「我々」
ナイン
急げ! 全員を外へ避難させるんだ! 建物からなるべく離れたところまで行け!
絶望した難民
まだこの中に俺の荷物があるんだ! 俺の全財産が!
ナイン
どんな物だ?
絶望した難民
枕と……布団だよ! あれが家から持ってきた最後のものなんだ!
パーシヴァル
バカ言わないで! 後方へ避難しますから、ついてきてください!
まだ感染してないんでしょう? だったらその幸運を大切にすることですね!
ノウエル
群衆が混乱しすぎているね。かなりの数の避難者の中に感染者と非感染者が入り混じっているし、無法者もいるだろう。ここに住んでた人がどういう出自なのかがはっきりしない。
それに、この炎……ここは戦場からそう離れていない。誰の注意を引いてしまうか分かったものじゃないぞ。
そのまま離れるという選択肢だってある! この火災に我々が責任を負う必要はないんだ!
ナインさん! 決断してくれ!
取り乱す難民
感染者だ……これは奴らが放った火だ! 奴らの誰かが爆発したせいで、この工場は――
緊張する感染者
俺たちとは何の関係もねぇだろ!
お前らがあのサルカズを引き寄せてきたんじゃねぇのかよ?
取り乱す難民
そんなことはしてない!
全部お前ら感染者のせいだ! お前らさえいなけりゃ、もっと長くここに隠れていられたのに!
緊張する感染者
*ヴィクトリアスラング*、てめぇ、何言ってやがる?
誰がてめぇらをここに受け入れてやったと思ってんだ!?
取り乱す難民
殴りやがったな!
この野郎――
ナイン
もうやめろ!
そんなに逃げるのが嫌なんだったら、私が火の中に送り返してやってもいいぞ。
取り乱す難民
レ……レユニオン、メイズとグルなんだな!
感染者さえ、感染者さえいなけりゃ……
ナイン
いなければ、なんだ?
目を覚ませ。お前がこんな目に遭っているのも、廃棄された醸造所でこそこそと暮らすしかないのも、すべてを失ったのも、感染者のせいではないはずだ。
身体に石が生えていない以外に、お前と我々に違いなどない。
我々は病にすべてを奪われた。だが我々と同じ苦難を経験してもいないのに、同じところまで落ちぶれたお前はどうなんだ?
ハッ。
取り乱す難民
お前に――お前なんかに何が分かるってんだ!?
お前は生産ラインの機械に指を切断されたことがあるか? 工場の門から放り出されたことは? 領主に家を燃やされたことは?
そうやって自分が受けた理不尽を嘆いてるけど、理不尽な目に遭ったのは、お前らだけじゃないんだよ!
俺の家を燃やした子爵は、実は息子が感染者だなんて噂が流れてたけどよ、それがどうしたってんだ! 奴ほどの権力者なら、息子をクルビアの大病院にだって連れていけるじゃないか!
だが俺たちは? 俺はどうだ? 税金を支払えずに奴に楯突いたってだけの理由で、俺の家は燃やされて、二人の子供が焼き殺されたんだぞ!
誰も奴に口出しなんかしなかったさ! 奴は領主で、片や俺は障碍持ちの貧乏人だからな!
搾取されてるのはお前らだけじゃないってのに、どうしてお前らだけが、堂々と立ち上がって加害者どもを殺す権利があるみたいに振舞うんだ!?
ナイン
……
どうしてだと? 我々が搾取され続けることを望まないからだ。
それに、誰もお前に抗ってはいけないなどとは言っていない。
取り乱す難民
お……俺は――
俺は……どうしようもないんだ。俺にはお前らみたいなアーツがないから……
パーシヴァル
自分に言い訳するのはやめてください。感染者全員がすごいアーツを持ってるわけじゃないんですよ。
ナイン、今部隊は再編中です。これから撤退しますか?
ナイン
……何部隊か連れて周囲を厳重に警戒するよう、レイドに伝えろ。戦線が膠着しているなら、どの勢力も遠方で起きた火災調査などに人員を割く余裕はないかもしれない。
パーシヴァル、逃げてきた人々を落ち着かせ、治療、検査、及び登録の手配をしてくれ。大事を取って、この場所に留まるのは長くとも一日までとする。
パーシヴァル
分かりました!
ノウエル
……
私も手伝おう。火傷と気道に入り込んだ粉塵の処置には慣れているからね。
パーシヴァル
それと、まだGuardと連絡がつかないんです!
彼が無事に逃げ出せたかどうか、まだ確認が取れていません!
ナイン
……安心しろ、私が彼を探し出す。
我々はあのチェルノボーグから抜け出してきたんだ。
ノウエル
ナインさん、源石粉塵の濃度が――
ナイン
……
タルラ
ナイン、お前、もう何度も繰り返しそれを聞いているな。
ナイン
ああ。
タルラ……もし私たちが本当に感染者の都市を築き上げたら、それはどんな街になるんだろうな?
そこは本当に……単なるホスピスではないのか?
その時は、我々はそんな街で、崩壊後の源石粉塵があらゆるものを覆い尽くすのを……次々に死が訪れるのを待つしかないだろう。
タルラ
……
ああ。
ナイン
私たちは……行き着く先で、ただ待っているだけじゃダメなんだ。
ノウエル
ナインさん、タルラさん。お話中失礼する。
ナイン
どうしました?
ノウエル
私は……しばらくこの部隊を離れようと思う。昨日、難民の中にロンディニウムから逃れてきたという者が何人かいてね。
彼らが……気にかかることを口にしたんだ。あの街にはもしかしたら私の探し求める人が潜んでいるのかもしれない。
私はロンディニウムへ旅立つことにするよ。
ナイン
ロンディニウムですか、あそこは危険です。
ノウエル
君もタルラさんから私の正体については聞いていると思う。
ナイン
「長命者」ですか。
ノウエル
そうだ、私は死ねない身でね。
もう……この事実に耐えられなくなってきているんだ。
タルラ
……自殺をするつもりですか?
あなたは一体、どうやって「不死」を得たのです?
ノウエル
……「不死」か、フッ。
初めの頃は、運命が私に仕掛けてきたいたずらの正体に気づくことなど、できようはずもなかったんだ。
私もかつては幸福な日々を過ごしていた。
生涯に唯一の妻と出会い、子を持ち、家庭を築き、アーツの研究に没頭する日々を……もちろん、研究対象は主に自分自身だったけどね。
子は育ち、私たちは老いていった。何もかもが自然なことだった。
妻が不慮の事故により命を落とし、戦火が広がって子供との離別を余儀なくされるまではね。各地を転々としていたあの頃に、自分がほとんど変化していないことにふと気づいたんだ。
君主たちは戦争を始め、何年かすると国王が絞首台に吊るされ、公爵たちの陰謀が明るみに出た。そして、サルカズ……
私は今日に至るまで、何一つ変わらなかった。
毎日、悪夢を見るんだ。夢の中では聞き覚えのない声が……あるいは私の知るあらゆる声が、一斉に私にこう呼びかけてくる。
「苦痛がキミに不死を与えた。キミに死をもたらし得るのは、ただ幸福だけだ。」
そんなことはとうの昔に気づいていたさ。だが一体どうすれば、幸福を感じることが、解放されたと感じることができるのかな?
次々に繰り返される死を、悲劇を目の当たりにしてなお、そんな感覚を得るには、一体どうすればいい?
今が苦痛と絶望に満ちた時代だと言うのなら……私はその時代の背後に潜む者たちを探し出してみせる。
ナイン
……
あなたを引き留める権利は私にはありません。
ですが別れを急ぐこともないでしょう。あなたが戦争の中心地に戻りたがっているなら……我々と道を違える必要もないかと思われます。
ノウエル
そうなのか? 君たちは十分なメンバーを集め終えたら、クルビアへ戻るものと思っていたが……
ナイン
どこかに逃げ続けたところで、キリがないだけです。
ノウエル
……それもそうだね。我々が抗おうとしているのは、そもそも同じものなのかもしれない。
それと……Guardさんに花を手向けておいてくれないか。
ナイン
約束します。
パーシヴァル
ナイン……
ナイン
パーシヴァル、お前……
パーシヴァル
平気です! ただ、少し……目に煙が染みただけです。
三陣目の感染者たちの登録が終わりました。計七名で、全員その工場で薬を受け取ったことがあるそうです。
彼らの話によれば、その工場のおかげで、付近の森には多くの感染者たちが集まって小さな集落ができていたこともあるとか。
それから工場は潰され、ほとんどの人は出て行ったか、命を落として……それでも何人かはその付近に留まっていたようです。
彼らは皆、この大火事に引き寄せられたんです。
ナイン
ああ、そうだな。彼らはこの大火事に引き寄せられた。
Guard……我々の討論は、まともな結論が出ていない。このあとは私の一存で動くことになる。
パーシヴァル
ナイン、あの……
あたしたちでGuardのために、簡単な告別式を挙げたいと思ってるんです。あまり時間はかからないようにしますから。
ナイン
ああ。
この地に花を咲かせてやろう。
レイド
……
尋問は終わった。工場から逃げてきた人全員に話を聞いてみたよ。
地下倉庫で死んでいたあのサルカズは……例のバイク乗りだった。
彼は殺意を持った誰かに殺された。犯人は――ヴィクトリアの感染者たち数名だ。
彼らはサルカズに故郷を追い出された身で、中には家族を失った者もいるようだ。義憤に駆られた彼らについては……その、おとなしくさせておいた。
それで、どうしようか?
ナイン
……
ウルサスにいた頃のレユニオンは、監視隊や、徴収官、採掘場の警備員と戦っていた。それこそがすなわち団結であると、誰もが思っていた。
だが実際はそうじゃない。あれは、単に他に選択肢がなかっただけで喉元に突きつけられた刃を折る必要に迫られたに過ぎない。
レユニオンはかつて、憎しみを原動力に行動していた。だが憎むべき目標は、段々と曖昧で広範なものへと変わっていった。
感染者には祖国も……身分も、血統もない。これはもはや、単なる扇動目的のスローガンに留まるわけにはいかない。
我々に必要なのは、より明確な行動規範であり、より正確な行動方針だ。
Guardとは……かつてそんなことを議論し合っていた。
あいつはこう言っていた……もし地位や策略に溺れる者が感染者だとしたら、我々はそいつを見捨てる。なぜなら奴らは搾取という名の権力を享受し続け、病を道具と見なす者たちだからだ。
抑圧を受けているのが鉱石病に侵された感染者だけではないなら、そんな人々を、苦境から救い出す。なぜなら彼らには我々と共に戦えるだけの力があり、反抗にはより多くの力がいるからだ、とな。
……チェルノボーグは、教訓としては十分だった。
レイド
……彼はいつも、本当に多くのことを考えてくれていた。俺は……
俺は、彼ならば俺たちを率いて、何か大きなことを成し遂げてくれると思っていたよ。
ナイン
成し遂げるさ、たとえ奴が死んだとしても……まだほんの取るに足らない、唾棄されるような存在のまま死んでしまったとしてもな。
レイド
あの犯人たちはどうするつもり?
ナイン
無闇に暴力を振るう者を我々の仲間に加えるわけにはいかない。たとえヴィクトリア人の彼らをそうさせたのは、この戦争だとしてもな。
今回それを黙認してしまったら……我々の部隊はこの先どうなる?
ウルサス人に、クルビア人、ヴィクトリア人、リターニア人。そしてフェリーン、ペッロー、リーベリ、キャプリニー、サルカズ。
力とは、共通の目標に対して明確に向けられるべきだ。恨みや亀裂となり、我々を内部から瓦解させる機会を他者に与えるものであってはならない。
ボジョカスティとウルサスから、それを教わったはずだ。
タルラ
……
ナイン
奴らは追放に処すこととする。
行くべき先は、自分たちで決めてもらおう。
レユニオンは一度決めたことは必ず実行する。
レイド
……了解。
さっきの話は全員に伝えておく。それとあの犯人たちの処遇は……俺が済ませておくよ。
タルラ
……
ナイン
……タルラ。私はある感染者を一人知っている。彼女は名誉ある血統と、権威ある肩書を持っていた。
だが彼女はそれらを捨て去った。「公平」を求めたがゆえにだ。
お前も彼女を知っているだろう。
タルラ
……
ナイン
たとえこの地に住む人々であっても、その多くがお前の考えを……レユニオンが最初に描いていた理想を、その後誇張され、誤って伝えられた理想を耳にしていた。
しかし我々が求めるのは、感染者たちが暮らす移動都市ではない。
我々が成すべきは、すべての王侯貴族たちに、高慢な加害者たちに……我々を分断させ、抑圧し、消滅させようと企むあらゆる者たちに、知らしめてやることだ――
お前らが蔑んでいた刃は、今まさにお前らの頭上高くから突きつけられているのだと。
告別式は……これで終わりだ。別れを告げるのはこれが最初ではないし、これで最後になることもない。
行こう。我々がヴィクトリアで成すべきことは、まだ終わっていないのだから。