燃焼の断章1
感染者戦士
タルラさん。
タルラ
……なんだ、お前がそんな顔をするなんて、珍しいな。どうした?
感染者戦士
俺たちは決めました。
俺たちはここに残ります。
あっ、いや……厳密に言えば、ここに残ることを望む者と、どうにかしてウルサスの領土から去ろうとしている者がいるんです。
いずれにしろ、俺たちは全員、一緒に南へ行くことはできません。本当に、申し訳ありません。
タルラ
あぁ、わかった。
感染者戦士
理由は聞かないんですか?
俺たちに戦い方を教えてくれたのも……ここまで導いてくれたのもタルラさんだってのに、こうなってしまって――
タルラ
だから、いつまでも私に従い、命を危険にさらしながら、死ぬまでウルサスと戦い続けなければならないとでも思っていたのか?
そんなことはない、決してな。それでは本末転倒だ。
感染者戦士
はは……そうですね、あなたは確かにそういう人だ。
タルラ
私は支配者ではない。そして、ここはもともとお前たちの土地であるべき場所だ。屍で覆われていようが、不幸な記憶が纏わりついていようが、凍原はお前たちの故郷なんだ。
お前たちは強い……お前たちならば、全てに打ち勝つ方法を見つけられるさ。
必要なら、私が見送ろう。
感染者戦士
い、いえ、そんな! 止してください。この決断だって、それほど揺るぎないものじゃありませんから……
ははっ、改めて俺たちもタルラさんたちの一員だったってことを実感しました。新しい仲間が見つかったら、自慢して聞かせますよ。
タルラ
あまり私のことを悪く言うなよ。
遠くからの呼び声
タルラ、キャンプファイヤーが点いたぞ!
タルラ
あぁ、今行く!
今夜が共に過ごす最後の晩餐になるんだろうな……
感染者戦士
この後……他の者からもきっとこの話をされると思います。みんなそうするでしょう。
タルラ
ああ。
感染者戦士
……タルラさん。
全ての者が自分と同じ心で共に歩んでくれると、どうやって信じるのですか? いつか裏切られるのではないかと思わないのですか?
いや……きっと考えがあってのことでしょう。タルラさんは聡明で強いうえに知識も豊富ですから、少しくらい傷を負い血を流したとしても、歩みを止めないのでしょうね。
タルラ
……誉め言葉と受け取っておこう。だが、私をそんな化け物みたいに喩えるのはやめてくれないか?
感染者戦士
ははっ、誤解ですよ。それに俺たちだって一度や二度の挫折で心が折れるような臆病者ではありません……
ただ、誰もがタルラさんが考えるような人じゃないかもしれないってことを……俺は突然悟ったんです。
俺も最初は、「どうせ死を待つ命だけど……多少なりとも飲み食いして、少しでも長く生きていたい」そう思ったからついてきたんです。
そして、腹が満たされた時、自分と同じような人が他にもたくさんいることにやっと気がつきました。そして、彼らも腹いっぱい飲み食いできたらどんなにいいことだろうって……
タルラ
揺るがぬ信念と善意は、実は得難いものだ。
感染者戦士
ええ、そうです。だから、全ての者がそういう考えにたどり着けるとは限りません。
このまま進み続けたとして、今以上に残酷な結果にならないと誰が言いきれるでしょうか? 貴族たちに一人残らず殺され、罪もない貧しい者や子供たちまで巻き込まれてしまったら?
俺は……俺自身は別にどうなってもいいんです。でも、その可能性を考えただけで恐ろしくなってしまいます。
それに、自分の腹を満たすことだけしか考えられない者もいます。自分一人が助かるためならどんな手だって使いますよ。例えば――
仲間を売るんです。
我々を滅ぼそうと機会を窺っている者は多い。取るに足らない感染者を一人見逃すことで、他の反逆者を一掃できるなら、彼らにとっては美味しすぎる取り引きでしょう。
タルラ
……
感染者戦士
だからこそ、ここを去ることはできない……そう思ったんです。
タルラさん、我々は全ての感染者を一人残らず連れていくことはできない……そうですよね?
タルラ
認めるしか……ないな。
感染者戦士
それなら、我々がこのまま南に進んだとして、あなたの言う理想を成し遂げるまでの間、凍原はどうなるんです? 凍原に残っている感染者たちは?
凍原だけではありません……この大地は広大です。この機会にここを離れようと考えている者もいるでしょう。
そして各地を見て回り、他に苦しんでいる同胞はいないか、どこかに感染者が落ち着ける場所はないか探したい……
そう思っている者もきっといます。
タルラ
お前……
お前がそんな考えに至ってくれて、私は……嬉しい。
感染者戦士
え? あー……俺には難しい話になりそうなので、その言葉の真意は聞きません。
と、ところで……こんな肝心な時に隊を離れたら、逃げ出したとは思われないでしょうか? それが心配になって、タルラさんに聞きに来たんです。
タルラ
ふっ、そんなことあるわけがない。
タルラも、遊撃隊も――どれもただの「名前」にすぎない。
その名前のもとに……考えや精神、気高い抵抗の炎を携え、各地にそれを振りまく。恥じる必要がどこにある?
感染者戦士
わかりました!
正直に言うと、まだ理解していない部分もありますが、タルラさんがそう言ってくれるなら安心です。
タルラ
ああ、心配しなくてもいい。
よし……ハンターたちの努力を無駄にしないためにも、そろそろ食事としよう。お前たちの罠の設置技術は実に素晴らしいものだったぞ。
感染者戦士
こうして食事にありつける日々こそを大切にします。タルラさん、俺たちはこの大地の隅々まで行ってみるつもりです。
おい! みんな、飯だぞ!