移り行く幻境

「アーミヤ!」
「約束しただろ――」
*雑然とした声*
アーミヤ
ここは……
ここは、戦場だ。
私の戦場、「魔王」の戦場。
ナハツェーラーの王
我らがあなた様のために、最後の都市を見事手に入れてご覧に入れましょう。奴らの抵抗はもはや限界でございます。
アーミヤ
あなたは……ナハツェーラーの王庭の主。
名前は何と言うのですか?
ナハツェーラーの王
名などありません。我輩はただ、あなた様の配下。それだけでございます、「魔王」。
それこそがあなた様の運命。あなた様は我らに救いをもたらしたのです。
我らが常に渇望してきた、そしてついに達成せられた……救いを。
あなた様の意志は、すなわち我らの意志でございます。
あなた様はすでに預言に応えられた。それはその恩恵を間もなく与えたまうでしょう。
我らにお任せください。この戦いを長引かせはしませんとも。
テレジア
最近のあなたは、すごく疲れているように見えるわ。
アーミヤ、このままじゃよくないわ。少し休まないと。
アーミヤ
……テレジアさん?
すべて……私がやったことなんですか?
テレジア
どれもあなたがやらなくてはならないことなのよ、アーミヤ。
あなたはすべての始まりへとやって来た。
そしてこれは、私たちが運命に定められた終わりでもあるの。
泣かないで、アーミヤ。
「魔王」。私はこの手でその冠をあなたに与え、苦痛と……栄光をもたらした。
共に立ち向かいましょう。
これは……サルカズの魂の結論よ。逆らうことはできないわ。
拒めば拒むほど、苦痛は増えていく。抗えば抗うほど、無力さは増していく。
テレジア?
私たちはかつて、運命に抗う者たちをたくさん見てきたわ。預言が早くから目の前に現れたため、彼らは自分が倒れる場所をとうの昔から知っていたのよ。
彼らの無意味な挑戦については、思うところがあるわね。それはもしかしたら英雄の史詩として紡がれることになるかもしれないけれど、英雄本人の凋落は定められているもの。
拒めば拒むほど、苦痛は増えていく。
なぜならあなたは知っているから。あらゆる選択は、足掻きは、疲弊は、喉奥に呑み込んだ悲哀は、何もかも無意味であると。拒絶はただ運命の慈雨を苦渋へと変えるだけよ。
抗えば抗うほど、無力さは増していく。
なぜならあなたは知っているから。あらゆる闘争は、不屈は、互いの血痕は、枯れた言葉は、すべて行き場を失くしていると。反抗はただ定められた帰るべき場所を棘で満たすだけよ。
なのにどうして……どうして、あなたは。
私たちはただ、あなたに安らかに眠ってほしいだけなの。
目を閉じなさい、アーミヤ。
「幸福な結末は、必然ではない。」
「これが運命だ。散々、味わってきた。」
「私は、長い歳月、運命に、抗ってきて……ついに、勝てなかった。」
「しかし……お前は……」
「認める、か?」
「お前は、恐れている。幼き魔王よ。」
「お前は、私の結末を、知っている。すべての預言は、現実となることを、信じている。」
「お前は、破滅の源となる。災いの、予兆となる。」
「それを、受け入れることを、決めたのだ。」
「……そうだろう?」
例外など何一つないのだ、アーミヤ。
彼、ボジョカスティとて、運命の前に倒れたのだから。
汝は彼よりも強大で、恐れ知らずであるのか? その細く弱弱しい肩で、彼が味わってきた苦難と試練を背負えるのか?
果てへと辿り着いた時、汝は後悔し、彼以上に苦しむだろう。己の罪に、そしてその罪さえ許せぬ己自身に!
己の両手をよく見よ、小さき子よ。
アーミヤ?
「我は見た 黒き冠を戴き、千万の魂を記憶と化す汝の姿を」
「汝こそ魔王――この大地の遍く総てを隷属させる者なり」
……
あなたは後悔することになります。
私と同じように。
最後に辿り着く場所は……ここに決まっています。
死が訪れれば、あなたは理解するでしょう。すべての預言は、現実となるのだと。
私は……この大地で最も恐ろしい厄災なんです。
アーミヤ
それなら……
それなら、私はあなたを殺してみせます。
たとえあなたが私だとしても。「魔王」だとしても。
アーミヤ?
私もかつて……あなたと同じような選択をしました。
私は自分が十分に強いと、運命の束縛から逃れるだけの力を持っていると思い込んでいたんです。
断言しましょう、あなたには無理です。
アーミヤ……あなたにはね。
アーミヤ
そうですか。
そうかもしれません。
あなたはかつて試みたことがあるのかもしれません。あらゆる苦痛を味わった末に、自分が同じ深淵に落ちたことに気がついたのかもしれません。
ですが、私はまだなんです。
私はまだ、あなたたちの言う「定められた道」を歩んだことがないんです。
……
私は、あなたたちに挑むことに決めました。
私の、魔王の、「アーミヤ」の名にかけて、私はあなたたちに挑みます。
もしもあらゆる結末が、とうにあなたたちの手によって預言の語り口で綴られているのなら。私たちの命の持つ意味が、その結論は逆らえないものであると証明するだけでしかないのなら……
なぜ私たちは、まだ生きなければならないんでしょう?
なぜ私たちは、まだ存在しなければならないんでしょう?
パトリオットさんの生涯をかけた戦いが、ケルシー先生の死力を尽くした決断が、私の手を取り、いつも揺るがず共に歩もうとしてくれる、Dr.{@nickname}が――
それらすべてが、運命を裏付けるだけのものにしかならないというのですか?
そんなことは、決して認めません。
テレジア?
アーミヤ、それはあなたに苦痛をもたらすだけだわ。
終わりなき苦しみにしかならないのよ。
アーミヤ
サルカズの魂、あなたたちに訊きたいことがあります。テレジアさんは自らの運命を打ち破りましたか?
テレシスは、あなたたちと正面から向き合いましたか?
テレジア?
……
アーミヤ
テレジアさんは……そのためにこの王冠を私に託してくれました。
彼女はあなたたちの描く、定められた悲劇の未来を信じなかったんです。
サルカズの魂?
ゆえにこそ彼女は今苦しんでいるのだ……我らの声に、片時も止まらず耳を傾けるのだ!
たとえ彼女の苦しみを和らげるためだとしても、「魔王」よ、汝は――
アーミヤ
いいえ。
テレジアさんに救いなど要りません。
「魔王」も、征服と復讐の象徴にはなりません。
……だからこそ、私でなければならないのかもしれません。
サルカズの魂?
なんと尊大で、身の程知らずなことよ――
アーミヤ
いいえ、私はこの黒い王冠を戴いたからこそ、あなたたちに剣を向けるんです。
サルカズの魂?
運命の選択からは逃れられん。逃げれば逃げるほど、それはより急速に訪れるのだ――
アーミヤ
私は逃げたりしません。
ただここで待ち続けます、「運命」を。
あなたたちの企みがすべて消え去るまで。あなたたちのあらゆる嘲笑が失敗に終わるまで。
見せてあげましょう――
私たち……この大地に生きる人々は、自分の手で結末を選び取ることができるのだと。
アーミヤ
……
うっ――
アーミヤ、目覚めたか!
どこか具合の悪いところはないか?
君は聴罪師の巫術にかかっていたんだ。悪夢を見たのか?
アーミヤ
……もう大丈夫です。
……「魔王」。
ドクター、この力は呪いなんかにはなりません。災いをもたらす禁忌の巫術にはさせません。
テレジアさんは……私たちが自らの道を切り拓けるようにと、これを託してくれたんです。
君を信じている。
Logos
目覚めたか、アーミヤ。
すまなかった。
アーミヤ
気にしないでください……Logosさん。
聴罪師の巫術によるものだろうと、そうでなかろうと、いずれは向き合うことになっていたと思います。あれらの……問いかけに。
夢の中で聞こえてきた声に、再び預言を言い渡されました。
Logos
預言?
アーミヤ
はい……パトリオットさんが死の間際に遺したあの預言です。
Logos
いかなる声であろうと、等しく聴罪師のつまらぬ小細工に過ぎぬ。
真に受けずともよい。
アーミヤ
いえ。
これは聴罪師の拷問の手口でしかないのでしょうか? それとも、サルカズの魂が今もなお私の心と繋がっているんでしょうか?
もしかしたら、私は……あの恐ろしい預言をずっと頭の片隅に留めていたからかもしれません。
ですが、そんなことはどうだっていいんです。私はもう彼らの誘いを拒みましたから。
また、再び。
Logos
……そうか。
だがうぬにはやはりケルシー医師の精密検査を受けてもらいたい。その指輪は……
アーミヤ
分かってます。
ええと、Logosさん、私たちが今いるこの場所は……?
Logosがバンシーの主としての身分を利用して、サルカズ輸送小隊の車両を徴用した。
聴罪師の追跡から身を隠す必要があるからな。
Logos
昨日、クロージャのドローンが我らの元を訪ねてきた。彼女らが少し前に留まっておったWのセーフハウスが聴罪師の襲撃に遭い、ナイチンゲールがあやつらに連れ去られたとのことだ。
アーミヤ
……聴罪師。
Logos
我々は、聴罪師と名乗るサルカズたちへの防備を怠っておった。テレシスの計画の影響もあり、あやつらに行動の余地を与えてしまった。
だが、あやつらはついに影の中より姿を現したのだ。
ドクター、パプリカたちはうぬの求める源石サンプルを積んでおるところだ。彼らはすでに疑惑を抱いておる。
今は単に我への畏れから、辛うじて命令に従っておるだけだ。だがおそらく、じきに呪術でもって彼らを真に脅さねばならぬ時が訪れるであろう。
結晶サンプルはもう五回分揃った、これで十分だ。アーミヤの状態も好転した。
Logos
ならば次はブレントウードへ向かい、ケルシー医師との合流を図るとしよう。
アーミヤ
ドクター、なんだか落ち着かない様子ですけど……何か、気がかりでも?
テレシスが求めているのは、そもそもブラッドブルードの巫術装置などではないんじゃないかと不安なんだ。
何か……もっと、恐ろしい力を手に入れようとしているのかもしれない。