打ち明け話

サルカズ?
(古代サルカズ語)魔王が死んだ。
(古代サルカズ語)魔王が、魔王を殺した。
(古代サルカズ語)なぜだ、こんなはずでは――
(古代サルカズ語)我らの都市が、カズデルが……
(古代サルカズ語)これは呪いとなるぞ! 王冠に刻印されし呪いに――
(古代サルカズ語)すべての……災いの始まりに――
ヘドリー
明日の早朝より進攻を開始する。
シージと「模範軍」は周辺の牽制を担当し、俺たちと、ロドスの子ウサギ、バンシーとで途中集積所に潜入する。
W
ケルシーのクソババアは? こんな危険な作戦だってのに、あたしたちを死地に送り出して、自分は高みの見物ってわけ?
ヘドリー
傷が全快していない。アスカロンが、彼女とドクターの護衛を務めることになっている。三人とも後方に留まる予定だ。
ロドスは少し前に聴罪師から襲撃を受けている。奴らは子ウサギの王冠を奪い取ろうとしていたようだ。
W
……
ふん、王冠ね。
イネス
……ヘドリー、あなた、あのヴィクトリア人たちに本当のことを言わなかったわね。
もしその計画が成功して、私たちでカズデルに戻ったら、その後どうするつもり?
あなたとお友達になったヴィクトリア人でさえ、「戦争犯罪者」とか「戦争に巻き込まれたサルカズ」をまとめて連れ去るなんてこと許さないわよ。
あれだけ「サルカズたちを故郷に連れ帰る」だなんて言っておきながら、それを考えたことがないとは言わせないわ。
たとえばそうね、あの地下室にある大学で、戦場帰りの連中向けに……フッ、「歴史再考」の授業を開くとか?
ヘドリー
……
いや。
それより、カズデルで識字教室を開いてみてもいいかもしれん。Wのような読み書きのできない奴をサルカズから少しは減らせるだろうしな。
W
あら?
聞き間違いじゃないわよね? ヘドリーがこういうシリアスな話題でも、イネスに合わせてジョークで返せるなんて。
らしくないわよ。ずーっとマンフレッド将軍のご機嫌取りをしてたおかげで、ちょっとは空気が読めるようになった?
イネス
ふん――
「戦争が終わって、カズデルに帰ったら」――こんなところでこんな空想に耽ってるなんて、おかしな話ね。
私たちは傭兵で、それ以外の何者にもならないっていうのに。
W
可愛いキャプリニーのあんたなら、リターニアにでも行けるんじゃない? 塔の上でお高く留まってる貴族たち相手に家庭教師をやるとかさ。
それで……そうね、戦場での綺麗な髪の保ち方でも教えるってのはどう?
イネス
微妙なとこね。
ヘドリー
……
イネス
何をぼうっとしてるの? もうすぐ戦いが始まるわよ。
ヘドリー
いや、ただ……
確かお前は、カズデルで店を開くつもりだと言っていたな。
イネス
あれはその時「商品」を売りさばく場所に困っていたからよ。
ヘドリー
……そうか。
……
俺が識字教室で稼いだ初任給を、お前の元手に充てるというのはどうだ?
イネス
識字教室がそれほど儲かるとは思えないけど。
W
でもさ、リターニア貴族に仕える家庭教師を誘拐して身代金吹っかけたら、だいぶ稼げそうじゃない? 少なくとも、傭兵十人分の首以上の額にはなるんじゃないかしら。
イネス
そういう話は本当に故郷に帰れた後にしなさい。
ヘドリー
そうだな。
イネス
そんな精神状態で、これからの任務はちゃんと務まるの?
幻やら法陣やらのせいで、くたびれてバカになっちゃった?
W
そんなセンチなムードに浸ってるバカは放っときましょ。
時間は待ってくれないわよ。愛の巣の内装について話し合うのは、あのブラッドブルードとテレシスの奴をぶっ殺した後で、二人でカズデルに戻ってからゆっくりやってちょうだい。
ヘドリー
……テレシス。
俺がずっと考えていたことがあるんだ、W。これから俺が話すことはお前にとって受け入れがたい話かもしれんが、やはり言わねばならんだろう。
W
ハッ、何よ、開戦前から水を差すつもり?
ヘドリー
そういうことだ。
俺たちはテレシスを殺すわけにはいかない。少なくとも今この時、サルカズの手で奴を処刑してはいけない。
W
ーー
イネスの言った通り、ほんとに幻にやられてバカになったみたいね――
ヘドリー
奴を殺せば、カズデルは二度と存在しなくなる。
今も、そして戦後の長い時間にわたっても、奴は摂政王として語り継がれ……ともすれば一部の者たちから称賛されるような存在であり続けてもらわなきゃいけないんだ。
W
……気でも狂ったの?
この件で冗談を言われても何一つ面白くない。
ヘドリー
この戦争を止めなきゃならないって考えは今でも変わっていない。
だがテレシスは、自分をサルカズの未来のための礎へと作り変えてしまった。
カズデルは二度と分裂するわけにはいかない。この戦争も……サルカズたちがまたもや裏切りと内部紛争を始めるための引き金となって幕を閉じることは許されない。
俺が前に話した計画を覚えているか? 俺たちがすべきことは、奴の死が知れ渡る前に、この戦場に身を置くサルカズたちをヴィクトリアから撤退させることだ。
イネス
……
ヘドリー
サルカズの敗北がひとたび知れ渡れば、テレシスの威圧が存在しなくなれば――その後、何が起きる?
公爵たちは思うさまヴィクトリア領内のサルカズを虐殺して回り、復讐心は他の中核国家にまで根を伸ばすだろう。あらゆる文明が……サルカズを根絶する正当な理由を手にするだろう。
それから連合軍が組織されて、合理的かつ公正に、迅速かつ果断に……テレジアとテレシスの遺したすべての遺産を山分けし合うだろう。
お前にも想像がつくはずだ。
W
正直言ってね。テレシスが死んだらどうなるか、なんてちっとも気にしちゃいないわ。あたしが求めてるのはあいつの「死」だけよ。
連合軍? サルカズの虐殺? そんなの、前からやってたことじゃない?
テレシスが死ねば、魔族の反抗の意志もまとめて消え去るっての?
ハッ。あたしはそうはならないし、そんな戯言信じてもないわ。
テレジアを暗殺して、王を名乗り出して、皆をこんな目に遭わせたのはあいつなのよ。
あんな奴のカズデルのために、あたしたちが身を委ねる必要なんて――
ヘドリー
他人事だと思い込むのはよせ、W。
まだ自分が一介の傭兵に過ぎないと思っているのか?
お前はここまで一体何人引き連れてきた? レユニオン時代から今に至るまで、何人のサルカズがお前の元に集った?
今やお前は、彼らの命を背負っているんだ。
W
そんなの知ったこっちゃないわよ!
ヘドリー
そんなことはないだろう。
お前は、以前までのようにただ人を殺して、爆弾を埋めていればそれでいいと思っているのか?
今やサルカズたちを率いるリーダーであるお前は、彼らの希望をどう対処すべきかについて、きちんと考えなきゃならない。
彼らの命がお前にとって何を意味するのか、それもよく考えなきゃならないんだ。
W
あたしは――
……
イネス
テレシスだけじゃないわ――
テレジアのことも忘れちゃダメよ。
ヘドリー
だからどう考えたところで、俺たちは……彼らの継承者に、理念の延長にならざるを得ないんだ。
あの二人こそが、サルカズが団結できた理由なのだから。
W
……
あれは本物のテレジアじゃない。
あんなの、テレシスが作り出したただのまがい物よ。あたしの目はごまかせないわ。
ヘドリー
W。
自分自身とちゃんと向き合え。
W
あんた、一体何様のつもり――
ヘドリー
お前はテレジアの死を受け入れられていない。バベルの影であることに慣れてしまっている。
それどころか……
W
黙って。
ヘドリー
お前は、アーミヤが自分を先導してくれていると思っている。彼女こそがテレジアの選んだ継承者であり、そんなことは「魔王」が考えるべきだと思っているんだろう。
お前は、あの子のことをもう一人のテレジアと見なしている。だから「魔王」について行けばそれでいいと考えているんだ。
W
黙れってのが聴こえないの! あんた、わざとあたしをイラつかせてるわけ!?
ヘドリー
……自分には何かを継承する資格なんてないと、お前はそう考えている。
W
……ふざけないで。あたしのことを、何でもわかってるつもり? ヘドリー、あんた本気で自分のことをあたしの教育者だとでも思ってんの?
あんただってあたしと大差ない、ただの傭兵よ。なのに自分を継承者だなんだって自称するわけ?
チッ、反吐が出るわ! あたしがあの子ウサギについて行く?
あんな奴、たまたま運が良くて――
ヘドリー
――運良くテレジアに選ばれ、ロドスを率いてレユニオンとタルラを止めて、今もロンディニウムへと攻め込んでいる。
そう言うお前はどうだ?
W、お前にとって、テレジアとは一体何を意味している?
かつてお前に居場所を与えてくれた遠い過去の象徴である、あの血肉を持った殿下か。それとも……彼女が歩む道そのものか?
W
……あたしは……
「この大地が……静かに眠れるように。」
……チッ。
だからこそ……あいつは偽物だって言ってんのよ。
……
ヘドリー
……
イネス
……
W
……イネス、あんたよく今までこいつをぶっ殺さずに耐えていられたわね?
イネス
私は自分にウソをつくことなんて滅多にないから。
W
ハッ。嘘つきがよく言うわ。
余計な心配は結構よ、ヘドリー。
自分が何をすべきかなんてちゃんと分かってるわ。今回は部隊の士気を下げた罰として処刑はしないでおいてあげるから、感謝して土下座しなさいよ。
明日の戦いに備えて、その剣をよーく磨いておくことね。
ヘドリー
はぁ……やはり逃げられたか。
イネス
本気であいつがまともなリーダーになれると思っているの?
ヘドリー
あいつは多くの傭兵たちをまとめ上げた。
イネス
フッ、本当に「傭兵」と言えるのかしら?
Wが彼らを雇うのにどれだけのお金が必要だと思う? それにあいつの成すことは、彼らにどれだけのお金を稼いでやれるのかしら?
ヘドリー
なら彼らがWについて行くのは、一体なぜだ?
テレジアの敵討ちのためだとか、暗殺に関与した者たちを殺すためだとか、あるいは何も考えてなどおらず、ただ狂気のままに爆弾をばら撒くだけだとか……あいつが口で何と言おうが――
いずれにせよ……すでにその道を歩み出しているんだ。
イネス
……あいつについて行く連中も、可哀想にね。
だけど実は多くの人が忘れているわ。あいつはまだまだ若者で……成長の余地がたくさん残されてるってことを。
ヘドリー
だといいがな。
それと、初任給をお前の開業資金に充てるというのは、冗談で言ったわけじゃない。
イネス
……分かってるわよ。
シージ
「模範軍」の準備は整った。
ロンディニウム市民自救軍から、一部のメンバーが我が軍に参加を申し出てくれている。
シアラー少尉
うむ、それに道中で併合した元公爵軍の残存兵たちに、戦闘への参加を希望する難民、自救軍の民兵を加味すれば、我々の元には今や六か七個中隊程度の兵力がある。
シージ、我々は「模範軍」の軍事制度を正式に樹立し、士官を任命すべきだ。そうでなければこの軍の指揮系統は――
シージ
シアラー少尉、この部隊は本物の「ヴィクトリア軍」ではない。
確かにこちらには一定数の兵士がいるが……
貴様やデルフィーンが率いるウィンダミア公爵の生き残りを除くと残りは戦闘への参加を望む一般人だ。労働者や、農民、商人に、それに無論、街のゴロツキもな。
もしも彼らを特定の作戦小隊に無理やり編成し、武器を持たせただけで、士官たちの指揮に従うよう命じたとしたら、我々は公爵たちと何も変わるまい。
「模範軍」というのは、なかなか悪くない名義だがこれが人々にもたらすのは、純粋な希望であるべきだと私は思う。
あるいはそう大げさに言わずとも、公爵たちの高速軍艦ではもたらし得なかった、もっと実体のないものであるべきだ。
つまり……
模範軍は、国剣を手にした王位継承者が率いる英雄の軍隊であるべきじゃないということだ。そんな名目はごめんだ。
シアラー少尉
だが、その場合どうやって軍事行動を取ればいい?
デルフィーン
それを言うなら、私たちの部隊にも正規の軍事訓練すら受けていない人はたくさんいますよ。
郷に入っては郷に従えってやつです。
私たちがチェットリーでやったように、あるいは自救軍がロンディニウムでやったように。
自分がよく知る人たちと共に、自分のやりたいようにして、サルカズどもを殺せばいいんです。
……すみません、わざとじゃないんです……
ヘドリー
……
Logos
構わぬ。我は気にしてなどおらぬ。
儀式はすでに阻止されたが、サルカズの血脈に残りし祝福が完全に消え去ったわけではないようだ。
ロンディニウムの方角で……古の巫術が逆巻いておる。
我らの仇敵は何やら秘めたる目的を抱えておるようだが、あやつらの見せる焦りの態度は、かえって突破のための助力となってくれよう。
デルフィーン
より一層注意してかかります。
ヘドリー
では……
あの引く手あまたの骨を取り返しに行くとしよう。
イネス
計画は成功ね。あのヴィクトリア人たちの攻撃が、一部の駐屯軍を引きつけてくれているわ。
潜入成功。あれは確かにここにいる。
ライフボーンの守衛
お前ら、前に来たサルカズか? どうして――
お前ら、ヴィクトリア人どもと一緒に攻め込んできたってのか?
ヘドリー
……悪いな。
ライフボーンの守衛
こいつらを、このサルカズの裏切りモンどもを殺せ!
ヘドリー
ウルスラ自ら出迎えには来ていないようだ。
イネス
Logosの言った通り、忙しすぎてそんなことしてる暇はないみたいね。
W
ハッ――前はあたしだけ仲間外れだったけど、確かにやたらバカでかい図体ね!
爆破して真っ二つにしちゃってもいいわけ?
ヘドリー
ダメだ、部隊から離れるな。
アーミヤ
急いで脊椎に登り、あれの操縦者を制圧します!
Logos
……
アーミヤ。
アーミヤ
はい。感じました。
彼がここにいます。