空っぽの家
ホシグマ
レユニオンは全員捕縛しました。ただ誰も具体的な命令は知らないようですが、奴らが口にしたのは――
……。
チェン隊長? 何を熱心に見てらっしゃるんですか。
チェン
ここは「大学通り」と呼ばれていた場所だったな?
ホシグマ
え? そうですよ。今は名前が変わりましたが。
チェン
……これは私の家のようだ。
ホシグマ
お住まいは太埔区にあるのでは?
チェン
いや、これは私の父方の邸宅だ。建物が改装されているから気付かなかったが…。
ホシグマ
ヴィクトリアの学校へ行く前はここに住んでいたのですか?
チェン隊長は、ウェイ長官と同じく炎国の貴族の出と聞いていましたが、確かにこのお屋敷を見るとそれだけの迫力がありますね。
チェン
貴族? 彼らはそうだが、私は違う。
ホシグマ
ですがこのお屋敷……なんと形容すればいいか……。
チェン
ふんっ、陳府(ちんぷ)などと呼ばれていたがな……。
チェン
中に入るぞ。
ホシグマ
えっ?
ホシグマ
……ご自身の家でしょう。ドアを斬って入るなんて。
チェン
あいにく鍵を持っていないのでな。レユニオンが側壁に穴を開けていたのを見ただろう。奴らなら扉を斬り開くことぐらいするさ。
ホシグマ
それは――いや、そうですね。
チェン
靴は脱がなくていい。
ホシグマ
本当に良いのですか? チェン隊長、真面目に答えてください。もしかして、父親のことが嫌いなんですか?
チェン
あの男が私の父を名乗る資格はない。
ホシグマ
…そういうことですか…。
記憶が確かなら、ヴィクトリアの学校を卒業した後、龍門に戻ってすぐに近衛局に入ったそうですね。
チェン
ああ、当時は官舎に住んでいた。
ホシグマ
つまり一度もここへは戻って来てないということですね。
チェン
こんな場所には何の思い入れもないのでな。
ホシグマ
そう口にする人ほど、何か心にわだかまりがあるとは思いますが。
ホシグマ
敵が探していた「価値のある目標」に関して、何か心当たりはあるんでしょうか?
チェン隊長?
ホシグマ
……。
何か思いにふけっているようですね……。過去の記憶でも蘇ったんでしょうか…。
チェン隊長、外で待ってます。行くときには声をかけてください。
——おもちゃは綺麗に並べておきなさい——
——家から出ることは許さない——
——人と話すときは許可をとりなさい——
——私が許可するまでは大人の目を直視しないように——
チェン
……。
ホコリひとつない、未だに掃除をしているのか。
ふんっ、私のためにいつまでも部屋を整えておくとは、寛容なものだな。それとも、疫病神をぞんざいに扱うと罰でも当たると思ったか?
いや待て、写真、そうだ、写真だ……。
——お前に愛を与えることはできない、ほんの少しであっても——
——すまない、本当にすまない。だがお前には我慢がならんのだ。お前を目にするだけで、自分の腕を引きちぎりたくなる——
——お前たちにはもう我慢ならなくなったのだ。勝手だとは承知している、だがもうこれ以上耐えられない——
——いつかお前たちにもわかる日が来る。恨むなら恨めばいい。私がお前を恨むように、お前も私を恨めば良い。そうあるべきなのだ——
チェン
ここにあったか。
こんな昔の写真、捨てたと思っていたのだがな……。
もしや……奴らはこれを探していたのか?
どういうことだ。レユニオンはいったい何をやっているんだ? お前は気でも狂ったのか?
私は必ず力になる。だがお前は何を考えている? どうして今、どうしてここで?
フッ……それもそうか。お前は何も答えない。
ホシグマ
ああ、やっと出てきましたね。
チェン
行くぞ。
ホシグマ
手がかりはもう見つかりましたか? まだ遊び足りないなら、童心に帰って毛糸玉でお手玉でもしますか?
チェン
こんな時に冗談を言うとはどうした?
ホシグマ
さっきよりは元気になったように見えましたので。
チェン
お前が言った通り、糸口が見つかった……のかもな。
ホシグマ
そういえば、周囲のレユニオンはみな総崩れになっているとの報告がありました。予め配置しておいたチームが引き続き敵を掃討しています。
チェン
それは朗報だな。また一つ障害を排除して目標に近づいた。
近衛局総員、隊列を整えろ! 間もなく出発する! 我らが龍門を取り返すぞ!