大頭鬼
寧ろ数子を譲るとも……一先を失うこと勿れ……
一手の過ちで……全てに負ける!
全てに負ける……
全てに……
ウァン
……やはり、いつかはやってくるのか。
お前が後をつけ始めてから随分と経つが、まだ姿を現さないつもりか?
ウァンが振り返る。愚痴とも泣き言ともつかぬ声は少しも止むことなく、ただゆっくりと彼の耳元から遠ざかっていった。
ウァン
ふっ。
お前にどれほどのことができるのか、見せてもらおう。
不気味な声に導かれるままに、ウァンは荒れ果てた碁打ちの露店の前へやってきた。
店主らしき男が地べたにあぐらをかいて、すすり泣いている。周囲にはこの男の他に誰もいない。
奇妙な男
一手の過ちで……全てに負ける……
全てに負けるのだ!
ウァンが盤上の局面を確かめる間もなく、男は碁盤に突っ伏し号泣し始める。その拍子に多くの碁石が地面に落ちた。
ウァン
……茶番だな。
ウァンが背を向けて立ち去ろうとした時、背後の男の泣き声も勢いを失った。
奇妙な男
お客人、お客人、行かないでくれ。碁盤は並べ直すから……
この一局で俺は田畑も財産も失い、家族も散り散りになり、中には命を落とした者までいる……俺自身も重病を患い、もはや長くはない……
一局、たった一局の碁で、我が家は崩壊したんだ……
どうしてもやり切れぬ。思い切れぬ。お客人、どうか見てくれないか。もしこの局面を破る手が分かれば……
……まだ運命を変えられるかもしれない!
先ほどまで嗚咽混じりだった男の声が不意に甲高く響いた。ウァンが動かぬのを見て、男は地面から一つ一つ碁石を拾い上げると、素早く盤上に並べていく。
布石をし、探り合い、攻め合い、捨て石をし、コウを争い、交換をし……
男の手は極めて素早く動き、盤面もまるで生きているかのようにぐんぐんと進んでいく。激しい戦況は隅から中央へ、さらに空いていた別の隅へと跳ね回っていく。目も眩むほどに……
ウァンが反応する間もなく、男は黒石を一つ彼の手に握らせた。
奇妙な男
お客人、あんたの番だ。
ウァン
……どう打てと。
奇妙な男
そうとも、どう打つべきだ?
黒と白が交互に打つはずなのに、黒石があんたの手に渡った途端、盤上から黒石が一つも見えなくなってしまった。これでどう打てばいいのだろうな?
ウァン
……でたらめな。失礼する。
奇妙な男
この程度の道理、お客人は理解できていなければおかしい。
碁盤の深みに底はなく、盤上の白石一つ一つが山岳の如く巨大だ。だが俺が身の程知らずにも並べたこの黒石などは……ハッ、ただの碁石に過ぎない。
俺たちとこの碁盤とは、山岳が親指ほどの大きさにしか見えないほど遠いんだ。ちっぽけな碁石なぞ、目に映るはずもないだろう?
これまではどうにか耐えて手を進めてきたが、盤面がここに至る頃になると、もはや目は眩み、心は惑い、読みも追いつかなくなる。そして、たった一手の過ちで……
高く響いていた声は再び惨めな泣き声へと沈み込んでいった――
奇妙な男
……全てに負けたんだ!
見ろ、これを! 地の一つ一つに名前を与えていたというのに、どれも守り切れず、活路を失ってしまった!
ここは朔(シュオ)、ここは望(ウァン)、ここは令(リィン)、これは均(ジュン)――
ウァンの手にした直刀が鞘から抜かれ、盤上の白石の一つへと突き立てられる。しかし「カチン」と乾いた音が響き、刀身がしなっただけであった。まるで本当に岩を突いたかのようだ。
奇妙な男
卵で石を撃つようなものさ。無駄だよ……
どれほど悔いても悔い足りない。なぜあの時に、よりによってこの一局に臨んでしまったのか。なぜ……
直刀は向きを変え、男の喉を貫いた。男は地面に崩れ落ちたが、傷口から血が流れる様子はない。それどころか、泣き叫ぶ声は却って大きくなり、もはや何を言っているかすら聞き取れない。
男の瞳には、ウァンにも判別しがたい、恐慌とも、愉快ともつかぬ色が浮かんでいた。ただひたすらウァンの顔を見上げている。
ウァンは無意識に腰元に下げている書刀に手を伸ばしかけたが、結局は止めた。
そしてしばし考え込んだ後、もう片方の手で握っていた黒石を盤上に置いた。
ウァン
……全てに負けるだと? よくも大仰に。
ここに石を置けば、勝敗はせいぜい五分と五分だ。
ウァンが言い終わるやいなや、地面に横たわっていた男の身体が一筋の煙と化し、傍らの碁盤には、見えなかったはずの黒石が現れ始めた。
巡回中の持燭人
ウァンさん!
ウァン
お前は……
巡回中の持燭人
先ほどは司歳台の門前までいらしたのに、なぜか踵を返して去っていかれたので。何やら妙な出来事に巻き込まれたのかと思い、お迎えに上がりました。
ウァン
妙なこと? もう司歳台の耳に入ったのか?
巡回中の持燭人
はい。
ウァン
……それもむべなることか。
先ほどまでここにおかしな者がいて、訳の分からぬ不吉なことを涙ながらに喚いていた。
巡回中の持燭人
その者はどちらに?
ウァン
消えた。奴が並べた碁盤ならまだここにあるがな。
巡回中の持燭人
分かりました。後で同僚に局面を記録させましょう。
それともう一つ。監正様から、ジエさんの写本が済んでいるはずだと伺いました。ウァンさんが代わりに届けに来たものとお見受けしますが、品物は……
ウァン
持っていけ。
巡回中の持燭人
少々お待ちを。確認いたします。
詩集三部、計三十二巻……
小学五部、計六十巻……
術数一部、計五巻……
これは……『急就章』? どうして術数書の中に紛れているのでしょう。
それにしても、ジエさん本当に優れた才をお持ちですね。一篇千四百字、一文字の重複もない文章を、たった一晩で書き上げるとは。
それに、筆致も大変素晴らしい。まさしく稀代の書家と言えるでしょう。
持燭人は書物に向かって絶えず感嘆の声を上げている。ウァンがその視線の先を辿ると――
紙は白いまま、何も記されていなかった。
ウァン
これは……覚えている。確か五百年前、都にいた頃のことだ。
あの時、ジエは初めて歳を滅することができそうな構想を持ちかけてきた。
そしてあの書刀を私に託した。だが私は思い出せないのだ。あの文章に一体何が書かれていたのか、彼女が私に何を伝えようとしていたのか……
はっ。「繰り返し」とは、私を夢に閉じ込め、過去に起きた出来事を何度もなぞらせることか?
ただ見せているだけだ。お前がこの千年に亘り、我を除くという失敗の定められた夢を、どれほど見てきたのかを。
これらの記憶で牢を作り、お前を千万回にも上る敗北の屈辱に溺れさせてやろう。
よく見ておけ……ここに、お前が忘れ去った記憶がどれほど残っているかを。
ジエ
忘れたんですか?
ウァン
すまない。
ジエ
いいえ、大丈夫です。司歳台が何も言わなかったのであれば、きっと私の考えすぎだったのでしょう……
書刀を渡してください。
ジエ
はぁ……どうして兄さんはいつもそうやって他者を遠ざける態度ばかりとるんでしょう。せっかく久しぶりに会えたというのに、少しも嬉しくないんですか?
もしもいつか私たちの内の誰かが突然消えて、二度と会えなくなったりした時、兄さんが後悔しないか見物ですね。
???
私は一生「歳五」と呼ばれ続けるのなんて嫌ですよ。まるで歳の印がまだ残ってるみたいですから。
字を作っている人間が、名前にどうかと一文字考えてくれたんです。兄さん、読んで聞かせてもらえませんか?
まずは文字を書いて、それから読んでみますね。
■■、■
巡回中の持燭人
ウァンさん?
まだ何か……おかしなところでも?
ウァン
もう一つ、思い出した。
……妹は『急就章』は書写を急いだために誤りがあるかもしれないから、私に確認してほしいと言っていたのだ。そのことを忘れていた。
少し時間をくれ。
巡回中の持燭人
構いませんよ。
では、その一冊はひとまず保留しておきましょう。時間も遅いですから、明日またお持ちください。
ウァン
記憶で牢を作るだと?
バカバカしい……思い通りにさせるか。
代理人が客桟(きゃくさん)に着いた時、空はすっかり暗くなっていた。
ウァン
急就の奇觚(こ)は衆と異なり、諸物と名姓の字を羅列するも……
……覚えているはずだったのに。
風が吹き抜けて、頁がめくれ上がる。ウァンの目には、裏表紙に色の異なる一枚の紙が挟まっているようにちらりと映った。
ウァン
ジエはあの時……やはり何かを伝えようとしていたのか……
ウァンは卓上から薄い冊子を取り上げると、無造作に開いた。
本来なら、一頁目にはこれらの文が書かれているはずだった。少なくとも、ウァンが最初に目を走らせた時には、確かに記されていた。
だが今、紙面はすでに異様な墨跡で埋め尽くされていた。
ウァンはほとんど反射的に書刀を取ると、紙面で凶悪な形相をしている「歳」の字に狙いを定めた。
???
一手の過ちで……
ウァン
……!
外にいるのは誰だ?
???
全てに負ける……
窓の外には風がざわめくばかりで、人影はない。
ウァン
まだ我らの悪夢でいるつもりか?
何百年も前の稚拙な手口に、飽きていなかったのか?
???
勢孤なれば和を取れ……
ウァン
我らの間に、元より和局などあり得ない。
???
危に逢えば須く棄つるべし……
ウァン
寝言を。
書刀が最初の「歳」の字を削ぎ落とす。
ウァンは妹の書刀を使ったことがないわけではない。軽く一削ぎするだけで、竹面にも紙面にも傷一つ残らぬまま、誤字は跡形もなく消え去る。
だが今この瞬間、彼は手に抵抗を感じた。まるで巨大な岩を全力で削り取っているかのようだ。
彼はそこまで筋力のない腕に力を込め、刃を押し下げる――
窓の外で不意に雷が轟いた。
最初の歳の字がようやく消え、紙面が束の間空白に染まる。蒙学の教本として分かりやすいようにと、ジエがあえて質朴に、力強く書いた文字が姿を現した。
紙を埋め尽くす「歳」の字の中に、ただ一つだけ紛れていた「急」の字がより一層不気味に見えた。
ウァン
……「急」。
この程度か。
お前にできることなど、せいぜい塗り潰すことだけだ。
???
慎みて軽速たること勿れ……
ウァン
ふん。
書刀が二文字目の「歳」の字に向けられる。ウァンは再び力を込めたが、刃先からは先ほどと比べ物にならないほどの抵抗が伝わってきた。
ウァン
「就」。
外の夜風がふいに不穏な気配を帯びて室内に入り込み、書物の頁をめくろうとする。だがウァンは紙を掌で強く押さえつけた。
ウァン
「奇」。
「觚」――
四文字目が現れた瞬間、部屋が突然激しく揺れ始めた。
ウァン
「与」……
窓外の雷鳴は一度ならず、轟轟と鳴り響き、稲妻が次々と落ちる。
ウァン
「衆」……
一筋の稲妻が客桟の屋根を直撃し、建物全体が炎に包まれた。
ウァン
「異」……!
部屋が燃え盛る炎に包まれているにもかかわらず、ウァンは机の前に座ったまま、書に刀を当て、一文字一文字と削り取っていく。
「歳」の字に書刀を当てるたびに、抵抗はどんどん増していく。一つ削り落とすたびに、辺りには、まるで地獄のように異様な光景が現れた。
天が荒れ、地が揺れる。風に蝕まれ、雷が落ち、烈火に焼かれる。
梁柱、寝台、文書、箪笥……やがて狭い部屋から燃やせる物がなくなると、本来は不動であるはずの地面すら燃やし尽くされた。
ウァンは己が地の底へ真っすぐに落ちて行くような感覚を覚えていたが、それでも彼は手を止めなかった。
灼熱。
酷寒。
窒息。
隔絶……
百、三百、五百、千……
千三百九十三……
千三百九十四。
最後の歳の字を削り落とすと、彼は初めと変わらず、あの薄暗い部屋に座っていた。
室内の調度品は元通りになっていたが、部屋の中央にいるウァンだけは、ひどく憔悴し、衣服も破れ、幾度も現れた地獄の光景を実際に歩んできたかのようであった。
ウァン
……
はぁ……
次はどんな碁の格言だ……勿体ぶらずに一息で語り尽くしてみたらどうだ。
???
……
辺りは静まり返っている。
そこでウァンはさらに一頁めくると、果たして巻末と裏表紙の間に一枚の紙が挟まっていた。しかしそこにあるのは文字ではなく、墨の線で描かれた十九路盤であった。
ウァン
特段、名局ではない。棋力がかけ離れている……置き碁か?
いや待て、これは……
兄さん、自分が退屈だからと、私を呼び出して碁に付き合わせるのは百歩譲っていいとします。しかし、盤に「閑(ひま)」の文字を並べてからかうなんて、ひどすぎじゃないですか?
もっとひどい! まるで私が真面目に学んでいたら、盤上で兄さんと競える実力があるみたいじゃないですか。無謀だって分かってるくせに。
もう……本心から碁を打ちたいわけではないなら、他の暇潰しをしてはどうです? 物見遊山に行くとか、楽器を学んでみるとか、何なら私が書を教えましょうか?
へぇ? なら兄さんは、この盤面から、私の考えを読み取ったのですか?
ウァン
棋譜の裏面に……文字が書かれている。
紙が裏返しであっても、それが誰の手によるものであるかウァンには分かった。蒙学の写本をする際の素朴な筆致とは異なり、兄弟姉妹に便りを送る時に彼女が用いる品位ある秀逸な書体だ。
ウァンは紙を返し、自分が結局目にすることのなかった言葉が何であるかを確かめようとした――
直後、そこに記されていた文字は、先ほど削ぎ落とした千余りの歳の字よりもなお濃く、獰猛な「歳」の字に覆い隠された。
ウァン
……また同じ手か? いいだろう。幻を見せる他に、どんな芸ができるか見てやろう――
慣れ親しんだ軌跡をなぞるように、ウァンは再び、すべてを覆う歳の字へ書刀を向け、文字の右上に滲んだ小さな染みを消し去っていく……
その間何も異変は起こらなかったが、彼の右肩から鮮やかな赤い血がどくどくと流れ出した。
ウァン
うっ!?
お前を除くことは、すなわち……私自身を除くことだと、そういうわけか?
望むところだ……!
紙面に刀を滑らせる。右肩の傷口が開く。
紙面に刀を滑らせる。骨まで達する。
紙面に刀を滑らせる。
また紙面に刀を滑らせる……
書賈の声
なに、字が欠けてる? 本当だ。どれどれ、光陰は矢の如く……月は梭の如し……月の前に来る文字は何だったっけ……
子供の声
先生、十月が過ぎたら、僕は九、九……
持燭人の声
監正殿、天鏡閣から急報です。かの……かの巨獣に関する記録が、今まさに――
ウァン
うっ……ぐっ!
血で視界が歪んだせいか、いつの間にか、文字を覆っていたその歳の字が生き物のように動き始めた。
墨跡もまた書刀を恐れているかのように、十二の代理人の名前の間を忙しなく行き交い続ける……
……やがて、「望」の字で留まった。
ウァンがほんの一瞬止まる。しかしすぐに左手で血まみれの右半身を強く押さえながら、覚悟を決めたように、再びすべてを覆う字へと書刀を向けた。
艶やかな黒の墨跡には、ウァンの半身がほとんど映り込んでいる。
ウァン
これが……最後の一削ぎだ。
書刀が激しい光を放ち、代理人の全てがそこに注ぎ込まれた。あとは己の名に向けて振り下ろすのみ――
ウァン
ハッ――!
棋譜の裏に広がっていた墨跡が遂に消え去り、美しい行書がようやく姿を現す。
だが、もはや代理人がそれを見ることはなかった。
血まみれの身体が音を立てて地面に倒れる。元々痩せていた顔が、今は人の形を留めぬほどにこけていた。
彼の呼吸がついに止まった。
我を殺さんと欲し、仁を求めて仁を得る。
前回の敗北から百余年越しの布石が、こうも呆気なく終わるとはな。他よりも思慮深き我よ?
ウァン
随分と思い上がるものだ。
歳の陵墓に入った時と同じく無傷の代理人が、倒れ伏した自らの身体の傍に音もなく現れた。
地に横たわる肉体は朝霜のように薄れて消え失せ、最後には、淡い青の光を放つ三つの黒石だけがそこに残される。しかし――
やがてその三つの黒石も砕け散って粉となった。
ふっ。己が身を駒とすることが、お前の編み出した策か。
ウァン
三つの黒石とお前の一度の死を引き換えただけだ。大した取引ではない。
己を欺いているだけだ。哀れな。
ウァン
己を欺いているだけだと?
お前の同類を数多く見てきた。お前が、我らが、如何に解し難い生命であるかはよく知っている。
私は太初に生まれた微かな意志を知っている。それらが如何にして無限とも言える時を費やし、自らを巨大な実体へと育んでいったかも。
時間、空間、数量、構造。人の目には至極当然で、万古不易に見えるものも、お前たちにとってはただ体を休め、徘徊するだけの場に過ぎない。
お前の同類の内の一頭は、とうに死を迎えて意志を失い、人の手で操られる機械と成り果てても尚、本来穏やかに流れるべき時間を絶えず撹乱し続けていた。
それを承知していながら、我を殺すと妄言を吐くのか?
ウァン
お前が死と共寝する必要はないかもしれないが、永い眠りには就くことになる。歳獣、進化の夢を追う者よ。
人類にお前の傲慢な設計は必要ない。私もまた、お前の見果てぬ夢など知らぬ。
お前の記憶に刻まれた毎度の死は、全て紛れもない真実だ。死を迎えるたびに、お前の巨大な意識の中のごく一部が失われている。
信じないと言うのなら、思い出してみるといい。お前の笑えるほど未熟で拙い技……あの碁盤の前で悔いていた男に会ったあと、私が果たして何をした?
私は書物を司歳台へ返したか? それとも破棄したか? 書には何が書かれていた? それは本当に書物だったのか?
見ろ、お前は既に忘れている。
お前……!
ウァン
お前の記憶は死に絶えたのだ。三つの黒石と引き換えにな。
より正確に言えば、一人の代理人が、己の持てる限りの生命を賭して振るったあの書刀によって、お前は死を迎えた。
彼はその書刀を手に、炎国中の「歳」という文字と、「歳」と名づけられた生物がかつて存在した痕跡を削ぎ落した。
何たる愚行……不敬な!
ウァン
もしも書刀が今この手にあるとしたら、私は躊躇うことなくもう一度同じことをする。
お前が目覚める前に、決して覚めることのない悪夢を与えよう。たとえそのために私の持てる限りの命を捧げることになろうと。
……お前には不可能だ。
お前は、我の一部を殺せば殺すほど、力を削いでいるのだと思い違いをしているだろうが、我の目覚めを早めているだけだ。
ウァン
知らぬと思うか。
死は非常に痛いものだ。お前の記憶はいずれも真実であり、どこかの片隅で起きていることだ。お前の死は、胸を裂くほどに痛い。
ではお前は何をする? お前ごときに何ができる?
ウァン
……この対局を、続ける。
お前が、私が、地に伏して二度と立ち上がれなくなるその時まで。