に、泣き過ぎて過呼吸になったようでね……そのまま気絶してしまったから、私が担ぐほかなくなって……
コミュニティの画家
気絶したって!?
お医者の先生、お願いします! 早くこっちへ! 気絶してしまった奴がいるんです!
Doc
ふむ、泣き疲れて気を失っているようだな。心配ないよ。長年夢見ていた手稿を目にして、興奮しすぎたのだろう。
風当たりの良い場所でしばらく休ませてあげなさい。
コミュニティの画家
そ、そうですか……よかった。
ミウォシュ
……こちらは手札を全てお見せしましたよ、Elaさん。
Ela
そのようね。
でも、よかったの? 私たちが救出に失敗したらどうする気?
ミウォシュ
その時は……私もここに残ります。
Ela
……
ミウォシュ
どうかそうなる前に、他の皆さんは全員救い出してください。レイネルと私以外、誰にもここにいてほしくはありませんから。
ディアス
ああ、金属カバーは取り外したぞ。ここから繋がってる起爆ポイントは――
――十二箇所!? ミウォシュ、お前何を考えてやがるんだ!
はあ!? 地下室からは四十箇所以上繋がってるだと!?
……仕方ない。一つ貸しだ、後できっちり返してもらうぞ。
ひとまず、コードを一本ずつ捻じ切ればいいんだな?
ああ、ああ。分かってる。半端に繋がった状態だと誤動作しやすくなるから、切る時は迅速に、だろ。心得てるよ。
それで、そっちはどうなんだ?
四階にまだ抵抗してる奴がいるって? ハッ。
そこで彼は言葉を止め、額の汗を拭うと、目の前の絡まったコードを切ることに集中し始めた。
可能な限り素早く捩じ切っては、コネクタも同様に切断する。最後に短絡を防ぐため、それらを絶縁テープで覆っていく。
作業をしながら、彼は無意識に、シンガス軍にいた頃はいつもコネクタの取り付けをする側だったということを思い出していた。
そんな記憶に眉をひそめて舌打ちをしつつも、ディアスは手を止めなかった。当時のことは関係ない。今の自分は爆弾処理に従事する消防士なんだと言い聞かせて、作業を続ける。
残るコードは二本。その切断が済めば、この爆弾はもう起爆などしない。
コネクタを素早く捻じ切るコツを、ディアスは既に掴んでいた。まずは押しつぶし、次に焦らずしっかり捻じって、最後に思い切りコネクタを回転させる。それだけだ。
最後のコネクタを捻じ切るまで、あと七回転、六、五……
短気な軍人
そこのクソジジイを捕まえろ!
ナイフを手にした大尉の部下が、老いた消防士めがけて駆け寄ってくる。上層からも、三丁のクロスボウが彼に向けられていた。
ディアスは手をコネクタにかけたままその場で固まってしまった。頭が真っ白になって、どちらにねじればいいかがわからなくなったのだ。