それぞれの逃げ道

「ペンだこ」
エレメーイ! 一日中化学工場を漁り回って、やっと一箱見つけたビールじゃないか。一人で飲み干す気かい?
エレメーイ
べ、別にいいだろ。あっち行けよ。
ニカ
ふふっ、飲ませてあげて。この数日間ずっと怯えてたんだから。
エレメーイ
でも、なんとか乗り切ったんだ。ヒック……だいたいこんな安物のビール、酒に入らないさ。普段の俺なら見向きもしないからな!
「ペンだこ」
おやおや、こちらの旦那様は、僕みたいな「平民」にお酒をせびるくらい落ちぶれてしまったのかな?
エレメーイ
いや、君はいいやつだ。最高だよ。
ニカ
エレメーイ、私も今は「平民」よ。だから褒めて?
エレメーイ
それは遠慮しておく――ヒック!
「ペンだこ」
……何で急にこんな話題になったんだ? なんだかむず痒いよ。
エレメーイ
いいか、親愛なる友人たちよ。俺がここで一杯飲むごとに、外に出たら一箱にして返そう。
ソニア、ミコライ、それにフェージャも。全員分を振る舞ってやるからな!
ニカ
エレメーイ、大丈夫?
「ペンだこ」
こんなに飲んでるんだし、大丈夫だとは思うけど……
今すぐ残りのビールを振る舞ってくれてもいいんだよ? ほら、すぐ後ろにフェージャもいるじゃないか!
エレメーイ
今夜は……今夜はだめだ。明日なら好きなだけやるから……
ボタニ
ね、どうしてみんなと一緒に座らないの?
フョードル
お前も人のことは言えないだろう、臆病者の捕虜を捕まえてきた大英雄よ。
ソニアとアントーシャが尋問を始めてから、もう一日になる。そろそろ結果が出る頃だ。
ボタニ
一日でも早くグロモフを止められるといいんだけど……
フョードル
どうした? 浮かない顔だな。
ボタニ
ううん、考え事してただけ。何が封鎖エリアの無線通信を妨害してるんだろうって。
フョードル
それこそ第三局の得意分野だ。奴らはいくらでも妨害手段を持っている。
ボタニ
でも君の端末は、私の信号を受信できたわよね。一体どうして……
フョードル
お前は質問が多すぎる。「ボタニ」……「頭でっかち」か。ふん、実に的を射た呼び名だな。
お前のように何事にも本気で取り組むウルサス人は減る一方だ。いくらか懐かしさを覚える。
ボタニ
……フェージャ、君が秘密を抱えてること、私はわかってるわよ。
話したくないなら、気づかなかったことにするわ。
えっと、つまり私が言いたいのは……もし君がいなかったら、私がパヴァロ男爵をここに連れてくることもできなかった。だから、英雄なのは君の方ってこと。
もしかしたら、君はいつか、もっと多くの人の……
フョードル
……
「ペンだこ」
フェージャ! ボタニ! 君たちも一緒に飲まないかい?
エレメーイのやつ、酔うとやたら力が強くてさ。酒を独り占めして全く手放そうとしないんだ。
やっと酔い潰れてくれたけど、念のためにもう二発ほど叩いておいたよ。これでしばらくは起きないはずだ。
フョードル
……
「ペンだこ」
とにかく、ビールがちょうど四杯分残ってるんだ。二人さえよければ、一緒に喋って仲良くなりたいと思って……
ボタニ
うん、喜んで。確かに、私がみんなと直接会うのはこれが初めてだものね。
「ペンだこ」
ははっ、全身血まみれで拠点にやって来たから、みんな腰を抜かしてたね。でも、声を聞いたらすぐ君だとわかって安心したよ。
ニカ
はい、みんなの分を注いできたよ。フェージャもどうぞ。
フョードル
……感謝する。
「ペンだこ」
明日に乾杯!
ニカ
勝利に乾杯!
フョードル
乾杯……
自由と幸福な魂に。
アントーシャ
……妥協は受け入れない。
ズィマー
だったら、もっと効率的な案を出せ。どんだけ拷問しようが、アイツは自分の保身しか頭にねぇよ。
アントーシャ
……忠告したはずだ、パヴァロは典型的なウルサス貴族だと。
連中は目先のことしか考えず、臆病で、上からの気まぐれな慈悲と「導き」を祈っているだけ。表向きは人畜無害な面を被りながら、裏では莫大な取り分を懐に詰め込もうとする。
少しでも息をつく隙を与えれば、躊躇なく民衆に刃を向け、その血を上官への土産物にするだろう。
防腐処理ばかりが得意な歩く屍だ……お前には、あの腐臭がわからないのか?
ズィマー
ここでずっと言い争ってもいいが、もっと重要な計画を立てる方が先だと思うぜ。パヴァロに吐かせた情報の中には、「十六勇士」の本拠地の位置もあっただろ。
そこには大量の物資がある。それに、グロモフは最近よく外をうろついてるらしい。これは絶好のチャンスだ。
アントーシャ
だが、パヴァロを生かしたまま解放すれば、必ずお前のことを売り渡す……そうすれば、仮にここを脱出できたとしても、警察から総出で追われる身だ。俺たちは法廷で再会することになるだろうな。
マトヴェイ
……少なくとも、封鎖エリアを解放するって点では、僕たちの目的は一致している。他の論点はまた今度にしよう。
敵の本拠地への奇襲は、かなりの危険が伴う。僕たちも協力したいけど、一度戻って体勢を立て直すのが先だ。もしかすると――
ズィマー
わかった。皆の準備が整ってから、改めて決行しよう。案内役はパヴァロにやらせるつもりだ。
アントーシャ、オマエの考えは?
アントーシャ
……念のため、仲間を多めに連れていけ。奴に気を許すなよ。
ボタニ
……ソニア?
ズィマー
ボタニ、フェージャ、邪魔するぜ。他のヤツらが起きねぇように、声を落として話そう。
ちょっと……焚き火に当たりたい気分でな。
オマエらにはずいぶん世話になったが、アタシにはまだはっきり見えてねぇんだ。その努力を無駄にせず、全員を引っ張っていく自分の姿が。
ウルサスに戻った時は、この故郷で平和に暮らすことも考えた。だがアタシだけじゃなくて、一緒に戻ってきた友達も、まだ同じ泥沼の中で足掻いてる……
フョードル
……
ズィマー
こっちの話だが、昔アタシは大勢の仲間の期待を裏切って、同年代の友達が目の前で死んでいくのをただ見ていたことがあった……なのに、アタシはまた仲間を導かなきゃならねぇ。
……アタシらは、本当に平穏な生活に戻れんのか? いや、結局アタシには何もやり遂げられないんじゃねぇかって……
ボタニ
君は、もうやり遂げてるんじゃないかな?
ズィマー
……え?
ボタニ
はい、ビールを半分どうぞ。まだ飲んでないから。
ズィマーは唖然として、反射的にグラスを受け取った。小麦の香りが鼻をくすぐり、静かな寝息が辺りから聞こえてくる。
彼女の視線が、一人ひとりの穏やかな寝顔を撫でていく。仲間たちはほんのり頬を染め、夢を見ながら口を動かしている……この封鎖エリアに来てから、これほど静かな夜は初めてだった。
ズィマー
そうだな……
まだ半分残ってる。たとえ半分だけでも……
「十六勇士」護衛
ボス、落ち着いてくれ!
グロモフ
言え! パヴロヴィッチはどこだ!
俺の大砲を持っていった*ウルサススラング*野郎はどいつだ! 何で物資の補給を減らした! さっさと説明しやがれ!
「十六勇士」護衛
パヴロヴィッチの旦那はすぐに戻ってくるし、話し合いで解決した方がいいんじゃない?
ちゃんとお金も出してくれてるし、あの人についてる用心棒は――
グロモフ
*ウルサススラング*、そんなことはわかってんだよ! この*ウルサススラング*が!
グロモフは椅子を掴み上げ、部屋の隅に投げつけた。すると「キュウキュウ」と、怯えた鳴き声がか弱く響いた。
グロモフ
……ん? なんだ?
グロモフは「箱」に近づき、被せられていた布を剥ぎ取った。中身は精巧な作りの籠であり、その端には茶色い循獣が震えながら縮み上がっている。
グロモフ
パヴロヴィッチの肩に乗ってるやつか? 今日はこの畜生を連れて行かなかったみてぇだな……
おい、外で待ってろ。俺もすぐに行く。
「十六勇士」護衛
はいよ!
手下が外に出ると、グロモフはにやりと笑った。あの高慢な雇い主への「お返し」を思いついたのだ。
彼は無骨な両手を籠に忍ばせ、哀れな小動物の首を掴むと、力任せに捻り上げ……
パヴロヴィッチ
おや、グロモフではありませんか! こんなところであなたと会うとは。この数日間、ずっと私を探していたようですね。
……やけに肩に乗った循獣を見つめていますね。
グロモフ
その畜生、なんでそこに……
パヴロヴィッチ
数日間会わないだけで忘れてしまったのですか? 私はどこへ行く時もこの子と一緒ではありませんか。
グロモフ
なっ……!?
パヴロヴィッチ
さては、羨ましいのですね? ははっ、あなたもきっと小さな動物が好きだと思っていましたよ。
私の執務室には、もう一匹の循獣がいるのです。この子と交配させる予定なので、子供が生まれたら一匹譲ってあげましょう。
グロモフ
……
警備隊長
おい、感謝の言葉はないのか?
パヴロヴィッチ
いいのですよ、感謝など。
どのみち、他の目的があってここに来たのでしょう。なぜそれほど慌てているのです?
自分よりずっと大柄な用心棒たちを目の当たりにして、グロモフは喉まで出かかった罵倒の言葉を飲み込んだ。
グロモフ
枢密官の旦那、何で俺の補給を削った? これまでの装備じゃ、あのガキどもを食い止めらんねぇぞ。
パヴロヴィッチ
……カトルガ区の管理補佐として、あなた方を雇った理由を覚えていますか? あなたの提示金額が最も安かったからです。
安価で良質なサービスを提供する、実に立派な心がけではないですか。まさかお忘れではありませんね?
グロモフ
ああ、そんで大砲の方は――
パヴロヴィッチ
その話は結構です。仮に知っていたとしても、あなたに伝えることなどありません。
これは貴族の仕事です。あなたは自分の役割を果たしなさい!
「十六勇士」用心棒
ボス! 大変だ!
グロモフ
なんだ?
「十六勇士」用心棒
あ、あいつら……あのガキどもが「栄誉室」を嗅ぎつけやがった!
グロモフ
*ウルサススラング*、あり得ねぇ!
「十六勇士」用心棒
この目で見たんだ! 早く応援が来ないと、ソニアに奥まで乗り込まれちまう!
パヴロヴィッチ
……
グロモフ
おい、旦那!
パヴロヴィッチ
警備の半分を彼に回しなさい。
警備隊長
はい!
パヴロヴィッチ
今度もヘマをしたら、あなたを八つ裂きにして循獣の餌にします。いいですね?
失せなさい!
「ペンだこ」
……外の敵は片付いた。さて、後始末といこうか。
この連中、腕っぷしは強いけど、統率は全く取れてないね。
エレメーイ
冬将軍の方はどうなったかな? 順調に進んでれば、今頃は本拠地の奥まで乗り込んでるはずだけど。
ニカ
「十六勇士」も、本拠地を守るために必死で抵抗してくるはずよ。急いで応援に向かいましょ。
「ペンだこ」
グロモフがちゃんとした食べ物を貯め込んでるのを祈るよ。もう缶詰にはうんざり――
そう言い終える前に、一本の矢が彼の胸を貫いた。彼は笑顔のままよろめき、仲間の足元に倒れ込んだ。
エレメーイは目を丸くした。向こう側から、グロモフが十人以上の屈強な男を従えて突進してきたのだ。
ニカ
まずいわ! 早くあいつらを止めなきゃ!
グロモフ
*ウルサススラング*!
死ね、このクズどもが!
エレメーイ
させるか!
エレメーイは鉄パイプを握り締め、グロモフのハンマーアックスに飛びかかる。しかし武器と武器がぶつかった瞬間、彼はボロ切れのように弾き飛ばされた。
ニカ
ああっ、エレメーイ!
グロモフ
次はてめえの番だぜ、虫けらちゃんよ。
ニカ
グロモフ……!
あなたは大勢の人を殺めてきた、その報いを受けなさい!
ここで死んだとしても、あなただけは絶対に殺す――!
血が喉にせり上がり、彼女の声はそこで途切れた。
ニカはまだ感覚の残る首を、必死でエレメーイの方に向ける。視界の端には、慌てて防衛線を維持しようとする仲間たちと、狂った獣のように突入するグロモフの姿。
グロモフに賄賂を渡して出してもらおうって、そう言ったのはあなただった。私は、それが罠だってわかってたのに。
それなのに……どうしてあなたについて行っちゃったんだろうね、エレメーイ……
グロモフ
クソッ! クソッ! クソッ!!
まだ間に合う……裏から回った方が早い。まだ手下どもが持ち堪えてるはずだ。
栄誉室の合言葉を知っているのは俺だけだ。部屋に入り、隠してある武器をヤツらに配れば、まだ挽回できる……
あのドアさえ開ければ――
グロモフ
……
ズィマー
……
リェータ
冬将軍! 最後の奴も倒したぜ!
……グロモフ!?
一瞬の沈黙が訪れる。グロモフは瞬時に動き出し、ガラスの壁際の装置に飛びついた。
識別装置
合言葉をどうぞ。
グロモフ
*下品な罵倒*!
識別装置
合言葉が違います。
アントーシャ
気をつけろ! あのボタンには何か仕掛けがある!
マトヴェイ!
矢がグロモフの左腕に突き刺さる。彼は怒号を上げながらハンマーアックスを振り回し、辛うじて全員からの攻撃を凌いだ。
識別装置
合言葉をどうぞ。
グロモフ
*下品な罵倒*!
識別装置
合言葉が違います。
グロモフ
*ウルサス式咆哮*!
識別装置
合言葉を確認しました。
よくぞ参った、グロモフ勇士。そしてイゴール大帝に仕えし、比類なき十六名の勇士の末裔よ……
不屈の意志を持つ者にして、全てを打ち砕く伝説のハンマーアックスの継承者よ……
グロモフは音声が止まらぬうちにガラスの壁を突き破り、勢いのまま中に転がり込む。
リェータの一撃はグロモフに命中せず、代わりに耳障りな装置を粉砕した。
識別装置
ジジッ……十六勇士が……次なるウルサスの……時代を……導くのだ!
リェータ
こいつなんかが!? ふざけんな!
グロモフが何かに手を伸ばそうとした瞬間、矢が彼の指先を掠め、壁に突き刺さった。
グロモフ
その顔、覚えてるぜ。無縛者同盟……てめえらもな。
グロモフは後方に飛び退き、壁のレンガを殴りつける。すると、二枚の透明な「壁」が急降下し、グロモフと学生たちを隔てた。
グロモフ
パヴロヴィッチのために、念入りに準備してきた「牢獄」だったが……まさか、最初に閉じ込めるのが俺自身になるとはな。
ズィマー
バカが、ガラスごときでアタシらを――
ズィマーがガラスに拳を叩きつける。しかし逆に強い反動で跳ね返され、数歩後ずさった。
リェータ
このガラス、なんか変だぞ!
グロモフ
第三局が開発した最新素材だ。あの皇帝サマですら目にしたことのない代物だぜ……ヤツらがこんなのを開発したのは、一体誰を閉じ込めるためだったんだろうな?
こいつを破りたけりゃ、陸上艦でも連れてくるんだな……フハハハハッ!
グロモフは荒い息をつきながら、その場にどっしり座り込む。さらに余裕を見せつけるようにして、ほどけた靴紐を結び直し始めた。
アントーシャ
時間がない……奴は間違いなく援軍を呼んでいる。外も長くは持たないだろう。
ズィマー
何か方法はあるはずだ!
「十六勇士」……? 待てよ。
この部屋には、何で全く同じハンマーアックスが二つもあるんだ?
伝説によると、イゴール大帝と共に戦った十六人の将は、その時代の最も勇猛な戦士であったという。
その名を騙った暴徒たちは、伝説に書かれた通りにハンマーアックスを作った。しかし完成してみると、彼らの力では到底その栄誉を持ち上げられないと思い知った。
だからグロモフは「本物」を飾って崇めながら、自らは模造品を振り回していたのだ。
グロモフ
無駄な足掻きはやめとけ。そいつは人間に使える代物じゃねぇ!
ケガしたくねぇなら、大人しく諦めることだな!
ボタニ
ソニア、私も手伝って――
ボタニは言葉を失い、目を見張った。ズィマーはショーケースを叩き割り、その重々しいハンマーアックスを持ち上げていたのだ――あまりの重さに、骨が軋む音すら聞こえるほどだった。
ズィマーはハンマーアックスを引き摺りながら、決して破れるはずのない透明な壁へと一歩ずつ迫る。
グロモフ
おいおい……おいおいおい……
ズィマー
どうやら、オマエよりアタシの方が相応しいみてぇだな……
そうだろ!?
グロモフ
あり得ねぇ!
ズィマー
オマエが殺したヤツらの分、オマエが野放しにした悪事の分、オマエが逃れてきた罪と罰の分……そして、アタシを怒らせた分だ。
グロモフ、言い残したことはあるか?
グロモフ
な、なんでてめえごときが――
言い終わる間もなく、重々しく振り下ろされる一撃。その刹那のうちに、ズィマーは握り締めた武器が軽くなっていくように感じた。
それは、もはや伝説の武器でも、博物館に収められるべき文化財でも、ましてや殺し屋のコレクションでもない。ただ純粋な――
力。
抗い、障壁を打ち砕き、血路を切り拓くための、力そのもの。
立場も、主張も、方針も、感情もない。
生命が発する最も原始的な猛りであり、鼓動の度に脈打つ最初の血の一滴。この大地の複雑な理とは全く無縁のもの。それが示すのはただ一つ――
ズィマー
戦いだ!!
疲れきった学生
ソニア、助かった……
君が持ってきたグロモフの遺品を皆が掲げるのを見て、あの暴徒たちは外壁の上まで一目散に逃げていったよ。
ズィマー
皆、よく頑張ったな……本当に、勇敢に戦ってくれた。
人数の確認が終わったら、持ち出せる物資をできるだけ回収しろ。それから、犠牲になったヤツらを――
パヴァロ
ソニア……おい、ソニア!
お前の仲間を止めてくれ!
アントーシャ
彼女にも、誰にも、俺を止めることはできない。
男爵、お前の死がウルサスを救うんだ。
パヴァロ
意味不明なことを言うな! 誰か、助けてくれ!
リェータ
アントーシャ、落ち着け!
ズィマー
……取引したはずだぞ、アントーシャ。
本拠地の場所を吐けば、命だけは取らないでやるってな。
アントーシャ
ソニア、以前も言ったはずだ。俺は寄生虫を一匹たりとも見逃すつもりはない。利用価値がなくなった今、もはやこいつは用済みだ。
こういう連中を生かしておく限り、俺たちの仲間や坑道の労働者、荒野の農民が代わりに死ぬことになる。
こいつは死ぬ瞬間になって、初めて哀れな一生に価値を生み出し、自らの罪を償うことになるんだ。
ズィマー
いや、オマエは間違ってる。
コイツは、生きてここを出ることで価値を持つんだ。そうすれば、コイツみたいな日和見主義者どもも、アタシらが話のできる人間だと気づくはずだ。
帝国は必ずしも一枚岩じゃねぇ。効率的に目的を達成したいなら、その矛盾を利用して、内部から掻き乱してやればいい。
アントーシャ
……俺の目的は、このウルサスから、ひいてはこの大地から抑圧を消し去ることだ。
この大地の未来に誓った。この手でその背骨を打ち砕き、瓦礫の上で新たな夜明けを待つと。
こいつらのような寄生虫どもの抹殺は、復讐のためじゃない。もうじき崩れ落ちる建物を、より綺麗に崩すためだ。
ズィマー
全てを奪われ、循獣みたいに命乞いする「貴族だった者」を殺して……
その死に、本当に意味があると思うのか?
アントーシャ
この国において、富める者の自由は貧しい者の屍の上に成り立っている。それは否定しようのない事実だ。
一人を排除すれば、一人の命が救われる。
ズィマー
違う、オマエは破壊したいだけだ。そんなもんは、ただの手段の一つに過ぎねぇだろ。
夜明けを待つなら、瓦礫だけじゃ足りねぇ。団結と、人そのものが必要なんだ。困難の中で立ち上がり、アタシらと共に理不尽に抗う人がな。
アントーシャ
……理不尽に抗う? こんな人間を生かしておくことこそ、搾取された者たちへの最大の理不尽だろう。
埒があかないな。こいつを捕まえたのはボタニだ、処分の決定権はお前たちにある。
だが、こんな人間を庇うようなら、無縛者同盟はお前たちと協力できない。俺たちは独自に行動させてもらうぞ。
ズィマー
頭を冷やしやがれ!
……オマエのやり方はいつも、味方になりえるヤツを追い払って、成功の確率を下げてんだよ。そのせいで、お前をリーダーと慕ってるヤツらが生き残れなくなるかもしれねぇだろうが!
アントーシャ
無縛者同盟にリーダーはいない。俺はただの相談役だ。
一人ひとりが自分の意思で集い、抑圧が蔓延る地で行動を起こし、苦しむ人々が貴族の暴挙に抗うための手助けをしてきた。
俺の考えに賛同できない者は、自由に去ってくれて構わない。同時に、誰であれ俺を追い出すこともできる。
アントーシャは振り返り、マトヴェイの視線を探した。
大学を去ったあの日から、それが彼の習慣になった。演説の時も、歩いている時も、人を殺す時も。
マトヴェイは、いつも後ろから静かに肯定の視線を向けてくれた。そのお陰で、アントーシャは自分の正気を確認し、正しい道を歩んでいると信じられた。
「アントーシャが間違えた時は、マトヴェイが諭してくれる」――それは、ウクシクでさえ知っている不文律。
だが、この時――
アントーシャ
……
そこには、誰もいなかった。
アントーシャ
ここにいたのか、マトヴェイ。
マトヴェイ
ああ。
マトヴェイは雪の中に立ち、血のついた煙草を拾って火をつけた。深く吸い込んだが、むせて咳込んでしまう。
アントーシャ
……お前が煙草を吸うとはな。
マトヴェイ
君こそ、ただ殺すために人を殺すとはね。
彼らの中には、確かに裁きを受けていない犯罪者もいるかもしれない。だからといって、処刑されるべき怪物とは限らないよ。
君は暴力をぶつけるだけで、逆に然るべき裁きから逃れさせているんだ……君の理想の中には、法も秩序も存在していない。
アントーシャ
……これまでも、お前に似たようなことを何度も言われてきたな。だが普通の人々のために正義を貫くには、これ以上の手段はない。もしお前が――
マトヴェイ
違うよ、アントーシャ。
君は貴族で、ウルサス人だ。君が人を殺すたびに、僕は思わずにはいられない。君が殺している人たちも、君と同じような人なんじゃないかって。
だけど君は、自分が得られた機会を一度も誰かに与えようとはしなかったね。
マトヴェイはそう言い終えると、火のついた煙草を雪に突き立て、他の散らばり、押し潰され、雪泥に塗れた煙草に並べた。
そしてアントーシャに背を向け、来た道を歩み去っていった。
アントーシャ
……パヴァロは殺さなかったんだ。
その声は、マトヴェイには届かなかった。
ウクシク
アントーシャ……マトヴェイとケンカしたの?
アントーシャ
していない。変なことを聞くな。
ウクシク
あのね……今夜、ロザリンのところに行ってもいい? グロモフを倒したらイェラグのお話を聞かせてくれるって、前に約束してくれたんだ……
アントーシャ
いや、だめだ。
ウクシク
じゃあ、明日は?
アントーシャ
明日もだめだ。向こうにはもう二度と行くな。
ウクシク
でも、これからも一緒に戦って、みんなであの壁を壊すんだよね?
アントーシャ
ああ、戦うさ……
だが、ソニアと俺たちには、それぞれの道がある。
どちらが正しい道なのかは、俺が証明してやる。
どんな代償を払おうともな。
フョードル
……
ボタニ
フェージャ、何をしてるの?
フョードル
人数確認と、明日の食料の準備だ。
ボタニ
人数……今日は何人いなくなったの?
フョードル
数人……いや、十数人かもしれない。まだ治療が必要な者もいる。
ボタニ
私、少しうぬぼれてた。やっと正しいことをしたんだって。なのにこんな結果になるなんて。
何一つ良くなってなんかないわ。友達をたくさん失って、アントーシャたちとも喧嘩別れ……
教えて。私はあのクライニ・セーヴェルから聞こえた声みたいに、この大地にいる人々を少しでも……ほんの少しでも良くできたのかな?
フョードル
あの指名手配されている、違法放送の犯人のようにか?
……ああ、お前は正しいことをした。
だが、お前の行動に私が評価を下す必要はないだろう。
フョードルは、しばらく消えていた薪に再び火を灯した。
彼は灰の中に放っていたジャガイモを拾い上げると、枝に刺して焼き始める。
フョードル
私の評価など、重要ではない。お前自身が、自分をどう思うか……それこそが肝心だ。
ボタニ
もしかして、お説教のつもり?
そう言われてもわからないわ。でも、たぶん君が正しい……ってことは、私が正しいのかな。
あの夜も、こうして焚き火のそばに座って、ジャガイモを焼いてたわよね。
君もやっと学生の輪に入って、みんなとお喋りしたり、政治の批判をしたり、文学について議論を交わしたりしてた……
その時までは声しか知らなかったみんなが、目の前にいる。私はそんな君たちを見て……
本当に、たまらなく嬉しかった……
フョードル
……お前の努力は、決して無駄になっていない。
ボタニ
そうね。
私はこれまで、イヤホンの向こう側の声だった。そして、これからもその声であり続けるわ……ずっと、ずっとね。
ありがとう、フェージャ!
フョードル
……む?
……
「あの夜も、こうして焚き火のそばに座って、ジャガイモを焼いてた」、か……
「ペンだこ」……
エレメーイ……
ニカ……
「チビ」……
お前たちに、乾杯。
フョードルの両手は震えていた。それは「チビ」に金貨を渡した手であり……
人の命を救った手であり……
かつて、無数の死をもたらした手であった。
彼には、今の感情を言い表す術がなかった。胸の高鳴りを感じると同時に、心の底からは恐怖がこみ上げてくる……
我に返った時、焚き火はほとんど消えかけ、暗闇の中で弱々しく揺らめいていた。
枝に刺していたジャガイモは片面だけが焦げつき、もう一方は全く火が通っていない。
フョードル
「まだ明日がある」……
なんて素朴な祈りだろうか。
???
……