アイコンタクト
父親
林の中で、一匹のサンドビーストに目を惹かれたんだ。俺の常識だと、この類の小型動物は荒野にしか生息していないからね。
そいつは驚いたようで、茂みの中に逃げ込んだ。好奇心に駆り立てられてサンドビーストを追って、茨や蔦を払ったら、俺の前には思いもよらない景色が広がった……
フェニーちゃんにも見えたかな?
娘
うん!
すっごく広い砂漠と空があって、お互い繋がっているところはピンク色で、教科書にある挿絵と全然違うの。それに……
甘い匂いがする。
父親
あはは、それはお母さんがケーキを焼いてくれているからだよ。もうすぐご飯だ。
娘
ねぇパパ、パパが東の荒野に探検しに行った時のこと、もっと聞かせて? うーん……やっぱり、空に浮かぶ都市の話がいい。
父親
焦ることはないよフェニーちゃん。奇妙な経験は無数にあるんだ、まだまだ時間がたっぷり残っているしな。
フェニーちゃんが大きくなって、もっとしっかり歩けるようになったら、俺が見てきたすべてをきっとフェニーちゃんも見ることができる。保証するよ。
フェルネ
あたしのお客さんにデタラメを吹き込まないでくれる?
老いたバーン
ガイド見習いのお前がちゃんとしてないからだ。皆、明らかに俺の物語の方を好んでいるだろう。
フェルネ
あたしの仕事は、実際に存在する場所でお客さんに観光案内をしてあげることなの。
老いたバーン
お前たちの会社が地図に印をつけた観光地だけが実在しているとでも言いたいのか? ふざけている。だったら俺の若い頃の経験は何だというのだ?
言ったはずだ、ガイドブックを一字一句間違えずに説明するだけでなく、誰もがまだ歩いたこともない道を探索すべきで――
フェルネ
その後何一つできずに、ご近所さんに笑われて、晩年は町の子供たちにデタラメな作り話をすることしかできないようになれっていうの?
あたしだって昔はその作り話を信じてたよ――空を飛べる循獣に、浮遊する都市、ピンクかかった金色のボーンヤード……今でもそれは大切な思い出。
だけど、父さんは自分の作り話を信じすぎてるの。
老いたバーン
フェルネ! ゴホッゴホッ、戻るんだ!
スタッフ
おめでとうございます、フェルネ・バーンさん。資格審査が通りましたので、本日からあなたは独立旅行会社の社長です。
フェルネ
ありがとうございます。社員はあたし一人だけど、悪くないスタートを切れました!
スタッフ
一人ですか? たしかご提出なさった名簿にはもう一人の社員の方の名前がありましたよね。確か……
フェルネ
マーティン・バーン、父の名前です。去年に亡くなりました。
スタッフ
すみません……
フェルネ
お構いなく。父のことがなければ、あたしも自分の旅行会社を起業する決心がつきませんでしたから。
一緒に旅することはもう叶いませんが、少なくとも名義上、バーンはいつまでも我が社の大切な一員です。
スタッフ
きっとお父上もお喜びになるでしょう。そういえば、開業後、最初に打ち出すツアープランはもうお決まりでしょうか? いくつかの人気観光地をおすすめできますが。
フェルネ
うーん……まだ誰も行ったことがないような場所ってありますか?
フェルネ
大体の同業者からは、立ち入り禁止エリアへの旅行なんて、うちの売り文句にしか思われてません。どれだけ不思議な景色を見届けて不可能なことを成し遂げたかは、あたしとお客さんしか知らない。
「プロペラパラダイス」は、この旅の目的地なんです。あたしは一足早く未来の光景が見たいし、お客さんは自分でもはっきりとしないロマンを叶えたがっている。
ナスティ主任、あたし本当にわざとライン生命と敵対するつもりはなかったんです……お客さんの状況がよくなくて、同じくバンシーであるあなたから手がかりを得るしか方法がなくて、あたし――
ナスティ
謝る必要はない、フェルネさん。私は君の罪を非難しに来たわけではなく、君と君のお客さんがどこから来たのかを知りたいだけだ。
今後君が自伝を出版するなら、拝読させてもらうつもりだ。だが今は時間が限られている。
フェルネ
公聴会の心配をしてるんですか? 安心してください、開始時間はずっと調整中でまだ決まってません。たぶんパークの調査が終わってないんです。
ナスティ
裁判の時は、君が思うよりも早く来るだろう。
できる限り簡潔に、あのバンシーの客人の状況を教えてほしい。どこで知り合ったのか、なぜここに来たのか、そして……彼女の体調はどうなのか。
フェルネ
知り合ったのは確か二ヶ月前、ボーンヤードで……
フェルネ
ふぅ……夜は寒いなぁ、砂も黒っぽいし、父さんが言っていたのと全然違うじゃん……
ボーンヤードの周りも別に噂ほど怖くはないし。骨をむき出しにする砂嵐とか、未練を残して死んだ幽霊の嘶きとか言うけど、あたしは全然ピンピンしてるじゃない?
待って、丘の上のあの影は何? まさか本当に幽霊だとか言わないよね……
弱ったバンシー
ここが……クルビア?
「道を示せ」。
み……ごほっ……道を示せ……
フェルネ
あの! 大丈夫ですか?
脈も呼吸も異常なし。脱水ではなさそうかな? ああもう、試してみるしかない。
弱ったバンシー
私は今……河谷に?
だめ……まだあの子に会えていないの、まだ私のことを哀悼しないで、私はまだ止まり木で休むわけには……
フェルネ
大丈夫です、落ち着いてください。自分の名前は覚えていますか?
弱ったバンシー
いけない……
フェルネ
どこに行きたいんですか?
弱ったバンシー
私は……
フェルネ
あなたは今、クルビアのボーンヤードにいるんです。なぜここに来たか、覚えていますか?
弱ったバンシー
ボーンヤード……?
だめ……あの子はここにいない……
フェルネ
何かを探しに行きたいのですか? それならお手伝いできるかもしれません。うちのツアーに参加すればどんな不可能に思える願いも叶えられますよ。安心安全適正価格、信頼のツアーです。
うちの父さんが、まだ実現してないってことは、そこにまだ希望があるってことだって言っていました。他にも……あの? 大丈夫ですか!
弱ったバンシー
……
フェルネ
あっ、気を失っちゃった。頭に羽角がある……このバンシーさん、いったい何を探してたんだろう。どうしてボーンヤードなんかで迷子に?
あれ? なんで宙に浮かんでる記号があるんだろう。どこかの地方の言葉かな? 文字っぽいのと、薄い葉っぱのついた金色の紋様……これはこの人のアーツ?
葉っぱの先が動いている……指しているのはD.C.の方向?
フェルネ
で、そのあとバンシーさんの記憶はますます曖昧になっていって、あたしにはいったいどこが悪いのかもわからないから、とりあえず手当たり次第にやってみようと思ったの。
ナスティ
時の流れは止められないからな。
フェルネ
バンシーさんの状況は歳のせいだってことですか? でも記憶が……
ナスティ
記憶の忘却という症状は河谷でも見たことがある。現れる際には常に死を伴っていた。
すでに忘却が始まったバンシーがここに現れたのなら、おそらく……
頭に残る最後の執念が、意識のすべてを占めたのだろう。
フェルネ
待ってください、それって……
ナスティ
君が叶えようとしているのは、彼女が亡くなる前の人生最後の願いだ。
フェルネ
……
あの人が遠路はるばるクルビアにまでやってきて、砂嵐が吹き荒れるボーンヤードを身ひとつで通ってまでやろうとしたのは、人生最後の願いを叶えること?
彼女はいったい何を探しているんでしょうか? 過去の古い持ち物か、出来事の真相か、それともとても気にかけている相手とか?
ナスティ
……
フェルネ
わかりました……
今、パーク中の警備員があなたを探しています。ライン生命はパークにいる全員に説明をしなければなりません。
延期になっている公聴会は、あなたにとって重要なはずです。それなのに、数回しか会ったことがないガイドを探して、そのガイドのお客さんの状況を尋ねている……
それって、あなたがあの人の探している相手を知っているか、あるいは――
ナスティ主任、あの人があんなに苦労してクルビアにやってきたのは……あなたのためですか?
ナスティ
母の面倒を見てくれたことに感謝する、ミス・フェルネ。
フェルネ
やっぱり! あのバンシーさんはきっとまだパーク内にいます。ナスティ主任、きっとまだ会えますよ! あたしも一緒に探します!
ナスティ
残念ながら、その時間はないようだ。
???
ナスティ主任、こちらにいらしたのですね。我々と共に来てください。
フェルネ
あと数分だけください、警備員さん……違う、この制服――ゴードン長官の所の人間じゃない。
ナスティ
マイレンダー所属の応急対策管理監督協会か? 新制服も変わらない旧仕様だな。
協会メンバー
昨晩の規定違反装置が浮上した事件に関して、監督協会はパーク内で詳細な調査を行いました。ナスティ主任、我々と共に調査結果の確認をお願いします。
もし異論がおありのようでしたら、事前に話し合いましょう。公聴会で不必要な誤解が生じて各方面の時間を無駄にしないためにも。
フェルネ
調査が終わっているって……それなら、なんで公聴会がまだ始まらないんですか? 私たち、もう七時間待っているんだけど!
ナスティ
公聴会は延期となったが、裁判はもう始まっているということだ。
フェルネ
……
科学顧問
……
ゴードン
……
ギュスターヴ
科学者が口下手なのはいいとして、君までだんまりか?
ゴードン
あの時、俺が昇進候補名簿に選ばれた翌日、あんたは本部から同じ階級の奴を呼び寄せた。
そいつは若くて、優秀で……全候補者の余裕が吹っ飛んだ。俺たちは我先にとあんたに、自分こそが一番適任なんだと証明し始めた。
今の状況と似てるよな?
ギュスターヴ
あの時、最後に昇進のチャンスをつかみ取ったのは君だった。
ゴードン
元から俺だと決まっていた!
ギュスターヴ
「決まっていた」ものなどないのだ、坊や。
パークの総責任者がそれほど重要なポジションだとでも思っているのかね? いいや、人々は開会式生放送で演説を行う人間のことしか覚えていないのだよ。
その者が、絶対に君であるという保証はどこにあるのかな?
ゴードン
……
ゴードンはギュスターヴの背後に立つクランタをじっと見つめる。サヴラの尾にある短い棘がすべて立ち上がり、己を誇示するかのように閉じ開きしている。彼は警戒しているのだ。
ギュスターヴが故意に自分の競争心を煽ろうとしているのはわかっている。しかし職場における長年の習慣から、彼は己の競争相手を挑発するのを抑えられなかった。
管理局を出るために、彼は本来自分のものではない仕事も引き受けて、あちこちコネを作り、かつて自身を苛んだギュスターヴにまで頭を下げたのだ。
絶対ここで止まってはいけない。
ゴードン
顧問さんよ、博識なあんたのご意見では、ライン生命の装置は一体何なんだ?
科学顧問
うむ、おそらく浮遊プランターユニットの発展形でしょう。
ゴードン
ふん、そんな言い訳がまかり通ると――
科学顧問
いえ、浮遊プランターユニットは空中の電気ケーブルである以上、軽くて移動しやすくしてこそ、想定した使用法に適うはずです。
あと先ほど見えたのは確か……木の内部にある起動装置には二重スロットがありましたが、空っぽでしたね?
ゴードン
それは恐らく――
科学顧問
ええ、誰でも予想がつくでしょう、二本の「鍵」が必要なのです。
ゴードン
……
科学顧問
どうやら、ライン生命の二人目の主任が来るまで、樹形装置は本格的に起動することはないようです。いえ、また誰かが人知れずパークに入り込んだのなら別なのですが……
ゴードン
どういう意味だ……
科学顧問
ギュスターヴさん、皆さんは外見やライン生命という開発者から、この装置に対して憶測をめぐらすと思いますが、私はこれがただの飛べる「木」であると思います。
ゴードン
終わりか? 今俺たちが対応している問題は、ライン生命のために論文を書くことじゃねぇんだぞ。
公聴会の延期で多少時間の猶予はできたが、ナスティがなぜ木の存在を隠匿したのか、フェルネがどうやって入り込んできたのか、それに俺のちょっとした商売……全部合理的な説明が必要なんだ。
ギュスターヴ
よせ。焦るのはつまり恐れているということだ。懸念点が多いほど君の無能が露呈する。
顧問君はすでに答えを提示しているだろう。
ゴードン
なんだって?
ギュスターヴ
ライン生命の装置のリスクは低いが、一方でその性質上人々の憶測を掻き立てる代物である。つまり、その定義については、こちらの一存でどうとでもなるということだ。
ゴードン
!
長官、俺は何をすればいいんだ?
ギュスターヴ
いい子でいなさい。
私の言うことを聞いていればそれでいい。
企業代表
ちっ、後ろ、押すなよ!
アスペン
と、通してくれ、カウンターのスタッフにちょっと質問がしたいんだ……
企業代表
あいつらも公聴会がいつまで延期なのかわからないそうだ。無駄なことはよせ。
アスペン
自分が自発的に調査に参加する必要があるか知りたいだけで……
企業代表
あのな、俺たちだって焦ってはいるんだ。だが事故の元凶か関係者じゃない限り、誰も公聴会を推し進められないぞ。
アスペン
それは……
企業代表
その焦りっぷり、あんたも「天空ローン」を借りてここに来たんだろ?
アスペン
ああ……うちの故郷では、俺みたいな雑貨商人は六人もいるんだ。毎日やることもなくて、タンブルウィードの転がる方向を賭けのダシにして酒を飲んでばっかりだった。二年前までは……
空に、星のさやに、源石に悩まされない生活、それからクルビアの真っ新な開拓区……テレビや新聞に載っているのは理解できないものばかりだったが、あの夜俺は確かにあの光を見たんだ。
俺はすぐに店を売って、妻から離れ、高利貸しから莫大な金を借りて、「プロペラパラダイス」に踏み込んだ。それ以来一度も帰ってない。
企業代表
はあ、今日は半日ほど登録センターにいたが、それに似た話はもう耳にタコができるくらい聞いたよ。横断幕をもらって街にデモしに行きなって。ここで暗い顔しててもしかたないだろ。
アスペンは手にした抗議用横断幕を見下ろした。布地は銀色で、飛行装置によく使われる反射材料だ。
「ラッキーシスティビースト」もこの材料の家具を多用しているが、流行る理由がアスペンにはいまいちわからなかった。ソファの前を通る度にクッションが彼の顔を映し出し、何とも滑稽だった。
しかし、銀色の布地が放つ光が視界にちらつくたびに、彼は心から歓喜を覚えるのだった。まるで未来が本当に彼の手の中にあって、彼こそがまさに幸運の申し子であるかのように。
アスペン
俺にはできる……きっと公聴会をやり過ごせる……
たとえ裁判にかけられて監獄にぶち込まれても展示品と「ラッキーシスティビースト」の名前を、この「プロペラパラダイス」に、誰もが見える場所に、俺が残してやる。
絶対にいい結果が手に入るはずだ。「ラッキーシスティビースト」は俺に幸運をもたらしてくれるはずだ!
マーシア
これまで先輩が遅刻したことは一度もありません……デモの者たちに道を遮られたのか、それとも道に迷ったのでしょうか?
???
「プロペラパラダイス」の上下構造は確かに複雑ですが、パーク全体をランクウッドの巨大なスタジオだと思えば、理解するのは難しくありません。
マーシア
そういえば先輩はランクウッドの大作の撮影に参加されていましたね。今でも、あの開拓時代を描いた名作に映るブリキの体は映像合成技術によるものだと思っている方もいらっしゃいます。
ブリキ
相変わらず良い記憶力ですね、マーシア。
浮遊層の行き来に使われている方法はとても興味深いものでした。柔軟性のあるワイヤーに、球形のカプセル船の組み合わせは、さながらアミューズメントパークの新型遊具のようですね。
ご老体方が騒ぐので根負けして、何周かしてしまったせいで、時間を無駄にしてしまいましたよ。
マーシア
申し訳ありません、お三方へのご挨拶が遅れております。
ブリキ
そう気負わずに。うちの若い者たちは動きが目立ちがちですから、あなたのように落ち着いた方でないと、秘書のふりはできません。それにしても、几帳面さに磨きがかかっていませんか?
ゴードン長官は手強かったでしょう?
マーシア
非常に癖がある方でしたから、わかりやすくもありました。
ブリキ
苦労を掛けましたね、マーシア。
先日の行動タイミングはとてもよかったですよ。いち小隊を率いただけでエキスポ前に重大リスクを二つも排除できたことは、必ず今年の人事査定報告に記入しておきます。
マーシア
お褒めにあずかり光栄です。
ブリキ
目下のところパーク内の総務部門とエンジニア部門、双方ともに業務が停滞しており、我々マイレンダーの動く余地は十分に用意されています。
ギュスターヴが我々と協力したいという意図は明らかですね。すでに人を遣ってライン生命の装置についての対処をし始めています。例の配下については、どうやら彼自ら指導するつもりのようです。
マーシア
でしたら……あとは人々を落ち着かせるための公聴会を待つだけですよね?
ブリキ
あなたも公聴会の開始時間について疑問に思っているのですね?
マーシア
はい。いたずらに時間を引き延ばすのはマイレンダーらしくないように思います……
ブリキ
はは、いつからそれほど心配性になったのです? 物事にはゆっくりと対処する必要があります。調査だけが我々の唯一の責務というわけではありませんからね。
ふぅ、ここは実に美しい未来都市です。クルビアを離れてたったの数ヶ月間で、これほどの新しいものが生まれるとは、なんとも。
浮遊層の周囲を一周するにはどれくらいかかります?
マーシア
ロープウェイに乗るのでしたら、一時間もいりません。
ブリキ
いいでしょう。ならば公聴会が始まるまでに、この「プロペラパラダイス」を改めてじっくり見学させてもらいましょうか。