灼熱より爆ぜる咆哮
思考の輝きが……暗くなっていく……
意識が……無秩序な感情に呑み尽くされていく……
もはや、感じることも……感じられることもない……
ザ・シャード上空を飛ぶ要塞の最外層が崩壊し始め、空を覆う破片が鉄の雨のように大地に降り注ぐ。
巨大な骨骸はその場に留まり、その神経束が飛空船にきつく巻きついている。
レヴァナントの最後の意識が消えつつある……
テレジア、貴様は私にあの疑うべくもない未来を約束した……
だが貴様に従う者たちは……貴様の行く道の障害となった。
我が同胞たちの魂は、数百年にわたり炙られたことで混乱に陥った……
この炉は本来、私の檻となり、私が自害するための処刑室となるはずだったのだ――
同族を裏切った私の罪は、いまだ償えていない!
テレジア、これが私にできる最後の……
荒々しい炎。
影は焼かれながら消えていく。炎が飛空船を包み込んで神経束を引き裂いている。
それは、あなたたちにも襲い掛かってきた――
貴様ら――
貴様らは偽りの言葉でもって、自らを道徳的高みに置こうとし……
救済の名を借りた虚言でもってサルカズが生存のために残した傷痕を平らにしようとする……
貴様らには……彼女の死に向き合うことすらできん――
???
なぜここに来たの。
テレジア
アーミヤを探しに来たのかしら? それとも……
これがあなたの答えなのね、ドクター……
前へ踏み出そうとするが、あなたの身体はぴくりとも動かない。目の前の光景は見えない壁によって遮られている。
あなたはようやく理解した。今見えているものは現実ではない――
レヴァナントがあなたに無理やり見せている光景だ。
過去に存在した、真実だ。
あなたのそばから多くの影が前へと飛び出した……
その者たちの武器と鎧にも、その後ろ姿にも見覚えがある。つい先ほど……
テレジアを守りに来たのか?
いや、違う……
彼らの握る剣が怪我を負った魔王に向かって振りかざされる――
あなたが想像すらしたことのない光景が、目の前に広がっていた。
血だまりの中にテレジアが倒れている。彼女に守るようにぎゅっと抱えられ、腕の中でアーミヤがぐっすりと眠っている。
あなたは彼女を殺した犯人に囲まれている。
あなたたちは共犯者だ。
……
これらの光景が一瞬のうちによぎり、意識は現実に戻った。
W、ケルシー、アーミヤの表情を見て、あなたは気づいた。今の光景を見たのは、あなた一人だけではなかったのだと。
W
……
ケルシー
……
アーミヤ
……
危険な傭兵は、この瞬間いつになく冷静だった。本来であればこの上なく激怒すると思われた。
しかし彼女はそうしなかった。
Wは、あなたに一瞥すらもくれず、ただ砲銃をきつく握りしめてレヴァナントの残像をじっと見つめている。
ケルシーはあなたを見ている。
青緑色をした瞳はこれまで通り落ち着き払っている。ただ普段よりも、わずかに悲しみを帯びていた。
アーミヤは呆然と前方を見つめ、手を伸ばし何かを掴み取ろうとしている。
だが触れられたのは虚無だけだった。
ケルシー
Dr.{@nickname}、落ち着くんだ。私とMon3trの後ろへ。
以前にも話した通り、こうした過去を私はすでに知っていたが君に秘密にしておく理由があった。
私はテレジアの当時の決断を認めており、今の君に真相を話したところで何も変えられやしない。
しかし……
しかし、テレジア。
今、この場所でレヴァナントに当時の光景を再現させたことも、同様に君の決断なのか?
ケルシー
ドクター……
確かにチェルノボーグの時も、ひいてはその後も、ずっと私は君に対して疑念を抱いていた。
しかし君はすでに一連の決断により、自己証明をしてくれた。君は確実に私たちの同行者だ。
落ち着け、動じるな。
偽り。
軟弱――
W
……黙りなさい。
テレジア殿下を利用してあたしたちを仲違いさせようとする資格なんてあんたにはない。
消えなさい。
……もう十分よ。
ケルシー、あんたのペットをあたしから離れさせていいわよ。今手を下すつもりはないから。
老いぼれが死に際に、嘘の映画をでっち上げてまで人を騙すようなことはしないってのは分かってるわ。
あたしはバカじゃないもの。テレジアを殺した犯人が、ほかにいるわけないじゃない。
当時のことについてはケジメをつけなきゃいけない。それは絶対に確かだけど、何も覚えてない奴を殺すなんて……
……少しも興味をそそられないわ。
驚き、疑念、悲しみ。
理解できない真実が重いハンマーのようにあなたの心臓を打つ。
あなたはショックからいつまでも立ち直れずにいる。二人の冷静な会話も、あなたにとっては許しにならない。
あなたは黙り続ける少女を見やった。その顔はすでに涙で濡れていた。
あなたは何か言おうと口を開こうとするが、その前に彼女が切り出した。
アーミヤ
ドクター……知っていました。
というよりも……ずっと前から、そうなんだろうなと思っていました。
ケルシー
アーミヤ……?
アーミヤ
私は……あの事件の後、ケルシー先生がなぜドクターを治療のためにチェルノボーグへと送り込んだのかを覚えています。
それとドクターを救出すると決めた際、エリートオペレーターたちがなぜ反対したのかもです。
皆さん本当の理由について口をつぐんでいたとしても、推測はできます。可能性はこれしかありません。
でも、推測はできても、私にはやはり理解できないんです……
私の知っているドクター……私を助けてくれただけでなく、いろんな場所に連れて行ってくれて、たくさんの物語を聞かせてくれたあのドクターが……
鉱石病を治すために私をバベルへと連れて行ってくれて、治療にあらゆる手を尽くしてくれただけでなく、私でも未来を持てると約束してくれたあのドクターが……
あんな優しい人が、どうして……自分と同じように優しくて、皆を愛していたテレジアさんを、殺そうとしたのですか……
ドクター、聞きたいことはまだたくさんあります……
私を助けてくれたドクターと、テレジアさんを殺したドクターと、そして今ここに立っているドクター……一体どっちが本当のDr.{@nickname}なんですか?
私はずっと、どうやってこれを聞けばいいか分からずにいました……
石棺で目覚めてから、記憶こそ失っていましたが、どんな危険が迫ろうとも、あなたは私たちのそばにいてくれました……そんなあなたが殺人者だなんて、私には信じられません。
そう言って、アーミヤに手を差し伸べた。
アーミヤ
ドクター!
飛空船の甲板が突如激しく揺れ始めると、アーミヤがとっさにこちらの手を掴んだ。
元々船内に集まっていた黒い影が空を飛び、一輪の花となって咲き誇った……
深紅の空の下で光を呑み込めるほどの黒い花が飛空船全体を包み込んだ。
ケルシー
飛空船が崩れている。
今すぐ撤退しないと。
アーミヤ
ドクター、私の後ろへ――
???
「崩壊の無秩序を許さぬ」。
ここに我が言葉を放ち、規則は再構築される。
その場にいた全員の思考を覆う影が追い払われた。
金色の呪文は黒い影を突き破り、飛空船の破損した箇所に落ちると……
文字はばらけてから、また形を成し、破損した船体を修復する。
Logos
各位、破損したものは我が対処しよう。
影を抜けて皆を迎えに行く骨骸の神経はすでに用意が整っておる。
バンシーの骨筆がその手から垂れ下がり、影の上に落ちる。
影を帳としたバンシーは、その上で存分に骨筆を走らせた。
金色の脈が影の中を流れ、炎が次第に消えいく……
W
神経束が見えたわ!
ケルシー
Logos、撤退の準備は整った。
Logos
よかろう。
アーミヤ
ドクター、しっかり掴まってください――
あなたたちは再び飛空船に落ちてしまった。足元の船体は震え、レヴァナントももはや言葉を発さない。
まるで嘲笑いでもしているかのように、影がその場にいた全員の足元を巡る。
結晶化した船体からにじみ出した清らかで白い光……
温かくてしなやかで、全ての混乱と秩序をなだめていく。
しかし、光が影を覆うと、次第にまぶしくなっていき……
周りの色彩は白に塗り替えられていった。
そして、遠くに現れた黒い穴が、今度光というものを全部呑み込んでいく。
暗闇に覆われた静謐の中で……
特異点が最初の光を生んだ。
それは思考の光、感情の光、そして新生の光である。
その微弱な赤い光は成長し、膨張し始めると……
それを創造した者の手を――
照らしていった。
彼女が、暗闇の中から歩いてきた……いや、彼女はずっとそこにいた。
ただ、彼女はこの瞬間だけ、あなたたちに視線を向けることにしたのだ。
彼女の胸の中で、レヴァナントの散り散りになった意識が再び集まる。
あらゆる悲しみ、あらゆる悔しさ、そしてあらゆる怒りは……
彼女の慰めの下で消えていった。そのおかげで、レヴァナントはついに安らぎに帰した。
死に背けられた同胞を胸に抱いた彼女は、新生をもたらし、宿命を書き換える。
返事はない。しかし彼女の目から異様なメッセージが伝わってきた……
だが、あなたはそれがどんなものかを確認する勇気はなかった。
その場にいた全員が彼女の出現に固唾を呑み、彼女が放つ最初の言葉を期待した。
――静寂。
彼女は何も言わず、身をひるがえして暗闇の中に消えた。
まるで最初から来ていないかのように、彼女はこの場に何の痕跡も残さなかった。
しかし彼女が……ついに行動を起こしたことは、その場の誰もが分かっていた。
W
あたし、殿下の言葉を聞き逃したのかしら――
待って、飛空船がまた動き出したの!? しかも全速で進んでるわよ!?
あの老いぼれが――
ケルシー
源石だ。
我々は「アナンナ」に近づきすぎている。飛空船はすでに源石に富んだ環境となっており、ここにある源石全てが飛空船にエネルギーを供給している。
アーミヤ
テレジアさん……?
イネス
神経束の接続が、途切れた?
船窓の外では、あの巨大な巫術の構造物はすでに神経束の束縛から逃れ、追いつきようのない速度で空中にある「アナンナ」に向けて進んでいる。
イネス
W……!
ヘドリー! どうして目を覚ましたの?
ヘドリー
不時着だ……
イネス
何ですって?
ヘドリー
巨獣は……「ライフボーン」に最後の生命力を残している。
これを……ロンディニウム内の安全な場所に不時着させるんだ……
イネス
Wたちがまだ飛空船にいるのよ!
ヘドリー
俺はかつて……ケルシー医師……そしてドクターに……約束した。
できるだけ……多くの命を救うと。
そのためには……最善を尽くす……
イネス
でも――
あなたのことを、多くの者がこう呼んだ。
「バベルの悪霊」、「ロドスのドクター」と。
あなたは常に正しい選択ができ、どれほど絶望的な状況に陥っても存在しないと思われていた活路を見出せると、多くの者から信頼を寄せられている。
しかし――
あなたは決して全能ではない。
この全てが一瞬の間の出来事だった。
テレジアが再び現れることはなく、影も一つ残らず連れ去られた。
苦難の揺籃に近づくほど、結晶化は加速する。
影の波が完全に引いた後にあなたが目にしたのは、船全体を蔓延る結晶化の痕跡だった。
そのそばには強力な仲間たちが立っているが、この運命づけられたような災いを前にして、誰もが無力だった。
飛空船はいまだ阻めぬ勢いで「アナンナ」に向かって加速していくが――
止まった。
アーミヤ
――!
飛空船が「アナンナ」に触れようかというその瞬間、全速力で飛行していたこの巨物が静止した。
時間までもが止まった。
木の形をした巨大な源石構造は素早く新たな枝を生やし、飛空船をしっかりと掴んだ。
生い茂る源石が枝先から急速に広がり、飛空船を呑み込む。
あなたはその瞬間に留まっている皆を見た。
凄まじい勢いで成長していく源石。
そして、焦ったように手を伸ばしてくるアーミヤ。
彼女の時間がその瞬間で止まった。彼女が自分の名前を呼んでいるのが分かる。
しかし純粋な源石は恐ろしいほどの速度で彼女の体を覆い、呼び声を発するのも間に合わなかった。
蔓延。
あなたは彼女へと駆け寄るが、源石が育つ速度には遠く及ばなかった。
併呑。
源石が彼女の体の最後の一部を呑み込もうとするその瞬間……
アーミヤ!
あなたは必死に手を伸ばして彼女を掴もうとする……あと少しだ……
ほんの少しの差で、二度と彼女の手をとることができなくなった。
膨大で雑然とした情報の流れが脳内で音を立てて過ぎ去る――
目の前には完全に源石化した世界が現れたようだ。
アーミヤ……ケルシー……Logos……W……
ロドスの全て、ロンディニウムの全て、戦場の全て、テラの全て――
いや、こんなの絶対に見たくない……
こんなことが起こるのを許せるはずがない。
やめろ……やめろ!