亀裂
タルラは変わった。
初めてタルラと会ったとき、俺は、彼女はテレジア殿下に似ていると思った。
とはいえ、まったく同じだったわけじゃない。当時、殿下の胸には悲しみが満ちていた。この大地の秘密を背負った悲しみだ。
一方タルラは、怒りを宿していた。冷静で、熱情に溢れた怒りを。
それは殿下と比べると小さな感情だったが、力強さは同じだった。彼女たちのような革命者には、多かれ少なかれ似たところがあるのだろう。
そのうちにタルラの怒りはレユニオンを生み、多くの賛同者を集めるに至った。
だが、彼らが熱き情熱を共有していたのは最初だけ。
そのうち俺たちの仕事は、扇動や加害、挑発へと変わっていった。
こんなの、カズデルの戦争と同じじゃないか。俺たちは、こんなくだらない陰謀に加担するためにウルサスに来たわけじゃない。
感染者の革命は、どこへ消えてしまったんだろう。
ヘドリー
大丈夫だ、追ってきてない。
……もし彼女と正面からぶつかれば、面倒なことになる。
まったく、普段から見るものには気をつけろと警告していたのに。タルラにアーツを使うなんて、どうかしているぞ、イネス。
イネス
……でも、タルラの身に何かが起きたに違いないわ。これは何としてでもWに伝えないと。
ヘドリー
そのWが色々やったせいで、我々はあの暴徒たちに疑いをかけられているんだがな。
お前は一体、何を見たんだ?
イネス
――昔のタルラはただの反抗者だった。そして彼女は、迫害され続ける感染者たちに道を示していた。
だけど今は? 彼女の下に集まった感染者たちは、ただ欲望のままに破壊や殺人を繰り返す暴徒と化している。
ヘドリー
それがどうした? サルカズを除く非感染者の感染者に対する態度を考えれば、それも理解できるだろう。
イネス
……わかってないわね。
私は彼らの行為自体のことを言ってるわけじゃないの。その行為がどんな結果をもたらすことになるか……
タルラは……多分、意図的にレユニオンを破壊しようとしてる。
ヘドリー
……なぜ?
イネス
ねえ、この状況、どこかで見たことがあると思わない?
タルラは優秀なリーダーよ。だからこそ普通の感染者たちを戦争に参加させ、勝利をもたらすことすらできる。
だけど彼女は、彼女にしかできない方法で、自分が築いた塔を崩そうとしてる……
自分も一緒にね……
タルラ自身だって、塔が纏う美しいタイルの一枚に過ぎないわ。いつでも粉々になり得る。
ヘドリー
それはつまり……
イネス
ええ、三年前と同じね。
ただあの人の場合は、誰にも変化がわからなかった。ううん、もしかしたら変化なんてなかったのかもしれない。初めから何の躊躇いもなく、それを成し遂げられる人だったのかも――
でも、タルラは違うわ。彼女は確実に、前の彼女とは違ってる。
……彼女には二つの影があるの。アーツの痕跡には見えないわ。あれはまるで……
そう、まるで廃墟よ。歴史ある、力強いエネルギーが残っている廃墟……
ヘドリー
……イネス、お前のアーツは確かに特別だし、信じるに値する。だが今回の感覚はいくらなんでも曖昧過ぎだ。これじゃとても行動の根拠にはできない。
イネス
……そうかもしれない……でも、Wには絶対に知らせないといけないわ!
ヘドリー
――声を落とせ。俺たちは目をつけられている。
騒げばどんな難癖をつけられるかわからない。お前もわかっているだろう?
イネス
じゃあ聞くけど、私たちはバベルのときみたいな災難に、もう一度耐えられると思う?
ヘドリー
それは……
イネス
……少なくとも、Wには無理よ。
私はWに会いに行くわ。ガルシンが死んだ今、新しいリーダーは彼女でしょ。
ヘドリー
待て! そんなことをすればタルラに――
イネス
待てないわ。私に命令しないで、ヘドリー。私たちは今でも対等な立場のはずよ。
……フンッ。
――とはいえ、命令に真っ向から背くのはこれが初めてね。
ヘドリーはいつも考え過ぎなのよ。
イネス
……
(この通りを抜ければ、Wがいるはず……)
(あれは……拠点だったはず……一体何が……)
(ううん、今はとにかく急がないと――)
――
――誰?
レユニオン兵士
……
イネス
感染者……? 何か用?
レユニオン兵士
言葉には気をつけろ、魔族。
いくつかの傭兵部隊が逃げ出してから、敵が市内にまで出現するようになった。
お前たちはあまりにも多くのミスを犯した。リーダーがそれに気づいていないと思うか?
イネス
そんなこと、上司でもないあなたに言われる筋合いはないわ。
レユニオン兵士
お前にはタルラに向けて、責任を償う義務がある。
イネス
――タルラに……。わかったわ。じゃあWに報告してから、タルラにも報告する。
レユニオン兵士
必要ない。
そんな「償い」は求めていない。
イネス
それじゃ何を……
イネス
チッ……本気?
レユニオン兵士
先程の襲撃がこちらにまで波及し、サルカズ傭兵小隊長の一人、イネスが死亡した。
毅然としたレユニオン術師
死体の確認は?
レユニオン兵士
……戦闘は大きな騒ぎだった。今すぐこの通りを破壊しろ。
毅然としたレユニオン術師
……わかった。
レユニオン兵士
――ああ、待て。
レユニオン兵士
レユニオン側にも、最後まで彼女と戦った者がいたはずだ。たしか……術師だった。
毅然としたレユニオン術師
……わかった。
家族の面倒をお願い、みんなまだ街にいるから。
レユニオン兵士
ああ、誓おう。
レユニオン兵士
……死体をそれらしく繕って……よし、これでいい。
Wはすぐに気づくだろう……行くぞ。
イネス
……
ああ……
ヘドリーが来なくて……正解だったわ……
……チッ。
まさか、チェルノボーグの街路樹も……
……バーチの木だったとはね……
……アハハ。
あそこと、同じ景色ね……どこを見ても、交差する影……