雨の中を歩く
アーミヤ
……
子供
あっ! そ、そこどいてっ!
アーミヤ
きゃっ!?
子供
ご、ごめんなさい! ぶつかるつもりじゃなかったんだけど……!
アーミヤ
ううん、大丈夫。そうしてすぐに謝れるなんて、立派だね。
子供
わわ、そうかな? えへへ……
ところで、お姉さんはここで何してるの?
この辺は雨が降ってるし、雨宿りしたほうがいいんじゃない……?
アーミヤ
ええっと……ううん、その……少しお散歩してただけだから。
それより君、何か手伝ってほしいことがあるんじゃない?
子供
えっ! どうしてわかったの!?
アーミヤ
ふふっ、ないしょ。これはお姉さんの秘密だからね。
子供
ええ~? ……んー、まあいっか!
じゃあさ、お願いがあるんだけど――
うーん……でも、やっぱり無理かなあ……お姉さん、背が小さいし……
アーミヤ
もう、そんなこと言っちゃダメだよ! 君に比べたら、私のほうが背が高いでしょ!
子供
わわ、ごめんって!
それじゃ……とりあえず、やってみる? えっとね、この板どかすのを手伝ってほしいんだ。
下敷きになってる蓄音機を持って帰りたくてさ。
アーミヤ
これ? うん、やってみよっか。
子供
じゃあいくよ。いち……にの……さん! えいっ!
アーミヤ
! できた!
アーミヤ
……っ、これは……
子供
わあっ、お姉さん力持ちだね! ありがとう!
アーミヤ
うん、でも……この蓄音機、壊れてるみたいだよ。
子供
大丈夫大丈夫! 見つけた時にはもう壊れてたしね。いつか、これをちゃんと直して使えるようにするつもりなんだ。
実は僕、みんなのためにレコードをいっぱい集めててさ。まあ、自分でも、一度も聴いたことないんだけど……
でも、いつかみんなに聴かせてあげようと思って!
アーミヤ
……
……難しい目標のはずなのに、簡単なことみたいに口に出せるなんて……
……私、何のために行動してるのかな。……私にできることって、何だろう……
子供
……あのさ、お姉さんは僕のこと、怖くないの?
アーミヤ
ううん。……どうして、怖がられると思ったの?
子供
だって僕、鉱石病なんだよ!
アーミヤ
あははっ、私もそうだよ。
子供
え~っ! こんなに可愛いのに感染者なんて、もったいない……
アーミヤ
――
アーミヤ
感染者になったからって、全部台無しになるわけじゃないんだよ。
だって、たとえ君が感染者でも、そうじゃなくても――いい子でいたなら、その事実までは変わらないでしょう?
子供
ん~……そうなの? よくわかんないや……
(ぐう……)
アーミヤ
……もしかして、お腹ぺこぺこ?
子供
……うん……
アーミヤ
……じゃあ、これあげる。って言っても、これしかないんだけど……
子供
えっ、いいの? やった、ありがとう!
……あれ? そういえば……お姉さんって、なんでここに来たの?
アーミヤ
それは……
……私が……
アーミヤ
ある人と、約束したからなんだ。
子供
――お姉さん、またね!
アーミヤ
うん、またね!
アーミヤ
……
アーミヤ
……
あの子みたいな子供でも、結局、最後には……
感染者め。お前たちはもう、人ではない。
アーミヤ
私にできることを、もっと……もっと考えないと……
……どうして……全員を守ることは、できないんだろう……
お前にできるはずがない。
アーミヤ
そんな……
飢餓、迫害、そしていずれ訪れる凄惨な死……
感染者の末路など、ほかにはない。
アーミヤ
そんなこと、ない……
ロドスが、感染者のために立ち続ける限り……!
お前は数少ない恵まれた人間の一人だ。そんなことを言えるのは、そのためでしかない。
アーミヤ
違う……! 多くの人が団結して、同じ目標に向かって努力し続けているからこそ、私は……!
この大地は、すでに麻痺してしまったんだ。
アーミヤ
……いいえ、まだそうはなってない。
感染者を、絶望の淵に追いやらせはしない……!
アーミヤ。
怒りに身を任せるが良い。
ただのそれだけで――
アーミヤ
……ダメ。
絶対に……そんなこと、しない。
だって、私は……
あの人と、約束したんだから――!
アーミヤ
……?
この声は……?
女の子
あのお姉ちゃんが教えてくれたんだ。このお人形は、誰かのために作るから意味があるんだよ、って!
だからね、これ、龍のお姉ちゃんのために作ったの!
女性の声
――――
アーミヤ
今聞こえたのって、もしかして……
!
やっぱり、あの後ろ姿は――
チェンさん?
女の子
――――
――――――――
――――! ――――――!
――――――――!
女性の声
――――――
チェン
ん……
アーミヤ
……
チェン
……
アーミヤ
あの、チェン隊長……
チェン
…………
アーミヤ
……
ここで、何をしていらしたんですか?
なんというか、私はてっきり……
チェン
キミには関係ないだろう。
単に、龍門の問題は、すべて私の管轄下にあるというだけの話だ。
アーミヤ
……
アーミヤ
…………
……チェン隊長……
初めて見た……
彼女が、あんな目をしているところなんて……