ロドス大食堂
ケオベ?
(怒りに満ちた雄たけび)
マルシル
魔術を使って、どうにか……うう、どの魔法もあの子を傷つけちゃいそう――
アーミヤ
みなさん、彼女を押さえてください! 私がケオベさんの感情を落ち着かせます!
チルチャック
んなこと言ったって、こいつめちゃくちゃ暴れるぞ!
ライオス
……センシ、この間食べたポップコーンはまだ残っているか?
センシ
ああ。
ライオス
それをケオベに向かって投げてくれ!
センシ
わかった!
言うが早いか、センシはポケットからポップコーンを取り出すと、ケオベに向かって投げた。
すると、怒り狂っていたはずのケオベは、吸い寄せられるようにしてポップコーンのほうを見た。
ライオス
やっぱり、まだ何かを食べたがっているんだ――!
もしかすると、ここに来る途中食べたもので腹を壊して、こんなふうになってしまったのかもしれない!
チルチャック
……腹を壊して魔物になる奴なんかいるか?
アーミヤ
ケルシー先生から聞いたことがあります。ケオベさんの身体には特別な血が流れていると。ですから、その可能性はありますね……
チルチャック
マジかよ!?
マッターホルン
その話は後にしましょう、今のうちにケオベさんを押さえないと!
剣を持っている方と、鍋を持っている方は力が強そうですし、我々で押さえましょう。
二人
わかった!
ケオベがポップコーンを食べている隙に、三人は慎重にその背後から近づき、それぞれが彼女の足を抱えて押さえた。
ケオベ?
(不機嫌そうな雄たけび)
マッターホルン
今です、アーミヤさん!
アーミヤ
わかりました!
戻ってきてください、ケオベさん……
怖がらないで……ここは、あなたのおうちですよ……!
ケオベ?
(苦しげな雄たけび)
マルシル
すごい、あんな魔術見たことない……
マッターホルン
見てください、ケオベさんが元に戻りましたよ!
アーミヤ
よかった!
ケオベさん、大丈夫ですか!
ケオベ
うん……今……何があったの……?
おいら……夢を見てたみたい……!
マルシル
夢!?
ケオベ
あっ……
ケオベが周囲を見渡せば、整えられていたはずの部屋は滅茶苦茶に乱れ、彼女の手には壊れかけのおもちゃが握られていた。
ケオベ
ごめんなさい……悪いことをしたら、ちゃんとごめんなさいするように、ってヴァルカンお姉ちゃんに言われたんだ。おいら、悪いことしちゃったみたいだね……
夢の中で、お腹がすいて……ぐーぐー鳴ってて……それから……
アーミヤ
それから……?
ケオベ
いっぱい頭が生えてきて、いっぱいいっぱい食べたくなったの!
それで、お腹いっぱいになったら、おいらうれしくなって、またここに戻ってこられたんだ!
アーミヤ
(小声)……マッターホルンさん、ヴァルカンさんはどちらに? 彼女は、近頃のこうした状況に気付いていたのでしょうか……?
マッターホルン
(小声)後で聞いてみます……
(小声)では、ケオベさんはこのあと……
ケオベ
……(ぐ~……)
センシ
ん? ケオベ、また腹が減ったのか?
ケオベ
うん!
いっぱいいーっぱい食べたい!
夢の中ではお腹いっぱいだったけど、やっぱりお腹すいちゃった!
ライオス
ふーむ……
では君は、頭が三つある怪物を知っているか?
ケオベ
もちろん知ってるよ!
ライオス
それは……?
ケオベ
頭が三つだけじゃなくて、千個あるやつ!
ライオス
……!
ケオベ
おいら、いつもいっぱい食べたいから、頭が十個、百個、ううん、千個でも食べ足りないくらいなの!
だからおいらには、千個の頭があるんだ!
ライオスパーティー
何だって!?
ケオベ
でも、お腹がいっぱいにさえなれば、おいらさっきみたいにはならないよ!
センシ
よし! ならばわしが、今からご馳走を作ってやろう!
アーミヤ
今回は例外的に、食事の前のおやつをあげてから、ケオベさんを検査に連れて行きましょうか……
みなさん、まずはロドスを散策していただいて、ご飯の時間に腕を振るっていただくのでもいいですか?
ライオス
……あ、ありがとう……
アーミヤ
それで、みなさんがロドスにいらしたもう一つの目的についてですが……
元いた場所に帰るとなると……時間をかけてそちらの事情を把握したうえで、判断しなければならないかもしれません。
マルシル
え……じゃあ、これからどうすれば……?
アーミヤ
あまり心配しないでください。ドクターとケルシー先生なら、きっと解決策を見つけてくれるはずですから。
マルシル
本当!?
アーミヤ
はい。いずれにせよ、あなた方がケオベさんを助けてくれたのは確かですし、状況もとても特殊ですから……
よろしければ、ロドスにしばらく滞在してみてはどうですか?
ロドスを代表して、みなさんを歓迎しますよ。
興味津々な人々A
また新人か? どこの部に入るんだ?
興味津々な人々B
妙だな、種族がわからないぞ。尻尾を隠してるのか?
センシ
先ほど、作物をたくさん抱えた娘が通っていくのを見たのだが、ここの畑に連れて行ってもらうことはできるだろうか?
興味津々な人々A
畑……? 培養室とか、水耕栽培室のことか?
チルチャック
……ここに、酒を飲める場所はあるか?
興味津々な人々B
……おう、あんたドゥリン人だったのか! なら来な、こっちだ。
マルシル
あの……ゆっくりお風呂に入れて、髪をとかせる場所はある?
興味津々な人々C
ふふっ、宿舎内ならどこにでもあるわよ。ついてきて。
ライオス
おお、長いウサギの耳がついている。この前は毛細血管の分布がよく見えなくて残念な思いをしたんだよな……
わあ、彼らは尻尾の位置を調整することで、身体のバランスを保っているのか……
ふーむ、羽毛はあるが翼がないな。一体どうやって飛ぶんだ……?
いやあ、ここはまさに天国だ……
興味津々な人々D
あれ、さっき言ってた新しいオペレーターってあの人のこと? 何してるんだろ。道に迷ったけど迷惑かけるのが恥ずかしくて、声かけられずに立ち尽くしてるとか?
興味津々な人々E
そうかもね。こっちから挨拶してみる?
初めまして、あのー……?
ライオス
(小声)鳥の獣人たちは、やはり卵生なのだろうか? 無精卵はどうするんだろう……。これだけたくさんの人がいるのだから、少しくらい分けてもらえるのでは……
(小声)羊の獣人の体毛で、毛織物を生産できるのだろうか。いや、先ほどすれ違った人たちは大して毛深くなかったから、難しそうだな……
(小声)猫と犬の獣人の間に子は生まれるのかな? 生まれたとして、どちらの性質を受け継ぐのだろう。猫と犬の特徴をそれぞれ少しずつ引き継ぐのだろうか。
(小声)……じゃあ、鳥の獣人とはどうだ? 卵の中から、へそのついた子供が生まれるとか? うーむ……
興味津々な人々
あっ……
えっ……
(全員が後ろに下がる)
ライオス
あのー……
興味津々な人々
(全員が再び後ろに下がる)
ライオス
聞きたいことがあるんだが……
興味津々な人々
(全員がさらに後ろに下がる)
ライオス
君は卵生なのか?
ケルシー
……
ライオス
ん? ああ、すまない! 今いたあの鳥の獣人……リーベリの人に聞きたかったんだが……あれ? どこへ行ったんだ?
みんな、どうしてそんな離れた場所に?
アーミヤ
ん……?
引いている人々D
アーミヤ! あの人!!
引いている人々E
あの人、患者さんじゃなくて、さっき甲板で見つかった……「お客さん」なんだけど……!
引いている人々F
でも、ず、ずっと怖い質問ばっかりしてくるんだ!
アーミヤ
ええと……何を言っていたんですか?
引いている人々D
私たちに向かって、子供ができたら、半分猫で半分犬だったりするのかなんて聞いてきた!
引いている人々E
リーベリは卵を産むのか、一つ譲ってくれないか、とか聞かれたよ!
Mon3tr
(雄たけび)
ライオス
あっ、わああっ! カッコいいなあ! 君はMon3trというのか?
触らせてもらってもいいだろうか?
Mon3tr
(鋭い雄たけび)
(素早い動き)
ライオス
うっ――わあ!?
ビーズワクス
わあー、それじゃ、普段迷宮で冒険している時は、ちゃんと髪をお手入れできないんですよね。それなのに、こんな綺麗なブロンドヘアをしているんですか? すごいですね。
マルシル
えへ。魔術師にとって髪は大切なものだから、なるべく気を遣ってるの。髪の毛一本一本にちゃんと魔力が通うようにね。
ビーズワクス
そうなんですね。そうだ、ちょっと見てもらえますか。これが、普段使ってるヘアオイルなんですけど。香料や薬草のエキスが配合されていて、髪を潤わせて守ってくれるんですよ。
私は、これをいつも塗り続けて、ようやく今の状態を保っているんです。
マルシル
わあ、このオイルいい香り!
髪をもっと綺麗に見せたいってことなら、編み方が色々あるから教えてあげる!
???
ど・こ・へ・行・く・お・つ・も・り?
センシ
わしはただ――
ぐはっ!
???
わたくしの炎で、今何をなさいましたの?
センシ
うぅ……
???
今何をなさいましたかと伺ってますのよ!?
センシ
……栗を焼いた……
うむ。
トラクターを運転していた娘が、わしにくれたのだ。ロドスで栽培した最初の栗だと言っていた。
ここの畑は手入れが行き届いているな。栗というものは、焼けば甘く柔らかく、皮もむきやすくなるので、間食には最適だ。
しかし、残念ながら今お前が放った火は少し強すぎた! おかげで栗を全部焦がしてしまった。お前たちに料理を振舞うと言っておきながら、食材を無駄にしてしまうとは、恥ずかしい限りだ……
スカイフレア
……
ミント
スカイフレア先輩、怒らないでください……!
ああっ、ショウさん、ショウさん! 早く来てください! 先輩がまた燃え始めてます!
おじさんも、その火で串焼きをあぶらないで!
チルチャック
ぷはー!
……確かに美味いな。
ふぅ――だけど、さっきも言った通り俺はドゥリン人じゃねえ。
マウンテン
――ふむ?
では、本当は未成年なのですか?
チルチャック
そっちの顔がちっとも見えねーんだが、座って話してもらえるか?
マウンテン
今も座っているのですが……
チルチャック
……
ヘラグ
もう一杯いかがかな?
シルバーアッシュ
感謝する。
チルチャック
ここにいる男はみんなこんなに背が高いのか? ライオスでもここまでじゃないが……
(小声)この銀色のふさふさした奴……ライオスが見たら、毛を梳いてやろうかとかなんとか聞きたがるんだろうな……
……まあいい。
ホシグマ
皆さんここで飲んでいらしたのですか? 小官も呼んでくださればよかったのに。
顔を出すのが久しぶりなせいで、声をかけるのを忘れられてしまいましたかね。
チルチャック
……
ホシグマ
ん? あなたはどこのお子さんですか? 子供はお酒を飲んではいけませんよ。
チルチャック
んー……
ぷはあ。
ケオベ
くんくん……
(いい匂いがする!!)
(もうご飯できたかな?)
(おいしいご飯があるんだ!!)
わーい!
センシ
むっ、何か腰に――
ケオベ
(うわっ、ぶつかっちゃった……)
ごめんなさい!
ヴァルカンお姉ちゃんが、人にぶつかった時はごめんなさいするようにって言ってたから……
ごめんね、ひげのおじちゃん! お腹すいてたから、急いでたの!
センシ
よしわかった、では料理を運ぼう!
旅の途中で出会った人々が提供してくれた食材や、これまでの思い出を活かして作った料理の数々――これですべて完成じゃ!
さあ、食べてみてくれ。以前と変わらぬ味になっているか?
マルシル
えっと……食材を準備してる時から聞こうと思ってたんだけど、どうしてまた同じ料理を作ることにしたの?
前に食べた料理と同じ味になれば満足、ってこと?
センシ
……わしにも何とも言えんのだ。しかし、同じものを食べると、前にそれを食べた時の気分を思い出すものでな。
たとえば、サソリの鍋と聞いたら、お前は何を思い出す?
マルシル
……初心者の広場で、初めてセンシと会った時のことかな。
ライオス
歩き茸の足も、独特な香りがして美味かった。
チルチャック
サソリの解体は難しかったけどな。
センシ
バジリスクと聞くと、どうだ?
マルシル
センシが、毒消し草を鶏肉に詰めて料理してからあの冒険者に食べさせるんだ、って言って聞かなかったこと思い出す……
ライオス
バジリスクはかっこいいよな!
チルチャック
俺は、マルシルが念願の鶏肉を食えたってところが印象的だな。
マルシル
……
センシ
では、マンドレイクは?
ライオス
頭の形が特徴的だった!
チルチャック
マルシルが大蝙蝠に……
マルシル
――その話は二度としないで!!
センシ
そう、つまりはそういうことだ。
食は記憶と結びついている。ゆえに同じ料理を食べると、その時の情景が浮かんでくるのだ。
料理を作っている時も、わしはその当時一緒に調理をした人間や、その料理を選んだ理由、食材の準備中に起きたこと、そして食べた人々が幸せな笑顔になったかどうかを思い出す。
そうして少しずつ、同じ香りと味によって、すべてがもう一度脳裏に浮かび上がってくる。
今この瞬間の光景も、この料理にまつわる新たな記憶として、頭の中に残り続けることだろう。
マルシル
わあ……
センシって、いつも良いこと言うよね……
センシ
では、いただこう!
楽しげな三人
いただきます!!
アーミヤ
ん~、このニンジン料理、美味しいですね! ドクターも食べてみませんか?
ライオス
君、本当に食べないのか? 本当に? オリジムシのローストは美味しいぞ。
ケルシー
……
ライオス
一口でも試してみないか?
ケオベ
わあ~……これ、食べていいの?
マルシル
もちろん!
ケオベ
全部食べていいの?
マルシル
そうだよ、全部。
ケオベ
お姉ちゃんたち、とっても優しいんだね!
センシ
さて……「ドクター」、だったか? ここにいたのだな。
先ほど調理中に聞いた話では、お前は普段何かと忙しく、食事をおろそかにしているらしいな。
急いでいい加減な食事ばかり取り、時には不健康な眠気覚ましや空腹を満たすためだけの食べ物で済ませているというが……
それは健康にも響く良くない習慣だ。お前を気遣っている者は大勢いるのだと心しておけ!
健康的な身体を作るには、規則正しい生活リズム! バランスの取れた食生活! そして適切な運動が必要だ! わかったか?
マルシル
助けてくれてありがとう、ドクター。おかげで、たくさん新しい友達ができたよ。
ライオス
はあ……ファリンもここに居たらいいのに。
そうだ、食事が終わったら、この場所について詳しく教えてもらえないか?
チルチャック
ドクター? 何見てんだよ、お前も酒が飲みたいのか? ダメってわけじゃねーけど……そもそもお前、成人してんのか?
そんなふうにフード被ってちゃわかんねーんだよな……
マルシル
うーん……これ美味しい!
この料理、作り方を覚えておかないと。ファリンを助け出したら、あの子にも作ってあげるんだ!
その時は、ファリンを助けに行く途中で良い人にたくさん出会ったことや、素敵な思い出がたくさんできたことを話してあげないと……
きっと、あの子も喜ぶはずだから!