MCタイム

観光客の女性
いま地面が揺れなかった?
観光客の男性
そりゃそうさ!!
そりゃ、ステージからこんなに近いんだぜ! 見てみろよ!? アレだよ、D.D.D.のあの表情!! あれはいったいどうやってるんだ!?
観光客の女性
えっもう引っ込んだじゃない、いつまでもそんなに……待って、また地震?
観光客の男性
うわっ、ウーファーが響いてるのかな……いや待て。
観光客の女性
わっ……わわっ? あなたも感じた?
観光客の男性
……行くぞ!
観光客の女性
な、何よ?
観光客の男性
いいから付いてこい!
観客
押すな! 離れろ!
足を踏んでる!! どけっ!!
人が倒れてるぞ! 気をつけろ!
観光客の女性
ど、どうして急に騒々しくなったの、もしかして……。
観光客の男性
……マジかよ。
……エンペラーだ。
エンペラー
へぇー、悪くねぇ天気だ。
(歓声)
観光客の男性
エンペラー! 本物だ!! うわあああああ!
観光客の女性
……。
観光客の男性
何ボーッとしてんだよ! こんなときにまだ地震なんか気にしてんのか!?
観光客の女性
ちが……ただ、本物のエンペラーを見て、待って、少し、興奮して息が……。
護衛
エンペラーさん、こちらへ。
観客の皆様! どうかお下がりください! 線の内側までお下がりください!
エンペラー
おい、そこのサヴラの若者。
大丈夫さ、近づけていい。
護衛
ですがエンペラーさん、この後ステージもありますし、万が一のことがあれば……。
エンペラー
万が一?
銃撃に刺殺、拉致、自殺脅迫、万が一ってそんなところか?
そんなもんで何を止めるつもりだ? 俺をか?
いいや、そんなもんは俺のパフォーマンスの一部になるだけさ。言葉の意味がメロディーでかき消されるみたいにな。わかるか?
護衛
わ、わかりません……。
エンペラー
簡単に言えば演出の一つってことさ。安心しな。どうなってもMSRはお前たちに責任を問うたりしないさ。
(歓声)
観客
エンペラー!! エンペラー!! エンペラー!!
怪しげな表情の観光客
……。
エンペラー
よーし、来たな。さあ早く、緊張するな、リラックス、大胆に、自分を信じて。
怪しげな表情の観光客
何が西クルビアが誇るラップの神だ。お、お前はただのチンピラだろう、運が良かっただけの……。
エンペラー
大きな声で、カモン、もっと大きな声で! おい、サヴラの君、そいつにマイクを渡しな。追い払わなくていい。慌てるな、俺の言う通りにすればいい。
怪しげな表情の観光客
俺たちの生活をめちゃくちゃにしといて、お前は大成功してふんぞり返りやがって、し……死ね!!
観光客の女性
ぎゃああ――ボウガンだ! 早く逃げて!
怪しげな表情の観光客
俺は悪くねぇ、そうだ、全部お前が悪いんだ。お前の作った「ラップ帝国」のせいでどれだけの歌手が犠牲になったと思ってやがる――
何がエンペラーだ、クソ食らえだ、卑怯者のペンギン風情が!
エンペラー
フハハハ、卑怯者か。コイツはいい。卑怯な手段を使っているのは一体誰かな? メディア買収に世論操作、誹謗中傷、そして最後は射殺か、なぁ、ブラザー?
アンダーグラウンドのゴミ溜めに沈めば、お前が誰かわからなくなるとでも思ったか? あんな若者たちを手にかけて満足かな、「歌手」さん?
怪しげな表情の観光客
テメェ――!
エンペラー
もし俺がお前たちを見過ごしてたら、きっと気に入らない新星たちをどんどん「排除」していってたんだろうな。
それで集まった金をぜーんぶ自分たちの取り分にして、クルビアの全部を踏み台にするんだろう?
怪しげな表情の観光客
黙れ! 死ね!
護衛
エンペラーさんを守れ!
護衛
しまった! エンペラーさんに命中したのか、早く……え?
撃ったのは……エンペラーさん? あいつのボウガンを撃ち抜いたのか?
エンペラー
ダダダダダ、ダン! パーン! なーんてな。
変だなぁ。アレだけ饒舌にペラペラ喋っておいて、どうして俺の銃口が煙を上げてるんだ? なあ?
お前が腰抜けだからか、それとも俺が眩しすぎて上手く狙えなかったか?
怪しげな表情の観光客
グッ――うっ――銃を持ち歩いてんのか……。
エンペラー
もし一日に何回も死ぬ経験をすれば、武器を持ち歩く習慣だって身につくもんさ。
怪しげな表情の観光客
ぐっ――まさか俺一人だけだとでも思ってんのか? これまでどれだけ敵を作ってきたか数えてみるがいい! シエスタを生きて出られると思うなよ!
エンペラー
俺の過去はあんな虚構の海洋よりもずっと深くて広いんだ。お前の言う敵なんて、どこに沈んでるかわかんねぇなぁ?
護衛
大変です。エンペラーさん! 観客の中にヤツの仲間が大量に紛れているようです。こちらでは処理しきれません……。
エンペラー
ああ、分かってるよ。まぁ慌てるな。君たちは現場の秩序を守ってくれればいい。後始末はその道のプロに任せておけ。
例えば俺の、ペンギン急便なんかにな。
クロワッサン
……なんや休暇に来たんとちゃうん? あんなー、念の為聞いときたいんやけど、超過勤務手当っちゅーのは出るん?
テキサス
ホテルであれだけ休んだんだ。確かに少し体を動かしたほうが良さそうだ。
ソラ
テキサ……「ソラ」はホテルでずっと本を読んでたからね……。
テキサス
……そうだった。そういう約束だったな。戦闘中も間違えないようにな。問題ないか、テキサス?
ソラ
大丈夫!
エクシア
ヘイ! ボス、こっちが片付いたら、明日の最前列のチケットをよろしくぅ!
護衛
エンペラーさん、こ、この人たちはいったい?
テキサス
私たちのことはボス…エンペラーさんの護衛だとでも思ってくれればいい。
クロワッサン
まぁウチら、タダの物流会社なんやけどなぁ。
エクシア
あたしたちの業務範囲って、もともと幅広いでしょ。こないだなんかジャズ・バーを買収してたし。
ソラ
シラクーザの犯罪組織もちょいちょい懲らしめていたもんね。最近は不思議なくらい大人しかったけど。
エンペラー
俺たちに挑むのはいいが、いつも龍門でどれだけ喧嘩をしてきてると思ってるんだ?
喧嘩にかけちゃ俺たちはプロフェッショナルだ、それも最高ランクのな。だーれも相手にならない。
興奮する観客
この瞬間を待ってたぜ! 西のペンギン! 堂々と姿を現すとはいい度胸だ、死ぬ準備は出来てんだろうな!
エンペラー
……自分たちのやってきたことを棚に上げて、よくも威勢のいいことだ……。まぁいい、敵がいくら増えても俺の描いていたシナリオと大して変わらない。
テキサス、やれ。
テキサス
了解――あっ。
ソラ
――了解! いっくよー!