束の間の集い
Logos
停めてくれ、前方が何やら妙だ。
皆の者、戦闘に備えよ。
アーミヤ
あれは――
「運転手」
うっ――
――この感覚、前にあの法陣の検査をしていた時に、たまにあったあれだわ。
バンシー様、これは一体……
Logos
戦端が開かれてからこれほど早く、これほど多くの血がこの土地に流れることになろうとは、誰にも予想はできなんだ。
……これが「現代戦争」か、ハッ。
恐らくブラッドブルードの奴めは、すでに儀式に要する条件をすべて満たしておるようだ。
以前戦場で見かけた結晶は、儀式と共鳴するための単なる中継装置に過ぎぬ。この道中、我は儀式の中心地を探しておった。
ブレントウード。この町はブラッドブルードの仄暗き計画の中で、特別な地位を占めておるに違いなかろう。
アーミヤ
Logosさんなら、何とかなりませんか?
Logos
これは鮮血の王庭が古より用いし手段である。あやつらとて万全な準備を整えておろう。
我には少しの時間が必要だ。
アーミヤ
私たちの居場所はまだ知られていませんから、少しくらいなら時間は稼げるかもしれませんけど……え?
あれは?
……火の光?
町から交戦中と思しき火の光が……一体誰が?
どうやら彼らは、我々より一足先に着いていたようだ。
紆余曲折を経て、ようやく合流となったな。
「坑夫」
バンシー様、あんた……何をしに行くつもりだ? 俺たちの敵を倒しに、だよな?
Logos
……
「坑夫」
この場所、この力――こりゃあ、ブラッドブルードの大君から俺たちサルカズ全員への祝福なんじゃねぇか?
大君が……俺たちの血脈を祝福してくれているんだ。
パプリカ
あの……バンシー様、うちもなんだか……自分がちょっと強くなったような気がするっす。
腕っぷしが強くなったのか、頭が良くなったのか……自分でもよく分かんないすけど、なんかそんな気が……
アーミヤ
……力を増幅させる巫術の祭壇なら、私たちもかつて見たことがあります。ですがその規模も、それがもたらす感覚も、どちらもあれとは比べ物になりません。
Logosさん、これって何か悪影響があるのでは……
Logos
……
驚くべきことに……
代償を支払う必要はないようだ。少なくとも、その代償が我らの身体から求められることはない。
パプリカ
じゃあ、どうしてあんたは――
……
Logos
パプリカ、と言ったな。
うぬはこの力がいかなる目的で使われることを望む?
パプリカ
うちは……
サルカズ戦士たちの戦闘能力が上がれば上がるほど、戦場に流される血の量も増えていく。それが敵の血だろうと、自分たちの血だろうと……
儀式を継続できるようになる。
ブラッドブルードの大君は、決戦に向けて準備をしている。だけど彼らの……テレシスの計画は、本当にこの儀式一つだけなのだろうか?
Logos
法陣が攻撃を受けたようだ。そこから生まれし造物たちも暴走し始めた。
アーミヤ
ここは私たちが引き受けます、Logosさん。
あなたは先に儀式の状況を確かめに向かってください。
Logos
アーミヤ、うぬとドクターは我と共に行動した方がよかろう。
アーミヤ
なるべく急いで片付けます。
Logos
……分かった。
パプリカ
あの――
あんたら、うちらのことをどうするつもり?
アーミヤ
パプリカさん?
パプリカ
実は前から気づいてたんす。捕虜にされてるのは、ほんとはうちらの方なんすよね?
うちは王庭軍の人たちのことをよく知ってっけど、あんたらはその人たちとは全然違う感じがするもん。
あんた、アーミヤさんだったっけ? この部隊のリーダーは、実際はあんたとそこのドクターっしょ。
うちと……同い年くらいに見えるのに。
あのバンシーさんが偉い人だって言うのが嘘じゃないのは、何となく分かるっす。けどそんな人が、あんたらのために尽くしてるんすか?
それにこの前、自分をサルカズだって自称するキャプリニーの女の人にも会ったけど……あの人もあんたらの仲間なんすか?
あんたら、一体何者?
アーミヤ
私たちと戦うつもりですか? パプリカさん。
パプリカ
うちは……
……はぁ、正直、よく分かんないっす。
「資産家」
隊長、あのバンシー様はどうして行ってしまわれたんだい? これから僕たちはどうすればいいんだ? 地面の亀裂がこっちに向かって広がって来てるよ!
「運転手」
どうしてその捕虜二人を残していっちゃったのかしら? 王庭のお偉いさんが、私たちのことをそんなに信頼してるわけ?
パプリカ
えっと……そうだ! あんたらはあっちの方を警戒してて!
うちはこっちの二人を見張ってっからさ!
アーミヤ
あなたたちの力は確かに増したのかもしれませんが、戦いに慣れてはいません。
あるいは、あなたたちの誰一人として、この戦争に身を投じる覚悟ができていないと言うべきでしょうか。
パプリカ
……そうだよ。今更そんなことが分かってないわけないっしょ。
うちは輸送小隊の隊長だぞ! あんたらがなんか企んでんなら、まずはうちを倒してからにしな。
あの人たちは殿下の召集に応じて、テラ各地からやって来て戦争に巻き込まれたただの一般人なんだ。
それどころか、マンフレッド将軍から任された輸送任務に就いてるだけで、自分が実際に何をしてるかすらよく分かってないし――
アーミヤ
その召集に応じてしまえば……ヴィクトリア人は彼らを一般人とは見なさないんですよ、パプリカさん。
そのことと、彼らが何をしたかは関係ないんです。
パプリカ
あの人たちは、将軍から任されたうちの隊員なんすよ。たとえ何が起ころうと、あの人たちの安全はうちが守ってみせるっす、アーミヤさん。
マンフレッド将軍と交わした約束っすから。
アーミヤ
……将軍、ですか?
ならせめて今だけでも、目の前の暴走した血の造物を私たちと一緒に片付けることにしませんか。
あなたの部隊を呼び戻してください、パプリカさん。油断しちゃダメですよ、あの造物たちは目の前のどんなものにでも噛みついて、その血を飲み干してきますから。
ドクター、しっかりついてきてください。
私はこの力で、私たちのために、そして彼らのために道を切り開きます。
???
子ウサギちゃん、実はもっと手っ取り早くこのヒビを埋める方法があるんだけど。
アーミヤ
Wさん!?
W
「ドンッ、ドンッ、パァンッ!」ってね。
パプリカ
あ、あんたら……
サルカズの傭兵?
W
足元に気を付けなさい、毛糸玉ちゃん。そんなとこに立ってると危ないわよ。
パプリカ
わあっ――
イネス
あいつが爆弾を放っている時は、なるべく離れていることをおすすめするわ。Wは心優しいサルカズの子が触れていいような相手じゃないんだから。
パプリカ
あっ、イネスさん?
助かったっす。それと、アーミ――
……って、その頭の上のそれ……
「黒い王冠」? あんたが、マンフレッド将軍の言ってた……
ヘドリー
マンフレッドが子供を拾ったと聞いていたが、どうやらお前のことらしいな。
そこのサルカズたちもすでに制圧済みだ。お前が奴らの隊長だな?
「坑夫」
おい、放しやがれ! だ……誰だよお前は? 何のつもりだ?
「運転手」
私たちは軍事委員会と王庭のお偉いさんのために、任務を遂行中の身だわ!
ヘドリー
ちょうどよかった。あいつらのために規律を正してやろう。
アーミヤ
ヘドリーさん……
W
あら、せっかくの初対面なんだけど、がっかりしたでしょ?
まあ確かに、ヘドリーって仲間を演じてる時間よりも、悪役やってる方が長いからね。あたしもまだ慣れてないわ。
アーミヤ
いえ。
ご協力感謝します、ヘドリーさん。その他のことに関しては後で話し合いましょう。
見ての通り、この町は今争奪戦の中心地となりつつあります。
ヘドリー
らしいな。俺たちの方にも、お前たちに共有しておきたい重要な情報がある。
この町と、その陰に潜む、「生命線」についてだ。
イネス
今ここのサルカズ駐屯軍に攻撃を仕掛けている部隊は二つよ。一つはクロージャがロンディニウムから引き連れてきたあの自救軍ね。
W
ふん、あたしのセーフハウスが荒らされたらしいじゃない。ま、せいぜいあのクソババアがろくな目に遭ってないように祈っておこうかしら。
イネス
もう一つは複数の元公爵家所属の軍人から成る部隊ね……それと、難民や労働者のような人々もいるわ。
まともな軍隊じゃないけど、彼らを率いているのは――
シージよ。
「資産家」
ああっ――助けてくれっ――ぐっ、むぐっ――
「運転手」
シッ!
「坑夫」
黙っとけ、*サルカズスラング*。
「資産家」
ここは一体……
ヴィクトリア人!? それに……サルカズ傭兵まで!?
パプリカ
大丈夫、うちもここにいるっすから。
その、確かにちょっと複雑な状況ではあるんすけど、うちの言うこと聞いてれば間違いないかんね。
W
ちょっと、まさかここからの作戦もこの足手まといどもを連れて行くつもり?
「資産家」
誰が足手まといだ!?
アーミヤ
Wさん、私はその人たちを傷つけないってパプリカさんに約束したんです。
W
ハッ、ロドス。相変わらずね。
ならとりあえず、うちの傭兵たちのとこに行かせとけば? あいつらもう長いこと暇してるし、ちょうど新人でも鍛えられれば、楽しみも増えるじゃない。
あんたはどう思う? そこの青髪のフェリーンさん。ずいぶん睨みつけてきてるけど。
あたしたちを皆殺しにしたいほど憎いっていうなら、さっさとしなさい。
デルフィーン
……
W
……やる気はないっての? フン。
あんたたちがここでずっと睨み合ってたいっていうなら、あたしは構わないけど。とりあえずそいつらは連れて行くことにするわ。
ここにいるとイライラしてくんのよ。
そうだイネス、あんたらがヴィクトリア人たちとやり合う気になったら、まずあたしに一声かけてからにしてよね。楽しそうなショーを逃したくないの。
アーミヤ
デルフィーンさん……
デルフィーン
アーミヤさん。
その……
無事ならよかったです。本当に、とても心配していたんですよ。
アーミヤ
……
デルフィーン
アーミヤさん……ごめんなさい。
ロドスの提携先選定基準を、私も信頼したいとは思ってます。
ただ……その……私だって諜報員です。そこの「ヘドリーさん」のことを何も知らないわけじゃありません。
彼に対し……いえ、Miseryさんに対しても、イネスさんに対しても、この道中ずっと、どうしても……
私は、まだこんなことを受け入れることはできません。少なくとも今はまだ。
……いえ、そもそもそんなのは不可能なのでしょう。
ですが私は、ヴィーナさんの判断を信じると言いました。
これが今私たちの成すべきことなら、それに従います。
ヘドリー
傷跡が忘れ去られることはない。忘れ去られるべきでもない。
だから、サルカズの戦争はこの大地で終わりを迎えたことなどないんだ、フェリーン。
シージ
軍事委員会の補給ルートの遮断は、確かに我々が最初から狙っていた目的だ。
いずれにせよ、さっさと戦争を終わらせるにはそれが早道だろう。
だがその「巨獣」とやらは……
ヘドリー
……何を考えているかはよく分かる。
各地の拠点がもはや安全ではなくなった今となっては、あの骸骨こそが俺たちがロンディニウムへ反撃する際の要になるかもしれないというんだろう。
こちらには軍隊と正面衝突するだけの力はないし、ましてやあの飛空船の無敵に近い制圧能力からはそう簡単には逃れられん……
そこであの「神出鬼没」な巨獣は、まさに俺たちにとって格好の移動手段になると同時に、要塞にもなり、果ては心臓を貫く槍のような存在とすらなり得る。
となれば、もしもそれが成功した場合、あれは当然その反撃を率いた者たちの所有物となる……「サルカズ傭兵」のものではなくな。
シージ
……互いに協力を拒む理由はなさそうだが。
ヘドリー
「逆」、だ。
シージ
逆、か。
理性的観点で言えば、サルカズ皆が同じ立場ではないことは私も理解している。「模範軍」とてサルカズであるMiseryさんと分け隔てなく協力はしているが……それは個人の友情によるものだ。
私たちは尊敬し合うことも、信頼し合うことも、ともすれば特定の何人かを愛することすらできるかもしれん。だが今目の前に広がっているのは、各々の勢力の手が血に塗れる戦争だ。
十分な時間があれば、この戦争における罪人は果たして誰なのか、潔白なのは誰かを見極めることもできるかもしれんが、それは現状不可能だ。
ヘドリーさん、これだけはどうすることもできない。我々の協力はそううまくはいかんだろう。
アーミヤ
だからこそ、私たちがここにいるんです。
ロドスは双方の仲介役、及び連絡役として働きます。
ヴィクトリアの人々が、これ以上戦争で苦しまないように、そしてカズデルのサルカズたちがこれ以上深淵に引きずり込まれないように。どれも正当な理由です。
無理に手を取り合う必要はありません。すべてはこの馬鹿げた戦争を終わらせてからにしましょう。
スローガンなんてものに力はありません。すべてを止めることができるのは、結局のところ私たちの行動だけなんです。
シージ
……ロドスはそういう場所だったな。ヘドリーさんも、過去にロドスと接触したことがあると聞いたが?
ヘドリー
……
シージ
その巨獣が停留している場所には、かなりの数のサルカズ軍が駐屯していると言ったな。
ヘドリー
ああ、だが作戦の合理性からすれば、少数精鋭で向かう方が……
シージ
労働者やストリートのチンピラをむざむざと死にに行かせるよりはマシか? もっと包み隠さず言ってもらっても構わんぞ、私は気にしない。
だが私についてくる連中は、サルカズをぶっ飛ばすチャンスを見逃したりはしないだろう。
我々の戦車なら、駐屯軍の攻撃を引きつけるのに役立つはずだ。
ヘドリー
それで十分だ、感謝する。
……アーミヤさん。
これが正式には俺たちの初の協力となるわけだな、「ロドス・アイランド」。
アーミヤ
ええ、ヘドリーさん。
ですが、一つお聞きしてもよろしいでしょうか……?
ヘドリー
もちろんだ。
アーミヤ
あなたは抱えている悩みや不安を、先ほどは口に出していませんでした。その心の奥では……
より多くの命を救い、戦争と憎しみの連鎖を止めたいと思っているんです。そうでしょう?
ヘドリー
……
イネスのような曖昧な感覚と違い、魔王は人の心を思うままに読めると聞いた。どうやら、ごまかすことは不可能のようだな。
アーミヤ
私はバベル時代から今に至るまで抗い、もがき続けるサルカズに対し敬意を抱いています。
あなた自身の意志で答えてもらえると嬉しいです。
ヘドリー
……なるほど。
ああ、そうさ。
俺は……そんな未来を実現できるよう努めるつもりだ。
アーミヤ
分かりました。
答えていただいて、信頼していただいてありがとうございます。
Logosさん、ケルシー先生、戻ったんですね!
Logos
ブラッドブルードの儀式を分析してみたが、憂うべき結果がでた。
あれは確かに血脈に関わる祝福であり、使われておる技術は古いものの、精度は高いのだ。
ブラッドブルードの大君は巫術の力を借りて、戦場で流された血を集めては、それを用いてサルカズ戦士たちの血脈を活性化させておる。
あやつは、絶えずサルカズたちに他種族との本質的な違いを知らしめ促しておるのだ。増幅というよりは、むしろ勧誘に近い。
だが何より重要なのは……恐らくあれは、あやつがここで集めた力のほんの一端に過ぎぬということであろう。
その他のエネルギーがどこへ向かったかは不明だ。追跡してみたのだが、アーツの構造が複雑極まりないゆえ、ロンディニウムの方角にあることしか分からなんだ。
シージ
奴は一体何を企んでいるんだ?
Logos
それと、気づいたことがある。
今この時、戦場の中心にブラッドブルードよりも死を吸収し、利用する術に長けたサルカズのリーダーが存在する。
「兵士の力を増幅させる」だけなら、なぜ鮮血の王庭の巫術を使う必要がある? そしてなぜ法陣などという形式を用い、さらには戦場の片隅にある小さな町すら放っておかぬのか?
ヘドリー
つまりどういうことだ?
ケルシー
飛空船、巨獣、ザ・シャード、それにあの巫術装置。
ドクターの懸念は正しかったようだ。
君の言った通り、あの巨獣は我々にとって最も重要な突破口になるだろう。作戦はなるべく迅速に開始せねばならない。
ブラッドブルードにしろ、ナハツェーラーにしろ、そしていつになくナイチンゲールの前に姿を現した聴罪師にしろ、奴らの行動はどれもリスクが大きい。
戦争の火蓋が今この時に切られたことには理由がある。
アーミヤ
……テレシスはまだロンディニウムに最後の切り札を用意しているということですね。そうだ、一国の首都を奪うなんてこと自体、そもそも馬鹿げています……
ですが、それは一体何なのでしょうか?
ケルシー
……
まずは一つの基本的な疑問から説明するとしよう。
サルカズ自身すら忘れてしまっている、極めて基礎的な疑問だ。
「サルカズという種族は、なぜ鉱石病に最も感染しやすいのか?」