紅の花火

王庭軍尉官
マグダレーネ……君は昨晩、私のテントへ品を届けてはくれなかったな。
それにこのブレントウードから離れもしなかった。残念な選択だ。
なぜここを離れなかった?
マグダレーネ
ここは私の家です。
何か新しい注文はありますか? 昨日のお花と一緒に届けて差し上げても構いませんよ。
王庭軍尉官
……今後は注文などに気を遣わずともよい。
君に別れを告げに来たんだ。
私は、もうじきナハツェーラーの王の軍団に加わり……戦うことになる。
マグダレーネ
……
そうですか……
さようなら。これがあなたが聞きたかった挨拶なら、聞かせてあげます。
王庭軍尉官
……君はあまりに単純すぎる。愚かだとすら言えるほどに。
これまで、私は常に守ろうと努めてきた。だが私が守ろうとしてきたものたちは、いつも自ら滅びの道を辿っていった。
初めから間違っていたのは私なのかもしれないな、マグダレーネ。
マグダレーネ
おっしゃる意味がよく分かりませんよ、「シャベル」さん。
王庭軍尉官
昔は君たちのことが、本当に羨ましかった。
かつては高貴で強大だったヴィクトリアなる国に住まう君たちは、当然の権利のように多くの素晴らしいものを独り占めしていた。
発達した鍛冶技術と蒸気騎士の力で他の帝国を征服し、魅力的な芸術と豊かな学術環境によってテラ中の天才たちを惹きつけていた……
だが今や、君たちは外の地へ征服に向かうその足を止めた。君たちの統治者は宴席でのワインを手放そうとせず、胸元に飾り付けた勲章の空名に驕っている。
栄光の輝きは自らの手によって失われ、簒奪の運命もとうに定まり――
ん? この掛け時計、まだ置いていたのか……
時間が経つのはあっという間だ。町民たちも、現場へ向かった頃だろう。
マグダレーネ
どういう意味ですか?
王庭軍尉官
……君たちの死は、もはや避けられぬ定めなんだ、マグダレーネ。
大君は気の短いお方だ。
ゆえにあの方は儀式の前倒しを要求し、君たちはあのフェリーンの指揮の下、想定以上の働きをしてくれた。
この町の人々は皆、儀式を始めるための鍵なのだ。
無論、君も含めてな。
フリーダ
……さっき兵営でウィルが魔族たちに引き留められたの。
マグダレーネ
フリーダさん……見えますか?
マグダレーネ
……フリーダさんを探しに行かなきゃ!
放してください!
王庭軍尉官
この温室を離れてはいけない。
今少し待ってくれ、マグダレーネ。私が君に付き添おう。
我らの最後の別れが訪れるその時まで。
マグダレーネ
どうして……町のみなさんは、あなたたちの意志に背いたことなんてなかったのに!
フリーダさんは皆を率いて、あなたたちに頼まれたことを全部やってのけたのに!
王庭軍尉官
殿下がこの戦争を引き起こすことを決め、君たちの公爵はそれに応じた。その結果は、我々や君たちとは何の関係もない。
我らがすべきは、ただ命令に従うことだけだ。
マグダレーネ
なら、工事現場の人たちに知らせに行かせてください! あなたは以前みたいに知らんぷりしていればいいじゃないですか! お願いですから!
王庭軍尉官
……
私は殿下に仕えているのだ。儀式の邪魔をさせるわけにはいかん……
……君が私を越えていかぬ限りはな、マグダレーネ。
君にそれができるか? 「ガーデナー」。
訝しむ住民
マグダレーネ、そんなに慌ててどこへ行くつもりだ?
その服の血は……
マグダレーネ
……大丈夫です……花の手入れする時に、指を切ってしまって……
ハンクさん、フリーダさんはどこですか?
訝しむ住民
フリーダ? あいつなら今朝一人で兵営の方から戻ってきて、すぐにあのサルカズの士官たちを探しに行ったぞ。
かなり取り乱した様子で会う人皆にごめんなさい、ごめんなさいって言って回っててな。
何かあったのか?
マグダレーネ
……すぐにみなさんにここを離れるよう伝えてください。
できるだけ遠くに逃げるんです!
訝しむ住民
揃いも揃っておかしなこと言いやがって、今日は一体どうしたってんだ?
マグダレーネ
説明してる暇はないんです。他の人たちにも知らせてこないと!
訝しむ住民
でも、もうすぐ建設も終わるんだぞ? それに俺たちがサボって、上官に捕まっちまったらどうすんだよ?
花火? どっから上がってんだ?
壁が爆破された? ありゃあ……フリーダ?
恐怖する住民
な、なんだ? 地震か?
恐怖する女性
は……早く逃げましょう!
恐怖する住民
お前、血が……クソッ、こっちに来るな! お前の身体から、気色の悪い虫けらが落ちてきたぞ!
マグダレーネ
サルカズたちの目的は一体何なの?
ハンクさん、ハンクさん! 目を閉じちゃダメ……
うっ……私も……なんだか、疲れて……すごく、眠い……
???
マグダレーネさん! しっかりして!
隊長、この子はちゃんと捕まえたよ!
みんな気をつけろ! ジップラインにしっかり掴まってろよ! 地面に触れるんじゃねーぞ!
急いで助けるんだ!
ロックロック
マグダレーネさん、今眠っちゃダメ!
マグダレーネ
ロックロックさん?
フェイスト
ったく、重てーなこの人!
気絶した住民
うう……
マグダレーネ
フェイストさん……自救軍……どうして?
フェイスト
町の方で昼間っから花火が上がってるのが見えたから、何かあったのかと思ってな! 俺たちが昨日開けた穴は塞がってたけど、あんたらの礼砲がぶっ壊してくれたおかげで新たな道が拓けたよ。
ロックロックの手にしっかり掴まってなよ、マグダレーネさん! うちは戦闘員が足りてないから、急いで撤退するっきゃねぇ!
ロックロック
フェイスト、このジップライン、改良の甲斐あってだいぶ早くなったみたい!
そうだ、フリーダ町長はどこにいるの? 見当たらなくって。
マグダレーネ
……フリーダさんは――
フェイスト
クソッ、ジップラインが急に震え出したぞ!
サルカズ傭兵
あのビビリの指揮官はどうした? 今度はどこに隠れてやがる?
……まあいい、俺が指揮をとる。
なんだか……血が滾るのを感じるんだ。
ウルスラ少佐の部隊に知らせる必要はねぇぞ。バカなヴィクトリア人程度、俺たちだけでどうにでもなる。
奴らをぶち殺せ。
フェイスト
この町の駐屯軍が反撃してきてる。奴らは……俺たちが出会ってきたサルカズよりも、遥かに士気が高いみたいだ!
外にいるウェズさんのとこに、あとどれくらい爆薬が残ってる? 彼の応援が来るまで持ちこたえられるか?
ロックロック
たぶん厳しいと思う。ジップラインの設置要員を除くと、こっちには戦闘に参加できる人がそもそも少ないから。
フェイスト
クローラーを全部起動させるんだ! 強行突破しないとまずい!
ロックロック、危ない! そっちのジップラインが!
ロックロック
きゃっ――
歩ける? くっ、気持ち悪い――
サルカズ傭兵
これは、大君の祝福だ。鮮血の王庭が俺たちに与えてくださった慈悲さ。
俺たちの体内で……混じり気のない血脈が目覚めつつある。ヴィクトリア人なんぞのために時間を無駄にすんじゃねぇぞ!
マグダレーネ
ロックロックさん、先に逃げてください――
ロックロック
マグダレーネさん、戦いに備えて。
そんなに難しいことじゃないよ。あたしたちだって……以前は戦いの経験なんてなかったんだから。
深呼吸をして、心を決めるの。
大砲? あたしたちの爆薬は尽きたんじゃなかったの?
フェイスト
急げ、ロックロック、マグダレーネさん! 今の内だ!
ちょっとした顔見知りから連絡があってさ、応援に部隊を連れてきてくれたんだ! しかも識別コードまで持ってて――
「模範軍」だ!
ホルン
こちら戦車砲手ホルン。全員、爆撃エリアに入らないよう注意してください。
榴弾装填完了、第二回、発射開始!
突破口は開いたわ。自救軍と住民たちを援護して!
シージ
制圧を続けてくれ、ホルンさん。
あの法陣……まずは、巫術の道具をどうにかして止めねば。
インドラ
ヴィーナ、もう運転手はこりごりだぜ。地上部隊に参加させろよ!
モーガン
ハンナちゃん、前見て!
インドラ
はいはい、分かってるっての――!
シージ
戦車を法陣の中心までなるべく近付けろ。あれは私が片付ける!
モーガン
ヴィーナ!
シージ
貴様らには別の任務がある。
全員、規定の配置につけ。モーガン、ハンナ、貴様らはホルンさんと共に、当初の計画通り戦車隊を指揮して道を切り開くんだ。
シアラー少尉、ダグザ、デルフィーン。貴様らには地上部隊を指揮して防衛線を築いてもらう。あのブラッドブルードの大君の虫どもを食い止めてくれ。
デルフィーン
任せてください。
シアラー少尉
了解。
ダグザ
了解。
シージ
Miseryさん、敵部隊の指揮官は任せた。
Misery
あなたは遠慮なく自分の計画に集中するといい。
シージ
フェイスト、久々の再会だが挨拶は置いておこう。自救軍には法陣の上方までジップラインを敷設してほしい。
フェイスト
任せとけ!
シージ
グズグズしていられない。あの奇妙な法陣を片付けるのが先だ。
背中は貴様らに預けたぞ。
歓喜する住民
見ろ! 我らがヴィクトリア戦車にかかれば、あれらを大砲で粉々にするのなんて容易いもんだ!
だから言ったんだ、魔族どもなんざ我らがヴィクトリア軍の前じゃひとたまりもないってな!
奴らを踏み潰しちまえ!
マグダレーネ
……
まずい、町に設置された源石結晶の数が多すぎる……
町長の執務室に、広場に、図書館……私たちが日夜建設してきたんだから……
間に合うはずが――
……
……終わったの?
シージ
……法陣は破壊した。ブラッドブルードの眷属たちは統制がとれていないぞ! 機を逃すな!
歩兵隊は前進を止め、付近の住民たちを連れて法陣の影響範囲外まで撤退しろ。
戦車隊は私について前進を継続、町内に残った源石結晶を破壊し、取り残された住民を救助するぞ!