舷側エリアを占拠

W
何が抵抗しないよ――
何が死で解放されたいよ――
そんなの信じない。
死にかけの刺客
……
彼女はあえて致命傷を避けて、刺客の胸に短刀を突き刺した。
彼女はマスクの下に隠れる臆病者の泣き叫ぶ声を聞こうとした。
ゆっくりと短刀をねじる。ほんの少しの怯えた呻きでもいいから……
聞くことを渇望した。
しかし何も聞こえはしなかった。
死にかけの刺客
……
W
あんたが今すぐに死ぬことはないわ。こんな簡単に死ぬなんて……
あんたたちは……殿下の命を奪い取った――
死ぬだけじゃ、軽すぎる……
任務を受けた時点で、すでに生きるつもりはなかったと言っていたわね――
あたしは信じないわよ。
あんただって生きたいんでしょ? 逃げたくないの?
奴らに、逃げてほしかった。奴らが逃げてくれればいいと思っていた。
そうすれば追える。殺せる。果てしない絶望の中で死に至らしめられる。
奴らの絶望を啜りたい。
だがそれでも失ったものには足りない。まるで足りない。一体どうすれば足りるのだろうか?
W
ほら、手榴弾を持ちなさい。すぐに爆発するから。
あたしはここで待ってるから、証明してみなさいよ。
投げ捨てたって構わないわ。
それを捨てれば、あんたは生きる。
あたしはあんたを殺さずに、行かせてやるわ。
死にかけの刺客
……
W
……
投げ捨てろっつってんでしょ!
死にかけの刺客
……
これが爆発すれば、私の何もかもを消し去ってくれるのだろう?
W
……
死にかけの刺客
いいだろう。
お前は離れていろ。
彼女は信じない。だから、眼前の人物の嘘の痕跡を探ろうとした。
奴が躊躇いさえすれば。奴が生きようとさえすれば――
白い光が目の前で広がる。爆発の中心は手榴弾をしっかりと握り締める手だった。
飛び散る火花が彼女の顔をかすめた。だが彼女の心が満たされることはなく空虚なままだった。
全然足りない……
いや、まだ足りない。
まだまだ足りない。
まだまだ用意してるのよ――
彼女は黒い波が爆発の余燼の中を逆巻き、引いていくのを見た。
あいつは? 痕跡さえ完全になくなったか?
W
……備蓄を一度に使いすぎたかしら?
まあいいわ、使わずに取っておく方が無駄だもの。
平気?
別に。あんたを助けてやったんじゃない。
Mon3tr
(低い雄たけび)
W
ペットちゃんはこいつらのことは覚えてるでしょ?
過去に全員死ぬべきだった亡霊たちを……
Mon3tr
(怒り狂った咆哮)
W
あんたは知らないわけ?
……
フッ。知らない方がいいわ。
これがレヴァナントのどんな芸当なのかは知らないけど。
よりによって殿下がいるこの船で――
殺す。
願ってもないわね。
今になって今回の作戦が、段々と面白くなってきたわ。
行きましょう。方向はこっちかしら?
あんた前を歩きなさいよ。
ビビることはないわ。ペットちゃんが付いてるでしょ。
あたしが見えるとこにいないと、対応できないでしょうが。
あたしとの協力もそんなに難しくないでしょ?
廊下は死の匂いで充満している。吐き気を催すほどの、静寂。
他人の助けなどなくとも、Wは確信していた。自分たちはレヴァナントのコアに近づいていると。
殿下がなぜ自ら進んでこんな所にいるのだろうか?
殿下もそこにいるのだろうか?
殿下は、自分のことをまだ覚えているだろうか?
彼女にはたくさんの聞きたいことがあった。しかし考えるほどに、むしろ冷静になっていく。
殿下にこんな落ち込んだ姿を見せられない……
殿下はよく笑顔を浮かべながら言ってくれた。あなたは笑った方がずっといいと。Wははっきりと覚えていた――
W
ちょうどあんたたちのことを考えてたのよ、クズども。
飛空船の「亡霊」
ここまでだ。
ここまでだ……
これ以上は進ませない。
W
{@nickname}、止まるんじゃないわよ。
廊下の果てがきっとあたしたちが探してる場所よ。
緑のにしっかり掴まってなさい。あとのことは何も構う必要はないから。
約束してあげる、こいつらはあんたに触れる前に全員消し炭になってるって。
飛空船の「亡霊」
お前一人ではままならぬ時はあるものだ。
W
――?
Mon3tr
(怒ったような雄たけび)
W
あたしは子ウサギじゃないの! 指図するんじゃないわよ!
やりたいことがあるなら、四の五の言わずにさっさとやりなさい。
飛空船の「亡霊」
お前たちは「ドクター」を片付けろ。
W
ねえちょっと、あたしがそいつを放っておくと本気で思ってるわけじゃないわよね?
飛空船の「亡霊」
……
W
レヴァナントの狂った老いぼれと一緒にいすぎて、脳ミソまで使いものにならなくなったのかしら?
そいつには事前にたーっぷりプレゼントを渡しておいてあるわ。
目をしっかり閉じなさい、{@nickname}――
「パァン」!
褒め言葉はいらないわよ。本当はあのババアと合流した時にサプライズしてやろうと思ってたのに台無しよ。
飛空船の「亡霊」
気をつけろ。
W
もっとたくさんいいものをくれてやるわ!
隅から隅までぜーんぶ照らしてやれば、あんたたちもとっととくたばってくれるかしら――
チッ、効かない? ならいつものやり方で全員叩き切ってやるわ。
Mon3tr
(興奮するように応じる)
W
あんたはそいつの命を気にかけとけばいいのよ。
Mon3tr
(不満げに低く唸る)
W
……
まるで永遠に殺し尽くせぬかのように、廊下の果ての暗闇から亡霊が絶え間なく湧き出す。
何度も何度も、死を恐れることなく。
まるであの時のように――
W
あんたたちに手を貸してるのは誰?
沈黙する刺客
……
W
……
彼女はいかなる回答も得られなかった。
終わりのないような廊下は殺人者の死体で埋め尽くされている。それにもかかわらず、なぜその裏切りに関する完全な答えをかき集めることができない?
しかし彼女は確信していた。真相はこの中に隠されていると。
バベルに。PRTSシステムに記録された何気ない任務の数々の中に。
ひいては……この廊下の果てに。
???
ここ……
W
――?
???
ここだ……死体の山の下だ。
バベルメンバー
応援に戻ってきたのか……殿下を助けに行ってくれ……
W
……
あんた、なんでここにいるの……
バベルメンバー
殿下をお守りしようとしたが、誰かに殴られ気絶した。
殿下はお守りできたか?
W
あの刺客たちは見た?
バベルメンバー
ああ。本艦の防衛システムが突然ダウンして、たくさんの敵が急に押し寄せてきたんだ……
殿下をお守りしようとして、一緒にいた兄弟たちと――
W
あんたの兄弟ってこいつらのこと? もう死んでるわよ。
でもあんたは生きてる。
バベルメンバー
……
W
殿下は死んだわ。
バベルメンバー
……
W
フッ、殿下を守るね。
じゃあこの手榴弾を持ってなさい。殿下を守り続けるためにね。
彼女は湧き上がる衝動をこらえた。もし自分がその時ここに残っていれば、どれだけよかったことか。
もし彼女が残っていたら……結果は変わっていたのだろうか?
Wは死体を越え、廊下に沿って歩み続ける。
予期していた爆発の轟音はいつまで経っても、背後から響くことはなかった。
W
ゴミクズ。腑抜け。
血まみれの彼女が議長室の扉へとやってきた時、刺客の死体が入口に山積みになっており、それ以上に進みたくはなかった。
裏切り者を殺さずして、どうして殿下を悼むことができよう?
すべての元凶は誰か、彼女はとうに自分の中で答えを出していた。
あいつが刺客たちを連れてここに立ち、死を殿下にもたらした。
この卑劣な行いに加担した全員を殺した後、彼女はそいつにケジメをつけさせるだろう。
そいつこそが彼女の最後のターゲットとなる……
W
……あんたは――
彼女があなたを見つめている。
あなたは廊下の果ての暗闇に立っている。
Mon3trの巨大な身体があなたに向かってくる全ての亡霊を防いだ。
Mon3tr
(高ぶった雄たけび)
W
……
緑の! 辛抱しなさい!
彼女はそう言うと、黒い亡霊が集まる場所に向けていくつか爆弾を投げた。
Mon3tr
(怒ったような雄たけび)
W
チッ。
Wはためらうことなく、爆風の中に突っ込んだ。
彼女が敵とMon3trをすり抜け、炎の光を越えていく。爆音が絶えず耳元で鳴り響いた。
Wは扉の向こう側へとやってきた。
彼女が振り返ると――
いまだ廊下に立つその人は、扉の制御装置に手を置いている。その背後からは無数の亡霊が押し寄せようとしていた。
彼女の記憶の中に、この光景が存在したことはない。
しかし数えきれないほど件の暗殺を考えてきた中で、一つ起きていたかもしれない光景があった。それは、彼女の脳裏から永遠に拭い去れないものだった――
あの「悪霊」も、あの時そうやって殿下の前に立ったのではないだろうか?
あの「悪霊」の背後でも、殿下の命を奪おうと試みる無数の罪人が湧き出たのではないか?
あの「悪霊」こそが、最終的に議長室の扉を開けたその人ではないか?
W
……
Mon3tr
(興奮した雄たけび)
W
……
彼女は異を唱えず、持っていた爆発物を反射的に投げた。
Mon3tr
(興奮してあなたを持ち上げる)
W
……
Wがまるで過去のよく知る人の影を見出そうとするかのように、あなたを見つめる。
W
……
こんなんであいつらは入ってこられなくなるの? こんな単純なことが……あんたの天才的な計画ってところかしら?
待って、あれ……結晶化してる?
つまり、さっきの瞬間こそがあの扉が完全に結晶化する前の、最後のチャンスだったってわけね……
あんた初めから一人で扉を塞ぐつもりだったの?
……
あたしを……信じているですって? ハッ。
あの件をはっきりさせるまで、あたしは――
船室の奥深くで、エンジンが哮りを上げる。
魂が燃え、焼き尽くされた後に吐き出すのは、苦痛と怒りだ。
飛空船のコアがあなたたちの前であらわになった。
W
(殿下は……ここにいない。)
そいつが何かなんてどうだっていいわ。いずれにせよ、ぶっ飛ばせばこのおんぼろ船を麻痺させられるんでしょ。
ちゃちゃっと終わらせましょ。あたしには、やらなきゃいけない大事なことがあるの。
あんたは、あたしと一緒に殿下に会いに行くのよ。
ねえ、老いぼれ、いるのは分かってんのよ。
あんたのために特別に用意したプレゼントは、ベッドの下に置いておいたわ。
受け取りなさい!
貴様ら、ここまで足を踏み入れるとは!
異族が!
それと貴様! サルカズ!
燃え盛るコアが一瞬のうちに止まって、飛び散る炎が突然コアの中へと逆流し始めた。
命を燃やす火の光が次第に弱まる。
騒音が消え去り、心臓の鼓動まで聞こえるほどの静けさだけが残った。
巨大な船室が暗闇にゆっくりと包まれていく。
影がコアから流れ落ち、川を成して、段々と激しさを増し……
船室全体を丸呑みするほどの黒い波があなたたちに押し寄せた。
W
――!
アーミヤ
――!
これほど強烈な苦痛と怒りは……
船室内の影
異族の魔王、貴様にはもはや多くは語るまい!
テレジアのために、私はすでに貴様らの無礼に次ぐ無礼を容認してきたのだ。
貴様ら、己が一体何を阻止しようとしているか理解しているのか?
サルカズが必要としているのはこの戦争だけに留まらん!
貴様らが消そうとしているのは、我々の運命を変えるに足る炎だ!
絶対に好きにはさせん――
アーミヤを沈める黒い波は引き、影の中で彼女を引っ張る力も次第に弱まる。
アーミヤ
力を縮小しているんですか?
全ての影が……消えた?
どうやらほかの人が先にレヴァナントが潜む場所を見つけたようです。
ドクターは大丈夫でしょうか? ケルシー先生とWさんは今どこに……
怒りの感情が最も強烈なところを感じます。あそこがきっと私たちの探している場所でしょう。
ドクター、ケルシー先生、持ちこたえてください……
私が皆さんを見つけ出しに行きます!
アーミヤ
これは……Mon3trの爪痕!? まさかドクターとWさんは一緒に――
――!
廊下の果ての影から、ここで会うなど想像もしていなかった者が出てきた。
アーミヤは何年も前のあの悪夢を忘れたことはない。
彼女はテレジアを、自分の胸に刺さったあの黒い剣を……
あの黒ずくめの殺人者たちを覚えている。
アーミヤ
ありえません……
あなたたちは……全員死んだはずです。
アスカロンさんがちゃんと確認しました……
飛空船の「亡霊」
……「魔王」。
一足遅かったな。彼女はお前が来ることを分かっていた。
アーミヤ
テレジアさん……
飛空船の「亡霊」
アーミヤ、お前が探している者たちは、間違いなく死ぬ。
アーミヤ
――!?
どいてください。
あなたたち……
飛空船の「亡霊」
感情を読み取る手間は省くとしよう。
ここで止まれ……
あるいは我々の屍を越えろ。
アーミヤ
あなたたちの脳内にある断片的な光景を見ました――
そんな……
あなたたちがバベルの人間だったなんて!?