暗紅の君主

ブラッドブルードの大君
おやおや、見すぼらしく成り果ててしまったものですね。
にっちもさっちも行かず、まったく手が回っていない。
たとえあなた方の哀号に応えてくれる人がいなかったとしても、これはせっかくの舞台、そして最後の別れを告げる機会ですから、どうか無駄にしないでいただきたい。
Logos
「我の言葉は、則ち我が定めしものなり。」
「風雨の暇、うぬらは流動するに能わず。」
ブラッドブルードの大君
滾りそのものを制したのですか? お見事ですね、血の流れを止めるとは。
しかし――それら血の主はこの私ですよ?
弔鐘は朽ち果て、規定はいずれ疲弊する、そうでしょう?
あなたが自身に流れている高貴な血脈を重視しないのであれば、それを抽出した後にあなたの母君のもとへ送り返してあげてもいいのですよ、バンシー。
彼女はあなたのために哀悼の笛を吹いてくれることでしょう。
Logos
アーミヤ!
アーミヤ
――
これがあなたの血ですか?
あなたのアーツと生まれ持った素質によって、血が沸き立つように熱せられています。
しかし私がこれまで見てきた熱い血は――
――どれも抗い、生きるためのものでした。
その人たちの血は、あなたのよりももっと熱かったです。
ブラッドブルードの大君
うっ。
Logos
……アーミヤ、下がれ!
致命打にはなっておらぬ!
ブラッドブルードの大君
実に冷酷ですね、魔王よ。
あなたは本当に情け容赦のないお方です。
アーミヤ
ブラッドブルードの大君。鮮血の王庭の主である、あなたの子供たちは、サルカズのいる戦場の至るところで見られます。
そんなあなたはいつも彼らにこう語りかけていましたね。殺戮と征服こそがブラッドブルードの古からの伝統なのだと。
そして、あなたは、自分の王庭を今の姿へ作り変えていきました。ブラッドブルードといえば、皆あなたのように歪んだ欲望しか持たないと思われるような存在へと。
でも私の知るブラッドブルードは、あなただけではありません。
彼らは決して、あなたのように狂気にまみれてはいません。
ブラッドブルードの大君
彼らは自らの渇望を上手く隠し通せてきたに過ぎません。この故郷を失った時代に深く教化されてしまっただけです。
いつの時代も、侵略者の足元で這いずることに甘んじる者は存在してしまうものなのですね。実に残念です。
アーミヤ
いいえ、それは違います。
ブラッドブルードの大君、あなたは自らの王庭が象徴する血をどう解釈していますか?
ブラッドブルードの大君
サルカズの苦難ならばこれ以上は言うまでもないでしょう。どのサルカズであれ、あなた方に服従している者たちすらも、血の味を覚えてしまうものです。
暗い路地で殴り倒され、密林で行く手を阻まれる。ある時はあばらへと、またあるときは喉へと冷たいナイフを刺しこまれる。
だからこそ、サルカズの兄弟姉妹たちは目を覚まし、理解できたのです。屈する代償というものを。そのため彼らは、自らも敵の血を被ることになるまで抗うことを選びました。
実に嘆かわしい。
殺し、殺されるの繰り返し。それこそがサルカズの背負う血の輪廻というもの。
アーミヤ
「血の輪廻」。それがあなたの定義する血の意味ですね?
……
しかし私たちが初めてこの体に血を纏わせるのは……母から生まれてくる時のことではないのですか?
血は人々が生きていく根幹であり、へその緒を通じて伝わってきた継承そのものであり、冒険の際に避けられることのできない躓き、そして必ず癒えていく傷口でもあります。
なのにあなたは、その血を苦痛と死の別称と見なしています。
そういった偏った執着心を持っているからこそ、あなたは血を啜らずにはいられなくなってしまっているんでしょう。
あなた自身の驕りと傲慢さによって、それこそがサルカズの向かうべき道であり、成すべきことだと、ほかのサルカズたちを唆してきたんです。
……そんなあなたを私は否定します、ブラッドブルードの大君。
あなたの行いと言葉を、あなた自身の王庭を、私は否定します。
ブラッドブルードの大君
ふはははははは! 今なんと仰いましたか?
異族風情のあなたが、この私を否定するだと?
王冠を一つ戴いただけで、随分と虚栄が醜く肥え太ってしまったものですね――「魔王」よ?
アーミヤ
私がどういう存在であるか、またなんと呼ばれていようが私は気にしません。
ただ私のなすべきことを知っていれば十分です。
ブラッドブルードの大君
ああコータスよ、あなたはそうやって「魔王」の力を弄んでいるのですか?
次はどのような理屈を説き、どのような浅はか極まりない感情で私を揺さぶるつもりなのでしょうね?
存分にお試しなさい。
アーミヤ
……あなたを否定します。
「魔王」を、サルカズを、カズデルを力と伝統に帰結させようとするあなたを否定します。
未来を過去に託し、命を殺戮に託そうとするあなたを否定します。
魔王として、軍事委員会の長として、そしてバベルの指導者としてテレジアさんは私たちにある道を示してくれました。
もしかしたら、その道はあまりに理想的なものだったのかもしれません。彼女がしてくれた約束事も、サルカズの万年も続いてきた憎しみの重さに耐えられなかったのかもしれない。
だとしても、選ばれるべきは決してあなたの選択ではありません。
ブラッドブルードの大君
……
アーミヤ
私が臆病で弱いと嘲るつもりですか? 私にはあなたとサルカズの何たるかを論じる資格すらないと?
それとも今もあなたが「呼び覚ました」血脈を使いたがらないLogosさんを嘲笑うつもりですか?
ブラッドブルードの大君
……ほう、「魔王」、私の思考を覗き見しましたね? それがあなたの誇るべき能力だとでも?
ならば、私が何を話そうとしているかはお分かりでしょう?
アーミヤ
はい。
でも、サルカズは抗うことを諦めるべきだなんて、私たちはこれまで一度も言ったことはありません。苦難はあって当たり前だ、なんてことも。
むしろその逆です――
耐え難い苦しみと憎しみの深淵から目を覚ました反抗者たちは――
あなたよりも遥かに強い人たちになるでしょう。
サルカズの失われた故郷なら、あなたが何度も振り返ってきたあの万年も前の歴史の中にはありませんよ。
故郷はただのスローガンであるべきではありません。空想や単なる象徴でも。
故郷は、今まさにここにあります。サルカズたちが、やって来た場所に。
カズデルという名の都市には今もあれだけ多くの人たちが生きているというのに、あなたたちはそんな彼らを空々しい理念の中に葬り去ったんです。
過去を使って今を憶測すれば、本物の未来なんて永遠に来ることはありません。
もうやめましょう、ブラッドブルード。
ブラッドブルードの大君
あのテレジアすら失敗に終わったというのに、あなた如きに何ができるというのですか?
アーミヤ
だからこそ、彼女は私を必要としてくれたんです。ドクターも、ケルシー先生も。
だからこそ、私はここに立っているんです。
レヴァナントやあなたの言ったように、多くのサルカズが思っているように――
異族の――軟弱な――「魔王」風情が。
そこをどいてください。
アーミヤ
あなたにもう戦える術はありません、ブラッドブルードの大君。
ここでお終いにしましょう。
ブラッドブルードの大君
「魔王」よ、私にあの虚無の光景を見せてはくれないのですか?
私が今何を思っていて、何に悲しみ苦しんでいるのか、それを覗いてみたくはないのですか?
アーミヤ
……
ブラッドブルードの大君
私を戒め、否定することならできましょう。それこそが魔王の権能であると、すべてのサルカズたちが信じて止まないのですから。
しかし、私が自身の王庭を毀損していると責め立てているあなたはどうなのですか?
サルカズは「魔王」であるあなたが指し示し、歩んだところを道としているのです。同胞があなたに追随しているのも、あなたが彼らの血と肉を、命と魂をよりよく使ってくれると期待しているため。
だがそんな盲目的な信仰など、笑止千万。
こうして魔王から施される慰めを鼻で笑ってはいますが……私も一度は見たことがありますよ。
なぜなら私の兄上も、かつては魔王だったのですから。
「魔王」、フッ、なんと尊く、超越的な地位でしょう――
かの者はサルカズたちの長にして、我々の道しるべ。
かの者こそが天性の救済者。我々を苦厄から連れ出す救いの手。
しかし、実際はどうでしょう?
黒い王冠は、一体どういった者を選び出しましたか?
当初は確かに、魔王は威厳に溢れた方でした。譴罰の旅に発った炎魔や、畏れ無き災いに怒号を発したゴリアテ――
しかし彼らは、いつも臆病者に背かれ、我欲を優先する者に裏切られてきました。
それが我々の受けし呪いなのですよ。
アーミヤ
「魔王が……魔王を殺めた。」
この王冠が受け継がれる際は、いつも死を伴ってきたのですね。
ブラッドブルードの大君
そして勝つのはいつだって卑怯者でした。
だからこそ、その王冠は愚かさと浅はかさによって穢されてしまったのです。
やがて魔王の中にも、とうとう軟弱者が現れてしまいました。
狭い視野しか持たない彼らは、その手に握った権謀を弄ぶことだけに酔い痴れて――神民や先民といった偽りの領主と相違わない存在に成り下がってしまった。
盗み取ってきた権力で、彼らは二度と己を認識することができなくなり、我々の同胞たちが信仰する恐れを知らない戦士は、王宮に隠れるだけの蛆虫と化してしまったのです。
そしてついに彼らは――サルカズという名が背負っている恥辱すら忘れてしまう始末!
にも関わらずその王冠は、私の兄上に至るまで愚かしい選択をし続けてきた!
我が兄上こそが、我々の待ち望んでいた英雄になり得ると思っていたというのに!
彼は私にこう告げたのです。サルカズはこれ以上戦争を継続する力はなくなった。カズデルを修復するにも、これから何世代もかかることだろう、と……
我々が修復すべきカズデルというのは断じて町一つなどではありません、今この足元にいる骸骨ですら分かり切っていること。そして「魔王」は、すべての人たちを先導すべき存在なのです。
兄上のような男に、ティカズの血の雫をその身に宿す資格などあろうものか!
あなたにそれが見えますか、魔王よ!
アーミヤ
……血に塗れた内乱が見えました。
王宮の絨毯も赤く染まっています。
そして一人のブラッドブルードが……もう一人のブラッドブルードを胸の中に抱きかかえられている場面も。
Logos
それはきっと「血塗れの王子」の伝説だろう。
あやつはとある内乱の最中に亡くなってしまった。そして、うぬはあやつの骨肉。まさかうぬもあの反乱に加わっていたのか?
アーミヤ
……いいえ、違います。
ブラッドブルードの大君
「加わった」だと? いいや、違う!
王冠を粉砕する程度のことであれば、私一人だけでも十分!
今も鮮明に覚えています、私の手が彼の胸を突き破った光景。ティカズの澄み渡った血が、私の指先を巡って飛び回り、ついには私の血管へ流れ込んでいきました。
すると彼は私に振り向き、私の衣服を掴みながら見せてくれたのですよ……「魔王」が死に面した際に功臣に賜う虚構の光景を、下手人である私に。
その光景の最中、私は見たのです……はっきりと「安寧」というものをこの目に。
あなたの言う通りです、コータス。血は必ずしも死を意味するものではありません。あのとき私はどこかの山間の長閑な村で談笑しながら負傷者の傷口を縫っている医者を見ました。
怪我をした者はその医者に、近頃の獲物は狂暴だが、それでも狩ることができたと語っていました。庭の方に視線を向けると、獲れたての獣肉が吊るされていました。
……その医者は、私だったのです。
しかしおかげでなおのこと怒りが収まらなくなりました。
なんと悲しく、なんと虚しく、なんと恥ずべきことでしょう! 我が兄上はよもや、そのような偽りの「安寧」で私を惑わせると思っていたと? であれば大間違いです!
この私が憎しみなどで理性を失っていたとでも思っていたのでしょうか? いいや、違う! 平静がなんたるかを理解していたからこそ、私はなおのこと怒りが収まらなかった!
真に強大なティカズの君臨を! それこそが我々の望み!
そして私は、兄上の血を我が身に納めました。黒い王冠も次第に消え去っていき――
Logos
だがうぬは「魔王」に即位しなかった。
ブラッドブルードの大君
……無念、などと思ってはおりませんよ。もしその王冠が強大な長を選び出してくれるのなら、どれだけ喜ばしいことだったか。
だがその王冠は次から次へと私に失望につぐ失望を叩きつけてきました。
流浪者、それが私の兄上から王冠を継承した者です。その次はただの木こりに。もし聴罪師の持ち帰ってきた文書がなければ、連中はその名を記されるほどの価値すらなかったでしょう。
さらにカズデルの主となった次の魔王はあのケルシーと呼ばれるバケモノに殺され、連合軍の前に倒れてしまう始末。
そうしてテレジアとテレシスの代に至ったのですよ。
あの二人は人々に一目置かれますが、苛立ちも同時に覚えさせてしまいます。美しい理想だけを求めて己の強大な力を無駄にするテレジアは……あまりにも我が軟弱な兄上に見えてしまいました。
そして彼女の後継者は……なんとなんと異族であるコータスにまで落ちました。
王冠が常々こうもふざけた選択をするのであれば、その存在が我が同胞に恥辱めいた希望しかもたらさないのであれば――
文明の外にあるこの地で、私がその王冠を葬り去りましょう。正真正銘、真の意味において王冠を歴史の中に棄て去ってやるのです。
Logos
まだ足掻くつもりか。
アーミヤ、あやつにチャンスを与えてはならんぞ。
ブラッドブルードの大君
あなたも弱ってしまいましたね。それもそうでしょう。いくら王冠が穢されていようと、あなたみたいな赤子如きのコータスが受け止められる重さをしてはおりません。
どうやらまた余計なことを喚かれてしまいそうですね、いずれその王冠を弄ぼうとする聴罪師たちに。
……さて、もう一度しっかり周りを目に入れておきなさいな、コータスよ。あなたがここで死ねば、もはや「継承者」は存在しなくなります。
それとも、その王冠を月にでも被せてやるおつもりですか?
アーミヤ
そんなまさか……? まだ戦えるというのですか!?
魔王のアーツは確実に彼の体の奥まで入り込んでいきました、体を再生させることは不可能のはずです!
Logos
……
あやつめ、血で破損した肉体を修復し、傷口を縫っているのだ。
もはやただの操り人形と言ったところか。
ブラッドブルードの大君
魔王の力、ますます熟達してきましたね、コータス。
しかし、あなたが吐き捨てた一切の勧告も警告も、判決も宣告も、すべてはただの戯言。
無知なる子ウサギさんよ、あなたの戴いてる王冠は職責や権能を表してるものではありませんよ。
「魔王」か、フッ。私が魔王の愚かしい一面を嘲笑っているのは、何もあなた自身を嘲笑っているだけではありません。
王冠そのものに対しても、私は嘲りを向けているのです。
サルカズたちが拠り所とする魔王を失えば、彼らもようやく救いを待ち望むことをやめて、卑劣な夢から目を覚ますことができましょう。
深淵から目覚めた者たちはより強大だというあなたのその言葉は、私も認めます。
しかしだからこそ、あなた方では私に勝つことができないのです。
もはや堕落し切ったサルカズの意志如きが、どうしてティカズの血を受け継いでいたこの私に抗うことができましょう?
ただ汚らしいだけでは純潔を穢すことはできず、悪濁とて清廉さを染め上げることはできないのですから。
ティカズがあなた方の辿った道というのであれば、あなた方は延々とその延長線を這い上ることしかできないのです!
我々こそが反抗者なのですよ!
Logos
「我が画定せしものは我に矯正される。」
「血と炎はやがて消える。滅亡を正視せよ。」
アーミヤ
Logosさん、危ない!
Logos
グハッ!
あやつの血が、この我に影響を及ばせてきただと?
この力、あの法陣よりも何倍も――
ブラッドブルードの大君
そうとも。あなた方のおかげで、私もここに自らの血を流すことができました。
そして――
ここもカズデルに組み入れられたのです。
誰が予想できたことでしょうか。誰もが、この大地はとうにその全景をさらしていると思ったその時……
故郷の辺境では、尚もその領土が広がり続けていたのです。そう、今この時この場ですらそうなのです。
さあ、サルカズたち! サルカズと自らを称する我が同胞たちよ!
血の行軍と、永遠にあなた方を裏切ることのない血脈の賜物と共に行きましょう!
その全ての始まりの地へ、私があなた方を導いて差し上げます!
その地はきっと――
なっ――
イネス
悪いわね。サルカズの賜物がどうこうなんて、私にはこれっぽっちも関係がないの。
W
子ウサギ!
*サルカズスラング*、あんたサルカズじゃないんだから、さっさとあいつの束縛を弱らせなさいよ!
アーミヤ
今やってます! でも彼のアーツは、想像以上に――狂っていて!
彼の心臓の鼓動も、もうほとんど聞こえません! ただ……真っ赤な色しか……
あともうちょっとで……捕まえられそうです!
ブラッドブルードの大君
また異族の者ですか……これに関してはまったくの予想外です。
その血の匂い、キャプリニーですね?
無粋な偽装だ……自らの血によって絞め殺されるといいでしょう。
イネス
……うぐッ!
ブラッドブルードの大君
そんな浅はかなアーツ如きで、サルカズ王庭の主を殺せると思っているのですか?
ヘドリー
いいや、思っちゃいないさ。
ただの虐殺をいたずらに「覚醒」などと言い換えないでもらいたいものだ。ブラッドブルードの大君。
憎しみと滅びの中で彷徨っているお前こそ、一度だってそのいわゆる「深淵」から逃れられていないじゃないか。
寝ぼけているのはそっちのほうだ。
ブラッドブルードの大君
――この卑劣な裏切者どもが――
――
魔王!
アーミヤ
今です!
完全に回復できていないうちに、彼をこの骸骨から叩き落してください!
Logos
我が王庭を受け継いだ当初から、弔鐘は我と運命を共にした。
誰だろうと逃れることはできぬ。
しかし、この挽歌はうぬの躯を悼むために歌われたものではない。
うぬと我の間に繋がるすべてのために歌われたものだ。
ブラッドブルードの大君
バンシーめ――私は決して――
Logos
アーミヤ、我に合わせろ。
挽歌の弦音を探り、バンシーの根源を見つけるのだ。
我を視ろ。かつては耳を塞いで拒んだ哀号に目を向けるのだ。
必ずここであやつを仕留めるぞ。
アーミヤ
はい、やってみます!
ブラッドブルードの大君
バンシーよ! よく聞け!
あなたは自身の血脈を継ぎ、私の祝福を受けた――
だがまだ、あなたは己に打ち勝てていない!
ブラッドブルードの大君
……
なんと滑稽な……サルカズの魂まで、この私を嘲笑うとは。
バンシーの主、そして……「魔王」よ。
……あなた方は過去を蔑ろにするその雑種どもを傍に置き、あまつさえ自ら私に手を下すことすらできないとは。
あぁ……やはり勝利するのは、いつだって卑怯者だ。
確かにこれは我々の呪いと言えるでしょう。
異族の魔王がこの私を処断した?
魔王は弔鐘と共鳴を果たした。だが血の色をした繋がりがどれだけ強靭なものであるかを知らないまま、私の死を宣言しようとは……
だがしかし――
フッ、だがしかし、最後にあなた方はその血脈に眠る力を行使したのです!
挽歌を歌う二人の者が、同時に私のために弔いの曲を捧げてくれた――
あなた方は己を形作った全てに、血脈より来たりし本能に打ち勝つことはできなかったのです。
では果たして、そこまでしたあなた方は本当に私を殺せたのでしょうか? いいえ、答えは否です。
ティカズの血なら、私はすでに故郷へ還しました……
ロンディニウムです。ロンディニウムを見に行くといいでしょう――
(囁くようなサルカズ語)滅びの緞帳の裏であなた方の到来を待っておりますよ。