テストフライトデー

フェルネ
輸送口までまだ? パークの地図を見る限り、そろそろ建築材料安全検査のセキュリティゲートが見えてくるはずなんだけど……
オークリー
ま、まだ進むのか? なんでここは誰一人いないんだよ、静かすぎるぞ……
ゴードン
あたりまえだ。俺ら以外の四人目が出てきたら、こっちの動きがバレたってことになるだろうが。シャキッとしやがれ!
オークリー
ひっ!
あ、赤い液体だ……天井から血が滴ってるんだ、俺の顔に落ちてきたぞ!
ゴードン
パイプの錆が入った水だよ……いい加減にしねぇとその口縫うぞ。
フェルネ
えっと、長官さんさ、さっき言ったよね。四人目が現れたら、あたしたちがバレちゃったってことになるって……?
フェルネが示す方向を向くと、全員がその「四人目」の存在をはっきりと見た。
隠し通路の先にぼんやりとした人影がある。チカチカする照明に照らされてまるで幽霊か何かのように見えるそれが、ゆっくりとこちらに歩いて来る。
フェルネ
うーん、なんかどこかで見たような人だね?
オークリー
ひっ、ひぇっ……
ゴードン
先に進むぞ。ライン生命実験エリアに対する俺の管理権限と調査権限はこれ以上ないほど正当なものだ。誰だろうと関係ねぇ――
???
そうか?
ゴードン
……
ナスティ?
状況の説明をしてくれ。
ゴードン
ナスティ、ライン生命の実験エリアは元から調査を受けているところだ。あんたは行政職員とパークの警備員に全面協力することに同意しただろう。
ナスティ?
当事者が全く事情を知らない調査に対して、どう協力しろと?
それに、解説員も「総務職員」の括りなのか? それは初耳だな。
ゴードン
あの実験事故の前後に、この解説員はライン生命を訪問した。証拠収集にこいつを連れてくるのは何もおかしくねぇだろうが。
事前告知がないのは、調査結果の信頼度を保障するためだ。俺にはこの判断を下す権限がある……
出発前、ゴードンはすべてのリスクを考えた。何ならギュスターヴに尋問される場合の予行演習だってした。
マーシアが頼りにならないことも理解しており、場面を掌握する自信もある。しかし今、彼の背後の太く重い尾が無意識に地面を叩いている。まるである種の制御できない脅威を感じ取ったように。
目の前のナスティは、何らかの策を思いついたかのように彼をじっと見つめている。不気味さと不安で、彼はズボンのポケットに突っ込んだ左手をぎゅっと握りしめた。
ナスティ?
……
(はぁ、ただ水の分身を盆栽に潜ませて、ナスティに監視カメラの代わりを提供してあげただけなのに。パークの長官がこんなに誤魔化しが効きにくい相手だなんて聞いてないよ。)
(このまま一晩中論争をし続けるなんて……考えただけで無理! やっぱりあたしなりのやり方にしよう。)
こほん!
通路に入ってから耳元で響いていた水滴の音が一瞬で消え、透明な雫が物理法則から逸脱して空中に停滞する。
冷たい触感がゴードン一同の足元から伝わってきた。この時になってようやく、彼らは通路内に溜まった水の高さがいつの間にか足の甲を超えていることに気がついた。
フェルネ
ちょ、長官、上見て! あ……あれ、本当にナスティ主任なの?
ゴードンは目の前の光景が信じられなかった。無数の水流が「ナスティ」の体に注ぎ込まれ、その中で彼女は空中へと昇っていき、屁理屈をこねる三人の侵入者を見下ろす。
ゴードンはこれまでアーツユニットで近しい効果を持つものを見たことがない。もしバンシー独自の巫術なら、確かに警戒すべきものだ。しかし、よりゴードンを恐怖させるのは……
「ナスティ」が突然すすっと彼の目の前にやってきて、その名の持ち主とは似ても似つかない可愛らしい表情を見せた。
ナスティ?
ほんと、この大地の上には新しいものはないわね。そういうもっともらしい弁解は、他所で耳にタコができるくらい聞いたわ。
そんなことより、その大きな二つの箱に何が入っているのかを教えてくれない? まさかこっそりライン生命に渡すためのプレゼントが入ってるとか言わないわよね? クリスマスはまだまだ先よ。
ゴードン
お……あんたは一体誰だ?
ナスティ?
あたし? もちろん数時間前に、君たちに心血注いだ生態研究園の研究成果を破壊されたエンジニア課主任のナスティよ~。
ゴードン
あいつは絶対にこんな……いたずらっぽい元気な口調で話したりしねぇ。それに、なんでずっと敬礼しているんだ? アーツを使うためのハンドサインか?
ナスティ?
あらら、気付かれちゃった。
ゴードン
はっ、俺を騙そうなんて思わねぇことだ。あんたのアーツがどこまでできるかはわからねぇが、ここはライン生命の地下通路だぜ。どんなことになってもあんたら自身が責任を取る羽目になる。
エキスポに出すための実験成果を失うだけでは物足りず、手下もろとも監獄入りしたいってか?
ナスティ?
ゴードン長官、一つ注意してあげるわ。
君の言う通り、ここはライン生命の地下通路よ。それに君本人の命令で封鎖されている。
だけど賭けてもいいわ、今晩の「調査」はきっと部下には共有してないはずよ。
なら、もし君がここで死んだとして、いったいどれくらいの人がそれに気づくのかしら?
ゴードン
貴様!
ちっ、とりあえず逃げろ!
ナスティ
……
「プロペラパラダイス」の夜の街並みを、ナスティは少しぼんやりしながら歩いている。
このサイエンスパークはライン生命の一枚の計画書から生まれ、核となる構造はナスティが自らの手で作り上げた。しかし今この場所を飾りつけている多種多様な発明のいずれも見覚えがない。
いつの間にか道端に現れた充気式街灯の点し方でさえ、彼女が立ち止まってしばし考えなければわからないほどだった。
ナスティは理由もなく思う。自分はいつも、自分にとって馴染みのない生活へと踏み入れていると。
ナスティ
まるでライン生命に来たばかりの頃のようだな。
ミュルジスが洗面台から飛び出してきて、私の無知をからかいながら、無菌ラボの清掃手順を手ほどきしてくれた。
ナスティが足を止めた。またもやツヤのない破片がレンガの狭間に横たわっていた。間違いなく、ここまで彼女を誘導した骨筆の一部だ。
彼女は骨筆の欠片を拾い上げた。昔の彼女も、こうして何かを拾い上げたことがあった。人生で初めて新しい生活に踏み入れた時のことだった。
幼いナスティが河谷の林の間をくぐり抜け、自分の体よりも大きな袋を引きずりながら、道中折れた枝を拾い上げてはその中に突っ込んだ。
ヴァエラは忙しい。河谷に戻って半月、ほとんど毎日若いバンシーが訪ねてきては、実に様々な問題の解決方法を求める。
バンシーたちが寝静まり、河谷のどこにも人影が見当たらなくなった頃、ヴァエラはようやくナスティの手を引いて、この美しい場所を案内する時間ができるのだ……
ついに、幼いナスティは自力でツリーハウスを建てることにした。しかし、袋いっぱいの枝はやはり重すぎて、彼女はヴァエラの迎えを待つしかなかった。
若いバンシーA
親愛なるヴァエラ。雨季が去って久しいし、そろそろ河谷でも、もう一度船漕ぎ競争があってもいいんじゃないかしら? いつ……
ヴァエラ
霧の湖の、東の畔の泥を片づけ終わったらにしましょう。
だけど、今度は船に「回転」の呪文を施してはいけないわ。わかりましたか?
若いバンシーB
ヴァエラ先生! ムシンカの蔦が部屋の中に潜り込んできた。切っちゃっていい?
ヴァエラ
いい子だから、切ってはいけないわ。ムシンカのわたほど私たちの角を拭くのに適したものはないのだから……それか、蔦の成長方向を「誘導」してみたらどう?
ちょうど、前に教えてあげた呪文を使えるはず。練習の成果を見せてもらいましょう。
若いバンシーC
この家のことならなんでもわかるヴァエラ管理人、外からの「印」が最後に届いたのはいつ? ずっと来てない気がする。
ヴァエラ
今月は五個か六個くらいしか届いていないもの。以前カズデルを訪れて、例の土石の子に止まり木の治療を頼んだ時に、ついでに全部終わらせたから。
若いバンシーC
そんなに少ないの?
ヴァエラ
その方がいいでしょう?
若いバンシーC
ヴァエラさんが挽歌を教えてくれたのはもう半年も前のことよ……私は今まで、まだ一度も誰かのために歌ってあげたことがないの。次は私に行かせてほしい。同胞たちのために……
ラケラマリン
そこまでにせよ。ヴァエラに暫しの休息を与えるのだ。
ヴァエラ
平気よ。どれも私のすべきことだから。
ラケラマリン
子らがそなたを「先生」や「管理人」と呼ぶのを聞いたであろう。妾がつけた肩書ではないぞ。
この二百年間に、そなたが河谷のために成した数々は、「バンシーの主」と呼ばれる妾をして及ばぬと忸怩たる思いを抱くものだ。
ヴァエラ
あなたも知らないわけではないでしょう。できるだけ多くを成すことによって、私はようやく……多少の安らぎを覚えられるの。
あなたの方こそ、殿下に謁見した時に、また難癖をつけられたのではない? 我々が河谷に隠居して以来、ドゥカレはバンシーにいい顔を見せたことがないもの。
ラケラマリン
あやつは元から誰にも良い顔をせぬ。ただ、殿下は……
殿下は妾に、源石の本質の探究におけるほんのわずかな成果をお示しになられた。あるいは、すでにより苛烈な道へと進んでいるのかもしれぬ。
ヴァエラ
……では私たちは? 河谷はどうするの?
ラケラマリン
たとえ殿下が真に考えを改めたとしても、河谷はもはやサルカズの未来に関わりはせぬ。
変わらずバンシーを護る居場所となろう。
先日、子供を連れて戻ってきたばかりであろう?
ヴァエラ
ええ。外を放浪する同胞が残した子……五年前に見つけるべきだった。
ラケラマリン
ここ数日、アエファニルは妾に、いつになればあのお姉さんを訪ねていいのかと聞いてくるのだ……変わらず河谷の外のすべてに好奇心を抱いている。
ヴァエラ
まあ、あの子は……
アエファニルに伝えてちょうだい。ナスティは河谷に来たばかりだから、まだ臆病で警戒心が強くて、ここに慣れていないの……
ナスティ
うそつき。私、全然臆病じゃないよ。知ってるでしょ。
ヴァエラ
ええ。だけど、あなたはこれから他のバンシーたちと、すごく長い時間を過ごしていくの。
彼女たちは石を投げつけてはこないし、果実を分け与えてくれる。これまでのカズデルの同胞たちとの付き合いとは、全く違うのよ。
だからあなたたちの初めての顔合わせが、できるだけきちんとしたものであってほしいの。私が準備を整えるまで、待ってくれる?
ナスティ
わかった。
だけどヴァエラ、何を準備するの? さっき言っていた、「外からの『印』」と関係あるの?
部屋にあるあの山ほど積もった物のこと? 黒っぽい血の結晶や汚い打ち覆い、干からびた心臓のこと?
なんで今月は五個か六個くらいしか届いていませんって言ったの?
毎晩遅くまで、届いたものを積んだ小山を眺めて、怖い顔して、眉もぎゅーってなってるのに――
ヴァエラ
……ナスティ。
この河谷は好き?
ナスティ
もちろん。
ここの泥には血がにじんでないし、部屋には黒い石がないし、喧嘩する必要もなければ食料も足りてるし、誰も邪魔してこないし……
ヴァエラ
あなたはここで暮らしていきたい?
ナスティ
うん。だから早くツリーハウスを建てないと。
ヴァエラ
どこに建てるかは、もう決めた?
ナスティ
河谷の奥に大きくて、きれいな木があるでしょ? たしかみんなが……「止まり木」って呼んでるやつ?
ヴァエラ
ええ。あれはバンシーが最期に還る場所よ。
ナスティ
みんなそっちに住んでるんでしょ? まだ連れて行ってもらえてないけど……
私もあそこに近いのがいいな。いい?
いつ呪文を教えてくれるの? そうしたら、この袋いっぱいの枝を操って自分で行けるよ。
ヴァエラ
それは急がなくていいの。
ナスティ
じゃあいつ骨笛の吹き方を教えてくれるの? そうしたら、みんなと一緒に遊ぶ時に吹いてあげられるようになる。
ヴァエラの部屋から一本取ってきたんだけど、吹いても音が出なくて。
ヴァエラ
ナスティ、急がなくていいのよ。
ナスティはふと、側にいるやつれたバンシーのことがよくわからなくなった。彼女が羽角を拭く時にいつもどちら側から始めるのか、見分けづらい黒い衣装を何着持っているかもよく知っているのに。
唯一彼女の考えだけが、全くわからない。
ナスティはそれ以上ヴァエラに何かを訊きはしなかった。ただ強情にも骨笛に口をつけ、何度もくぐもった空気音を鳴らした。
ついに、笛から流れ出したのどかな旋律が彼女の絞り出した声を覆い隠すまで。
ヴァエラ
みんなと遊ぶ時に、笛を吹いてあげたいのでしょう?
笑顔のための伴奏なら、骨笛を使うこともないわ。
さあ、おいで。教えてあげましょう。
ただの葉っぱなのに、どうして音が出せるのか、それもなぜこれほど悲し気な音なのか、ナスティには全く理解できなかった。空は青く、霧の湖の水は流れ、何もかもがこんなに美しいというのに。
ナスティはヴァエラの視線を追い河谷の奥深くへと目を向けた。止まり木の枝先が見え隠れしている。それはあまりにも遠くにあり、揺らめいている姿が葦にも、運命にも似ていた。
エージェント
ナスティがライン生命実験エリアに残っていて、しかもゴードンを殺す気だって?
マーシアさん、私の後ろにいてくれ。
マーシア
本当にバンシーと戦うのなら、私はゴードン長官よりもずっと早く逃げ出していますよ。
ですが、先ほど現れた「ナスティ」は、ただの盆栽です。
エージェント
盆栽? 水の分身か?
ミュルジスがここに?
マーシア
恐らく水の精霊のアーツを付着させた小道具でしょう。こけおどしで、実際に何かをすることはできないはずです。
ナスティが人に与える印象とミュルジスの自由な発想、そしてライン生命の持つ地の利を生かした結果は……常人の想像の及ばないものでしたね。あの方たちが慄いて逃げ出すのも無理はありません。
エージェント
ゴードン長官と一緒に撤退するか?
マーシア
いいえ。地面にある水流の痕跡を辿って奥の探索をします。
エージェント
マーシアさん、建設図面通りなら、もう少し進むとこの先は行き止まりのはずだ。
地面には水の痕以外、何もない。ミュルジスの例の小道具は、本当にただのハッタリかもしれない。
マーシア
ナスティさんは、エンジニアリング分野の天才。図面で「空間を隠す」ことは彼女にとって造作もないはずです。それに水の分身の存在自体がここに何らかの秘密がある可能性を示唆しています。
実はずっと考えていたのです。もしもライン生命の主任二人がプロジェクトに関わっていたのなら、なぜナスティさんが一人でここの運営をしているのでしょう?
エージェント
確かに。生態研究園なら、普通に考えればミュルジスの専門分野のはず。
マーシア
そう、本当ならミュルジスがいないわけがないのです。本質的にナスティにしか仕上げられないものでもない限りは。
エージェント
マーシアさん、それって……
マーシア
もしあなたの盆栽が急に枯れ死んでしまったのなら――ごめんなさい、ただの仮定です――その場合、最初の反応が何度も腕時計で時間を確認することなど、ありえるでしょうか?
エージェント
まさか。死んだ時間なんかより、きっと死んだ原因の方を気にするだろう。
マーシア
だけど生態研究園で事故が発生した時、ナスティさんの側にいた一番古株の研究員たちは真っ先に時間を確認しました。
まるで盛大な枯死と付随する腐敗について、とうに予想していたかのように。
「事故」というのが、本当は枯死が予定と異なる時間に起きたことを指しているとしたら?
エージェント
つまりライン生命が申告したプロジェクトの内容――星の庭のデータに基づく高高度条件下の長期生存可能な植物品種の育成、というのは……
マーシア
ただのブラフでしょう。
マイレンダーは、ライン生命の本当の秘密にたどり着いたように思います。
ライン生命が真に必要としているのは、きっと生態研究園の植物たちの生存ではなく、それらが死ぬこと。
一人の精霊が望んだように生きることではなく、一人のバンシーに馴染みのある死を迎えること。
エージェント
何のために?
マーシア
その死をもって――
マーシア
より特別な「木」を「灌漑する」ためです。
ナスティ
……
ヴァエラ
……
年老いたバンシーが道の果てに落ちる影の中に立っている。彼女は長い間、待っていた。夜は彼女が歩んできた三百余りの歳月よりも長かった。
ついに、彼女は見慣れた姿が少しずつ近寄ってくるのを見た……
別れた時よりもずっと背が高くなり、体格もよくなった……
目元がかなり変わって……服はよくわからない様式のものになった……
あまり似なくなった。
ヴァエラは、ふと頭が痛くなった気がした。混乱した記憶はまるで真冬の霧の湖のようだ。冷たく重たい霧が一瞬にして彼女を飲み込む。
ヴァエラ
ナ……
ナスティ
(サルカズ語)分離せよ。
(サルカズ語)導け。
ナスティは骨筆の破片を手のひらに置き、バンシー独自の言語を小さな声で唱えた。
呪文は骨筆からナスティ以外の、しかし彼女がどこか見知った気配を分離し、その源を示す。
風が吹いていないのに、骨筆が震え出した……すべての答えがもうすぐ示される。
しかし、ちょうどその時に――
ナスティ?
ナ……ティ、気をつ……
ナスティ
そちらはどうなっている?
ナスティ?
ま……他に人……
ナスティ
……
ゴードン
ふう……はあ……
フェルネ
ちょ、長官……も、もう止まろう……
道に迷った気がするんだけど……
ゴードン
俺もそんな気がするぜ。ライン生命実験エリアの地下空間がこんなに広いとは、もう規定違反だろ……
普通に考えりゃ、研究してるやつらが自分たちの実験エリアん中にこんなデカい空き地を隠しているのは……なんかでけぇ計画があるのか、それともその計画がすでにご破算になったかのどちらかだ。
オークリー
ちょ、長官、なんか足元で……
フェルネ
地面が割れ始めてる気が……
ゴードン
……こいつはどうやら、でけぇ計画がある方だな。
オークリー
だ、誰か助けて……
フェルネ
ひっ……入ってきた時の扉、いつ閉まったの?
ゴードン
頼むぜナスティ、巨大ミサイルだけはやめてくれよな?
瞬く間に、地面が割れ始める。ゴードンはそれが分厚いコンクリートではなくクラッカービスケットであると信じたかった。
彼は尻尾を柱に引っ掛けることや、手で壁にとりつくことを試みたが、結局彼が触れたのは微かに光を放つ……一本の木の枝だった。
ゴードンの身体の真下で、朽ちた木と金属で作られた樹冠が暗闇の中で枝を広げる。
微かな光を纏う巨木が音もなく夜空に昇り、星々が地上から空に湧いていくようだ。
ゴードン
こいつ……
プロペラはあるのか? 推進装置は?
いや、いやいや……エンジンの稼働音すらしねぇんだ……飛ぶなんて、ありえねぇだろ?
ナスティ、ライン生命……*クルビア感嘆詞*!
ちくしょう、警備員をこんなに仕事熱心になるように教えるんじゃなかった。夜中に何かが空に飛んだ程度で、照らしてみなけりゃ気が済まねぇのか?
フェルネ
長官、私たち、これって……バレてるかな?
ゴードン
パーク中のまだ寝てねぇ奴らが全員、俺らが箱二つ分の禁制品を抱えて木に引っかかってるのを見たんだ。まぁバレてんな。
俺が下に向かってついさっきライン生命の危険な実験による代物を捜査で見つけたって叫んだら、何とかなりそうか?
……いや、ダメだ。*クルビアスラング*こいつがどうやって飛んでいるかはっきりするまで、ぶっ壊されてたまるか。
こいつは、おしまいだな。
エージェント
な、何があったんだ?
マーシア
どうやら私たち部外者の介入が、予想外の出来事を引き起こしたようです……
でもこれで、パークに秘密はなくなりました。
スカイ
ナスティ主任、これって、もう一つの奇跡でしょうか、それとも……
奇跡の早逝、でしょうか?
ナスティ
余計な話はいらない、私のいる場所からも見えている。
……すぐ戻る。
ヴァエラ
ナ……
年老いたバンシーはほんの一秒戸惑い、その戸惑いのせいで名前を声に出す機会を逃した。
ヴァエラは若いバンシーが走り去るのを見つめて、彼女が消えゆく方向へと視線を向けた。視線の果てには、ゆっくりと天に昇る、微かな光を纏う巨木だ。
木の根はどうやらさほど頑丈ではなさそうで、夜空の中で風に揺れている。あまりにも遠すぎたせいで、まるで揺らめく葦のようで、運命のようだった。
ヴァエラ
空にあるのは……止まり木……?