そびえたつ城壁
マンフレッド
君たちはもうほんの数人しか残っていない。
マンフレッド
これまでの戦場であれば、私を止めるに、ヴィクトリアは少なくとも二名以上の蒸気騎士を使う必要があった。
マンフレッド
だが君たちを見てみろ――
マンフレッド
ただの普通の兵士の集まりにすぎない。
ホルン
――陣形を保て!
盾にはまだエネルギーがある、私と共に立て!
狙撃兵、火力を維持し、敵を牽制しなさい!
ロッベン
はい、ホルンさん!
ホルン
言ったはずよ――彼がどんなに強くても、人間の身体を持つサルカズの感染者にすぎないわ。アーツを使うにも限界がある!
マンフレッド
私の身体がアーツで消耗するのを待つつもりか?
マンフレッド
私が力尽きるまで、君たちの命がもつと思うか?
ヴィクトリア兵士
くっ!
ホルン
ブレイク!
ヴィクトリア兵士
ホルンさん、私の剣を受け取ってください――
ホルン
――わかったわ。
マンフレッド
地に倒れる時でさえ、彼らが君に向ける瞳には希望が見える。
マンフレッド
このような光は、ロンディニウムではもう見ることはないと思っていたよ。
マンフレッド
だがこんな微弱な光が、いつまで続く?
ロッベン
ホルンさん!
ホルン
……ロッベン?
ロッベン
ハァ……ハァ……ここから落ちても……ただロンディニウム……ロンディニウムの土地に還るだけです。
ホルン
……
ホルン
サルカズ!!!
マンフレッド
……一度に残りの弾薬をすべて撃ったのか?
素晴らしい。初めて私の歩みを止めたな。
だがこれまでだ。もはや君に手は残されていない。
仲間が一人ずつ死んでいくのを目にして、君も戦意を喪失したか、白狼?
ホルン
……
リタや。
父に対するお主の失望は理解しておる。
そうじゃ。わしらの身体には戦士の血が流れておる。
じゃがヴィクトリアが蒸気機関車を発明し、そして数十年後に蒸気技術を放棄したように――
今やヴィクトリアは玉座を下り、仰ぎ見られるべき王冠を外した。わしやお主の曾祖母のような戦士が、この国のために戦う必要はもうなくなったのじゃ。
いつの日か、白狼はかつての主たる獅子のパーディシャーと共に、歴史書にしか残らない曖昧な姿となるじゃろう。
お主の父はそれに気付き、一族が時代の波に押しつぶされるのを防ぐために、自らの鋭い爪を鈍らせたのじゃ。
じゃがお主は違う。
お主は変化するヴィクトリアで育った。
リタ・スカマンドロス、お主はもうアスラン王のために各地へと戦に赴く必要はない。
じゃがヴィクトリアはずっとお主の家なのじゃ。
ホルン
サルカズ……あなたたちがロンディニウムに蔓延っている限り、私には戦う理由がある。
私と全ヴィクトリア人の気持ちは一つよ。――あなたを倒す!
マンフレッド
君の盾はもはや役に立たない。
ホルン
でもまだ剣がある。
マンフレッド
剣……フッ、ただの普通の剣ではないか。
マンフレッド
そんな剣で私と戦いたいと?
ホルン
ハッ……この剣を、そして私をなめない方がいいわよ。
ホルン
あなたは……蒸気騎士を覚えていたようだけど……
ヴィクトリアに作ってもらった甲冑を脱げば……
ホルン
彼らもただの――
ヴィクトリア人よ!
フェイスト
まさか……入れたのか? この壁どうしてこんな柔らかくなったんだ……
クロージャ
ほんとだよね。てっきり頭がロンディニウムの城壁にぶつかってかち割れちゃうかと思ったのに!
アーミヤ
Miseryさんのアーツですよ。クロージャさんを傷つけたりしません。
Misery
ああ……ケルシーが言っていたからな。あなたの頭脳はロドスの大切な資産だと。
クロージャ
あたしの手だって安くないよ!
クロージャ
今回の経験でわかったよ。もう今後君にどっか連れてってもらうのはごめんだ……あんなアーツだったら、ブレイズに抱えられて行く方が快適だよ!
クロージャ
そうでしょ、ドクター?
アーミヤ
そうですね。Miseryさん、私には見えていましたよ……マンフレッドの一太刀が、もう少しであなたを突き刺すところでした。
Misery
あんなのは苦し紛れの一撃にすぎない。
アーミヤがうまくあいつの怒りを煽ってくれたおかげで、俺は気付かれずに近付くことができた。もう奴を騙すことはできないと思っていたんだ。
アーミヤ
私にその気はなかったのですが……
彼が問い詰めてきた時、私は確かに彼の怒りを感じました。あの怒りは私に向かってきていました。
Misery
あいつが全力を出したら、あの場にいる者たちだけでは、いくらも持たない。俺が……ゴホゴホッ……
アーミヤ
Miseryさんがあのヴィクトリア将校を助けに行きたいのはわかります。ですが今日のように大規模な物質変換アーツを何度も使用することは、あなたの身体に大きな負担がかかります。
Misery
……安心してくれ、アーミヤ。
俺はそう簡単に死ぬことはない。それに、ケルシーと約束したんだ……
アーミヤ
あなたたちエリートオペレーターは……どれだけケルシー先生と約束すれば気が済むんですか?
アーミヤ
応急薬を打ってください。ロンディニウムの戦いは始まったばかりなんです。物陰に隠れて、吐きかけた血を飲み込む姿はもう見たくないです。
Misery
アーミヤ、敵が来た。
アーミヤ
はい、Miseryさんがロンディニウムの都市防衛システムの弱点を見つけてくれました……私たちはこの制御室を破壊しないといけません。
マンフレッド
速いな――白狼、これが君の本当の顔か?
マンフレッド
これほど獰猛な爪と牙が、ヴィクトリア貴族の枠にはめられ、飼い慣らされるなど……惜しいと思わないのか?
ホルン
……サルカズ、今のあなたのその姿、まさか文明のラッピングを受けていないとは言わないわよね?
以前のあなたたちはこんな姿ではなかったと聞き及んでいるわ。
マンフレッド
君が全力を尽くそうと、私を殺すことはできない。都市防衛システムが稼働している限り――
いや、違う。君もただ私を足止めしたいのか!
君は――君とロドスの者はまた協力したというわけか。
マンフレッド
彼らが何者か知っているか? あのリーダーのコータスは……
ホルン
……私が知ってるのは、彼らならあなたに対抗できるってことよ。
マンフレッド
白狼、もし君たちが今日本当に成し遂げれば……ロンディニウムの城壁の一角が崩れる光景を、君はその目で見ることになるのだ。
それが君の望みか? 永久不落のロンディニウムが、今後は神話ではなくなるかもしれないぞ――
ホルン
……今後?
ホルン
あなたがここにいる以上……不落のロンディニウムなんてものは、自己欺瞞の笑い話にすぎないわ。
マンフレッド
おのれ! もし外の大公爵たちが気付けば――
ホルン
知っているかしら? あなた今初めて焦った顔を見せてくれたわ。
それはつまり私の決定は正しかったってことよ。
ホルン
この城壁が……都市内のヴィクトリア人の叫びを遮断するためだけになっているなら、とっくに作られた当初の意味をなくしている。
ホルン
だからあの大公爵たちに聞かせてやるべきよ!
ホルン
私たちの……同胞がいかにしてサルカズの虐殺のもとで泣き叫んでいるかをね!
ロンディニウム市民
いつ……いつになったら出られるの?
ううっ……この通路は崩れてしまうんじゃないの……私たちはみんなここで死ぬの?
ハイディ
足元を見てはいけません、振り返ってもいけません。
ハイディ
怖くてどうしようもないなら、顔を上げて前を見るのです。
ハイディ
信号灯はまだ光っています。これは私たちの戦士が灯してくれた希望です。
ハイディ
あの灯火が明るくなっていったら……私たちはまたロンディニウムの日差しを目にできるようになります。
自救軍戦士
サルカズの火力がヤバすぎる――
ロックロック、列車にちっとも近づけねぇ。
ロックロック
……
自救軍戦士
砲撃もまだ止まっていない……下の奴らはまだ耐えられるか? 俺たちの時間はあとどれくらいある?
指揮官たちからも連絡がない……
ロックロック
あたしは……家族を信じてる。
ロックロック
それがあたしがここまで頑張ってこられた唯一の理由だから。
インドラ
クソがっ、どうやっても振り切れねぇ!
モーガン
違うよ……あいつのさっきのスピード、あんたも見たでしょ?
あえてゆっくりしてるんだよ。わざと……わざと吾輩たちをこれだけ長い間泳がせてる……
インドラ
どんな変態だよそりゃ?
???
ふむ……あなた方の呼吸音と心拍を聞くに、ようやく走り疲れてきましたか?
シージ
これが……サルカズの誉れか?
こんなもの到底戦いとは呼べない。
???
……戦い?
あなたは私を誤解しているようですね。
「魔王」が不在であるなら、私に相応しい敵などはなから存在しないのです。
あなたは肉獣の群れと誉れについて語り合うのですか? それらを狩るのはただ刺激を得るためだけの行為であり、相手は前菜として食卓に上がるだけの存在だとわかっているのに?
シージ
貴様は私たちを……獲物だと思っているのか?
貴様がサルカズだとしても、個人の趣味によって虐殺する行為は、あまりに野蛮と言わざるを得ない……
???
あなた方の理解する文明でもって、私を推し量るのはやめていただきましょう。それは私にとって何より恐ろしい侮辱です。
???
汚れた瓦礫があなた方を肉のパティにする前に、どうぞ私に抗ってみてください。
あなた方の鮮血で死に際の感情を記録するといたしましょう……あらゆる恐怖を、悔恨を、憤怒を……ありのまま私にぶつけてみなさい。さあ足掻きなさい!
インドラ
ヴィーナ、早くこっちへ――
シージ
いや。
モーガン
ヴィーナ!
シージ
モーガン、貴様も下がれ。
くっ……
クロヴィシア
我々全員の前に出て、あいつに立ち向かうつもりか?
シージ
……そうだ。
クロヴィシア
キミではあいつの相手にならない。
シージ
だろうな。
クロヴィシア
たとえ一瞬で引き裂かれ、このパイプの中で黒い染みを残すだけだとしても、それでも逃げないというのか?
シージ
貴様らが……私よりも速く走れるのなら話は別だが。
クロヴィシア
どうして?
シージ
それは……
私がそうしたいからだ。
シージ
頭上にある都市がこちらに向かって崩れるその瞬間、私は一番初めにそれを抱く者でありたいんだ。
クロヴィシア
だったら……
パイプ内の信号灯がちらっと輝いたように見えた。
見間違いだろうか? なぜロンディニウムの地下に星の光が? いや……たとえ地上にいたとしても、暗雲の向こうにある星々を、彼女たちはどれだけ長い間目にしていないだろう?
シージがまばたきした。
ふいに、それが星などではないことに気付いた。
それはボタンだ。
これまで光を遮っていた汚れは振動で落ち、薄暗いパイプの中で星のように輝いていた。そして彼女は偶然にもそれが何のためのものであるかを知っていた。
三歳の時、彼女は初めて王宮の地下に連れて来られた。
先生は彼女を背負い、大きな爪で彼女の手を取りボタンを押すよう促した。
ロンディニウムの地下空間は躯体を伸ばしながら、未来の王に向けて生気あふれる血管をあらわにした。
二十数年後の今――
彼女は再びそのボタンの前にいる。
クロージャ
全部のポイントに爆弾を仕掛け終えたよ!
フェイスト
ドクター、撤退の準備ができたよ!
サルカズ戦士
こっちだ、早く来い、奴らを止めろ――
アーミヤ
くっ……
クロージャ
アーミヤちゃん! 大変だよ、奴らどんどん増えてきてる……Miseryが駆けつけるの遅かったのかな、もしかしてマンフレッドを止められなかったとか?
アーミヤ
私が止めます、みなさんは先に行ってください!
ドクター、起爆装置を私に――
アーミヤ
ドクター、私が敵の足止めをしないと、みなさんに逃げる時間がありません!
みなさんが無事に撤退できたら、私はすぐにこの制御室を爆破します――
アーミヤ
ドクター、今すぐどうにかしないといけないんです! 自救軍の戦士も、ヴィクトリアの兵士も、ハイディさんやシージさんたちも……
アーミヤ
それから砲撃を受けているヴィクトリア人も、みんなもう待てないんです!
アーミヤ
ドクター……!
サルカズ戦士
ゴホゴホッ……黒い線が覆い尽くして……何も見えねぇ!
アーミヤ
今です!
ドクター、どうして……私の前に立つんですか?
こうしたいからだ。
アーミヤ
私はもう……あのか弱かった子供じゃないんですよ……
もうドクターの足を引っ張ったりしません。敵のアーツや炎を食い止めることだってできますから。
わかっている。
アーミヤは強くなった。多分自分よりもずっと。
だが何度選択する機会を与えられようと……
相手がドラコの炎だろうと、この爆発の炎だろうと……
自分はこうする。
アーミヤ
ドクター……
フェイスト
っし。ふぅ……つかんだ!
ドクター、腰にジップラインを六本結ばせたのはこの時のためだったのか?
動きづらくなるが……まあいいや、どうせあんたは元々大して速く走れねぇし……
クロージャ
ドローン、行け!
ドクター、驚いた? ご要望に応えて、ようやくドローンに新機能を――人を引っ張れる機能を実装したよ!
バッテリーの時間には限界があるけど、少なくとも安全に着地はできるよ――
マンフレッド
制御室が――!
ホルン
彼ら……やったんだわ……
ホルン
うっ……
マンフレッド
君は……とっくに力尽きていたのか? 剣を振るうことすらできない……
……全力をふり絞って立っているにすぎないのか。
ほかの者であれば、その傷ならとっくに十回は気を失っている!
ホルン
……ようやく気付いたの? 遅いわね。
マンフレッド
……
サルカズ戦士
将軍、制御室の爆発が防衛砲に影響を与えています。砲台がここら一帯の壁ごとひどく損傷して崩落しそうです――
これ以上留まれば、我々も落ちてしまいます!
マンフレッド
……全員に伝えなさい、撤退だ!
サルカズ戦士
ならこの兵士は……
マンフレッド
……私はすでに勝利した。しかし彼女を地に倒すには、いま少し手間がかかるだろう。
この場所は、もはや私がその時間を費やすに値しない。
ホルン
ハッ……ハハ……
マンフレッド
ヴィクトリアの白狼、君は尊敬するに足る相手だ。
マンフレッド
もし君が生きてこの城壁から下りられるようであれば――
マンフレッド
次に会う時は私の剣で贈ろう……君の勇敢さに相応しい死をな。
ホルン
次……
次はあるのだろうか?
ロンディニウムの城壁が崩壊していく。
彼女も落ち続けている。
ホルン
私……やったわ。
あなたたちが……ここを離れるまで……
……倒れなかったわ。
失血により彼女はほとんどの知覚を失っていた。
しかし彼女の身体はまるで剣と盾の一部になったように、鉄よりも硬くなっていた。打ち砕かれない限り、絶対に曲がることはない。
ヴィクトリアが作り出した兵器は、いまだロンディニウムの城壁の上にある。
ヴィクトリアが鍛え上げた戦士も、ロンディニウムの城壁に立ってこの都市を守る。
城壁の一角が崩れロンディニウムの地面に向けて落ち――
彼女もようやく生まれ育った土地に帰る。
ホルン
この壁は……一体どれだけ高いの?
どうして私は……
……上に向かって飛んでいる?
???
ホルンさん、まだ動けますか? 私の手をつかんでください!
ホルン
……ロッベン?
あなた……生きて……
ロッベン
はい、生きてます! 運が良かったです、落ちた時に外壁の出っ張りに手がかかって、その後はMiseryさんに助けられました!
Misery
来い、兵士。あなたの戦いはまだ終わっていない。
ホルン
……あなたたちね、私に休憩もとらせないつもり?
ロッベン
ダメです!
ホルンさん、目を閉じてはダメです! 忘れないでください! ここにまだいるんです! あなたの兵士がまだいます! まだ倒れてはなりません!
ホルン
ロッベン、あなた……私の隊員の誰かさんみたいに口うるさくなったわね。
まあいいわ……ずっと前からあなたたちには敵わなかったものね。
彼女の視界がまた鮮明になった。
ロンディニウムの城壁はまだそこにある。最上部が小さく欠けているが、変わらず堅固にそびえ立っているように見える。
モーガン
……この震動は?
インドラ
地下がついに砲撃で崩れたってか?
モーガン
いや、違うっぽいよ。
この震動は足元から来てる――
モーガン
ヴィーナ、あんた何したの?
シージ
……道を見つけた。
自救軍戦士
この通路が……上に移動しているのか?
マジかよ。長いことここにいるが、こんな仕掛けがあるなんて全く知らなかったぞ?
クロヴィシア
……他の地元民よりも、色々知ってる「地元民」がいるものだ。
シージ
……
インドラ
あの化け物……
インドラ
追って来るか?
シージ
……来る。
シージ
だがそれは今日ではないかもしれない。
???
新たな逃げ道を見つけられたとは。
ほう……なるほど。
この香りは……そちらのフェリーンが放っているものでしょうか?
いえ……いわゆる「王族」というのは、権力を強固なものにするために作り出した虚像にすぎず、この国の文明と同様に滑稽なものです。
たとえ彼女が例の逃げ出した小さな獅子だったとしても、血の香りが他のフェリーンと異なるはずはありません。
ならこの明らかに異なる香りは……
面白い。
テレシスはこのことを知っているのでしょうか?
確認するチャンスなどお前にはないがな。
???
ほう?
あなたのことは覚えていますよ。……テレシスのそばにいた見習いですね。たとえあなたの先生がこの場にいても、私を軽々と止められるとは限りませんが?
あの者は既に私の師と名乗る資格を失った。
???
ん?
この呪いの香り……あなたも来ていたのですか、若きバンシー。今頃私の従者たちとゲームに興じているものかと思っていましたが。
有象無象の術師にすぎぬ、あやつらでは我の足止めにもならぬ。
???
はぁ……これではどうにも難しそうです。
この崩壊しつつある地下道は王庭が会するに相応しい場所とは言えませんよ。
あたしは完全に眼中にないってことかしら? テレシスから何か学んだことがないうえに、高貴な血も流れてないから?
あのナルシストジジイ、本気でうざいわね。爆弾百個使って送別会でもしてあげようと思うんだけど、あんたたち反対しないわよね?
マンフレッド
……状況の報告を。
サルカズ戦士
ロドスの者は制御室から飛び出ていきました。例のコータスも一緒です。狙撃に失敗しました――
マンフレッド
地下通路の反乱軍は?
サルカズ戦士
えっと、下で爆発の発生を検知しましたが……大君はまだ戻ってきていません。
マンフレッド
ヘドリーはどこだ?
サルカズ戦士
彼は重傷を負って、意識を失っています。
マンフレッド
……
マンフレッド
残りの者を集めて隊を編成し、直ちに都市防衛システムを調査し損害を報告しなさい。より多くの都市防衛炮を常時起動できるようにしなければならない……主砲を含めて。
マンフレッド
それ以外の者は、駅を包囲せよ。生き残りの反乱軍は必ずそこに現れる。
サルカズ戦士
せ……斥候からの報告によると、駅に急速に接近する別の集団がいるようです……
マンフレッド
……
???
マンフレッド、あまり自分を責める必要はないわ。あなたは力を尽くしたもの。
マンフレッド
どうしてあなたがこちらへ――
自救軍戦士
ロックロック、城壁の方を見ろ――
ロックロック
防衛砲が……停止した?
ロックロック
信号を送って!
自救軍戦士
よし来た、みんな下から上がって来てる!
自救軍戦士
だがサルカズが……ここに押し寄せてくるみたいだ!
サルカズ戦士
奴らを止めろ! 全員殺せ!
ロックロック
このサルカズたちをなんとかしたら、列車を起動できるよ!
サルカズ戦士
そう簡単に逃げられると思うな!
ロックロック
くっ――
サルカズ戦士
なぜ別の方向からも反乱軍が?
ロックロック
えっ?
ロックロック
……援軍なの?
自救軍戦士
北側からサルカズ兵の封鎖を突破した部隊が!
彼らは……誰が呼んだんだ?
まさか救援を呼ぶために中央区に派遣したトランスポーターの中に生き延びた奴がいたのか?
ヴィクトリア傭兵
サディアン区の同志たちよ、よく頑張ってくれた!
これからの戦いは、プロの我々が引き受ける!
自救軍戦士
あの動き……俺たちよりもずっと手練だ……
ロックロック
あれは……ロドスのオペレーター?
ダグザ
――
奴らを蹴散らせ!
自救軍の戦士が地下パイプから安全に脱出できるよう、道を切り開くのだ!
狙撃手構え! あの通信兵たちを始末せよ――
ヴィクトリア傭兵
はい、モンタギューさん!
ロックロック
……モンタギュー?
自救軍戦士
聞き覚えがある名前だ。新聞か何かに載ってた貴族じゃないか?
ロックロック
集中して!
あの人たちが何者であれ、あたしたちの味方だよ!
ロックロック
道が開けた! 早く、みんなを連れて列車に乗るよ!
ロンディニウム市民
あぁ……ハイディさん、私たち地上に出られましたよ……
ハイディ
ええ。申し上げたのでしょう、私たちの戦士は期待を裏切ることはないと。
クロヴィシア
……彼女の仲間か。
ハイディ
私たちのトランスポーターが、彼女に繋ぎをとれたのでしょうか。
クロヴィシア
更に言えば、キミたちロドスのトランスポーターだ。
インドラ
ダグザだ! 見ろ、ありゃダグザだぜ!
モーガン
あの子……
シージ
……ああ。
群衆の中のダグザも彼女たちを見つけた。
彼女は戦っていたサルカズを一蹴すると、躊躇なく通路の入り口へと駆け、ホコリだらけの仲間たちへと手を伸ばした。
ダグザ
私……来るのが遅れたんじゃないかと心配してた。
シージ
いや、そんなことはない。
我々にとって、貴様が遅れるなんてことは永遠にない。
インドラ
バカ野郎、お前……あんなあっさり行っちまうもんだから、ぶん殴る時間さえなかったじゃねぇかよ!
ダグザ
うん……今殴っても遅くないよ。
モーガン
ねぇ、ヴィーナ、あんたダグザちゃんが戻ってくるってわかってたんでしょ?
シージ
……わかっていた。
モーガン
インドラちゃんに隠してたのは理解できるよ。こんな瀬戸際じゃない限り、インドラちゃんは絶対貴族の傭兵の手助けなんて受け入れないからね。
インドラ
俺の文句言ってねぇで、さっさとこいつらを片づけるぞ!
モーガン
……今やってるでしょ!
モーガン
ヴィーナ、まだ話は終わってないよ……せめて吾輩には話してよ!
モーガン
はぁ、追いかけ回されてる時でさえ、ダグザちゃんがまたどっか人目のつかないとこでサルカズを道連れに死のうとしてるんじゃないか、とか考えちゃってたんだよ! どうしてくれんの!
シージ
すまない、モーガン……
ダグザ
……これからはもうしない。誓う。
シージ
シージチーム、全員集合だ。
ドクターたちが戻ってきたら、共にここを離れられるんだ。
???
みなさん、お待たせしました!
クロヴィシア
アーミヤ?
キミたちどうして空から……
クロージャ
着地するよー! どいたどいた――
フェイスト
ジ、ジップラインを引け! 列車にぶつからないようにしろよ! 俺たちが逃げ延びるための唯一の手段なんだかんな!
アーミヤ
ドクターは私が抱きしめています、こちらは問題ありません!
クロージャ
着地成功!
フェイスト
俺たち……本当に戻ってきたのか?
フェイスト
ロックロック――
指揮官、ロックロックは大丈夫か? みんな撤退できたのか?
クロヴィシア
想定以上に多くの者が生き残った。
キミのおかげだ、フェイスト。それとキミが連れてきた、ロドスのみなのおかげだ。
フェイスト
ハッ……ビル、見たか?
フェイスト
俺は……
ロックロック
隊長ダメ、気絶してサボろうとしないで! 戦いはまだ終わってないよ!
動けるならすぐに動力室に来て手伝って!
シージ
……サルカズ兵の追手がやってきている。
アーミヤ
彼らにできることはもうありません。
私たちがここで彼らを止めますから。
シージ
ああ、そうだな。
ロックロック
指揮官、列車が動くよ――
クロヴィシア
みな準備はいいか?
シージ
アーミヤ、我々も乗るぞ!
アーミヤ
はい!
クロヴィシア
出発!
アーミヤ
……
アーミヤ?
アーミヤ、列車が動いたな。
アーミヤ……何を見ている?
アーミヤ
え……
…………
コータスの少女は答えない。彼女の身体はぴくりとも動かず、呼吸が止まっているかのように見えた。
彼女が衝撃を受けているのがわかった。このように強烈な感情を、隠すことなく皆の前で露わにするのは初めてだ。
同時に、列車を追っていたサルカズたちも足を止めた。
彼らは揃って振り返り、一つの方向を見ている。
一人のサルカズが廃墟に足を踏み入れた。
あらゆる硝煙は彼女の足元で霧散し、あらゆる武器の音が彼女の周囲でかき消えたようだ。
風だけがその強さを増している。
辺り一面の埃が、ふわりと舞い上がる。身に纏ったドレスは汚れ、白い髪がくすむ。しかし彼女はそれを意にも介さず、ただ静かに視線を一点に、何かを見つめているようだった。
それはかつて都市防衛砲の一部だったものに見える。一羽の漆黒の羽獣がいつの間にか飛んできて、まだ少し熱を帯びた砲口に止まった。
加速する列車に驚いたのだろうか、羽獣は翼をばたつかせた。
何かを感じたように、白髪のサルカズが振り返る。
列車の中にいる者が見えるはずはない。しかし彼女の表情は、自分を見つめているのが誰であるか認識したかのようだった。
彼女の表情は、かくも穏やかで、しかしその目には哀しみが湛えられている。こぼれる程の哀しみは、彼女自身と、そして彼女に眼差しを向ける者によって生まれたもののように見えた。
アーミヤ、大丈夫か?
コータスの少女はようやく振り返った。
彼女からの答えはまだない、あなたも急かすつもりはない。
羽獣の鳴き声が耳元に響いた。窓の外で、羽を広げた羽獣の群れが飛び立ち、あなたたちに先立って、前方の強風へと突き進んでいった。
列車はあなたたちを連れ、高速で駅を離れゆく。
城壁、戦場、そしてあの白い髪の人影。すべてを、遠く遠く置き去りにする。
ゴン。ゴン。ゴン。
今のは……脳内に焼き付いた砲声だろうか、それとも列車とレールがぶつかった音だろうか。あるいは、すぐ近くでたむろするあの黒雲の雷鳴か?
あなたたちは今、嵐の中へと歩を進める。
――ロンディニウムの中心は、もうすぐそこだ。