照準
マンフレッド
街の掃除は終わったか?
サルカズ戦士
はい、将軍。リストにあった者は全員処理しました。
それと他の区画や都市の外に逃げようとした者たちも、将軍のご指示通り、阻止をしておきました。
ただ何人か逃してしまいまして……そいつらを捕らえようとした戦士がまた昨日のあのロドスのサルカズに遭遇したようです。
マンフレッド
……その者たちは地下に行かせておけばよい。
マンフレッド
その方が一網打尽にできるだろう。
クロヴィシア
……地上の複数の連絡窓口が同時に攻撃を受けた?
トランスポーターは? みんな止められたのか?
クロヴィシア
……
クロヴィシア
ドクター、キミの意見を聞かせてくれ。
クロヴィシア
連絡窓口をすべて知っているのは、我々の戦士しかいない。
クロヴィシア
危険の種は昨夜のうちにまかれていたということか……
クロヴィシア
でも、私は自救軍の戦士を疑いたくはない。
クロヴィシア
彼らが自分たちの兄弟姉妹を裏切るなんてありえないわ。
クロヴィシア
ハイディと共に戻ってきたのは十二人だ。
そのうちの九人は、時々情報を提供してくれているにすぎない。
ほかの三人は物資の輸送を手助けしてくれたことがあるから、一部の連絡窓口の位置を把握している可能性はある。
クロヴィシア
……山ほど。
ドクター、私よりキミの方が理解しているはずだ。昨晩の作戦は非常にハードなものだった。理想を言えば当然彼ら全員を救出したいが、自救軍はまだそこまで強大ではないと認めざるを得ない。
ハイディの努力には頭が下がる。すでに私の予想を超えた数を救い出しているんだ。
クロヴィシア
昨晩の行動は不確定要素が多すぎた……
サルカズが事前に用意できたはずがない。
クロヴィシア
それは絶対にありえない。
クロヴィシア
そうだ。
サルカズの指揮官は愚か者ではない。彼は何としても自らの計画を成功させようとするはず。
クロヴィシア
つまり、仮に戦士たちの中に本当に裏切り者がいるなら……
それは、救出される可能性が最も高い者でしかありえない。
クロヴィシア
故郷のために命懸ける戦士を、私は安易に糾弾はしたくない……
クロヴィシア
証拠が必要だ。
ドクター、何か考えはあるか?
フェイスト
……
ロックロック
どうして立ち止まるの? ビルがもうすぐで目覚めるって、指揮官からメッセージがあったでしょ。
フェイスト
……ロックロック。
俺は指揮官のとこに行って、もう行動隊の隊長は辞めるって伝えようと思う。
ロックロック
……
ロックロック
これを見て。
フェイスト
包み? 中身は何だ?
ロックロック
ジョニーとガビが遺したものだよ。二人の家族に取っておくべきものは、まとめておいた。
ロックロック
残りは工具や武器だけ。君が本当に……彼らのことを忘れられないなら、使えそうなのを選んで改良して、二人にもあたしたちと一緒に戦い続けさせてあげなよ。
フェイスト
……
フェイスト
ハハ。
フェイスト
どうやら副隊長は俺の辞職願を却下したっぽいな……なら行くか。一緒にビルの所に行こう。
アーミヤ
目覚めましたか?
ビル
アーミヤさんか。
アーミヤ
ハイディさんは用事があって今は席を外しています。本当は彼女がここで負傷者の治療を指揮しているんですよ。
えーっと……あなたはフェイストさんの隊員ですよね。ビルさん、でしたか?
フェイストさんとロックロックさんを呼んできましょうか?
ビル
いや、大丈夫だ。
アーミヤさん。俺が今目覚めたのはお前と話しをするためなんだ。
アーミヤ
……ええと?
ビル
俺はアーミヤさんに……そうだね、ずっと興味を持っていた。
ロドスのアーミヤ……
彼らはなぜお前をこんなに信頼している? ただの十代のコータスにすぎないのだろう。
アーミヤ
それは……ロドスのオペレーターたちのことですか?
アーミヤ
私たちは様々なことを共に経験してきましたから。彼らが私を信頼しているとあなたはおっしゃいましたが、その通りです。でもその信頼はお互い様なんです。
私から見れば、自救軍のみなさんも同じような関係性です。あなたもフェイストさんやロックロックさん、それにクロヴィシアさんを信頼していますよね?
ビル
クク……互いに信頼しているだと? それだって、信頼に値する十分な理由と、苦難に満ちた試練が必要だ。
お前の権力は血筋によるものではない。地位も力によって保証されているわけではない。その身が得ている信頼と比べると、お前はあまりにも未熟すぎる。
アーミヤ
……ビルさん?
ビル
お前も考えたことはあるんだろう? しかし、それを表には出せずにいる。お前の恐怖、憂い、そして焦りは、すべて抑えつけられているんだ。彼らがお前に背負わせてる重圧によってな。
アーミヤ
私の心配をしてくれているのですか? もしかして、私とハイディさんとの会話を聞いていたのですか?
ビル
ふ……かもしれないな。俺は全部聞いていた。
アーミヤ
ご心配ありがとうございます。ですが、私はこの責任が他人に押し付けられたものだとは思いません。
アーミヤ
オペレーターの方々は私に期待を寄せてくれています。そして私もこの期待に応えたいと思っています。
ビル
もちろん……もちろんだとも。お前は常に彼らの熱い眼差しの中で生きている。
しかしアーミヤ……お前を見ている時、彼らはお前を通して、もう一つのより成熟した魂を探しているんじゃないか?
アーミヤ
……!
ビル
お前が信じているのは、本当のお前が信じたいものなのか、それとも……
ずっと他人に与えられた夢の中に沈んでいて……どんなにもがいても目覚められないのか。どうだと思う?
アーミヤ
ビルさん……いいえ、あなたはビルさんではありません!
アーミヤ
あなたは一体誰ですか?
ビル
いいや、その質問をしたいのは僕たちだ。
アーミヤ……アーミヤとは一体誰なんだ?
アーミヤ、私のお話が好きなの? 眠れなくはならない? あなたに恐ろしい夢を見てほしくないの。
見ないの? ふふ、本当に優しい子ね。
そうよ。違うところがたくさんあるように見えても、私たちはみんなこの土地から生まれた命なの。
あなたが聞いたこれらの物語は、人に恐怖をもたらす伝説だわ。でも同時にサルカズの歴史でもあるの。
アーミヤ
……
あなたはここから去るべきです。
ビル
手の平にエネルギーが集まっているのが見えるぞ。僕たちが誰か見当がついてるんじゃないのか? なぜ手を下さない?
アーミヤ
あなたの感情に触れることができません、「ビルさん」。
アーミヤ
ですが……あなたから悪意も感じられません。
ビル
ほう?
アーミヤ
続けて寝ているふりもできたはずです。ですがわざわざこんな話を私にするなんて……
ビル
はぁ、さっき言っただろ。僕たちは君に興味があるんだ。
君じゃなければ、僕たちだってこんなところに来たくないさ。テレシスも僕たちに命令することはできないんだよ。
アーミヤ
あなたの目的が何にせよ……こんなのは残酷です。
ビル
残酷……
僕たちが使っているこの顔のことか?
アーミヤ
ですから、あなたには去っていただかなければなりません。
漆黒の雷が再び彼女の手から噴き出し、自救軍の制服を着た男の周りで網を形成した。
その中の一本が光を全く反射しない刃となって、彼の喉に押し当てられた。
ビル
まったく……優しい威嚇だな。
アーミヤ、他にもそう言われたことがあるんじゃない? しかも、たくさんの人に。
君は本当に彼女に似ているよ。
アーミヤ
その話はもうやめてください。
ビル
残念だなぁ、君はやはり未熟すぎるや……
手を動かす前に、後ろを見てみるといい。
フェイスト
……アーミヤさん!?
あああんた……ビルを殺す気か?
アーミヤ
ち、違うんです……
フェイスト
……
クロヴィシア
ドクター、私を呼んだのは、この光景を見せるためだけではないんだろう?
クロヴィシア
キミが指しているのはきっとアーミヤではないのだろうな。ではビルか。
ビル
ロックロック……ロックロック、助けてくれ。
ロックロック
……
ビル
俺は自分が死のうと……お前を傷つけるようなことはしない!
アーミヤ
……彼に近付かないでください。私は……いえ、彼のアーツの全容は誰も把握していません。
アーミヤ
彼の言葉も……それに彼自身も、とても危険です。
ロックロック
アーミヤさん……君を信じていい?
昨夜、君はあたしたちと一緒に戦った。ロドスは君たちが言ったように、本当にあたしたちの仲間だと思ってた。
だけど……
アーミヤ
……
ロックロック
今の君の表情は怖いよ。どこかで見たことある顔で……
君は……君は自分がもたらそうとしている苦しみに悲しんでる。
だったら……どうしてまだ手を下そうとするの!?
あの人は……サルカズはあたしの目の前でお父さんを奪った。君はまたあたしから家族を奪うつもりなの?
アーミヤ
ごめんなさい、ロックロックさん……あなたの家族は、ビルさんはもういないんです。
ロックロック
ビルはそこにいるよ! そこで座ってるじゃない!
アーミヤ
これを受け入れるのは……あなた方にとっては、きっと難しいことです。
ロックロック
……どういうことなの。もうわかんないよ。
クロヴィシア
アーミヤ、我々はキミを信じたくないわけではない。だが私たちにはキミのようなアーツが使えない。キミに見えるものが見えないんだ。
フェイスト
……
指揮官……俺には見える。
ロックロック
隊長?
フェイスト
こいつは多分、本当に俺たちの知ってるビルじゃない。
ロックロック
でもビルの体にある傷は……どれも昨日あたしを助けてくれた時のものだよ!
フェイスト
ロックロック、あんた言ってたろ、サルカズは変装が馬鹿みたいに上手いって。見た目に騙されちゃダメだ。
ロックロック
それは……
フェイスト
俺はビルに渡すつもりだったハガネガニを持ってきてたんだ。
ほら……
ビル
うん? これはいつの間に俺の体を登ってきていたんだ?
フェイスト
こいつは全然気付かなかった。アーミヤさんしか見てなかった。俺たちを騙せたことで天狗になってんだ。こいつとっく忘れちまってんだよ……俺たちの約束なんて。
ロックロック
……
ビル
この不格好なロボットが理由か?
フェイスト、ずいぶん軽率な判断だと思わないか? 俺たちは一番の兄弟だろ。
フェイスト
ここ数日で俺は軽率な判断を山ほどしてきたよ。
ビル……もしビルがここにいたら、きっと声を上げて俺を笑ってただろうな。あいつに会いてぇよ、とんでもなく会いてぇよ。
フェイスト
あんたが誰であろうと……俺にレンチで仮面をぶっ壊す真似はさせないでくれ。
ビル
ロックロック、お前もフェイストと同じように、俺を傷つけるつもりか?
ロックロック
あたしはいつまでも家族を信じる。
ロックロック
でも君は……だんだんとビルじゃなくなってるよ。
ロックロック
ビルは君みたいな話はしない。あたしたちに迫るようなことは絶対にしない。
ビル
……お前たちは本当に俺がビルじゃないと思っているのか? フェイスト、お前はそんな現実を受け入れることができるのか?
わかってるのか、お前は二人の仲間を無駄死にさせたことになるんだぞ?
フェイスト
……っ。
フェイスト
クソ野郎が! てめぇにだけはその言葉を言う資格はねぇ!
ビル
クク……それなりに賢かったな、だが……
ビル
もう遅い。
マンフレッド
砲兵、準備はよいか?
サルカズ戦士
はい、将軍。防衛砲の砲口は目標区画へと向いています。
マンフレッド
駅と線路を除いて、あらゆる建築物が攻撃のターゲットであることを忘れるな。
サルカズ戦士
わかりました!
マンフレッド
出力を最大にしろ。
サルカズ戦士
さ、最大ですか? それでは基礎構造層まで爆破してしまう恐れが――
マンフレッド
聴罪師のトランスポーターの話を聞いていたか? この区画は上部の工場も含めて、我々にとってもう用なしだ。
サルカズ戦士
な……なら下にいる我々の者たちは……
マンフレッド
ヘドリーには城壁の下の安全エリアを守らせてある。
サルカズ戦士
いえ、まだ他にも……
マンフレッド
ふむ……反乱軍を探しに地下へ向かおうとしている者が誰か知っているか?
サルカズ戦士
大君ですか?
マンフレッド
知っているならよい。この砲撃でブラッドブルードの大君を殺すことができるなら、それはまた……とても意外なことだ。
マンフレッド
もう一人については……
マンフレッド
ずっと興味があったのだ。彼が全力で大君と戦ったら、勝つのは一体どちらなのかとな。
クロージャ
よかった、みんなここにいたんだね――
クロージャ
あれ? どうして君たち喧嘩が始まりそうなの?
クロージャ
ドクター、言われた通りにドローンを地上に向かわせたけど――あいつらやっぱりまた始めたよ! あ、あの都市防衛砲! 明らかに動いてた!
クロヴィシア
ハイディとハマーに知らせて、すぐに撤退する。
クロージャ
待って、強烈な源石反応を検知した! あいつらが狙ってるのはあたしたちのいる場所だ!
十秒、あと十秒だよ――
九秒――
ビル?
――なぜ俺をつかむんだ?
フェイスト
……あんた言ってただろ、俺たちは一番の兄弟だって。俺は……軽率な判断をしたくないんだ。
ロックロック
隊長……あたしじゃ……君たち二人を連れてけない……
ビル?
……
お前たちは……確かに面白いね。
じゃあな、隊長。
じゃあな、ロックロック。
ビルは、お前たちに生きてほしいと願っていたよ。これは彼が言いたかった最後の言葉だ。