同族にあらずとも

p.m. 3:22 天気/曇天
ロンディニウム サディアン区 地下構造
ロックロック
……賢い選択とは思えない。
フェイスト
ロックロック、俺たちは人手不足なんだよ。人がいるかどうか確認しきれてない場所がどんだけある? 少なくともサディアン区の三分の一だぞ。
わかるだろ。ハマーの兄貴たちがすでに移動作業を進めてる、だから数日後には指揮官たちがこっからいなくなるんだ。
その時になって、俺たちの小隊が残って捜索しても、成功率はずっと低くなるだけだろ。
ロックロック
それは君があの人たちを加入させたい理由にはならないよ。
フェイスト
加入じゃない……助け合いだ。
指揮官の話を聞いてたんじゃないのか? 友達の友達だぞ。あの人たちをロンディニウムに入れるのを手伝うっていう要求に俺たちは応じたんだ。んで、俺たちは約束を果たした。
なら次は、もし俺たちの人探しを手伝ってくれんなら……
ロックロック
あたしたちの拠点で休んでくれて構わない。指揮官の命令だし。
休みが終わったら、ここを去ってもらう。あたしが地上の安全な場所まで送り届ける、それでおしまい。
フェイスト
ひとまずここに残ってくれるかどうかも聞いたらダメって、なんでだよ? ちょっとした手伝いだろ、断られるとは限らないって。
ロックロック
なぜかはわかってるでしょ、前も言ったよね。
フェイスト
うっ……
ロックロック
指揮官はあの人たちが信頼に値すると思ってる、これにはきっと理由があるはず。だからあたしはもうあの人たちの身分や動機については気にしない。
でもあたしは、仲間が自分たちとは無関係の危険に巻き込まれてほしくないの。
フェイスト
あの人たちが何か危険なことをやろうとしてると思ってんのか?
ロックロック
じゃ何しに来たと思う?
凄腕のサルカズたちを連れてロンディニウムに潜入し、別のサルカズたちと敵対している……フェイスト、あたしたちはヴィクトリア人なんだよ、こういうのは見慣れてるはずでしょ。
フェイスト
……毎日ロンディニウムの外で喧嘩してるお貴族サマたちと同じってことか。
ロックロック
物心ついてから、貴族の終わらない争いを見続けてきたでしょ? あいつらが自分の利益だけ考えて無駄な喧嘩をしてなければ、ロンディニウムがサルカズの庭になることもなかった。
自分の家を取り返すだけで精一杯なんだ……サルカズがあたしたちの土地で戦いを始めようとしたって、あたしたちにそれを阻止する力なんてそもそもないし、自分と関係ない戦いならなおさらだよ。
フェイスト
……もしあの人たちが、本当にサルカズを止めることができたら?
別の王冠を奪い取ろうとしているだけだとあんたは思ってるのかもしれないけどさ、少なくとも今のところ、あの人たちと俺たちには共通の敵がいると俺は思う。
ロックロック
フェイスト、あたしは君ほど自分を信じてないんだ。常に局面をコントロールできるなんて思えない。
サルカズ……そもそもサルカズって君が想像してるような奴らじゃない。あいつらは演技が上手いんだ。
お父さんが処刑された日、あたしは遠くからある人を見たの……あの人殺したちは彼女を殿下と呼んでた。
その時初めて知った。魔族たちを率いていた王は、あんな姿だったんだって。
フェイスト
……そんな話は初耳だな。
ロックロック
あの時は話す必要がないと思ってたから。
ロックロック
今教えたのは……君に、上辺にごまかされてはいけないと知ってほしいから。
あの人が綺麗で純白で汚れのない見た目だったとしても、そこらのロンディニウムの年老いた労働者の葬式で悲しみの表情を見せていたとしても、あたしは絶対に忘れない……
ロックロック
あの人がサルカズたちを率いてあたしのお父さんを、無数のヴィクトリア人を殺した……あの人は魔王なんだ!
フェイスト
あっ……アーミヤさん?
アーミヤ
……
フェイストさん、ロックロックさん……
ロックロック
……話は終わりだよ、隊長。あたしは地上に戻って捜索任務を続けるから。君には……あたしの言葉をよく考えてほしい。
フェイスト
アーミヤさん、ドクター、ごめん……えっと、装備の調整を手伝いにハマーの兄貴のとこに行ってくる……俺も先に失礼するよ。
アーミヤ
ドクター、ロックロックさんが言っていたサルカズって……
アーミヤ
その人は……憐れみの表情をした白い髪の女性です。他のサルカズは彼女を殿下と呼びます。
ドクター、ドクターは忘れてしまっていますが、私は……
私はあの人のどんな些細な表情も忘れられません。彼女が私にかけてくれた言葉も、全部覚えています。
アーミヤ
そんなのありえないって、私にもよくわかっています。
ですが、私は……
ケルシー
Dr.{@nickname}、本日より、キミは以下のファイルを閲覧する権限を持つことになる。
これらのファイル内でキミが関心を持っている情報を見つけることができるだろう――
彼女に関する情報も、アーミヤが現在継承しているあの一部の力に関する情報も当然含まれている。
ケルシー
……
事実として、現時点において、キミを信じる信じないについて語ることはすでに無意味だ。
アーミヤにとってのキミの重要性を否定することはできない。今回のロンディニウムでの行動において、彼女が最も必要とするのはキミの助けだ。
ドクター……
キミたちがロンディニウムで何を目撃することになろうと、アーミヤと共にそれに向き合ってやってくれ。
キミにならば、それが可能だと私は認識している。
アーミヤ
……
そうですね……焦るべきではありません。
危うくロックロックさんを追いかけて、彼女が見たのは一体誰だったのか問い詰めるところでした。
そんなことをしたら……私たちについてもっと誤解を与えてしまうかもしれません。
アーミヤ
はい……ドクター、私は大丈夫です。
ロンディニウムに来る前に、すでにケルシー先生から過去のことを少し聞いているかと思いますが……
アーミヤ
実は、まだドクターたちに言えていないことがありました。
あの件以降、かなり長い間、私は二人の夢を見ていたんです。
夢の中で、ドクターは黙ったまま、ただ静かに私の側にいてくれていました。
かつて荒野での夜と同じで、ドクターは黙って私の手を握ってくれました。そうしないと、私が安心して寝られないからです。
アーミヤ
……私にはドクターがただ眠っているだけだとわかっていました。……あの時、Dr.{@nickname}は暫く私のそばにいなかったかもしれません。でも、ずっと私と一緒にいてくれました。
アーミヤ
ですが彼女は……違います。
アーミヤ
夢の中で、彼女は私にたくさん話しかけてくれました。ロドスでのサルカズ一人一人の運命、私はよく眠れたかどうか、風邪をひいていないか……
たくさんのことを言い聞かせてくれました。まるで彼女がまだ私の傍にいるかのように。
そうだったから……そうだったからこそ、彼女はすでに私たちのもとから去ったのだと、よりハッキリと感じたんです。
アーミヤ
彼女は名残惜しく思ってたんです……とてもとても。もともと彼女は心の中で、ものすごく沢山の人や物事を気にかけていたんです。私たちや、ケルシー先生、ロドス、サルカズ……
もし……彼女が本当にまだ生きているなら、帰ってこないはずがありませんよね?
アーミヤ
はい。彼女が私たちを放っておくなんてことはありえません。
アーミヤ
それにテレシスがヴィクトリアに侵入することを彼女が許すはずがないです……サルカズがこのような不義の戦争を起こすことに彼女が耐えられるはずありませんから。
アーミヤ
ドクターはつまり、ロックロックさんが見たのは彼女と似た別のサルカズだと言いたいんですか?
確かにその可能性はあります。
アーミヤ
そういったやり方は……とてもとても残酷です。
サルカズはどんな種族よりも死を重視します。亡くなったサルカズの魂は大いなる種族に還り一つとなります。これはサルカズが苦難を背負って生きたことに対する最大の慰めです。
ドクターもパトリオットさんの死を目にしましたよね。あれは尊厳と栄誉、そして自らの運命に対する人生最後の問いかけなんです。
そして、死の静寂は一つの答えを与え、もたらされた答えはその人のすべてを包み込んでくれます。
この最後の安らぎを奪われることがあってはなりません。どのようなサルカズであっても……特に彼女は、持てるすべてをサルカズに捧げていたのですから。
アーミヤ
ドクター、私がゲートで言った言葉を覚えてますか?
ロンディニウムの中心に巣くう感情が何かをわかった気がします。それは憤怒――サルカズの怒りです。
アーミヤ
私だけではないです。この怒りはすでに全てのサルカズに響くほど強まっています。
アーミヤ
ウェンディゴの祭壇でさえ、これほどまで強烈に共鳴させることはできません。まるで、サルカズが幾千幾万年燃やし続けてきた憎しみを誰かが実体のある炎へと凝縮させたかのような……
アーミヤ
もしこの怒りを止める者がいなければ、炎はいずれロンディニウムを赤く染め、それで満足することなく、どこまでも広がって、あらゆる命を焼き尽くすでしょう。
アーミヤ
だから、私たちはいち早くそれに近付いて、全てに火をつけようとする炎の中心が一体何であるかを確認しなければなりません。
アーミヤ
ドクター、気付いてたんですね。そうです、私の気持ちは……前よりは変わっています。
駆られるように憤怒の炎へと向かっているのはロドスの責任者ではなく、サルカズたちが言っていた継承者でもなく……ただのアーミヤなんです。
これは私の渇望です。私個人が欲している答えです。
アーミヤ
そして……私には確かに少し怖いです。
ドクター、私はその答えが怖いです。ケルシー先生やみなさんの心が砕けてしまうのを見たくないんです……
アーミヤ
そうですね、私自身も。もし本当にそれが彼女であれば……私は想像したくありません……
ですが私は向き合わなければなりません。他に選べる道はないのですから。
アーミヤ
ありがとう、ドクター……
ドクターがそばにいると感じるだけで、私はこの先へ進んでいく勇気が出てきます。
アーミヤ
クロヴィシア指揮官の所に行って、協力案を提示してきますね。
サルカズに捕らわれた戦友を救出するため、彼らはより多くの人手を必要としています。
そして私たちも彼らの協力が必要です。
当初の計画では、私たちはトランスポーターの女性と合流しているはずでした。ですが会えていないので、彼女の安否を確認しなければなりません。
彼女は自救軍の協力者です。あの指揮官なら、彼女を探し出すのに力を貸してくれるかもしれません。
それに中央区画へと向かう道でも、彼らの手引きがあれば、きっとよりスムーズに進むはずです。
自救軍に、ロドスがこの都市に来た理由は決してサルカズの王冠のためではないと証明しましょう。
ロッベン
ホルンさん、ダブリン兵の動きが妙です!
ホルン
……どこかへと移動してるわね。
ロッベン
あの区域はサルカズの軍勢が守っているのでは? 以前のダブリンであれば近付こうとさえしなかったはずです!
ホルン
きっと何か理由があるわ。私がつけてくる。
ロッベン
それは少し危険なのでは……奴らは我々の十倍はいますよ。
ホルン
だから私一人で行くのよ。
あなたたちは引き続き計画通り、奴らの拠点へ行って物をあさってきて。移動は始まったばかりだから、恐らくまだ物資は運び出せてないはずよ。
……気を付けて。
ロッベン
あなたこそ!
ダブリン兵士
おい、急ぐぞ。上官は一秒だって遅れを出したくないんだ!
お前が嫌なのはわかってる。誰がこんなのやりたいってんだ? あの魔族ども、俺たちを傭兵のようにこき使いやがって!
だからといってサボるなよ。サルカズの前で、上官に恥をかかせてはならない。
M-611、返事をしろ! どうしてまだ追いついてこないんだ?
ダブリン兵士
ど、どういうことだ?
ホルン
動かないで。
ダブリン兵士
お……お前は! M-601、応答を……うわっ!
ホルン
……黙って。
ダブリン兵士
うぐ……
ホルン
通信機を渡しなさい。
ホルン
よし、もう声を出していいわよ。
ダブリン兵士
ゴホッ、ゴホゴホッ……
ホルン
教えなさい、あなたたちはサルカズのために何をしているの?
ダブリン兵士
お……俺が言うわけねぇだろ……ヴィクトリアのクソ狼が……
ホルン
そうね、口を割ろうとしないヴィクトリア兵に対してダブリンはどんなことをしていたかしら?
……高さ十メートル以上の滑車に吊るしていたわよね?
でも残念ね、私に石柱を出したりするアーツはないから、あんな高い場所に人を簡単に運ぶことはできないわ。
ダブリン兵士
お……お前にそんな度胸は……
ホルン
そうかしら?
それもそうね。もし私があなたたちの上官みたいに恥知らずなら、ヒロック郡で自分の隊員が一人一人犠牲になっていくのをこの目で見ることはなかったでしょうね。
じゃあこうしましょう。あなたの手足を縛って、適当にどこかの廃工場に捨てるわ。
こういった工場は付近にたくさんあるけど、手分けして探せば、大して時間はかからないと思うの。
これこそ私のやり方、でしょ? 私はこうやってあなたたちから辛うじて生き延びた兵士たちを見つけ出したのよ。
暗闇の中で絶望を噛み締めながら飢え死にする前に、あなたの上官も見つけてくれるといいわね……
ダブリン兵士
いや……やめてくれ! 上官はそんなこと……
許してくれ! 何が知りたいんだ? 俺はただ命令に従っているだけで、知らないことだらけだ……
ホルン
でしょうね。サルカズの指揮官は、あなたたちのトップよりもずっと賢いんだもの。
彼に一体どんな企みがあるかなんて、マンドラゴラでは推し量れないわ。あなたたちは、こうしてサルカズに遊ばれるだけよ……
まあいいわ。あなたたちの目的地を教えてくれるだけでいい。あとのことは、自分で明らかにするから。
マンフレッド
戻って来られたなら、もっと早くに会いに来てくださればよかったのに。
ロンディニウム市民?
君の客人が多いからだろ。
マンフレッド
忘れていました、あなたは聴罪師のトランスポーターに会いたくないのでしたね。
ロンディニウム市民?
もし僕が君のとこにいることをあいつに知られたらさぁ、僕の楽しいサボり暮らしが終わっちゃうでしょ?
マンフレッド
だとしても、ヘドリーが去るのを待ってから姿を現す必要はありませんでしたよ。彼は私の味方で、王庭にあなたの足取りを漏らすことはございません。
ロンディニウム市民?
はぁ、君の味方だって? 自分に嘘をついてどうするの、君は誰も信用してないだろ。
もし本当に彼を信用してるなら、その場で僕を呼び出せばよかっただろ? あのダブリンのフェリーンと君の傭兵のお友達が出ていってから僕に挨拶してきたのは、君の方だろ?
マンフレッド
……
その話は一旦やめにしましょう。今朝、あなたはダブリンの者を約束の地点へと誘導してくれました。この借りは覚えておきます。
ロンディニウム市民?
ああ、大したことじゃないよ。それに、意外な収穫もあったしね。
マンフレッド
……意外な収穫? あなたにそんなことを言わせるとは、きっと反乱軍数名を見つけた程度のことではありますまい。
では……ロドスの者にでも会いましたか?
ロンディニウム市民?
会ったどころじゃないよ。あいつらが僕をダブリンから「救って」くれたんだ。一緒に城壁の外まで来たんだよ。
はぁ~、君が慌てて兵器を試そうとしなければ、僕は「爆死」なんてせずに、まだ彼らと一緒にいられたかもしれないのに。
だって、僕はもっと彼女とおしゃべりしたかったんだから。
マンフレッド
……
もし私が、まだチャンスがあると言ったら?
ロンディニウム市民?
また僕に手伝ってほしいの? ダブリンと傭兵に臨時監獄を守らせに行ったんでしょ? ならもう準備は整ってると思ってたけど。あとは向こうが罠にかかるのを待つくらいじゃない?
マンフレッド
保険はいくらあっても構いませんので。
ロンディニウム市民?
そうかいそうかい、なら君はまた僕たちに借りができたね。
あっ……僕今「僕たち」って言っちゃった?
マンフレッド
……構いません。私以外に、聞いている者はおりません。
ロンディニウム市民?
正直、僕たちはもうあんまりここにいたくないんだよね……あのどこにでもマイグラス持参の老いぼれナルシストもさ、もうすぐ着くし。でしょ?
僕たちがここにいること、絶対に言わないでよ。
マンフレッド
……わかっております。あなたのご好意は忘れません。
マンフレッド
それと……死者の顔を引っ提げて行動するのは控えた方がよろしいかと。露見しやすいという問題はさておき、少し……私も気分が良くありませんので。
ロンディニウム市民?
チェッ、忘れてたよ。君は道徳心のある良いサルカズだった。ね、テレシスの教え子さん?
安心してよ。次君に会うときは、もう絶対「トーマスさん」じゃなくなってるからさ。