おやすみなさい
ゴールディング
感謝する、変形者。私の願いを聞き届けてくれてありがとう。
変形者
こんなのお安い御用だよ。
ちょうど今、もっと面倒なことから手が離れたし。
教室か、君はついに僕たちをここに招待したんだね。
それもそうか、ゴールディング、君は教師だ。常にそれを意識しているんだろう。
ゴールディング
私は、今日ここで死ぬ。
変形者
やっぱり、そう決めたんだ。
レトが悲しむだろうな。
ゴールディング
私はそうしなければならないんだ。
変形者
分からないな。どうしてそこまで固執するの?
ゴールディング
そうだね。私はどうしてここまで固執しているんだろう?
子供たちは放っておけない。あの子たちがこの時代の中で自らの道を見つけられるか心配だ。モリーも放っておけない。彼女はとても良い子だけど、自分の守り方を分かっていないから。それと……
もちろん、ハイディのことも。でも私の方が彼女に申し訳ないことをしたから、どの面下げて言ってるのかって話だな……恨まないでいてくれることを、ただ願うばかりだ。
でもきっとそれは難しいだろうな。あれだけたくさんの人が私のせいで死んだんだから。
私は恨まれるべきだ。
変形者
ゴールディング、君は分かっているよね? 死じゃ何も変えられないよ。
正直、僕たちも戸惑ってるんだ……
僕たちが経験した長い歳月の中で、死を選んだ人は珍しくはない。でもそれを見るたびに、僕たちは理解に苦しむんだよね。
「犠牲」、「懺悔」、「後悔」、他にも色々あるけど、そういった言葉はよく知ってるよ。
それらの最終的な結末はいつも死に通じてるんだ。
悪いけど、僕たちからすれば、それってすっごく無駄なんだよね。死には何の意味もない。何かを賭けるには値しないんだ。
ゴールディング
死は死でしかない。
それは知っているさ、変形者。君が言っていることは、とてもよく分かっている。
もし、死んでいった自救軍戦士に対する償いをしたいのであれば、生き続けて、傷ついた家族の世話をし、そういった人たちのために力を尽くすのがより良い選択なのかもしれない。
でも私には分かっているんだ。自分にはできないと、自分は向き合えないと……
私はとても怖いんだ。
変形者
その恐怖よりも死んだ方がマシってこと?
ゴールディング
かもしれないな。
私はずっと後ろに退がって生きてきた……そうやって波を避けてさえいれば、自分の平穏な暮らしを守れると思っていたんだ。
でも、どこまで退がれば、昔の生活はすでに崩壊したのだと私たちは認められるんだろう?
……どこまで退がれば、昔の生活なんて実は存在しなかったのだと認められるんだろう。
私はそういったものに向き合う勇気はない。向き合うくらいなら、完全な絶望に陥る前に死んでしまいたい。
変形者、自分を騙す機会を私に与えてくれないか。
私の姿になったんだな、変形者。
「ゴールディング」
誤解しないでくださいね、ゴールディング。私たちは自分の仕事がそれほど好きではありませんから。あなたの大切な人たちを騙しに行ったりはしません。
ただ、あなたの感情をより深く感じたいと思っただけです。
こういった感情は確かに理解が難しい。私たちには感じることしかできません。
ゴールディング
以前、どのように生きるべきかと私に問うたな。
……私が知るはずがないだろう。
だが、自分が無力だと気付いた時には、諦めるのも一つの選択だ。違うか?
「ゴールディング」
「諦め」……レトもかつてその言葉を口にしていましたね。
ゴールディング
いいや、自分を諦め、流れに身を任せるのではない。
生きること自体を諦めるのだ。
「ゴールディング」
「生きること自体を諦める」、ですか。
ゴールディング
様々な経験……楽しいことや苦しいことを、必ずしも掴んで離さずにいる必要はないだろう。
特に、自分を迷宮に閉じ込めたのが、まさにこうした経験なのだと気付いた時などは。
それは抵抗ではなく、臆病者の選択だ。
だが私は……少なくとも二度とサルカズの味方になるようなことはない。それでいいと思わないか。
私は……もう眠いんだ。
「ゴールディング」
……
おやすみなさい、ゴールディング。
ベアード
ハァ……
力が入らない。
いいか、もう……疲れた。
フッ、少なくとも最後に、グラスゴーが再集結できたわけだし。
……みんなが無事に出られますように。
ベアードが壁にもたれてゆっくり座り込むと、背中の壁に長い血痕の縦線が引かれた。
手の感覚が鈍くなり始め、拳を握ろうにも、うまく握れなかった。
ベアード
ハッ。
あーあ……死ぬのは想像よりも痛い。ハンナに顎を殴られるより痛いな。
彼女は顔を横に傾けた。さほど遠くない場所に一つの死体が倒れている。痩せこけて干からびており、死後何日も経っているようだ。
彼女はふと気付いた。その死体にどこか見覚えがあることに。
ベアード
こんなとこにいたの、「次期会員」さん。
臆病な市民の前には、きれいに食べ尽くされた肉の缶詰が転がっていた。
ベアードは、その哀れな死体の側にある奇妙なものに気付き、瞬きをした。壁から地面にかけて描かれた、黒い……曲線か何か?
それは図式、そして文字だった。
ベアードはそこでようやく理解した。彼は、もう一つのペンを拾ったのだ。それはボロボロの木炭筆、彼の大切な万年筆にははるかに及ばない。
彼女はポケットを探った。元々紋章学者のものだった美しい装飾の万年筆はまだ彼女の手元にあった。この豪華な万年筆が最後に書き残した文字を、マクラーレンが読んでくれなかったのは残念だ。
どうにか自分の体を引きずって、壁に書かれた文字の近くへ移動すると、その細かな筆跡を注意深く見た。
彼女は思わず吹き出して咳込んだ。
ベアード
王立科学アカデミー会員に申請するための紋章学の論文?
最後に書き残したものがこれ?
何の役にも立たない。
ベアードは壁に書かれた、理解不可能な長ったらしい考証と説明を読み飛ばした。
この論文に結論はなかった。空白が続いた後、重要な資料の内容を忘れてしまったと、怒りながら書いてある。
彼は絶望したはずだ。しばらく手を止めたのか、そこから先の筆跡はやや薄くなっていた。
ある時点から、その臆病な市民は自らの願いを記し始めていた。
「『アッシュワース一族考』が手元にあってほしかった。」
「編集者たちには私の仕事の真の意義を理解し、原稿料の値上げに同意してほしかった。」
「先生には怒らないでほしかった。あれはただの学術論争であり、私は今も先生を尊敬している。」
「まあいい。もし機会があったら、また先生の淹れてくれたお茶を飲みたい。そのためなら学術論争は脇に置いてもいい。」
「お腹が空いた、街角のあの鱗獣フライが食べたい。」
「ジェーン、私のことを忘れないでいてほしい。君を愛している、別れる前と変わらず愛しているんだ。」
「私はバカだ。ボクシングジムの子たちには無事でいてほしい。」
「ウイスキーを樽三百万杯分飲みたい。」
......
サラ叔母さんに会いたい。私は悪い子に育ってしまったよ、ごめんなさい。」
「クソッ。」
「クソッ、誰が願いを叶えてくれるというんだ? もう祈りも尽き果てた。知ってるものにも知らないものにも祈ったではないか。」
「もし今、法を語るリーベリの修道士が目の前に現れたとしたら、思いっきりぶん殴ってやる。」
「もういいさ、そうだな。」
「全ての人の願いが叶いますように。幸せでありますように。健康でありますように。素晴らしい生活を送れますように。」
「もう誰も苦しみませんように。痛めつけられませんように。みんなが笑い合って、涙がこの大地から消えますように。飢えも無くなりますように。」
「何一つ無駄ではありませんように。」
「全てが──」
長い線の後、筆跡はここで途絶えた。
ベアード
……
はあ、もう最後か。
ベアードが力を振り絞って手を上げる。万年筆は乾きかけていた。彼女は何度か重ね書きをしてようやく、黒いインクで短いひと言を残すことができた。
「私も願ってる。」