燃え易き「麦藁」
感染者監視隊
うわあああああああ!!
うぅ……ああああ!!
タルラ
……
アリーナ
タルラ! あなた――うっ……!?
この火はあなたが? あいつらはあなたが燃や……きゃあっ!
タルラ
アリーナ、すまない。これが村にとって、大きな災いになることはわかってる。でももう耐えられないんだ。
こんなの……もう耐えられない。
……アリーナ?
これまで見たことのない目つきで自分を見るアリーナに、タルラはたじろいだ。
アリーナ
あなたの瞳の中には炎が宿っている……
あなたがここに来た時からわかってたわ。この村でおとなしくしているわけがないって。
あなたにはあなたの元いた場所、いずれ帰るべき場所がある……あなたはこの村には収まらないわ。
タルラ
私には帰る場所などない。そんな目で私を見ないでくれ!
アリーナ
でも、あなたの瞳の中には確かに炎が見えるわ。
その炎で燃やしたいものがあるんでしょう。すべて間違ってると思いながら、耐えて、耐えて、限界まで耐えて……
でもそれが今であるべきじゃなかったわ、タルラ。今じゃないの。
村人たちは何も悪いことしてないのよ。衝動的な怒りの炎じゃ、彼らも傷つけてしまうだけよ。
感染者監視隊
一体何が――あぁっ!? 何が起きた! 誰だ? 誰がやった!?
おばあさん
タルラ! タルラ逃げて……逃げなさい!! 戻ってきちゃダメ! 絶対に戻って来るんじゃないよ!!
陛下、どうかあの子を……私の娘をお守りください! 生き延びさせてください。あの子に幸せな人生を歩ませてやってください!!
アリーナ
タルラ、行きましょう!
タルラ
ダメだ! ……くそっ、監視隊の奴らめ!
アリーナ
私たちは感染者だけど、村の人たちは違うの!
タルラ
私たち? アリーナ……一体何を――
アリーナ
私もそうなのよ、タルラ。私も……感染者なの。
アリーナ
ハァハァ……ここが……村が移動する予定だった場所よ。場所の整地はもうほとんど済んでる……でも……
タルラ
みんなは……爺さんは……
あの人たちを……二度と同じような目に遭わせたくない。
アリーナ
おじいさまは、あなたと私――そして村の人たちを助けようとしてくれたのよ。
でもあなたは……そんなおじいさまの心遣いを、全部台無しにしてしまったわ。
タルラ
何を言っているんだ? そもそも村人の誰かが密告を――
……いや待て。つまり、爺さんを密告したのは――
アリーナ
そう……おじいさま自身よ。あのままいけば、監視隊はあれ以上調査を行わなかった。それで終わりにできたかもしれないのよ。
あなたにどんなに力があっても、監視隊には対抗できない。
タルラ
私にならできる。
アリーナ
じゃあ、その後は? 憲兵が来たら? 都市の駐屯軍や貴族の私兵たちが来たらどうするの?
タルラ
今はまだ力不足なだけだ。時間をかけて力さえつければ――
タルラ
いや違う、そうじゃない。力不足だろうが、問題はすぐ目の前で起きているんだ!
目の前の悪行から目を背け、自己の保身だけ考えろというのか? それこそ違う!
……そんな自己中心的で冷酷非道な行為は、やつらと同罪だ!
犠牲ありきの正義は、本当に正義と呼べるのか?
アリーナ
……その質問に私は答えられないわ。その答えを見つけ出すのは、あなたよタルラ。私知ってるもの、あなたが私よりたくさんの本を読んでいるって。
ともかくもう既に村では死人が一人出てしまった。これ以上犠牲者を増やすわけにはいかないわ……
あなたは賢い。あなたならいつか答えを見つけられるわ。
行きましょう、タルラ!
タルラ
……私は必ず帰ってくる。
アリーナ
そうね、タルラ。そう自分に言い聞かせてあげて。