振りかぶられた刃

ヴィクトリア士官
おい……まだ装填の回転率を上げるのか?
君たちは本当に都市内の移動区画を徹底的に潰すつもりか?
サルカズ戦士
貴様は将軍の命令に逆らう気か?
ヴィクトリア士官
わ……私はただこれほどの規模の爆撃、城壁に影響があるのではないかと心配しているだけであって……
過去にない事例だからな。もしロンディニウムで都市内の区画を取り替えたいなら、我々は城壁も同時に制御しなければならない……
サルカズ戦士
御託はいい。
いい子にして従うか、それとも死ぬか? 選べ。
ヴィクトリア士官
それは……
サルカズ戦士
何だ?
ホルン
彼には第三の選択肢もあるわよ。
サルカズ戦士
貴様――! うぐっ――
ホルン
立てますか、大尉?
ヴィクトリア士官
だ……大丈夫だ。君は?
ホルン
あなたのかつての戦友です。
サルカズ戦士
こっちだ! こっちに何者かが紛れ込んでやがる!
ホルン
――
サルカズ戦士
その盾、クソッ、何故ヴィクトリア兵が――
ホルン
扱い慣れた武器を手にするのは気分がいいものね。
ホルン
大尉、私のこの規模の手砲で……都市防衛兵器の装填システムを破壊できますか?
ヴィクトリア士官
む……無理だ……
ホルン
まあ想定通りですね。
救出された兵士
ホルンさん、外のサルカズは片づけました!
ホルン
Miseryさんの助力に再度お礼を伝えておいてちょうだい。
ホルン
大尉、防衛砲を停止する他の方法はないんですか?
ヴィクトリア士官
……
ホルン
そんな深刻そうな顔をする必要はないでしょう。私たちが来ることはとっくに予想できていましたよね?
ご丁寧に都市防衛軍兵士の識別コードを消さずに残していますし。
ヴィクトリア士官
……これはうっかりしていただけだ。サルカズは……少なくとも、たかが消し忘れくらいで私を殺したりはしない。
ホルン
でも、ここで私たちを助ければ、あなたは処刑されるということですか?
ヴィクトリア士官
私の家族もだ。
彼らはいつでも処刑される可能性がある。全ては私の行動次第だ。
ホルン
そう、よくわかりました。
ホルン
カール、この都市防衛軍の裏切り者に狙いを定めて。
救出された兵士
えっ、中尉……どこを狙うんですか?
ヴィクトリア士官
ここだ。私の心臓を狙え。
私が死ねば……私の死だけが、サルカズの監視から家族を守る方法なのかもしれない。
ホルン
……
覚悟が決まっているのなら、我々が手助けできます。
ヴィクトリア士官
感謝する、中尉。
都市防衛砲を停止する方法は二つしかない。
一つはあのサルカズの将軍に止めさせること……もう一つはこの制御室を完全に破壊することだ。
ホルン
一つ目の方法は、マンフレッドを倒す必要がありますね。
ヴィクトリア士官
そうだ。二つ目の方法に関しては……君たちの火力では足りない。それに……中尉、君は自分がロンディニウムの城壁の一角を破壊する覚悟はできているのか?
ホルン
……
我々がこれからとるべき道はわかっています。
大尉、あなたは……準備はできましたか?
ヴィクトリア士官
この瞬間を待っていた……ずっとな。
救出された兵士
……中尉、心臓に当たっていません。
ホルン
手が滑ったわ。
ホルン
彼を昇降機に乗せて、下に運んで……彼の生死は本人の手にあるべきよ。
ホルン
今日の城壁は十分に賑やかだもの、裏切り者はもう要らない。
救出された兵士
では我々は? 引き続き上へと向かいますか?
ホルン
ええ、マンフレッドの顔をもう一度拝みに行きましょう。
クロージャ
わわ、この昇降機速すぎるよ――
フェイスト
ちょ……今話すのやめてくんね……ドクターの体に吐いちまう。
こちとら、たった今までジップラインで数百メートル引っ張られてたんだぞ……
アーミヤ
みなさんちゃんと立てますか? 敵が来ました!
サルカズ戦士
ここにも侵入者がいる! すぐに将軍に報告しろ!
アーミヤ
クロージャさん、防衛砲を停止させる方法を一早く見つける必要があります――
もしマンフレッドに勝たねば止まらないということなら、速戦即決しないといけません。
アーミヤ
時間が経てば経つほど、地下に残したオペレーターや自救軍の方たちはさらなる危険にさらされます。
ヘドリー
ゴホゴホッ……ゴホゴホゴホッ。
???
大して戦場も見たことない若者相手にそのザマなんて……随分とみじめね。
ヘドリー
……矮小なハガネガニであろうと、窮地に追い込まれれば人の手を挟むこともある。
???
マンフレッドがその言い訳を信じてくれることに賭けるといいわ。
ヘドリー
お前はここにいるべきじゃない。リスクが大きすぎる。
???
だから私の手助けを受けるより、廃墟で一人休んでた方がいいってことかしら?
ヘドリー
うぅ……俺を支えるなら……せめて反対側に来てくれ。
ヘドリー
こちらの腕は、彼女のおかげで、今はまだ動かない。
???
彼女に会ったのね。結論は?
ヘドリー
彼女は確実にあの「殿下」に気付いている。
???
なら……
ヘドリー
彼女の考えは変わっていない。
???
本当に? 私たちは彼女のあの時の様子を見てるのよ。
重傷の我が身を顧みず、刺客たちを殺すために追っていた時、彼女が願っていたのは……殿下がまだ生きていることじゃなかったの?
ヘドリー
彼女はもう、かつての狂気じみた傭兵ではない。
???
それってもっと狂ったってこと?
ヘドリー
……どうだろうな?
ヘドリー
中身はわからないが、事実として、彼女は単独でロンディニウムに潜入し、半月の間何も爆破することなく、マンフレッドの目からも逃げ切った。
ヘドリー
以前の彼女であれば、とっくに西部大広間に乗り込んで、聴罪師に殺されるまでの隙に、テレシスの玉座の下に地雷を百個埋めていただろう。
ヘドリー
バベル……いや、ロドスの連中と一緒になって小利口な企みでもしているのだろう。
???
それを確認するためだけに、自分の命を危険にさらすなんて、リスクが高すぎるとは思わないの?
ヘドリー
マンフレッドの手下が常に俺を見張っている。これが比較的安全に会う唯一の方法だ。
???
でもシュワブは惜しいわね……
ヘドリー
Wの提案を引き受けた時から、彼には準備ができていたさ。
ヘドリー
いや……俺たちはみな準備できていると言うべきだな。
???
……それは重畳。
ヘドリー
誰だ――?
???
聴罪師の……匂い。
聴罪師直属衛兵
マンフレッドにも困ったものです。あなたは信用できないと、とうに話していたのに。
ヘドリー――これしきの小賢しい芝居で、本当に我々の目を欺けると思っているのですか?
ヘドリー
……ただの誤解だ。
聴罪師直属衛兵
ほう、そうですか? では残念ですね、あなたにはもうリーダーと摂政王に弁解する機会はありませんから。
もう首を垂れて従順な姿を演じる必要はありません。武器を掲げ、あなたの最後の戦闘を楽しみなさい、傭兵。
ヘドリー
もし……それが命令なら……
聴罪師直属衛兵
力のない攻撃ですね。
お仲間を庇おうとするのは諦めなさい。
ここのあらゆる影は……私の目から逃れることはできません。
???
ヘドリー……
ヘドリー
先に行け!
???
いいえ、そんな命令聞けないわ。私たちは苦労してこんなに遠くまで来たのよ――
ヘドリー
だったら! なおさらここで一緒に死ぬわけにはいかないだろ!
聴罪師直属衛兵
ご心配には及びません。お二人とも、この場で葬って差し上げますから。
相談の時間を差し上げましょう、どちらから先に逝きたいか――
ぐっ!?
ヘドリー
何の前触れもなく……倒れた?
お前……来たのか。
アスカロン
……この者は自重を学ぶべきだ。
影を余さず掌握できる者などいない。目の届かぬ場所には、あらゆる可能性が潜んでいる。
ヘドリー
ゴホ……ゴホゴホッ……
アスカロン
行け。命が惜しくば、急ぎ日差しの下へ帰れ。
ヘドリー
お前は?
アスカロン
私には任務が残っている。
アスカロン
……この場を訪れているのは、聴罪師の下僕だけではないのだ。
クロヴィシア
何の音?
自救軍戦士
指揮官、後方の金属材が倒れました――
クロヴィシア
それだけじゃない……
シージ
……奴が来た。
クロヴィシア
キミも気付いたのだな?
モーガン
ヴィーナ、砲撃の音以外、何も聞こえなかったよ?
シージ
……脈拍の音が消えた。
モーガン
え?
シージ
逃げろ!!!
クロヴィシア
第十二隊の信号が、完全に途絶えた――
シージ
全滅だな。
クロヴィシア
ああ……
たった今、彼らの音が完全に消えた。
シージ
この……真っ暗なパイプは、本来音を増幅させる。
人の呼吸音や足音、ハガネガニが這う音、それに機械の動作音――
生命が存在する限り、このパイプがその脈の音を記録する。
シージ
そして今……あらゆる音が呑み込まれた。
モーガン
それって、つまり吾輩たちの背後のこの闇が――
シージ
あらゆる生き物を呑み込でいる。
クロヴィシア
……三ヶ月前のあの貴族のパーティーと同じ状況だ。
クロヴィシア
エンジニア隊、第一防御ゲートを閉じろ!
自救軍戦士
はい、指揮官!
クロヴィシア
シージさん、キミは……随分と鋭いんだな。
ロンディニウムの地下構造に詳しいのか?
確か、フェイストがキミのことを……地元民と言っていたな?
シージ
私は……一度しか来たことがない。
シージ
だが、パイプラインに関しての話は沢山聞いてきた。
クロヴィシア
百年以上前、ロンディニウムの中心を火災が襲ったことがある。その時、王室と一部の貴族だけが激しい炎の餌食にならずに済んだ。
それ以降、人々の間で噂が流れた。王宮が立っている山の中には不思議な魔法陣が隠されていて、王室の者をどんな恐ろしい災難からも逃れさせるという話だ。
初めてこの噂を聞いた時、私は……もしかしたらこういった地下道を秘密の逃げ道として使用していたのではないかと考えた。
シージ
ああ……私が聞いた話も、貴様が今話したものに似ている。
クロヴィシア
ロンディニウムを建造した労働者と、高所から見下ろす王侯貴族が災いによって同じ道を歩くことを余儀なくされるとは――
クロヴィシア
これだけでもなかなかに興味を引く物語だな。
自救軍戦士
指揮官、防御ゲートが揺れています!
シージ
……このゲートでは奴を止められない。
自救軍戦士
まさか! このゲートの分厚さなら、装甲車両の砲撃を少なくとも七回か八回は耐えられますよ!
シージ
後退、引き続き後退しろ!
鋭い轟音と共に、金属のゲートに一筋の亀裂が入った。
ゲートの向こう側で巨大な力が振るわれると、分厚い金属はまるで紙のように裂けていく。その奥は、漆黒がのぞいていた。光を飲み込む黒々とした闇はまるで化け物の口のようであった。
クロヴィシア
第二防御ゲートを閉じろ!
自救軍戦士
はい……っぁ!!!
ゲートを操作した戦士が足を滑らせたかのように、叫ぶ間もなく、見えざるものに影の中へと引きずり込まれる。彼が完全に向こう側へ消えたと同時に、重々しい音を立ててゲートが下りた。
赤い血が扉の下の隙間から滲み出す。
しかしすぐに、その血だまりさえも捕らえられる。瞬きの間にゲートの向こう側から噴き出した影が通路の大半を呑み込んだ。
ゴーンと、再び耳を劈くような轟音が響いた。もはや発生源がどこかもわからない。
パイプが揺れる。影の縁がぼやけた。捕食者が口器を伸ばすかのように、逃亡者の足を絡めとろうと試みる。
シージ
私は……もう一つ別の話を聞いた。
二百年前の戦争で、ヴィクトリア軍は他の二つの国と共に、当時カズデルと呼ばれていた都市を包囲した。
そしてある晩、完全武装した部隊が駐屯していた谷間から忽然と消えた。
軍を率いていた伯爵が人をやって捜索をしたが、そこで見たのは日の光により全体が赤く染まった山壁だけだった。
シージ
だが皆の記憶では、その日は……陽の光が途絶えたらしい。
クロヴィシア
第三防御ゲート――
シージ
これが……最後のゲートか?
クロヴィシアは口をつぐんだままだった。
まるでその答えすら……化け物に呑み込まれてしまったように。